第27話 勝 手 に 戦 え 前編
宅島さんのタクシーは無事に島田家にたどり着き、白雪さんの父親を運ぶ役は俺がかってでることとなった。
「いやー。すごい経験だった……」
「そうか?」
「幽霊なんて、どこにでもいるぞ」
「へー。ちょっと見て見たい」
見てみたい、か……。
「……そうだな」
「なにその変な間!? もしかして、ボクに幽霊でもついてるの!?」
「いや、知らない方がいいこともあるからな」
「怖いんだけど!?」
白雪さんの席には『ヒンズースクワットをするスク水おかまプロレスラー』という奇妙な幽霊が憑りついているのだが……。
まあ、あまりにも辛い現実のため、伏せておくとしよう。
今はこっちの方が問題である。
「おい。起きろ、明麻絵」
「……むにゃむにゃ」
「まだ昼前だぞ。そんなに寝たら夜に眠れなくなるだろ」
「姐さん、まだ寝てる……。すごい胆力だ」
ただ鈍いだけだろうに。
どこに目を輝かせる要素があるのだ?
「今日の弁当にはたこさんウィンナーが入っているぞ」
「たこさんウインナー!?!?」
「よし、起きたか」
「たこさんウィンナーはどこですか!?」
まだ朝食をたべてから3時間ぐらいしか経っていないぞ。
どれだけ食い意地が張っているのだ。
「まだ昼飯には早い」
「……でも、お腹ぺこぺこ」
「お茶の間にせんべいが残っていたはずだ」
「おせんべい! テレビを見ながら食べるのが好きです!」
女子高校生にしては貫禄のある趣味だ。
「あ、あの、姐さん!」
「白雪さん?」
「これでもどうぞっ!」
「こ、これは……!」
ほう。
ポケットからマカロンが出てもおかしくない可憐さなのに、梅昆布とは。
かなり渋い。
「い、いいんですか!?」
「はい。」
「うーん、疲れている時のすっぱいものは格別です」
「すごい、寝起きでこんなに食欲があるなんて……! もっとボクも食べられるようにならなきゃ!」
なんとも眩しい思考だ……。
俺の中の邪気が焼き払われてしまいそうである。
さて、明麻絵が完全に目を覚ましたことだし、家に入るとしよう。
「やあ、いらっしゃい。君が白雪さんだね?」
おや。
親父がお客さんを玄関で出迎えるとは珍しいこともある。
雪女と狼男のハーフという存在に興味があるのだろうか。
「あ、はい。はじめまして。白雪月夜と申します」
「ああ、はじめまして。歓迎するよ」
「よ、よろしくおねがいしますっ!」
白雪さんはかなり緊張した様子だが、親父はなんだ。
なぜそんなにニタニタしている。
「嬉しいな。御手が友達を家に連れてくるなんて」
「親父。白雪さんはただの転校生だ」
「そうだね。でも、一緒にタクシーに乗ってきた時点で結構仲がいいと思うんだけど」
「勝手に決めつけるのは迷惑だぞ」
「あの、ボクは友達になりたいと思っているんだけど……」
「……そうか」
……む? よくよく考えると、俺には友人と言える存在がいない気がするな?
そもそもどうすれば友人になるのだ?
一体なにが友人を証明してくれるのだ?
知り合いや依頼人ならいくらでもいるのだが……。
…………まあ、よいだろう。
友人が多いと人間強度が下がるというしな。
「それで白雪さん。話を聞かせてくれないかい?」
それから白雪さんの口から聞いた情報は、ほとんど既出のものだった。
狼男としての成人の儀。
父親から四六時中追い掛け回されるので、1か月間生き延びるというもの。
15歳になった白雪さんはそれを受けることになった。
もちろん、白雪さんは乗り気ではない。
必死に逃げ回っている中、父親が我を失っていることに気付く。
母親の協力を得て、俺たちの学校に引っ越してきて、この街にいるという凄腕の陰陽師――つまり親父の助けを請いにきた――ということらしい。
「なるほどね。それで、保健室に襲来してきた父親を、明麻絵ちゃんが捕まえたんだ」
「はい。姐さん、すごくかっこよかったんですっ!」
「ふぁい。ふぁいふぁふぉうおばぃまふ」
おい、せんべいを頬張りながら話すな。
せっかく昨夜丹精込めてアイコンをかけたのに、台無しではないか。
「そうなると、まずは父親の暴走の原因をみつけないとね」
「あ、あの……。協力してもらえるのは嬉しいのですが、お金は――」
「ああ。大丈夫だよ。御手の友達だから」
「おい、親父」
すぐに公私混同するではない。
「いいじゃないか。お金には困っていないんだから」
「そういう問題ではない。こういうのは金をもらわないと面倒なことに――」
「……おや?」
ぬ?
なにやら地響きのような音が聞こえるような。
外から何かが迫っている――
「つきよちゃああああああああああああああん!!!」
「……お母さん!?」
ほう。
白雪さんの母親が近づいてくる音だったのか。
親子そろうとさらに美しい。
まさに絵本に出てくる雪女そのものに見える。
「なんで窓を突き破って入ってきたの!?!?」
「何を言っているのですか。息子の危機なんですから、それぐらいのこと、気にしてはいられません!」
「いや、気にしてくれないかな!?!?」
夫婦ともにガラスを突き破って登場とは、なかなかどうして、似たもの夫婦ではないか。




