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怨霊刺青師  作者: 転生下書き人


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残馬の悲劇(ざんまのひげき)

小林亜紀こばやしあきと再び会ったのは、数年後すうねんごパリで旅行する時で、地元のサーカスに行ったことがきっかけだった。

サーカスの入り口には、大勢のフランス人が群がっていた。

何を見ているのか分からなかったが、俺も近づいてみた。

そこには、地面に座る女性がいた。

彼女は両手も両足もなく、髪は完全に剃られて坊主頭ぼうずあたまをして、激しく叫んでいた。

顔中には刀傷とうしょうがあり、無力に叫び続けて —— 全身の力を込めて叫びさけびごえを上げていた。

裸の彼女の胸はたるんでおり、口を開けて叫んでいるが、したはなかった。

彼女が俺を見る眼神がんしんは特別で、叫ぶ声もさらに力強かった。

その胸元に、小さな歯型のはぎたのあとが見えた時、俺は瞬時にある人を思い出した —— 小林亜紀だった。

顔の輪郭りんかくをよく見比べた。今の亜紀は、記憶の中の亜紀とは全然違っていたが…… 俺は分かった…… 目の前の「人間ではない」女性が、本当に小林亜紀だった。

当时、サーカスの支配人しはいにんを見つけて、亜紀の状況を聞いた。

支配人は「この女性は日本から送られてきた『残馬ざんま』だ」と言った。

残馬とは?つまり障害者馬術しょうがいしゃばじゅつのことだ。

障害者馬術は、主に人々の好奇心をそそる(こうきしんをそそる)ためのもので、観客に金を払わせるための興行きょうこうだ。

小林亜紀は日本で「残馬」にされ、フランスのサーカスに売られたのだ。

俺は反射的に、亜紀に団地住宅れんぱいべっそを贈った佐藤衛国さとうえいこくを思い出した。

佐藤衛国の団地は 6 億円ろくおくえんもするもので、無料で亜紀に贈るはずがない。

亜紀は団地を売って佐藤衛国から大金を奪い取ったが、金持ちの金はそんなに簡単に手に入るものだろうか?

也许たぶん佐藤衛国は狂ったように復讐ふくしゅうし、誰かに亜紀の四肢しし切断せつだんさせ、舌を抜かせてから、フランスのサーカスに売ったのだ。

これが小林亜紀の最期さいごだった。

ここ数年、俺は亜紀に会ったらどう復讐するか考え続けていた。

だが今、亜紀の惨めな姿みすぼらしいすがたを見ると、復讐の気持ちはなくなり、ただ無限の哀れみ(あわれみ)を感じた。

俺はサーカスの支配人に 85 万円はちじゅうごまんえんを出して小林亜紀を買い取り、帰国きこくした後、精神科病院せいしんかびょういんに入院させた…… 彼女の姿は、もう正常人の精神せいしん肢体したいもなく、一生面倒を見ることはできなかった。

もし亜紀が昔の純粋な小林亜紀だったら、一生面倒を見る気はあったが、彼女は俺を裏切り(うらぎり)、命まで狙ったことがある。もう愚かな善人ぜんじんにはならない。

精神科病院で亜紀と別れる時、俺は亜紀の耳元に寄り添って言った:「小林亜紀、君は以前『この世界は善人が生きる場所ではなく、俺のような悪人だけが生き残れる』と言った吧?今、俺はまだ元気に生きていて、生活もどんどん良くなっている。だが君は…… こんな目に遭った。来世らいせは、善人に生まれ変わればいいよ」

俺は立ち上がり、さらに亜紀に言った:「悪人は確かに俺たちより金持ちで、潤った(うるおった)生活をしている。だが俺たちほど心安らぐ(やすらぐ)生活はできない。俺は毎晩、心安らかに眠れる。なぜなら心当たりのある悪いことは一つもしていないから…… だが君たちは…… 毎晩、寝返り(ねがえり)を打ちながら眠れない吧?いつ報復ほうふくされるか心配して…… 悪人の方が、本当に疲れた生活をしているんだ!」

亜紀はさらに激しく叫んだ。也许たぶん少しだけ正常な意識いしきが戻って、俺に家に連れて行って欲しい、あるいは面倒を見て欲しい、再び優雅な(ゆうがな)生活をしたいと思っていたのだろう。

俺は首を振った。「ごめん…… 以前の敵でも手伝うことはできるが、一生面倒を見ることはできない!」

俺は振り返り、ゆっくりと精神科病院を離れた。病院の入り口まで来ても、小林亜紀の悲しい叫び声が聞こえてきた!

