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すごしょぼい  作者: 砥草
7/14

スタイリッシュ・ラブラブ茶道ゲーム

 『パルメザンの()()、小学生を〇す!』


 ロべチューブのサムネに、そんな文字が躍っている。

 なかなかに尖ったタイトルだ。


 酷い言いがかりだとは思う。

 ただ問題はその後、()()が発端となり、かなり揉めているようだった。


 ちなみに『パルメザン』というアニメは、元は(主に女性を対象とした)ゲームで、主要キャラクター(イケメン)が十人ほど出てくる。


 僕もざっくりとしか知らないけど、内容は『とある高校に入学した主人公(プレイヤー)が、弱小茶道部のメンバーと部を立て直すために奔走する話』らしい。


 やたらと権力のある生徒会会長から『次の県大会(茶道部なのにというツッコミはなし)で優勝できなければ廃部』という、かなり王道な展開だ。


 その茶道部のメンバーが、イケメン十人というわけだ。

 『パルメザン』というのは、メンバー全員が好きな食べ物だから、らしい。


 話を進めると、もっとキャラクターが登場するようだ。

 ライバル校とか、転校してきた幼馴染とか。


 声優ファンは勿論のこと、人気の絵師たちが各キャラクターをデザインしているとかで、そっち方面のファンも多い。


 ストーリーを進めていくと『宝石の散りばめられた茶筅(ちゃせん)』や『愛の籠められた袱紗(ふくさ)』といった、便利なアイテムも入手できるんだとか。


 合宿イベントや、マネージャー志望で入部してきた女子と一波乱あったりと、色々と盛りだくさんの内容のようだ。


 父方の親戚のお姉さんも好きらしく、前にアクリルスタンドを見せてもらった。

 それがAさんの持っていた()()と同じだ、と気づくのは少し経ってからだ。


 話が逸れたが、当然アンチや厄介なファンがいる。

 『パルメザン』の全てが嫌いだったり、自分の推し以外は認めなかったり。


 この発信者も、その類だろう。

 当然、この動画自体はかなり反感を買っていた。


 あまりにも強引な物言いだと。

 さすがに理不尽で不謹慎すぎると。


 だが、その後に別の誰かが『このキャラを担当した絵師が、過去にSNSでこんな酷い発言をしていた』と、ここぞとばかりに誰かが投稿した。


 それが本当に本人の発言かは分からない。

 でも、火をつけるには十分の火力があった。


 『人の皮を被った、悪魔じゃないとこんなこと書けない』

 『こんな人間を起用しているだなんて……!!』

 『でも、本人とアニメは分けて考えるべき』

 『↑それにしたって……』


 批難が、波紋のように広がっていく。

 擁護する者、離れる者、面白おかしく囃し立てる者。


 叩く理由を探していたら、誰かがちょうどいい理由を投下してくれた。

 これだけ大勢が言っているのなら、自分の発言は致命傷にはならない。


 『前に、パルメの映画やってる時に、ファンの民度がヤバすぎて引いた。周りの迷惑考えずに写真撮ったり、似たようなゲームがあると、すぐにパクリって言ったり……民度っていうか、人間性がヤバい』


 『本当にそれ!映画が始まってもずっとスマホ弄ってるし、推しが出てきたら「キャー」って変な声出すし、ペンラふり出すバカもいたし、応援上映じゃねぇんだぞって感じでファンやめたわww』


 『別にそれって、パルメ関係なくない?そんな一部の偏った連中だけ見てファンやめるなら、最初から好きじゃなかったってことだよ。()()()()()(笑)』


 Aさんの死は、もはや関係なくなっていた。


 一瞬だけ『パルメの()()で死ぬなよメ〇ガキ!くっそ迷惑!!』というコメントを見たが、すぐに削除されたか、コメントの波に流されたかで消えてしまった。

 

 (アニメが延期になるか、制作されないってなったら、お姉さんも悲しむだろうな。制作会社の人だって、色々と大変だろうし……)


