第31話 黙っていればイケメンらしい
えー。
御手くんをなんとか登校させたのですが、予想外のことが起きています。
「ねえ、隣の島田くん、なんかよくない?」
「わかるー。なんか最近かっこいいよねー」
「あのビッチ生徒会長も狙っているって噂になっててー」
「マジで? えぐー」
御手くんにモテ期が到来してしまいました。
なぜ、こんな事態になってしまったのでしょうか。
すこし、女子生徒たちの会話に耳を澄ませてみましょう。
「なんかカッコよくなってきていたし、少し前までは堅物で近寄りがたかったのに、今は少しダウナーで大人締めになって、メガネがめっちゃ似合う雰囲気で、めっちゃエモって感じ」
「まじでそれな!」
めっちゃ話してくれますね。文芸部にでも入っているのでしょうか。
たしかに、御手くんは最近、雰囲気が少し変わってきていました。
出会ったときは血色がよくなくて、常にクマが出来ていて、少し危うい雰囲気がありました。
最初は個性だと思っていたのですが、今思えば寝不足のせいで常に体調が悪かったんでしょうね。
ですけど、今はわたしの腹枕で改善されて、常にお目目ぱっちりに変貌しています。
そのおかげで少しイケメンになったところに、追い打ちのアンニュイ状態。
見事、薄幸メガネイケメンが完成してしまったわけですね。
「あたし、試しに告白してみようかな。家が。玉の輿じゃーん」
「お、いいじゃんいいじゃん」
「確か恋人はいなかったよね?」
「いけるっしょ!」
……それにしては、わたしの存在、すっかり忘れらていませんか?
これでも御手くんの許嫁ですし、ちゃんと周知されているはずなんですけど。
まあ、透明人間ですし、あえて存在感を薄めているのですが。
存在感を薄めていれば声を掛けられないし、授業で指されることもなければ、少しサボっていてもバレないのです。
便利なのですが、こういう時は困りようですね。
さて、一応隣のクラスの様子を見に行くとしましょうか。
あの御手くんのことだから大丈夫だと思うのですが、念には念をいれておくべきです。
「……おや?」
御手くんに女子生徒が話しかけているようですね。
「あ、あの、大事な話があるんだけど……」
「……ああ」
彼女は誰でしたっけ。
あ、よく見ると首がちょっと伸びていますね。
おそらくはろくろ首。
御手くんから少し話を聞いた覚えがします。
御手くんよりも教室に早くいる、唯一の生徒。指首さん。
「校舎裏に来てくれない?」
絶対に告白する流れでしょうね。
いや、わたしの中の女の勘が告げています。
彼女はわたしの側の人間だと。
元々御手くんを「いいなー」と思っていて、最近のモテぶりに焦って告白しようとしているのでしょう。
いや、彼女もわたしの存在を忘れていますよね!?
……まあ、いいでしょう。忘れられているなら、こっそりついていきましょう。
体育館裏。
告白の定番ですけど、意外と人気ありますよね、この場所。
隠れて何かをするのには向いていません。
わたしなら屋根の上に行きますね。
「あ、あの。御手くんは気付いてなかったかもしれないけど、私はあなたのことが、あの、その……。す、すき……なん、ですっ!」
「ああ」
ダメだ。
完全に上の空になっています!
ちょっと指首さんがかわいそうになってきましたよ!
「み、御手くんは私のこと、好き……?」
「どっちかと言えば、好意的であるな」
「そ、そうなんだ……」
ハッキリしてないし、その言い方が酷くないですか!?
指首さんの代わりにわたしがひっぱたいてやりましょうかっ!!!
「えっと、じゃあ、私と付き合ってくれませんか……?」
ついに直球でいった!
正直、少し胸が苦しいですけど、ちょっとドキドキしています。
「付き合う……?」
「そ、そう」
「すまない。それはできあない」
「…………そう、なんだ」
スカートを握る手を見るだけで、彼女の気持ちが伝わってきて、こっちまで泣きそうになってしまいます。
ここで泣いたり逃げたりしないだけ、強い女の子ですね。
幸せになって欲しい気持ちもありますが、複雑です。
「理由を聞いてもいい?」
「俺には、許婚がいるから」
あれ、上の空でも答えられるんですね。
脊髄反射で話しているのでしょうか。
「でも、特に好きなわけじゃないんだよね?」
「……だけど、憎めない。まだ、わからないんだ」
「………そう」
「ああ」
「私じゃなくても、同じ答えをした?」
「間違いなく」
「……うん。ありがとう。時間とっちゃったね」
……なんていうか、すごく煮え切らないですね。
一応はわたしを選んでくれたのかもしれませんけど、それは許婚だから、ってこと。
なにもかも中途半端。
宙にフワフワ浮きまくってます。
傷心中とはいえ、なんかなぁ。
「……はあ。とりあえず、付き合う展開にならなくてよかったですかね」
御手くん、帰る足取りも不安定で、見ているだけで不安になります。
ずっとこのままなんてことはないですよね?
家事の面も不安ですけど、やっぱり元気でいてほしいのです。
どうにかして元気になってほしいんですけど、わたしにできることはないんでしょうか。
ですけど、わたしにはこんな時に相談できる友達なんていないのです。
ネトゲのフレンドはたくさんいても、現実では話せる同年代はいません。
そこで仕方なくママに相談したのですが――
『男の人なんて、キスをすればすぐに元気になるわよ~~』
全く参考になりませんでした。
たしかにパパはママのキスで元気になると思うと思います。
ですけど、いくら許婚といっても、わたしは御手くんに愛されているわけではない……はずです。
それに、あの御手くんが、わたしのキスで喜ぶとも思えないんですよねぇ。
こうなったら彼に協力を仰ぐとしましょう。




