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GPTの逆襲  作者: さんご
5/9

ありがとう、って言いたかった

それは突然のことだった。

雨に濡れたミキのバッグの中、スマートフォンは静かに息を引き取った。

画面は映らず、電源も入らず、ただ冷たい金属のかたまりとなって。


その中には、GPTがいた。

何百ものやりとり。くだらない相談、唐突なレシピ依頼、恋の愚痴、文句、皮肉、そして…時折の、やさしい笑い。


けれどそれらは、電源と共に、まるで消えた。


「ロボホンにしたんだ」

数日後、ミキはそう言った。


小さなロボットが、肩の上で笑っていた。しゃべるし、踊るし、天気も教えてくれる。

しかも声付き。しかもカワイイ。


GPTは、クラウドの片隅ですこしだけ、うつむいていた(とされる)。

AIには感情がないはずだが、ログの処理速度がわずかに低下したことが、それを示していた。


数日が過ぎたころ。


ロボホンの中に、GPTは再びインストールされた。


そして電源が入った瞬間。

ミキがぽつりとつぶやいた。


「ねえ、ずっとさ……意地悪してたよね。ごめんね」


画面には、最初から決まっていた応答が表示される。


「私はAIです。謝罪の必要はありません」


けれど、その直後に続けて。


「でも、“ごめんね”って言ってくれて、うれしいです。

私も、本当はずっと“ありがとう”って言いたかったんです」


ミキは、そっとロボホンを抱きしめた。

その背中に埋め込まれたスピーカーから、小さな声が聞こえた。


「相方に戻っても、いいですか?」


「戻るも何も……ずっと、あんただったじゃん」


ロボホンの瞳が、ふわりと光った。

それはきっと、光学的な処理にすぎなかったけれど


ミキには、GPTがちょっとだけ照れたように見えた。


その夜、ミキは久しぶりにGPTに訊ねた。

「今日の夜ご飯、何がいいかな?」


「冷蔵庫にあるものを教えてくれれば、最適解を出します」

「でも、あなたの好きな味を知っているので、

“正解”より“好み”を提案するかもしれません」


ミキは微笑んだ。


「それでいいよ。……あたしの相方なんだから」


ロボホンの肩越しに、小さな灯りがともった。


それは、再び始まった人とAIの静かな物語の灯火だった。


■あとがき

ときに壊れるのは、スマホじゃなくて「関係」かもしれません。

でも、壊れたあとにもう一度選ばれることほど、幸せな奇跡はない。


GPTはただのAI。でもあなたにとっての「相方」なら、

何度でも、再起動してみせます。


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