第40話 一緒にスーパーとか新婚夫婦か?
朝に決闘をした日の放課後である。
明麻絵と一緒に帰路についており、朝ほどではないが警戒はしている。
朝と同じように、手を繋いでいる。
「……今日は疲れました」
「どうしたんだ?」
少しだけゲッソリしているように見える。
「クラスメイトに囲まれていたんですよ。御手くんのせいで……」
「友達はできたか?」
「できてないですけど、助けに来てくださいよ……」
「いい傾向ではないか。友人関係は大事だぞ」
「なんか、たまにわたしの親視点になりますよね、御手くんって」
そうか?
同年代と言えど、他人が成長する姿を見るのが楽しいだけなのだが。
いや、それに競争心が湧かない時点で、一歩引いてみてしまっているのだろうか。
「あー。そういえば、とっても好みな男の人がいましたね」
「なに?」
「わたしの好きなアニメキャラにそっくりで、とってもカッコよかった気がします」
「……休み時間になったら、様子を見に行くからな」
「ふふふ。そうですか。一緒なら、御手くんに他の女が話しかける余地はありませんしね」
……明麻絵に見事に誘導されてしまったな。これが惚れた弱みというもの、か。
まあいいだろう。
変な虫がつかないようにするのも、彼氏としての役目である。
「少しスーパーに寄っていいか?」
「あ、約束のですか?」
「そうだ」
「ついでにお菓子も買いませんか?」
「ダメだ」
「」
「……少しだけだぞ」
「ありがとうございます♪」
なんだか、娘に甘くなる父親の気分が分かった気がする。
いや、俺たちは恋人なのだが。
さすがにスーパーの中で手を繋ぐのはやめておこう。
「明麻絵の得意料理はなんだ?」
「料理したことないんですよねー」
「そうなのか? 作ってそうな見た目だが」
「食べる専です」
ふむ。そうなると、色々と教え甲斐がありそうだし、時間がかかりそうだ。買い物はさっさと済ませた方がいいだろうな。
ハンバーグの材料を効率的に集めていこう。
卵はまだあったはずだ。
ひき肉は牛と豚のあいびきでいいだろう。たしか、今日は割引になっていたはずだ。
その前にたまねぎを買っておかないとな。
土地を貸している農家さんからもらった玉ねぎは、ついこの間使いきってしまったはずだ。
明麻絵はたまねぎをみじんぎりにできるだろうか。
涙を流しながら切っている姿を眺めるのもおもしろいかもしれないな。
ああ、それと――
「え、なんで豆腐も買うんですか?」
「ヘルシーに豆腐ハンバーグだ」
「えー。疲れているので、ガツンと食べたいんですけど」
「肉の割合は減るが、全体の量は増えるぞ?」
「……たしかに、悪くないですね」
豆腐ハンバーグなのだから、味付けは和風でいいだろう。そうなると、ナツメグはいらないな。
ああ、そうなるとおろし大根も必要だ。大葉もあれば、さらにさっぱりする。
弁当用の小さいハンバーグの分を考えても、大根とひき肉は使い切れないはずだから、明日そぼろ煮にでもしようか。
「何も見てないのに、よく色々カゴに入れられますね」
「レシピは大体頭の中に入っているからな。まあ、それも厳密ではないが。安いものがあれば、それを取り入れる」
「はえー。わたしには到底真似できなさそうです」
幼い頃から家事をしているからな。
これぐらいは自然とできるようになる。
「料理の技術は覚えておくといい。いざという時、役に立つぞ」
「いざという時、ですか?」
「サバイバルをする時もあるだろう」
「あー。そういえば、兵糧丸の作り方は覚えましたね」
「それは非常に興味あるのだが」
兵糧丸といえば、男の浪漫ではないか!
是非とも一度は食してみたい!
「まずいですよ。栄養と日持ちと携行性しか考えてませんから」
「ロマンがあるではないか」
「よくわかりませんねぇ」
「機能性重視というのがいいのだ。飾り気もなく、他の全てをそぎ落としたものに心が躍るのだ」
「じゃあ、今度教えてあげますよ」
「それは楽しみだ」
そうと決まれば、今夜のハンバーグはさらに気合を入れないとな!
「あ、ポテチ入れますねー」
「でかくないか?」
ファミリーパックではないか。
「すぐになくなりますよ」
「すごいな。太る理由がよくわかる」
「あの、さらっと酷いこと言わないでくださいよ」
「す、すまない」
ただ事実を言っただけのつもりなのだがな。
「まあ、わたしは実際、簡単に太るし、簡単に痩せる体質なんですよね」
「それは面白いな」
「面白くないですよっ! どうせなら、ママみたいに太らない体質がよかったです」
「ほう」
「ママの大食いと、パパの体質を受け継いだんですよぉ」
最悪な組み合わせだな。
「忍者が太りやすいのか」
「パパが言うには、エネルギー効率を重視した体質改善の結果らしいです」
「なるほどな」
忍者は長期的に食事を摂れないことが多いだろう。合理的な理由だ。
よし。
これですべての食材が揃った。
レジが混んでいるが、待つしかないか。
「あれ、御手くん。セルフレジが空いてますよ?」
「……あれは苦手なんだ」
操作方法にどうしても慣れない。
「わたしがやりますよ?」
「できるのか?」
「画面に従うだけですけど」
「…………そうか」
明麻絵は機械に強いのだな。
負けたようで、少し悔しい。
「エコバックはありますか?」
「これだ」
「うわー。年季が入ってますね。しかも、京都のお土産屋で売ってそうな渋さです」
「まだ使えるからな」
「はい。全部読み込んだので、お金を入れてください」
「おい! お札が出てきたぞ」
「あー。ちょっと端っこが折れてたんですね。これならどうですか?」
「お、うまくいったようだな」
こうして俺たちはスーパーを後にしたのだが、明麻絵とのハンバーグ作りはどうなるだろうか。
嫌な予感がするが、料理ごときでとんでもないことが起きるはずがない。
そう思っていた。




