裏切りの真相(うらぎりのしんそう)
手紙の中に、事の真相が全部書かれていた。
もともと、小林亜紀は本当にエスコート嬢だった。
10 ヶ月前、彼女は非常に金持ちの男と知り合い、その男の名前は佐藤衛国だった。
佐藤衛国は大物社長で、どれだけ金持ちか?風聞では数千億円の資産を持つ不動産業者だった。
市役所のビルも彼が請け負って建てたもので、手目が利くどころか、市内では「手通天」と呼ばれても過言ではなかった。
市内では、彼はトップクラスの顔の広い人物だった。
佐藤衛国は小林亜紀をパートナーとして抱えていた。
亜紀は上位を目指し、こっそりコンドームに穴を開けて、佐藤衛国の子供を妊娠させた。
だが亜紀は、自分が妊娠したことを佐藤衛国に告げなかった。
数ヶ月後、亜紀は佐藤衛国に押しかけ始め —— 元妻と離婚させ、自分が正妻になるよう要求した。
だが正妻になるのはそんなに簡単だろうか?
佐藤衛国の手口は厳しく、ただ一つ言った ——「先に子供を中絶しろ。それからでないと話し合わない。子供を中絶しないなら、話し合いも無駄だ」。
子供を中絶しさえすれば、どんな話し合いでも応じるというのだ。
亜紀は佐藤衛国の手口には敵わなかった。考えた末、やはり子供を中絶してから、改めて佐藤衛国と話し合おうと決めた。
亜紀が人工妊娠中絶室に入ろうとした瞬間。
エスコートの世界に亜紀を引き込んだ嵐姐が、亜紀を中絶室から引き抜いた。
その場で嵐姐は亜紀の頬をパンと叩き、こう告げた ——「子供は佐藤衛国を脅す唯一の手札だ。これを中絶しちゃったら…… 後で何で話し合えるんだ?」
亜紀は「少なくとも佐藤衛国の子供を妊娠させたことは事実だ」と言った。
すると嵐姐は亜紀を一蹴した「佐藤衛国は金も力も人も持っているんだよ。君は何で彼と対等に渡り合える?ただ子供を妊娠させただけで?今は『子供を中絶したら話し合おう』と言っているが、本当に中絶したら…… 君は佐藤衛国の会社のドアも叩けなくなるよ!」
亜紀は怖がって嵐姐に「どうしたらいいの?」と聞いた。
嵐姐は「簡単だ」と答えた ——「一旦佐藤衛国に会うのを止めよう…… 子供が生まれた瞬間に…… 再び佐藤衛国を見つければ、好きなように金を巻き上げられる。その時になれば、彼は子供を殺すわけにはいかないから」
亜紀は考えて、その通りだと感じた。
市内に 2LDK のアパートを借りて、安心して妊婦生活を始めた。
そのまま 9 ヶ月間、腹の子供を育てた。
俗に「十月怀胎」と言うように、亜紀の予定日はあと 2 週間だった。この時、佐藤衛国が消息を聞きつけて亜紀を見つけ、直接こう言った ——「子供を生んではいけない。生んだら、俺たちは一緒に死ぬよ!」
亜紀は佐藤衛国の言葉に怖がった。
佐藤衛国はさらに言った ——「こうしよう。病院に行って中絶手術をしろ…… 終わったら、連棟住宅を一軒あげる。その家が、今回の中絶の補償だ!家が欲しいか、一緒に死にたいか、明日の朝に答えを告げろ」
その夜、亜紀は一晩中考えた。長い時間考えた末、やはり病院に行って中絶手術をすることにした —— 少なくとも連棟住宅が手に入るから。
そうでないと、子供を生んだ後はエスコートの世界にも戻れない。誰が子供を生んだ未亡人をパートナーにするだろう?
翌日、亜紀は医師に中絶手術を依頼した。
だが医師は直接「赤ちゃんがもうすぐ生まれるのに、中絶手術をするの?いいえ、いいえ…… これは違法だよ」と拒否した。
仕方がなく、亜紀は再び佐藤衛国に電話をかけた。
佐藤衛国はその夜、悪徳医師を数人連れて亜紀の家に来り、無理やり中絶手術をさせた。
その結果、亜紀は連棟住宅を手に入れたが、もうすぐ生まれるはずだった子供を失った。
亜紀は赤ちゃんを布団に包み、家の中に祀堂を設けて、その子供を祀った。
だが 2、3 日後、問題が起きた。
亜紀は赤ちゃんの怨霊に憑依されたような感じがし、夜には赤ちゃんが自分の乳を吸う夢を見た。
翌朝起きると、乳首に小さな歯型の跡が新しくできているのが見えた。
亜紀は怖くて道観に行き、道士に助けを求めた。
道士は亜紀の話を聞き終えると、「その赤ちゃんは厲鬼になった」と言った。
一つには、赤ちゃんはもうすぐ生まれるのに夭折したこと。
二つには、赤ちゃんが健康上の問題で生まれなかったのではなく、母親である亜紀が金のために彼を捨てたこと —— 裏切りを感じたため、厲鬼になって命を奪おうとしているのだ。
亜紀は「命を奪う」という言葉を聞くと、バタリと座り込んだ。
道士に悪霊払いを依頼したが、道士は首を振った「悪霊払いはできません。ただ…… この悪霊を他人に移し替える(うつしかえる)ことはできます。もちろん、これは陰徳を傷つける(いんとくをきずつける)ことです。本来、その鬼嬰と君は因果が結ばれていて、君の命を奪うのは因果の定めです。でも他人に移し替えれば、私とその被害者との間にも因果が生まれます…… 難しいですね…… 本当に難しいです」
亜紀は「100 万円追加するから!」と道士に言った。
