第22話 君は完璧で究極な転校生 後編
ああ。
俺はこの時この瞬間のため、オギャアと生まれてきたのだろう。
目の前に広がるのは桃源郷か、それとも天国か……。
いや、まぎれもなく現実であろう。
現実でなければ、こんなに心が震えることもなければ、熱い涙を流せるわけがない。
「はじめまして。転校生の白雪月夜と申します。えっと……仲良くしてくれると嬉しい、です」
ああ。
これほど均整の取れた体格を見たことがない。
まるで生まれたての一角獣のように白く、ほっそりとした手足。
体には無駄な肉や筋肉は一切なく、
そしてなにより、儚げな顔立ち。
新雪のような白い肌と、お御髪。それに狼のケモ耳。
声も涼し気で優し気で、とても庇護欲をそそられる。
「ああ……ああ…………あああぁっ!!!」
感動。感激。感極まれり。
そんな言葉で、この気持ちを表せるわけがない!
ついに出会えたのだ。
幻想そのものが形を成したような、理想の女性に。
「それじゃあ、白雪さんは島田くんの後ろの席ね。彼は学級委員長だから、困ったことがあったら頼ってね」
「あ、あの……あの人、泣きながらこっちを見ているんですけど……」
「ごめんね。彼、かなり変わってるから。でも、悪い人じゃないから」
そうか。彼女は俺の後ろの席になるのか。
ああ。なんと運命だろうか。
俺は今、世界の中心にいるッ!!
「よろしくね。島田くん……でいいのかな?」
「あなたは美しい。この世のどのような芸術品も、君の前では自ら砕けてしまうだろう」
「え、えっと……。ありがとう……? 冗談がうまいね?」
「俺は真剣だ」
ああ。
彼女を賛美する言葉が無限に浮かび上がってくる。
しかし、それらすべてが不適切。
彼女の魅力を表せる言葉は、この世に存在するのだろうか。
いや、俺のちっぽけな脳で、この素晴らしさを表現できると思い上がるのは不敬ではないだろうか!
「あれ? 島田ってもしかして、陰陽師の――」
「ああ。その通りだ。君は麗しい」
「えっと、ボクの話を聞いてる……?」
「俺があなたのは声を聞き逃すわけがない」
「そ、そう……? 本当……?」
「ああ。この時が永遠に止まればいいのに」
「ダメだこの人……っ!」
ああ。
彼女が後ろに座っているだけで、多幸感で心が満ち満ちていく。
常に太陽で背中を温められているようだ。
……む?
いつの間にか、一限目が終わっているではないか。
時間でも飛んでしまったのか。
彼女と一緒にいる時間が減ってしまったではないか。口惜しくて仕方がない!
「えっと、島田くん、少しは落ち着いた?」
おお。
彼女から話しかかえてくれるなんてっ!
体が自然とひざまずいてしまう。
涙を流してしまう。
もう仕方がないのだ。
俺の体に備わった生理現象のようなものだ。
「ダメみたいだね……」
ああ。
途方に暮れている顔も美しい……。
「君はこの世の何よりも美しい……」
「えっと、何をしているんですか……?」
誰だっ!
彼女との蜜月の時間を邪魔する人間はっ!
「ああ。明麻絵か」
「うわ、なんで泣いているんですか……」
「えっと、あなたは……? 透明人間……?」
「あなたが転校生ですか?」
「ああ! 彼女こそが転校生の白雪月夜その人だ!」
「御手くんには聞いてません!!!」
どこに怒られる要素があったのだ?
「えっと。あなたは島田くんの友達ですか?」
「あ。一応許婚をさせてもらってまして……えっと、御手くんが申し訳ないです」
「い、いえ。苦労されているんですね……」
「ま、まあ……あはははは……」
なんだこの空気は。
俺は何も悪くないではないか。
「ほら、相手も困っているので、落ち着いてください」
「俺は冷静だ」
「……ああ。はい。もういいです。これでも見てください」
こいつ、なぜ突然腹をさらけ出して……?
あ……眠く……なって……。
腹枕の感触を重い……出して……。
おのれ……。自分の習性が憎い……。
「ああ。なんでこんなことになるんだろう」
「まあ、御手くんはおバカさんなので」
「ただお願いしたかっただけなのに……。『父親を殺してほしい』って……」




