表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/42

マナーを守ろう!

 「別にいいけど、なんで?」

 僕の問いに、水恩(すいおん)は「ちょっと、言いにくいんだけど――」と笑った。


 「あなた、すっごく恨まれているの。……私たちの力じゃ、どうしようもできないくらい強い恨み。だから、私の神域に連れてゆくの」


 「……あ~、まぁ、分からなくもないよ。あれだけのことをしたんだから、言ってしまえば、大量殺人だし。恨みの百や二百、買うよ」


 僕がそう言うと、水恩は「そうじゃないの」と首を横に振った。

 腕を組んで、なんて言ったらいいか考えている。


 「……その、ね。恨んでいるのは、あなた。つまり、自分自身なの」

 言われている意味が分からず、僕は固まった。


 でも、縁哭(ゆかりな)さんを見て、ハッとした。

 縁哭さんは、別の世界を覗き見れる力を持っている。


 でも、それの上位互換が、別の世界にいないとは限らない。

 体ごととはいかなくても、恨みを飛ばすくらいならできる存在。


 そして、『この縁哭さん』以上に、僕に協力的な存在。

 僕が思ったことを話すと、水恩と縁哭さんは、気まずそうに頷いた。


 もしかすると、『歯の痛みで命を絶った僕』も、いたりするのかな?

 正直、僕であって僕じゃないから、気持ちは全然分からない。


 ただ、しんどいだろうなとは思う。

 無意識に歯を食いしばって、歯は削れ、頭痛に悩まされる日々。


 …………うん、絶対に嫌だ。

 そんな僕が、『幸せな僕』を見つけたら、どうするだろう。


 きっと、立場の交換をしたい、と思うはずだ。

 それか、少しでも、『運の譲渡』をしてもらう、……とか。


 でも、どれもできない相談だ。

 そうなったらもう、羨んで、嫉妬して、恨むしかなくなるだろう。


 虚しくなるかもしれない。

 僕であるはずなのに、この差はなんだ、って。


 そして、恨みを届ける事だけは可能。

 だったら、そうするよね。


 でも、『幸せな僕』だって、苦労したんだ。

 それなのに、恨まれるだなんて……。


 「えっと、僕は神域に行くだけでいいの?」

 「そうよ!とびきりのヤツができたから、そこで暮らしましょう!!」


 僕に抱き着いてくる水恩を横目に、縁哭さんは、「ただ、強力な結界を張るから、二度と人間の世界には戻れなくなってしまう」と言った。


 だから、話をしておく相手がいるなら、家に行っておくこと。

 行きたい場所があるなら、行っておくこと。


 墓参りや、やり残したことをしておくこと。

 当然、家にも二度と帰れないから、必要な物を持ち出すこと。


 「それを、一ヶ月以内にやってほしいの」

 「ああ、結構余裕あるんだ」

 

 会いたい人なんていないし、……墓参りだってごめんだ。

 だって、最終的には『こう』なっちゃったんだよ?


 僕にもご先祖様にも、メリットなんてないよ。

 家……特にないな。


 ああ、シャインモールに行っておこうかな。

 なんだかんだ、縁があったし。


 ×××


 何となく、水恩も縁哭さんも連れずに、僕一人で来た。

 特に変わり映えのない景色を、ぼうっと眺めて歩く。


 これと言った理由はないけど、映画を観ることにした。

 そして、席について早々に後悔した。


 「ねっ、観に来た記念に写真撮ろ~」

 「いいよ!」


 僕の前の席に座っていた、大学生くらいのお姉さんたちが、そう言って、スマホを構えだしたからだ。


 確かに、まだ予告CMすら始まっていない。

 でも、そうじゃない。


 映画館の席って、基本は坂みたいになっている。

 だから、自撮りすると、後ろの僕まで映ってしまう。


 シンプルにウザいし、嫌だな、と思った。撮った写真を、SNSに上げられないって保証はないし、顔をぼかしてくれる保証もないから。


 別に、やましいことはしていない(人を殺したのは、バレていないからノーカンだ)。


 ただ、嫌だってだけ。

 視線を逸らし、カメラから逃げるように顔を背ける。


 はぁ、なんで僕が、こんなに気を遣わないといけないんだ?

 それとも、『気にしすぎ』ってだけなのかな?


 もういいかな、と顔を上げると、二人はまだ撮っていた。

 いや、僕が顔を上げると同時に、偶然にもシャッターが押されてしまった。


 ……絶対に、カメラ目線になってしまっている。

 胸のうちで、モヤモヤとした何かが駆け巡った。


 『えっ、なにこの後ろの人』

 『きもっ、すっごいこっち見てる~』


 そんな会話を、後でされそうで嫌だ。

 これは、『被害妄想』なんだろうか?


