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第1話 俺のはじめてを盗んだ透明少女 前編

 目の前で、裸の肉が揺れている。


 放課後の教室。

 窓から差し込む光は、年季の入った床を温かみのある朱色で染め上げ、ほんのりと非日常感を醸し出している。

 校庭からは日常感あふれる、部活動に励む生徒の声。


 規則正しくリズムを刻む時計の針は、ちょうど6時を過ぎ、耳に馴染んだチャイムを鳴らした。

 

 俺は先ほどまで、学級委員長として先生の手伝いをしていて、ようやく戻ってこれたところである。

 

 誰もいない教室。

 そのはず、だったのだが――


 彼女は、突然姿を現したのだ。


 裸で。

 堂々と。

 恥ずかしげもなく。


 その顔に見覚えはない。

 だが、とてもかわいらしい。顔を引き締めれば、見事な大和撫子になることだろう。


 染めているのだろうか。髪は見事な桃色をしているのだが、残念なことに寝癖が見える。


 これだけでも、一生忘れられないほどに印象的である。

 しかし、それらを忘れてしまうほどに、彼女の体格(・・)が強烈な存在感を放っているのだ。


 それは美少女と呼ぶには、ムチムチ(・・・・)すぎた。

 

 呼吸をするだけで腹肉は揺れ、ふとももに隙間はない。

 女性の姿を見て、美しいと思ったことは幾度もある。女体の美とは均整である。ほどよくついた肉に、

 しかし、圧倒されたことはなかった。

 


「…………はぁ」



 彼女はなぜ、ため息をついているのだろうか。

 なぜ裸でいるのか。

 いや、そもそもなぜ、歩くだけで揺れるほどに贅肉が成長してしまったのか。


 何もかも、謎に包まれている。

 

 不可解なことばかりだが、ここは毅然とした対応を取るべきであろう。

 

 

「お前は何をしている。女性として恥ずかしいとは思わないのか」

「……え?」



 おい、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするな。

 驚きたいのはこちらの方だぞ。



「わたしに対して言っているんですか……? え、見えてる……?」

「しっかりと見えているぞ。そのハムのような腹肉もな」

「な――っ!」



 いや、顔を赤らめながらお腹を隠してどうする。

 他に隠すべき箇所があるだろうに。



「え、うそ。な、なんでなんでナンデ!?!?」



 自分から裸をさらしておきながら、なぜこんなに慌てているのだ?

 露出狂ならもっと堂々と見せびらかせばよかろうに。



「えっと……本当の本当に、わたしの姿が見えてるんですか?」

「さっきからそう言っているだろう」

「じゃあ……今、わたしは何本の指を立てているように見えますか?」



 なるほど。

 それで本当に見えているのかを確認するわけか。非常に賢いやり方だ。


 

「4本だな。左右で2本ずつ」

「うそぉ……」



 彼女の反応を見るに、問題なく当たったようだ。


 

「これで理解してくれたか?」

「本当なんですね……。全裸ダブルピースが見えるなんて……。アヘ顔ではないですが」



 なんなのだ、この不可解な会話は……。

 頭が痛くなってきたぞ。



「あなたは一体、なんなんですか……? 何で見えるんですか……?」

「俺の名前は『島田(しまだ) 御手(みて)』だ。島田家の長男にして、このクラスの学級委員長をしている」

「えっと、知ってるますし、そういうわけじゃなくて……」



 はて。俺の名前を知ってる?

 彼女のような(一応)美少女の顔を見たら、流石の俺でも忘れないと思うのだが。


 いや、声はどこかで聞いたことがあるような……?

 …………ダメだ。思い出せない。


 ええい!

 考えていても仕方がない。

 本人は目の前にいるのだ。


 直接(たず)ねれば済むだけのこと。


 

「お前は何者だ」

「えっと、その……。わたし、何に見えていますか?」

「痴女だ」

「うっ! すごく直球……。まあ、そう見えてしまいますよね……」

「それ以外に表現のしようがなかろう」

「えっと……その……」



 おい、モジモジするな。

 腹肉が揺れるのが目に入ってしまうだろ。


 

「わたし、こう見えても透明人間ってやつでしてぇ……」



 透明人間?

 珍妙なことを言う。



「信じられんな。実際、俺の目に映っているのだが」

「本当ですよぉ……。実際、ここに来るまで誰にも見られていなかったので……」

「……ふむ」



 なるほど。

 彼女の言い分にも一理ある。

 

 校庭や校内からは、まだ部活動をする生徒達の声が聞こえている。

 裸の少女が校内を闊歩(かっぽ)していれば、騒動にならないはずがない。


 付近で服を脱ぎ捨てた可能性もあるが、その痕跡は見当たらない。



「なるほど」



 今の状況こそが、彼女が透明人間であることを証明している。


 ……いや。

 よくよく考えれば、陰陽師の息子である俺が、透明人間の存在を否定する方がおかしいか。

 妖怪や怪異と顔なじみなのだから、透明人間が存在すると考える方が自然である。


 

「ふむ。確かに透明人間であるようだな」

「理解してくれましたか!」

「ああ。認めるしかない」

 


 しかし、そうなると、もうひとつの疑問が浮上してくる。

 

 俺はなぜ、透明人間を視認できているのか。


 俺は少々特異な体質を持っているが、透明人間が見えるなんていうピンポイントな力などあるわけがない。


 考察しようにも、あまりにも情報が少ない。

 しかし、一度気になってしまったら、おさまりがつかないではないか。



「……ふむ?」

 


 考え事に(ふけ)るあまり、メガネが曇ってしまったではないか。

 気分転換のためにも、一度拭くとしよう。


 次の瞬間、俺の目が大きく見開かれた。



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