第38話 騎士系彼氏になってしまったら、正直うざい
親父が言うには、明麻絵を狙っている妖怪は、深夜を狙って侵入しようとしてきたらしい。
そして、相手が妖怪なら昼には現れないとも。
しかし、それはあくまで普通の妖怪が相手ならば、という話だ。
俺は今、最大限の警戒をもってして、明麻絵と登校している。
本来は家に引きこもるのが最も安全だ。
親父が作り上げた結界はこの世界のどんな要所よりも難攻不落であり、親父自身も最強のセキュリティだ。
だが、明麻絵が言ったのだ。
できれば学校に行きたい、と。
島田家にきたばかりのころは不登校で、部屋でずっとゲームをしていた彼女が……。
その決意を無下にすることなど、できようか。いや、できない。
「あの……御手くん」
「なんだ?」
「あ、いや、イヤじゃないんですけど……。いきなり大胆ですね……?」
「これがもっとも確実なのだから、仕方ないだろう」
「このつなぎ方の名前、知っていますか?」
「知らないが、これが最も固く結べるだろ」
お互いの指を絡めたような、握り方。
明麻絵がカバンのひったくりみたいに誘拐されそうになっても、これなら対応できる。
「これ、恋人結びって呼ばれてるんですよ」
「……そう、だったのか」
「本当に知らなかったんですか?」
「初耳だ」
恋人繋ぎ。
たしかに、このつなぎ方はかなり親しい関係に見えるか……。見えてしまうか……。
そう考えると、恥ずかしくなってきてしまったではないか。
「御手くんは恋愛マンガとか読まないんですか?」
「男はバトルマンガ一択だ」
「あ、一応マンガは読むんですね。難しい」
「小説は頭が痛くなる」
「あー。わかります。ラノベとか、挿絵だけ見て満足しちゃうことがあって」
「ラノベとはなんだ?」
なんだ、そのジト目は。かわいいではないか。
「御手くんって、意外と何も知らないですよね」
「……否定はできない」
俺の知識は偏っているのだ。
親父とだけ暮らしている時は気付く機会がなかったのだが、明麻絵と暮らしているとひしひしと感じる。
まあ、明麻絵の知識も偏りがひどい気はするのだが。
明麻絵が知っていること、好きなことを知ってみたいと思ってしまっている。
「色々と教えてくれ」
「いいですよ。御手くんのような人は、オタクとして染め甲斐があります」
「オタクにはなるつもりはない」
「いつもまでそんなことを言えますかね。アニメの魔力はすご――」
「あぶないっ!」
「えっ?」
間一髪だった!
俺がとっさにかばわなければ、大変なことになっていたかもしれない!
「あの、なんで……?」
「危険だと判断した。ケガはないか?」
「え、いや、だって――」
恐る恐るさしていく、明麻絵の指先。
その先には――
「これ、ただのワンちゃんですよ……?」
「妖怪が化けている可能性があるだろう」
「そんなわけないじゃないですかっ!」
相手は親父が手を焼く相手だ。
それぐらいのことをしてもおかしくないと思うのだが。
「あーもー。いきなり叫ぶから、怯えちゃって」
「おい! 下手に触るな!」
「いいですから。わたしは御手くんよりも強いですし、ちゃんと見てますから」
「……なに?」
それは聞き捨てならない。
「なんていうか、神経質になりすぎですよ。守ってくれるのは嬉しいですけど、もっと気楽でいてください」
「俺は大真面目なのだが」
「わたしはこれでもくのいちですよ。自分の身はある程度守れます」
「俺に守られる必要がないと?」
「ええ。ここまで心配されるほど弱くはないですよ」
「ほう。いいだろう。ここはハッキリさせるべきだ」
いくら好きな相手とはいえ、ここまで言われて引きさがったら、男が廃ってしまう。
ここは正々堂々、決闘にて白黒をつけるべきだろう。