 前にテレビのドキュメンタリーでやっていた。

 難しい内容ではあったけど、納期とかが大変そうだった。


 「……俺たちが子供の頃は、アニメの制作現場なんて考えたこともなかったけどな。声優業もよく知らなかったし。なんていうか、夢が壊れる内容だな」


 アニメの声は、本当にキャラクターが喋っている。

 中学の頃まで、父はそう信じていたらしい。


 あの時は「そういうものなのか」って思うだけだったけど、今は少し「()()であって欲しいな」と思ってしまう。


 それなら、制作現場の人のことを考えなくていいし。

 それに、何か安心できる。


 これは例外中の例外なのかもしれないけど、人一人の死で、ここまで大勢の無関係な人が巻き込まれてゆくのかと、ある種の恐怖を覚えた。


 (まあ、それを言うと、お母さんも()()か……)

 二年前のあの日を思い出してしまい、ブンブンと首を振る。


 考えたって仕方がない。

 それでも、考えてしまうのが僕のよくないところなんだけど。


 ぼんやりとそんなことを考えていると、ヒソヒソと別の女子グループの会話が聞こえてきた。


 曰く、『AさんはDさんに殺されたのでは?』という内容だった。

 僕は「どうしたそうなるんだ?」と心の中で首を傾げる。


 「Aさんってさ、『ザ・正義感の塊』みたいな人だったじゃん?サバサバしてて、言いたいこともハッキリ言うし、それでいて相手の気持ちも理解してるっていうか……」


 「分かる!真っ直ぐな性格だったよね~」


 「きっと、みんなの前でDさんを本気で注意しちゃうとさ、Dさんが嫌な思いをするって思ったんじゃないかな?それで、公園に呼びだして――」


 「注意したら、逆ギレされたってことっ!?」

 「しぃー!声がおっきいよ!!」


 「AさんもDさんもパルメ好きだったじゃん?それを口実に呼びだして、やんわりと注意ようとしたら、キレて突き飛ばされて……って、ありえそうじゃない?」


 「絶対それだ!Dさんって、小心者のクセに、カッとすると何してくるか分からないところがあったもん!!『自分は絶対正しい』な人だったし」


 「Tさん弄ってる時だって、周りに『賑やかし要員』がちゃんといるかどうか確かめてからだったもんねぇ。()()()()()が傍にいないと、何にもできないんだよ」


 「こうして考えてみると、マジでDさんって最低だよね」

 「てか、TさんもTさんだよ」


 「え?」

 「なんで?」


 「だって、Tさんも今学校休んでるじゃん。その手が使えるんなら、もっと早くそうしてればよかったんだよ。そうしたら、Aさんが死ぬことはなかったわけだし、Dさんも犯罪者にならずに済んだじゃん」


