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第3話 俺のはじめてを盗んだ透明少女 後編

 まさか、俺がこんなことをするハメになるとはな。

 だが、これは俺が益荒男であり続けるために必要なことである。


 透明少女の喉の鳴る音が放課後の教室に木霊(こだま)する中、俺は膝を折っていく。

 そのまま体を折り曲げると、上腕と額が床に密着した。


 そして俺の口が仰々しく、そしてハッキリした声で告げる。

 


「この度は嫁入り前の女性の裸を目撃してしまい、大変申し訳ございませんでした」

「……え?」



 裸土下座。

 これが俺の示せる、最大限の謝意(しゃい)である。

 


「え、え、え……?」



 困惑の声を上げられても、顔を上げるわけにはいかない。

 謝罪というのは、相手が納得することが重要だ。

 相手が望まないことをしてはならないし、独りよがりであってはならない。


 しかし、待てど暮らせど返事はこない。


 裸土下座ぐらいでは不十分であったのだろうか。


 ならば――



「あなたが望むならば、いくらでも踏んでもらって構わない」

「踏む!?」

「足だって舐めようではないか」

「ど、ドMなんですか……?」

「謝罪を受け入れてもらえるなら、ド級のマゾヒストにでもなってみせよう」

「えぇ……」



 メガネを外しているため顔は見えないが、ドン引きされているのはわかる。

 


「それがあなたの責任の取り方なんですか?」

「不満だろうか」

「ほら、男女間で責任をとると言えば、もっと一般的なものが……」



 結婚…………とか。

 隙間風のように控えめな声で、そう言っているのが聞こえた。


 

「そうは言われても、あなたは俺の理想像とは程遠いゆえ。大変申し訳ない」

「……は?」



 俺は女児アニメのキャラのようにスレンダーな女性が好みだし、俺は幼いころにある女の子と再会する約束をしたのだ。

 このような俺が、目の前のぷにぷにした女性に対して『幸せにする』などと口にできるわけがないし、嘘をつく方が不誠実である。


 それに、今は自由恋愛の時代だ。初対面の男といきなり結婚なんて、相手にとっても嫌にきまっている。

 


「えっと……すみません、聞こえなかったのでもう一度お願いします」

「すまない。俺はあなたとは結婚できない。もっとスレンダーな女性がいいのだ」

「……ひ、酷すぎませんか!?」



 たしかに辛辣な言い方になってしまった。



「大変申し訳ない。だが、俺は嘘をつきたくないのだ」

「もっと言い方があるでしょう!」

「それは最もである。だが、俺にはこれ以外の言い回しが思いつかなかったのだ」

「あーもー!!!」


 

 勢いよく床を踏む音が響き、教室全体が揺れた。

 まるで掘っ立て小屋が落ちてきたかのような衝撃で、俺は思わずひるんでしまった。


 

「それでも男ですか!? 女の子の裸を見るや否や、野獣のように襲いかかるべきじゃないんですか!?」

「そうは言われても、仕方あるまい。性癖はすぐに変えられないのだから」



 さすがに『あなたを女として見れない』とは口が裂けても言えない。


 

「……わかりました。顔をあげてください」



 これは許された雰囲気ではないな、と考えた矢先だった。

 

 引っ張られる、俺の右腕。

 ことのほか彼女の力が強く、俺はあっさりと立ち上がらされてしまう。


 そして、俺は手のひらに、柔らかくてスベスベした手触りを感じた。

 


「どう……ですか?」

「なにをしているのだ?」

「何か思い出しませんか……?」



 何かを思い出す?

 そう言われても俺は生まれてこの方、異性の体にほとんど触れたことがない。


 しかし、彼女は俺の名前を元々知っている様子だった。

 この行動には重大な意味があるのかもしれない。


 俺が触らされているものはなにだろうか。

 体の一部であることは明らかである。


 柔らかさからして、脂肪の塊。

 女性の体の中で、脂肪の塊である部位。

 その中で、男性にわざわざ触らせる可能性があるもの……。答えはひとつしかない。

 


「これは腹か?」

「へ?」



 おや。

 この反応は不正解なのだろうか。

 


「あのあの、あの……なんでそうなるんですか……?」

「考察の結果だ」

「柔らかかったですよね?」

「ああ。お前の腹は柔らかいだろう」



 まるでアザラシの体のように、非常に素晴らしい触り心地であった。


 

「えっと、わたしの体には、他に柔らかい箇所はありますよね……? えっと、その……」

「ああ、確かにある。だが、そんなところを触らせる女など、ただの痴女だ」

「痴女って……。勇気を振り絞ったのに……!」



 憤らせてしまった。



「すまない。俺はどうやら鈍感な男のようだな」

「あー、気づいただけよかったですね……」

「よければ、」

「……もういいです。あなたと話していると疲れるので」



 相手がクソデカため息を漏らしてしまった。

 


「もう服を着てください」

「いいのか?」

「そもそも、わたしが脱げと言ったわけじゃないですよ……」



 ふむ。

 確かにそうだな。


 さっそくお言葉に甘えて服を着ていると――



「……ん? 御手くん、身長何センチですか?」

「なぜそんなことを聞く」



 たしかに俺の身長はお世辞にも高いとは言えない。

 透明少女が女子にしては大きいこともあり、目線の高さはあまり変わらない。

 しかし、いきなり身長をたずねるのは失礼すぎるのではないだろうか。


 ……まあ、俺が言えた義理ではないのが百も承知なのだが。



「…………167だ」

「170ないんですか?」

「悪いか?」

「あー、じゃあ、いっか」



 なんだその反応は。

 冷ややかな声音から、スンとした顔がありありと浮かんでくるぞ。



「それでは、もう君とは会うことはないでしょう」

「おい!」



 なんと、彼女はあろうことか、窓から飛び降りてしまった。


 俺はすぐさまメガネをかけ、窓から身を乗り出した。

 ここは2階。

 頭から落下すれば即死する可能性がある。


 しかし、すぐに杞憂であったと理解できた。



「……すげ」



 透明少女は膝で衝撃を吸収しながら、見事に着地。

 そして裸のまま、部活動をする生徒の間をすり抜け、校門から出ていった。

 その足取りはまるで忍者のような軽やかさなのだが、問題は腹肉とふとももの揺れっぷりだ。

 完全にたぷんたぷんで、水風船で遊んでいた時のことを思い出してしまった。

 

 きっと、このような光景は2度とお目にかかれることはないだろう。



「……まあ、とりあえず、だな」



 これでひと段落である。

 そう思って、帰路につく準備をしはじめた矢先だった。

 


「む?」



 ポケットの中のスマホが震えた。

 画面を見ると、親父からのメールのようだ。

 機械音痴で式神を送ったほうが楽だと言っているのに、珍しいこともある。

 


『今夜、御手(みて)許嫁(いいなずけ)が家に来ちゃうから、楽しみにしておいてネ♡』



 ふむ、なるほど。

 家に俺の許嫁が来るわけか。


 これは一大事だ。

 俺の人生の今後を決める、大事なイベントになることだろう。

 だが、これだけは(・・・・・)親父に言っておかねばならない。

 


「俺、許嫁の話、初耳なんだがなぁ……」


 

 あの鶏頭(とりあたま)親父は……まったく。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


現在この作品は『ネトコン14』に参加中です!


もし少しでもこのキャラ達の続きがきになりましたら、☆評価やブクマなどを頂けるとうれしいです!

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