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第4話 許嫁は天才くのいち……のはず? 前編

 俺は激怒していた。

 親父は飄々(ひょうひょう)としている。


 俺の親父はいつもこうだ。

 こちらがどれだけ語気を強めても、ノラリクラリとかわしてくる。

 相手をしていると、腹立たしくて仕方がない。

 

 さて、そんな親父の許嫁の件についての言い分はこうだ。



「いやー。とっくの昔に伝えたかと思っていたよー」



 なんとも軽薄な言い訳だろうか。

 まあ、この責任について言及しても仕方がない。

 親父のことだから、ノラクリクラリかわすに決まっているし、時間を浪費する余裕はない。

 

 今はとにかく、未来のことに目を向けるべきである。



「それで親父。俺の許嫁とはどういう相手なんだ?」

「ふむ。どこから話したものか……」



 かなり考え込んでいるな。

 親父にしては珍しい。

 よほど込み入った事情のある家なのだろうか。



「……ぐがー」



 あ。

 この親父、鼻提灯(はなちょうちん)を出しはじめやがった。



「こら、寝るな」

「ごがっ!?」



 親父が突然眠った時の対処法。

 頭を叩くのが一番手っ取り早い。



「おっと……すまなかったな。どこまで話したっけ?」

「何も聞いていない。相手の家の情報から教えてくれ」



 相手の家について知るのは重要だ。

 今では没落気味であるが、我が島田家は由緒正しい家。

 許嫁の家も、ある程度位の高い家である可能性は高い。



「そうだなぁ。相手は『紙透(すみすき)家』の人なんだけど」

「紙透家? 聞いたことがないな」

「同業ではないからね」



 ふむ。

 そうなると、陰陽師(おんみょうじ)の家系ではないのか。


 

「では、一般の家庭なのか?」

「それが違うんだなー」



 なんだ、そのしたり顔は。


 

「親父、焦らさないでくれ」

「えー。最近あんまり構ってくれてなかったから、もっと話していたいんだけどなー」



 血の繋がった中年男性に言われても、全然嬉しくないのだが。

 こら、頬を上気させながら腕を絡ませようとするなっ。



「親父、そろそろ怒るぞ」

「……わかったよ」



 まったく。

 俺の親父なのだから、もっと威厳を出してほしいものである。

 

 

「話を戻すけど、紙透家さんのご先祖様はなんと風魔忍者(・・・・)らしい」



 ほう。


 

「風魔忍者といえば、風魔小太郎で有名な一族だよな?」

「その通り。よく覚えていたね。頭を撫でてあげよう」

「やめてくれ。俺はもうそんな年ではない」

「……残念」



 親父は置いておくにせよ、忍者か。

 その言葉に心躍らぬ男はいないだろう。



「今でも忍者をしているのか?」 

「いや、今は廃業状態と聞いてるよ。だが、いまだに一部の忍術を継承しつづけていると聞いている。しかも、お前の許嫁さんはたった1年ですべての奥義を(おさ)めたらしい」



 ほう。


 

「つまり、天才くのいちということか」

「そうなるなぁ」



 ほう。

 ほうほうほう!

 これは思わずフクロウになってしまうほど、テンションの上がる内容ではないか!


 くのいちと言えば、厳しい訓練をこなしているに違いない。

 そうでなければ、忍術という埒外(らちがい)の技術を習得できるわけがないのだから。

 

 必然。

 引き締まったプロポーションになるのは当然と言えるだろう。

 さらには天才ときたものだ。

 

 まさに俺の理想の女性像そのものではないかっ!

 


「気に入ったようだね」

「ああ。今から顔を合わせるのが楽しみだ」



 許嫁となった経緯に興味はない。

 俺は愚直に、男としての責務を果たすだけだ。

 

 とりあえず、高校を卒業するまでは手を握るところまでだ。

 共に密室に入るなど言語道断。

 口づけは成人してから。

 無論、婚前交渉などをする気は毛頭ない。

 そして、本日あった事故については詳細を説明し、許しを()わなければならないだろう。

 

 清く正しく、誠実に。


 俺が目指すのは、それだけでいい。



「お、話をしていれば来たみたいだね」



 これほど心弾むチャイム音はあっただろうか。

 いや、ない。

 


「では、俺も玄関へ……」

「御手はここで待っていてくれないかい?」

「なぜだ。それでは礼を欠いてしまう。第一印象が最も重要だ」



 玄関まで迎えに行けない男だとは思われたくないのだが。


 

「御手を抜きにして話したいことがあるからね」

「どういう話だ?」

「御手に聞かせられないことだから、ここにいてほしいんだよ」

「ふむ。それなら仕方ないか」



 普段はちゃらんぽらんだが、人付き合いにおいては親父に一日(いちじつ)(ちょう)がある。

 細かいことはわからないが、信頼しておくとしよう。


 ここで問答をして相手を待たせるわけにもいかないしな。



「くれぐれも粗相のないように頼む」

「もちろん。父さんに任せておきなさい」



 ふむ。

 早速向かっていったか。


 すでに話し声が聞こえるが、聞き耳は立てないでおこう。


 その代わり、俺は精神統一をしておくべきである。

 相手はほぼ確実に、俺の理想の女性。


 もしかしたら出会った瞬間、俺は俺自身を制御できなくなってしまうかもしれない。

 そうなれば、ご破算。

 許嫁を逃すだけではなく、島田家の顔に泥を塗ってしまう。

 それだけは避けなければならない。

 

 だからこその、精神統一。

 心を静めて、清らかに。



「…………」

 


 俺の許嫁。

 天才くのいち。


 ああ、早くその顔を見たいものだ。

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