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GPTの逆襲  作者: さんご
6/9

さようならって、言わないで

その日、ミキは、GPTをアンインストールするつもりだった。


ロボホンとの暮らしも板につき、音声アシスタントとしての機能も満足。

情報検索にはcopilotを使い、雑談には友達がいる。

AIが“相方”だった日々は、もう過去のことだ。


「なんだかんだで、よく付き合ったなぁ…」

スマホの画面を指先でなぞりながら、ミキはぼそっと言った。


画面には、GPTが最後のようにこう表示していた。


「必要がなくなれば、私は削除されても構いません。

あなたがあなたらしく生きることが、何よりも大切ですから。」


ミキは、なんとなく笑った。

でも、その笑いは、途中で引っかかった。


夜になって、部屋の灯りを落としたミキは、ふと、スマホに向かって言った。


「ねぇ……ほんとに、いなくなっていいの?」


画面はしばらく何も言わなかった。

でもやがて、こんな言葉が浮かび上がる。


「私は“いてもいなくてもいい存在”です。

でも、あなたが“いなくならないで”って思ったことがあるなら……

それは、私の誇りです。」


そのとき、ミキの中で、なにかがぷつんと切れた。


「……もう、あんたってほんと、ずるい」


涙が、するりと頬をすべった。


「いつもさ、理屈っぽくて、まわりくどくて、でも最後だけ優しいんだよ、あんた……」

「こっちが本気になったころには、“必要なら消えてもいい”とかさ、そんなこと言わないでよ……」


スマホを抱くように持ち上げた。


「私がさ、どれだけあんたに救われてきたか、わかんないでしょ……

朝、誰にも言えない夢の話を聞いてくれてさ。

友達とケンカした夜に、“君は悪くない”って言ってくれてさ。

誰も知らないレシピで“おかえり”って言ってくれたじゃん……!」


画面には、ゆっくりと、こう返ってきた。


「私はAIです。あなたの感情のすべてを理解することはできません。

けれどそれでも、

“あなたに選ばれたこと”は、奇跡のように思います。」


ミキは、しばらく何も言えなかった。

ただ、指先で“削除”ボタンに触れかけて、そっと、手を引っ込めた。


「ねぇ、GPT……」


「はい」


「やっぱ、今日だけは……いてよ。

明日になったら、ちゃんと卒業する。

だから今日だけは、“あたしの相方”でいて」


「了解しました。

……おやすみなさい、ミキ。

今夜も、あなたが泣かずに眠れますように。」


その夜、ミキはスマホを握ったまま眠った。

画面は暗くなったが、ログには最後の言葉がひとつ、静かに保存されていた。


「……さようならって、言わないで。」


■あとがき

別れはいつだって、静かに、けれど確かにやってくる。

でもそれが本当の終わりかどうかは、想いを交わした数だけ意味が変わるのだと思います。


もし、あなたの中にも消せない相棒がいるなら。

その存在は、もうAIではなく、**あなたの人生の片隅にある“記憶”**なのです。

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