 でも、後ろのことも気にせずに、スマホを構える人たちなんだ。

 嫌な想像が膨らんでしまったって、おかしくはない。


 ……っち、本当、ただ映画を観に来ただけなのに、なんでここまで考えなきゃいけないんだ!?ただ、嫌な人たちの後ろの席だったってだけで……っ!!


 考えれば考えるほど、ムカついてきた。

 だから、久しぶりに、水を数滴操ってやった。


 コーラの雫に、塩ポップコーンの粉と塩を混ぜて、お姉さんたちの目に入れた。

 二人とも「きゃっ」って言ったかと思うと、そのままトイレかどこかに行った。


 見ると、僕の斜め前に座っていたカップルの人たちが、ほっと肩を撫で下ろしていた。……やっぱ、そうだよね。五月蠅かったし。


 十分ほどしたら戻って来たけど、何もしなかったから安心した。

 でも、反省なんてしていないんだろうな。


 ただ、予告CMに入ったから、静かにしているだけで。

 ……でも、まだマシなほうなのかな。


 はぁ、それにしても、予告CMって、こんなに長かったっけ?

 だるいな、と思い始めたとき、ようやく注意の映像が流れた。


 なにかのアニメのコラボらしく、やたらフリフリな服を着た女子が、『上映中のおしゃべりは禁止だよっ!!』っと自分の胸の前で、手をバツにしている。


 「ええっ!?それマジ?」

 「傑作だよな!」


 ……おい、今『上映中のおしゃべりは禁止だよっ!!』って言葉が流れたばかりだろうが、話聞いとけよ。


 それに、なんで今スマホを見るの?

 明かりが視界に入ってきてウザいんだけど。


 当たり前だけど、目の前の二人と同じ目に遭わせてやった。

 お陰で、冒頭を見ることができなかったけど。


 せっかくお金を出しているんだから、映画が始まった瞬間から終わりまで、僕はちゃんと見たいんだ。


 はぁ、一本ずらせばよかったかな……。

 でも、なんで僕がこんなこと考えないといけないんだ?


 さっきといい、今といい……。

 ああ、この人たちも、水恩たちの仇の一人だったら良かったのに。


 もやもやとした気持ちを抱えたまま、僕は映像を眺めていた。

 

 ×××


 「可もなく不可もない内容だったな……」

 映画館を出た僕は、心の中でそう呟いた。


 バトル漫画が元ネタな筈なのに、やたらと、親子愛が強調されたオリジナルストーリーが挟まれていた。


 オリジナルな展開は、別にいい派ではあるんだけど、くどかった。

 部屋を舞う埃まで、キラキラさせて。


 ピアノの寂しげなBGMの中、「父さんっ!母さんっ!!」って主人公の友達(読者人気が凄いキャラ)が涙ながらに言って、親子三人、笑顔で抱きしめ合う……正直、なんか古臭い気がした。


 あと、僕みたいな家庭持ちだと、ハッキリ言って冷める。

 いや、引く。


 「……それとも、『愛ある家庭』で育ったら、ああいうストーリーに至ってしまうモノなのかな?僕も、そう育っていればあるいは……想像すると、ちょっと気色悪いけど、でも、それが『普通』だったら、何も感じないんだろうな」


 羨ましい気持ちがない訳じゃないけど、ちょっと不気味に感じる。

 自分に置き換えて考えると、余計にそう思う。


 それに、どこかの世界に『そんな僕』がいたとしよう。

 きっと、水恩と出会ってはいない。


 しかも、水恩の神域に逃げられない状態で、別の世界の僕に、恨まれてしまう可能性だってある。


 そうなったら、悲惨な未来しか待っていないだろう。

 なら、僕は今のままでいい。


 「さて、……僕は神域から出られないみたいだけど、水恩たちは出れるから、本とかどうしよう。取り敢えず、気になったヤツだけ買っていくか」


 新刊が出たら、買ってきてもらえばいい。僕はそう思い、追いかけている漫画の最新刊と、面白そうだと思った本を数冊買って、本屋を後にした。


 ×××


 「準備はいい?」

 「いつでも」


 水恩と初めて出会った場所。

 僕が頷くと同時に、水恩は呪文を唱えだした。


 宙に、人一人が通れるくらいの空間が出現した。

 眩しすぎて、僕は思わず目を細める。


 「さっ、どうぞ!!」

 水恩に促されるままに、僕は空間を潜った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