第20話 透明人間の初登校
さて、今日の登校はかなり遅くなってしまった。
すでにホームルーム直前の時間である。
その理由は明確。
我が許婚である紙透明麻絵——いや、明麻絵と共に登校したからである。
「大丈夫か? 不安じゃないか? ちゃんと教科書と筆記用具を持ったか?」
「わたしは子供ですか……?」
仕方ないだろ。
心配なものは心配なのだ。
「問題ないですよ。わたし、これでも強い子なので」
「挨拶はちゃんとするんだぞ」
「はいはい。わかりましたから」
「イジメられたら、叫べよ」
「大丈夫ですよ。イヤなことがあったら、服を脱いで透明になってあなたの元に向かいますから」
ふむ。
たしかに合理的である。
しかし――
「お願いだから、それだけはやめてくれ」
「……なんでですか? まさか、わたしの体によく――」
「お前のお腹を見ると、眠くなってくるんだ。だから、学校で俺にお腹を見せないでくれ」
「あ、はい……」
なぜ残念そうな顔をしているのだ?
女心は奇奇怪怪である。
「あの……わたしの裸を見ても、他の気持ちは湧かないんですか?」
「とても安らぐ気持ちになれる。アザラシを見ている時のようだ」
俺はアザラシが大好きである。
換毛期は絶対に逃せないし、乾きながら寝ている姿を永遠を眺めることができる。
濡れてテカテカな姿も、乾いてモフモフな姿も、中途半端に乾いた姿も、ワモンもゴマフもハイイロ、すべて愛おしいのだ。
つまり、何を言いたいかというと、これは俺にとっての最上級の誉め言葉なのである。
「う――――ん」
「どうした? そんなに頭をひねって」
「まあ、これもいいんですかかね……?」
「そうか」
彼女は隣のクラスであるため、廊下でお別れとなった。
そして、教室に入ったのだが、早々、ある男子生徒が話しかけてきた。
隠れあかなめである、千口である。
「島田、おはよう」
「ああ、おはよう。なんだそのニヤニヤ顔は」
「廊下で誰と話していたのか聞きたくてな」
「許婚だ」
「ああ。あの不登校でムチムチと言っていた……」
「その通りだ」
だいぶインパクトばかりが先行した情報だな。
そのように広まっているのは、一体誰が原因なのだろうか。
「本当に透明だったな。制服が浮いていた。最初は、ついに頭がおかしくなったのかと思ったぞ」
あかなめのくせに、目目連なみに見ているな。
「俺はこのメガネのおかげで見えているからな」
「陰陽師としての技術なのか?」
「おそらくな。親父は陰陽術でなんでもできる」
「すごいなー。お前が見えることに、許婚は不満とかないのか?」
「……ふむ。明麻絵は何も言ってこないな。受け入れてくれているのだろう」
「お前…………」
ん?
なぜそんな顎が外れそうなほど驚愕しているのだ?
「お前、女子を下の名前で呼べるんだな……」
「当たり前だろう」
「いや、なんていうか、感動した」
こいつの頭の中で、俺のイメージはどうなっているのだ。
まあ、正直わからなくもないのだがな。
俺もほんの数日前まで、下の名前で呼びたくなるとは思わなかった。
「はーい。みんな座って座って」
「あ、先生だ。また後で話を聞かせてくれな―」
「ああ、わかった」
む?
先生の様子がおかしいな。
いつもはけだるそうにしているのに、今は浮足立っている感じだ。
「実は今日、このクラスに新しい仲間が増えます」
「先生。転校生ってことですか?」
「千口くん、その通りです。その、あまり騒がないでくださいね……?」
かなり中途半端な時期だぞ。
「じゃあ、入ってきてー」
まあ、いい。
家庭の事情でもあるのだろう。
俺は学級委員長として接する……だ……………け………………?
な、なんだ、こいつ……っ!




