第33話 我慢の限界はキスの味 前編
御手くんは絶賛、無気力状態中です。
もはやゾンビとかキョンシーとか、そういう類になってしまいました。
「うぁ……ぁ……が……ちん……」
たまに理解不能なうわ言を呟いていますし、本当に大丈夫でしょうか。
本当は学校に連れてくるのもよくないのかもしれませんが、御所さんはお仕事でしばらく家を空けないといけないらしく、一緒に登校するしかありませんでした。
冷静に考えれば、2人でサボればよかったかもしれないですが、朝のわたしには余裕がなかったのです。
「御手くん、ちゃんと生きてますか?」
「……ががが………がび……」
……ダメみたいですね。
とりあえず、昼休みまで様子を見ていましたが、全然良くなる気配はありません。
お弁当を作ってくれる人はいないから、昼食は学食のパンです。
もちろん、ちゃんと御手くんにも食べさせていますよ。
ご飯を口に入れれば咀嚼してくれるのはありがたいです。
「それにしても、こんな壊れ方をしますか、普通……」
本人は本気なのでしょうけど、極端すぎて少し面白いです。
さて、御手くんを自分の席に座らせてきたのですが、残りの時間で何をしましょうか。
……あっ!
ソシャゲのスタミナを消費できていません!
お、10連分の石が溜まっていますね。試しに引いてみましょうか。
最近はかなり善行を積んでいるので当たるはず……!
よし!
星5確定演出!!!
…………ぁ。
すり抜け…………。
結構欲しいキャラだったんですけど……。
もう虚無です。
「姐さん!」
……誰ですか、こんな時に。
「あの、姐さん、大丈夫?」
「あ、白雪さん」
心配で様子を見に来てくれたのでしょうか。
彼のかわいい顔を見ていると、ちょっと元気が出てきます。
「えっと、島田くんはまだ……?」
「はい。残念ながら……」
「そう……なんだ」
本当、わたしの許婚には困らされます。
せっかくなので、すこし愚痴らせてもらいましょう。
「昨夜、御手くんを元に戻すため、あることをしたんですよ」
「どんなこと?」
「彼って今、憧れの女のことがが男の娘だったから、脳が破壊されてしまったんですよ」
「そうだね」
「だから、男の娘の同人誌をたくさん見せたんです」
「え!?!?!?」
……そんなに驚かないでくださいよ。
「性癖を変えれば、全部解決すると思ったんですよ。結果は重度のアレルギー反応でしたよ。泡吹いてました」
「いや、それ、完全に追い打ちだよ……」
「全部解決する妙策だと思ったのですが」
「姐さんって、結構ガサツだよね」
ぐっ!
ママにもよく言われます……。
繊細だったら、こんなに太っていませんよぉ。
「それより姐さん、島田くん、さらにモテるようになってない?」
そうなんですよぉ。
彼がボロボロになればなるほど、御手くんを狙う女の子が増えている気がします。
さっきなんか、3人の女子から同時に告白されてましたよ。
そのうえ、キャットファイトを始めてしまって……。
面倒なんで全員眠らせましたよ。ええ。
「なんででしょうねぇ」
「島田くん、顔だけはいいから、儚さが加わると色気があるのかな」
ほとんどの人は好きですよね。
儚い人。
「わたしから言わせれば、いつもの御手くんの方がいいと思うんですけどね」
「え、意外だ」
「そうですか? 嫌いだったら、同じ屋根の下で暮らしていませんよ。イラつかないと言えば嘘になりますが」
「いいなぁ。そういう関係」
「どこがですか」
「もうちょっとした夫婦みたいになってるじゃん」
夫婦……?
そう呼ばれると、なぜか少ししっくりきてしまいます。最近はわたしが介護しているようなものですし。
……いや、たしかに許婚ですけどね?
まだ結婚とかそんなことは全然考えてませんけど……。
「もういっそのこと、姐さんがキスしちゃったら?」
「キス、ですか?」
「そうすれば、目が覚めるかもよ?」
「そんな絵本みたいなことあります?」
「男の僕が言うのもなんだけど、男なんて単純だよ。キスした相手のことはすぐに好きになっちゃう」
……たしかに、くのいちの技には房中術なんてものがありますよ。
教えられてはいませんが、巻物を読んだことはあったり。
だけど、本当に効果があるのでしょうか?
わからないですけど、御手くんの唇ってどんな感触なのかなぁ。