善悪は必ず報われる。天道は巡る(めぐる)。上を見ないか、天は誰も赦さない(ゆるさない)!

……

呪術師じゅじゅつしに亜紀が移し替え(うつしかえ)た鬼嬰きえいを取り除いた後、俺は再び必死に仕事を始めた。

毕竟やはり、小林亜紀と山本健太やまもとけんたの二件の案件で、俺は一銭も稼げなかった上に、40 万円よんじゅうまんえんまで損した。

幸いにも高橋勇次たかはしゆうじに「陰陽魚おんようぎょ」の刺青を入れた時、大きなお土産おみやげをもらったので、全く稼げないわけではなかった。

母の手術代しゅじゅつだいにはまだ 1 亿 4000 万円いちおくよんせんまんえんの不足があり、腎臓移植じんぞういしょくの日はあと一ヶ月もない。もっと必死に稼がないと、母はこの腎臓のドナーを逃してしまうだろう。

次の腎臓のドナーが出現するのは、何年後になるか分からない。

この数日、ネットの「腎臓移植フォーラム(じんぞういしょくふぉーらむ)」を見ていたが、多くの人が「透析とうせきをしながら腎臓のドナーを待っているが、十年以上待っても来ない」と書いていた。

だから、俺は続けて稼がなければいけない。必死に稼がなければいけない。

チャンスは一度きりだ。この道理どうりは分かっている!

俺と中村隼人なかむらはやとは、昼は刺青の客を受け付け、夜は一緒にビラを貼る(はる)。

ビラを貼る時、隼人の長所ちょうしょに気づいた —— 彼はどう見ても遊びあそびびとだが、仕事は意外と速くて正確だ。

電信柱でんしんちゅうに貼ったビラは、取り除く(とりのぞく)ことができない。翌日よくじつ見ると、清掃員せいそういんは他のビラは全部取り除いたが、隼人のビラだけは残っていた。

俺は彼に本当に服(ま服)した。

ビラを貼るのは効果があったらしく、翌日の昼、女性の客が陰陽繍を依頼いらいしに来た。

この女性の名前は「斎藤彩乃さいとうあやの」だった。

斎藤彩乃は非常に太った女性で、身長しんちょうは約 170 センチで、サイズの大きい赤色せきしょくのスポーツウェアを着ていた。

このスポーツウェアは、普通の人が着ればゆったりした感じになるが、彩乃が着ると、体にぴったりと張り付いていた。遠くから見ると、小さな肉山にくやまのようだった。

彩乃が店に入ると、中村隼人がすぐに出迎え(でむかえ)た。

「お嬢さん、どんな刺青を入れますか?」中村隼人は「会員顧問かいいんこんもん」として、非常に熱心ねっしんに笑顔を浮かべて斎藤彩乃に聞いた。

斎藤彩乃は首を振り「刺青は入れないの。ダイエットしたいの」と言った。

「ダイエット?」中村隼人は後で俺に話したが、当时は驚いて「店の看板かんばんを間違えて『刺青店しせいてん』を『ダイエット店』と書いたのか?」と思ったそうだ。

斎藤彩乃はさらに問うた:「陰陽繍は陰陽を繍い、生死や富貴、出入りの平安を守るって言うでしょ?生死まで扱えるのに、女性のダイエットは扱えないの?」

これで中村隼人は总算是理解りかいし、手を打って纹床しせいゆかに座る俺を指して言った:「ほら…… 陰陽繍の本物ほんもの後継者こうけいしゃはそこにいる。聞いてみてください」

「わかった!」斎藤彩乃は俺に近づき、熱心に自己紹介じこしょうかいをした:「斎藤彩乃と申します。以前はフィットネスコーチでした。ダイエットを手伝っていただきたいのです」

俺は斎藤彩乃を見て「以前はフィットネスコーチだった?」と聞いた。

フィットネスコーチが彩乃のような体格たいかくだと思うのは難しかった。もし俺がジムに行って、110 キログラムの太った人に「ダイエットを教えましょう」と言われたら、きっと顔を叩き(たたき)たくなるだろう?

