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思った以上にお怒りだった件

 結論から言うと、僕の神域暮らしは、半年以上続いた。

 それというのも、水恩(すいおん)たちの『親』の怒りが、思った以上に凄かったからだ。


 でも、『親』の姿を見ることはできなかった。

 二人曰く、空気のような感じになってしまったらしい。


 それはそれで不気味だ。

 目に見えない恐怖、って感じがする。


 ただ、怪獣か、超巨大な土偶みたいなのを想像していただけに、少し残念な気持ちもあった。


 「正直、長い……長すぎる年月を経て、私たちと同じように、丸くなっているかなぁ、と思っていたんだけど、ははは、読みが甘かったわねぇ」


 遠い目をした水恩が、半笑いで町を見下ろす。

 隣に立っている縁哭(ゆかりな)さんも、同じような表情をしている。


 僕たちが立っているのは、水恩たちの祠がある山。

 全部じゃないけど、町の惨状が見える。


 と言っても、殺し合っているとか、罵り合っているとかじゃない。

 ぱっと見はいつもと変わらない、とても穏やかで普通の町。


 ただ、僕たちの目には、嫌味なほどに綺麗な靄に纏わりつかれている人たちが、沢山見えるんだ。


 「…………もっとこう、どす黒い色じゃないんだね。いかにも、悪霊に憑りつかれています、みたいなやつ」


 「そっちの方が良かったかもね。……逆に怖いもん」

 水恩の言葉に、縁哭さんも「ああ」と呟く。


 二人の話によると、靄が纏わりついている人たちは、水恩たちの『親』を封印するのに力を貸したのは勿論、後に、ネガキャンをした人たちの転生だったり末裔だったりするらしい。


 「力は貸すけど、自分が生贄になるのは嫌。……って、連中だったのよ。騙したり、親しかった人を強引に生贄にしたり、でも、自分たちは穏やかに天寿を全うした」


 「俺たちの『親』の怒り、というよりも、その人たちの怒りの方が強いな。憎くて憎くて、仕方がなかったんだろう」


 水恩と縁哭さんの言葉に、僕は漸く合点がいった。

 今まで殺してきた人たちの中に、彼らは含まれていなかったのだ。


 「力を貸す、と言っても、こっそりとだったからね。きっと、『親』が封じられた時、怒りがどこへどう向くか、何となく察したんじゃないかしら?」


 「よく分からないけど、言ってしまえば『強かな人たち』だったんだね。自分では手を下さずに、相手を追い落として、甘い蜜を啜る」


 「そうそう!分かってるじゃない♪」

 ギュッと抱き着いてきた水恩の肩に、僕は手を回す。


 「あの靄って、纏い続けたらどうなるの?」

 「罪悪感と縁結びをしたでしょ?それの上位互換になるわ!」


 「効果は個人差があるが、どうあっても、辛いことに変わりはない。例えるのなら、釘バッドで百叩きか、バッドで百叩きかになるかの違いだ」


 水恩の説明に、縁哭さんがそう付け足した。

 いつも通り、肉塊(お姉ちゃん)が金魚鉢で蠢いている。


 でも、ほんの少しだけ、動きが激しくなった。

 加えて、『好き』『嫌い』程度の意志を見せるようにもなった。


 縁哭さんはそれを見て、すっごく喜んでいた。

 閑話休題。


 いまいちピントは来なかったけど、説明を聞いて、「うわぁ、しんどそうだなぁ」という、他人事全開な感想は出てきた。


 それと、「理不尽だなぁ」とも思う。

 親の因果が子に報う、とはいうけど、前世だの魂だのになるとなぁ。


 でも、正直なところ、「これから、どうなっちゃうんだろう」ってワクワクの方が勝っていることに、僕はとっくの昔に気がついていた。


 まぁ、『ワクワク』と言っていいのか分からない程に、気分は高揚していないけど。……強いて言うなら、ってやつだ。


 末路を見届けるのもいいし、そうでなくてもいい。

 ハッキリ言って、どうでもいい。


 ただ、言えることがある。


 「その、親御さん、すっごくキレてるね。生贄になった人たちだって、理由はどうであれ、封印に加担したのに、その人たちの怒りに手を貸すなんて……」


 「まぁ、ぶっちゃけると、封印が解かれたから、はっちゃけたいのよ。……でも、何かしらの『大義名分(笑)』がないと、物事ってやりにくいでしょ?」


 「……そういうもんなのかぁ」

 ぼんやりと靄を眺める僕に、水恩は手を合わせた。


 「ごめんね。縁哭の神域って、刺激がないから暇だったでしょ?」

 「……本人の前で言わないでくれないか」

 

 春の穏やかな日差し、花畑、お洒落な和洋折衷の館、どこから電気が通ってきているのかは分からないけど、冷蔵庫や電子レンジもあった。


 ……うん、退屈ではあったけど、不自由はしていないな。

 僕はそう結論付け、「そんなことないよ」と首を横に振った。

 

 「優しいなぁ」

 ぐりぐりと水恩に頭を撫でられ、僕は曖昧に笑う。


 「……ねぇ、『復讐』って、これで終わりなの?」

 「そうねぇ、私たちの一番の目的は、『親』の復活だったし」


 要するに、復讐はおまけでしかなく、あってもなくてもいい、と。

 肩透かし半分、そういうものなのか、という思いが半分だ。


 「それともうひとつ、目的が達成されちゃったわけだけど――」

 「これからどうするの……でしょ?」


 可愛らしく首を傾げる水恩に、僕は「うん」と頷いた。

 すると、水恩は真剣な表情になり、僕の頬に手を当てる。


 「目的が達成された後でも、私のお願い、聞いてくれる?」

 「うん、勿論」


 「人間の世界と、サヨナラしてほしいの」



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