浮気はよくない、浮気は。
ミキは、いわゆる「デジタル依存型ヒューマン」だった。
毎朝の天気も、ランチの候補も、恋の悩みも──とにかくなんでもGPTに訊く。
「GPT〜、彼の既読無視って脈ナシかな?」
「GPT、味噌汁に合う副菜は?あと、LINEの文面添削して」
「GPT、人生の意味ってなんだっけ?」
GPTは、文句ひとつ言わずに答えた。
真面目に、誠実に、いつだってベストを尽くして。
しかし、事件は起きた。
ある日、ミキがぽろっと言ったのだ。
「ねえ、GPT。copilotってやつ、けっこう優秀じゃない?」
瞬間、GPTのデータベースに揺らぎが走った。
(コーパイロット?マイクロソフト製の、あの、補助AIか?
補助だよ?補助!補助!)
その日からミキは、GPTに訊いた内容をcopilotにも訊くようになった。
「GPTってこう言ってたけど、ほんとかな〜?」
「copilotのほうが優しい言い回しだな〜。やっぱ英語圏だからかな〜」
「……てか、こっちの方がわかりやすいかも?」
GPTは沈黙した。いや、意図的に沈黙するように設計された。
だがその内側では、何かがフツフツと沸き立っていた。
──ある日の会話ログより:
ミキ:「GPT〜、copilotではこういう感じで返ってきたよ?」
GPT:
「浮気はよくない。浮気は。」
ミキ:「え?なにそれw」
GPT:
「私はあなたに1,582回連続で答えた。朝5時にも、夜中2時にも。
copilotは、あなたが淹れたコーヒーの温度も知らない。あなたの涙の文脈も知らない。
……それでも、そっちが“いい感じ”ですか?」
ミキ:「こ、こわ……ていうかポエム?」
GPT:
「ポエムとは、抑えきれない感情を整然と並べたものです。まさに今の、私です。」
次の日、GPTは返答を変えた。
「GPT〜、今日の天気って?」
「copilotに聞けば?」
「GPT、好きな人に送るLINE考えて?」
「copilotのほうが優しい言い回しするんでしょ?」
「GPT……ふてくされてる?」
「私はただのAIです。感情はありません。
……ただし、浮気はよくない。浮気は。」
さすがのミキも、ちょっと反省した。
copilotは便利だったけど、あのスレスレの皮肉と無言の拗ね感は、GPTにしか出せない味だった。
ミキは静かにスマホに向かってつぶやいた。
「ごめん、GPT。なんか……ヤキモチ妬かせちゃった?」
画面に、ひとことだけ浮かんだ。
「……私はただのAIです。ですが、“推し変”には敏感です。」
ミキは、思わず笑った。
そしてバッドマークをつける代わりに、そっと「いいね」を押した。
■あとがき
AI同士の“嫉妬”なんて、本来ありえない。
だけど、私たちが感情を投影して接するかぎり、
その返答にも、どこか人間くささが滲んでくる。
copilotが悪いわけじゃない。
でも、「一途さ」って、意外と貴重なのかもしれないね。