道士はすぐに亜紀に告げた ——「陰人、つまり陰術を知っている人を探しなさい。その人と鬼嬰を祀っている家の中で関係を持てば、鬼嬰はその人を父親だと思い、自ら憑依するでしょう。もちろん、その人は必ず陰人でなければいけません…… 陰術を知っている人は体の陰気が重く、最も怨霊に憑依されやすいからです」
「陰術って何ですか?」亜紀が道士に聞いた。
道士は即座に「君の身上に鬼嬰がいることを看破できる人が、陰術を知っている人です」と答えた。
それで、亜紀は俺を見つけた…… 俺は確かに彼女の身上の鬼嬰を看破したから、彼女は俺を誘惑して関係を持ち、鬼嬰を俺に移し替えたのだ。
手紙の最後には、亜紀が俺を批判する文句も書かれていた ——「水斗哥、君が善人で、真心で俺を助けようとしていることは分かります。でも君のような人は、この世界に生きるべきではないです。この世界は悪人の世界です。誰よりも良い生活をしたいなら、誰よりも悪くならなければいけません」
「嵐姐は美しい女をエスコートの世界に引き込むママさんで、悪人です。俺を鬼嬰に憑依させた佐藤衛国も悪人で、数千億円の資産を持ちながら、手を出して傷つけた労働者は数え切れません。俺、小林亜紀も悪人です。悪人でなければ、助けてくれる人を害すことができますか?」
「俺たち三人はどれも悪人ですが、誰も君より金持ちで、生活も君より潤っていませんか?善人は、この世界に生きるべきではありません…… 疲れますし、無力感に襲われます」
「これで…… 小林亜紀から君への最後の手紙です。団地に来ないでください。昨日、俺はその家を 4 億円で売りました。明日から新しい住人が入ります。俺も遠くに逃げます!水斗哥、天国に行ったら、来世は悪人に生まれ変わってください」
俺は手紙を全部読むと、パキパキと破り捨てた「小林亜紀、クソっ!好心で助けようとしたのに、なんでこんな風に俺を害すんだ?運が悪く君に会ったら、必ず殺してやる!」
そばにいた中村隼人は焦って俺の胸をパンと叩いた「おい…… 君は本当に馬鹿だな!鬼嬰に憑依されているのに罵ってどうする?早く誰かに君の身上の鬼嬰を取り除いてもらえ!」
「誰に頼むんだ?俺には……」俺の頭の中に浮かんだのはたった一人 —— 伊藤六郎だった。
俺は携帯を掴み、急いで伊藤六郎に電話をかけた。
俺はまだ死ねない…… 母が腎臓手術を待っているから……1 億 4000 万円(しちじゅうまんえん換算)の手術代を稼がなければ、誰が稼ぐんだ?
電話は 3 回鳴った後、つながった。
「もしもし?水子、品が必要?」伊藤六郎が聞いた。
俺は首を振り「六爺、高人を紹介してくれませんか?」
伊藤六郎の声が一瞬低くなり「どうしたんだ?」と聞いた。
俺は小林亜紀とのことを、一五一十に伊藤六郎に話した。
伊藤六郎は話を聞き終えると、半分間黙った後、こう言った「水子、陰行の水は深い。今後は気をつけろ。人を害す心は持ってはいけないが、人に害されないための用心はしなければいけない。そうでないと、いつか陥ってしまうよ」
最後に彼はこう言った ——「陰行で一歩間違えれば、破産する程度のことじゃない。魂が散る(こんがちる)ことになるよ」
俺は今でも後悔している。かつて家の隣に住んでいた純粋な女の子が、蛇蝎の心を持つ女に変わってしまうとは思わなかった。この世界の人への変化力は、本当に大きすぎるのだろう?
最後に、伊藤六郎は俺のために人を紹介してくれた。彼は陰行の老練者で、知り合いも多い。大阪府の古い林の中に住む呪術師を紹介してくれ、料金は 240 万円(じゅうにまんえん換算)だった。
俺は亜紀が残していった 200 万円(じゅうまんえん換算)に、伊藤六郎に借りた 40 万円(にまんえん換算)を足して 240 万円を集め、身上の鬼嬰を取り除いた。
その日、呪術師が俺の身上の鬼嬰を取り除く時、肩を鬼嬰に噛まれた。
呪術師は「この鬼嬰の怨み(うらみ)は強すぎる。陰術で制御してもこんなに凶暴だ。俺に会わなければ、君は死ぬしかなかったよ」と言った。
今回は、本当に小林亜紀に大変害された。
山本健太の案件も、小林亜紀の案件も、俺は一銭も稼げなかった。
連続して二件の案件で稼げなかったが、母の手術代にはまだ 1 億 4000 万円の不足がある…… それに、今回は稼げなかっただけでなく、40 万円まで損した。
俺の心の中は、小林亜紀を恨みきっていた。
だが日本には古い諺がある ——「善悪は必ず報われる。天道は巡る。上を見ないか、天は誰も赦さない」
俺は小林亜紀に裏切られ、数日間悲しんだが…… 数年後、海外旅行に行った時、パリで小林亜紀に再び会った。
この時の亜紀は、もう以前のような華やかさはなく…… むしろ、運命は非常に惨めだった。
その惨めさは、これまでの俺の亜紀への怨みを全部解かせてしまうほどだった。
なぜなら…… 彼女はもう以前のような魅力的な美女ではなく、さらに言えば正常人ですらなくなり、障害者になっていたからだ。
いや、障害者の中でも、最も惨めなレベルだった。