 「あー、言われてみればそうだよねぇ。何言われてもヘラヘラ笑って、普通に登校してくるから、てっきり()()()なんだと思ってたのに」


 「でしょう?Tさんが『やめて』って言えばよかっただけの話であって――」


 ベシャッ

 聞いていられなくなって、僕は墨汁を一人の女子の額に飛ばした。


 「えっ?ええっ?な、何?何か目に入ったんだけどっ!!こ、これどうしよう、あ、ああ洗った方がいいのかな?それとも、保健室?」


 気の毒になるくらいの慌てふためきかただ。

 まあ確かに、謎の黒い液体が飛んできたら、ビックリするか。


 「……え?これって、墨汁じゃない?何処から飛んできたのかは分からないけど、墨汁特有のにおいがするよ。目を洗って、念のために保健室に行こう!」


 ちっ、冷静な奴がいるな。

 サバイバルとかになれば、心強いタイプだ。


 さっきまであんなに饒舌に喋っていた女子は、「う、うん……」とだけ言って、他の女子たちと一緒に教室から出て行ってしまった。


 それを眺めながら、僕はTさんの机を見る。

 必死に毎日を『普通』に過ごしていただけなのに、あの言われよう。


 あいつらの水筒の中に、辛子を混ぜた水でも入れてやろうか、と思ったところで僕は首を横に振った。


 『パルメザン』の一件があったからだ。

 神様に力を返すまでの間ではあるけれど、使い方は慎重にやらないと。


 下手にやって『異物混入』なんて騒ぎになれば、沢山の人に迷惑がかかる。

 何も悪い事をしていないのに、謝罪会見、なんて事になったら可哀想だ。


 『誰かの嫌がらせで入れられた』となれば、先生にだって迷惑が掛かてしまう。

 ただでさえ、Dさんの件がヤバそうなのに。


 DさんがTさんにしていたことが発覚して、『担任は何をしていたんだ!?』なんてことになって、PTAとかから苦情が来たら――。


 あんな、バレないような絶妙な弄り方、分かりっこないのに。

 あんな、『逃げ道』を用意しているやり方。


 ×××


 そうこうしているうちに、土曜日になった。

 お父さんは、朝から釣り仲間と釣りに出かけた。


 今日は夕方のランニングはないようで、お姉ちゃんはホッとしている。

 明日はあるんだろうけど。


 走りたくないのに走らされるなんて、苦痛でしかないだろうな。

 でも『体にいいんだっ!!』って怒鳴られたら、反論できないし。


 『走ることは健康にいい』

 前にテレビで、そう言っていたけど。


 なんていうか、今のお姉ちゃんは、見た目は健康的だし、実際に走っているから体つきはしっかりとしているんだけど、『完璧な状態の車に、土気色の死体が乗っている』ようにしか見えない。


 体がどれだけ健康で元気でも、心が死んでいたら無意味だ。

 そう思っていても、何もできはしないんだけど。


 『心も健康に』って言っても、健康になる前に挫かれるし。

 コレが詰みってヤツか、と僕は思った。


 自分が飲むお茶以外に、水道水の入ったペットボトルを二本、鞄に入れる。

 言うまでもなく、神様にお供えする分だ。


 本当は、もっと『らしい』ところの水がいいんだろうけど。

 残念ながら僕には用意できそうにない。


 いつもと同じ道を、ふうふうと歩く。

 七月に入ってすぐの筈なのに()()では、八、九月が思いやられる。


 (『神の国』に帰ってしまっていたらどうしよう……)

 墨汁の()()も、衝動的にやってしまったことだ。


 (きっと僕は、『力』を持ったら駄目なタイプなんだろうなぁ……)

 やった時は「ざまぁみろ」って思うんだけど、少しすると怖くなる。


 歯止めが利かなくなる前に、何とかしないと。

 でないと、自分の首を絞めることになりかねない。


 (もし、『神の国』に帰ってしまっていたら、その時は、使い方に注意しながら生きて行かないといけないんだよなぁ……)


 これ以上、『注意』を増やしてしまうと、正直面倒臭い。

 ただでさえ、『注意』に割いている神経が多いのに。


 草で切れた手の平がひりひりする。

 汗が入って余計に痛い。


 ばっと視界が開け、水恩(すいおん)と出会った場所に辿り着いた。

 僕の予想は大きく外れ、水恩は岩の上に座っていた。


 大蛇の姿ではなく、人間の姿だ。

 僕と目が合うと「また来てくれたんだー!」と抱き着いてきた。


 ふわりと、何かは分からないけどいい香りがする。

 しかも、胸がめちゃくちゃ当たっている。


 相手は神様なのに、思わずドキリとしてしまう。

 いや、前に会った時もドキッとしたけど。


 前のように水を掲げて差し出すと、嬉しそうに飲んでくれた。

 それから三十分くらい、世間話をした。


 といっても、『学校ってどんな感じなの?』とか『今時の人間の子供って、どんな遊びをしているの?』とか、水恩の質問に僕が答える感じだったけど。


 頃合いを見て、僕は「あの――」と切り出した。

 水恩は、「どうしたの?」と可愛く首を傾ける。


 「そ、その、この力、お返しします!」

 「どうして?」


 僕は、これまでの経緯を説明した。

 間接的にではあるが、人を一人殺してしまったことを――。


 水恩は、黙って最後まで話を聞いてくれていたが、僕が話し終わると、心底面白いとでも言うようにケタケタと笑い出した。


 「なぁーんだ。()()()()()かぁ」




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