ダイエットができるのに、110 キログラムまで太れるのか?

斎藤彩乃は俺の思いを察し(さっし)たらしく、頭を下げて「本当にフィットネスコーチでした。プロのフィットネス大会たいかいにも出場しゅっじょうして、女子 45 キロきろきゅう優勝ゆうしょうもしたことがあります」と言った。

俺は斎藤彩乃に「大会に出場した時、体重たいじゅうはどれくらいでしたか?」と聞いた。

「四十六・五キログラムでした」斎藤彩乃が答えた。

俺はさらに問うた:「今はどれくらいですか?」

「今は…… 今は 110 キログラムぐらいです」斎藤彩乃は照れ(てれ)たそうに言った。

俺は唾液だえきを飲み込んだ。なんてこった……110 キログラム?どうやってこんなに太ったのだ?

斎藤彩乃は「もしトレーニングを続けていたら、こんなに太ることはなかったのですが……」と言い、涙を流しながら自分の話を始めた。

もともと、斎藤彩乃は本当にフィットネスコーチで、体重もきちんと管理かんりしていた。プロのフィットネスコーチとしての体格は当然とうぜん良く、普通の女性より力があり、豊かな(ゆたかな)美感びかんも持っていた。

だが斎藤彩乃のキャリア(きゃりあ)は思うようにいかなかった。毕竟やはり日本人はアメリカ人と違って、大部分だいぶぶんの人はフィットネスの習慣しゅうかんがなく、ジムの人もそれほど多くないため、フィットネスコーチの給料きゅうりょうはそれほど高くなかった。

斎藤彩乃は上進心じょうしんしんの強い女性で、あるフィットネスコーチが「高齢者広場ダンス(こうれいしゃひろばダンス)」に特化とっかして大成功だいせいこうしたのを見て、フィットネスを全国ぜんこくの人々に広めたいと思った。

それで、彼女は当時「大きなこと」をしようと思った…… 大体の計画けいかくは…… 先に自分を太らせ、然后そのあと速く体重を減らす(へらす)ことで、「普通の太りふとりや科学的かがくてきなフィットネスで痩せる(やせる)」という励まし(はげまし)のあるイメージを作り、更多のもっとおおくのひとにフィットネスを受け入れてもらい、この動画どうが全日本ぜんにほんで有名になろうと思ったのだ。

考えは素敵すてきだったが、現実げんじつは厳しかった。

斎藤彩乃はトレーニングを中止ちゅうしし、家でケーキやスナックを食べ続け、韓国ドラマを見る日々を過ごした。

こんな生活を半年間はんとしかん続けた結果、斎藤彩乃は 75 キログラムの太り屋になった。

この時、彼女はダイエットの動画を撮影さつえい始めたが、ダイエットが全然できないことに気づいた —— 簡単な動作どうささえできないからだ。

例えばあしを鍛える(きたえる)良い動作「スケートジャンプ(すけーとじゃんぷ)」は、スケーターが地面で横に跳ぶ(とぶ)動作で、以前の斎藤彩乃には非常に簡単だったが、今はこの動作をすると、一不小心ふいにひざ半月板はんついばんを捩って(ねじって)しまった。

これで、斎藤彩乃は再び病院で半月板の治療ちりょうを受けなければいけなかった。

彼女のトレーニング計画けいかく失敗しっぱいし、病院に二ヶ月間にかげつかん入院にゅういんした結果、斎藤彩乃はさらに太り、90 キログラムになった。

斎藤彩乃は再びジムでダイエットの動画を撮影し始めた。

だが今回は、彼女は完全に意気消沈いきしょうちんした。運動うんどうする意欲いよくが全然なくなり、さらに悪いことに、フライドチキンやポテトチップス、コーラなどのジャンクフード(じゃんくふーど)をやめられなくなった。

彼女は諦め(あきらめ)た!ポテトチップスやフライドチキンをたくさん食べ、コーラを飲み続け、さらにアルコール(あるこーる)も飲むようになった。

その結果、体格はますます悪くなり、110 キログラムになった。

斎藤彩乃は話し終えると、激しく泣き始め、突然俺に飛びかかってきた。

俺は…… 俺は本当に押しつぶされ(おしつぶされ)そうになった!


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