第8章・火炎魔法を覚えたい・
ようやく、リリスの分と販売する分の『石鹸』が出来上がった。かなりの重労働だった。
一番の苦労は『火起こし』だな。効率的に生産性を上げるにも火起こしを短縮するに越した事はない。
「やっぱり、火炎魔法を使いたいよな。」
椿に似た花を摘みに行くにも野営は必須だし、純度の高い水を作るにも火起こしがいる。
どうすれば覚えられるのかな?そんな事を考えていたら誰かが訪ねてきた。
「アキラさん、いらっしゃいますか?」
リリスの声だ。
「はい!いますよ。」
戸を開けて、リリスを迎えた。
「また、何かを作っていたみたいですが?」
俺は気に入るかは分からないけど、『石鹸』をリリスに渡した。エルシャと同様に説明した。
「なんて素晴らしいものをお作りに!早速使っても良いでしょうか?」
やはり女の子の反応だな。嬉しそうだ。
「どうぞ、お使いください。こちらはプレゼントですので。」
早速リリスも浴室に向かった。しばらくして、戻ってきた。
「本当に素晴らしい!嬉しいですわ!全部買取ります!」
そう言われるのは有り難いが、また作るのはかなり時間がかかる。嬉しい悲鳴だが、まずは効率化を優先しないと体が持たない・・・
「有り難いお話ですが、作るのが大変で・・・効率化を考えてはいるのですが見当もつかず」
何が問題かを知りたい様子だった。
「私で力になれるなら言って下さい。」
俺は作り方の過程でどうしても火炎魔法を取得した事をリリスに伝えた。
「火炎魔法ですか・・・人により得意不得意があり覚えれる魔法も決まっています。
例えばですが、私は土魔法が得意です。けれど、他の魔法は使えない体質なのです。」
そうだったのか、俺は何を覚えられるのかな?
「一度、王家の魔導士に習ってみますか?」
リリスの提案に飛びついた。
「ぜひ、習ってみたいです。お願いします」
俺自身の覚えられる魔法と適正を知るチャンスだった。
リリスは魔導士の元に案内してくれて、事情を話した。
「お主がアキラか。わしは魔導士のグリモアじゃ。」
体からオーラが揺らいでいる。すごい魔導士なんだな。きっと。
「初めまして、俺はアキラと言います。火炎魔法をどうしても習得したいです。」
その熱意を感じグリモアは頷いた。
「わかった、お主が習得できるかは分からんが基礎的な事を教えてやろう。」
そこからは、基礎をじっくり学びひたすらに練習した。
しかし、何度やっても火炎魔法が出ない・・・グリモアは見切りをつけた。
「火炎魔法の特性がないようじゃな。残念じゃが習得は厳しいじゃろう。」
俺も薄々は気が付いていた。仕方がない、特性が無ければ出るものも出ない。当たり前のことだ。
「ありがとうございました・・・」
しょんぼりしている俺を見兼ねて、ある情報を教えてくれた。
「東の森の奥に洞窟があるのじゃが、そこには魔法書が眠っていると言う噂じゃ。
じゃが、魔法書に辿り着くまでが大変での。誰も手にした事が無いのじゃよ。」
すごく危険な感じはするが、俺はどうしても火炎魔法が必要なのだ。
「良い情報をありがとうございます!早速行ってきます。」
家に帰り洞窟での探索と過酷であろう状況を考えて準備を整えることにした。
まず必要なのは食料だな。次に回復アイテム、それから装備だな。
後は洞窟の情報が知りたいところだ。冒険者ギルドで話を聞いてみるとしよう。
「冒険者ギルドへようこそ!あれ、アキラさん?」
ミラファに東の洞窟の情報が知りたいと伝えた。
「東の洞窟ですね。あそこは熟練の冒険者でも中々難しい所で、無事に帰って来れる人はまず居ないと聞きます。それに、冒険者の噂では『謎の女の子』が洞窟付近で現れるそうです。
洞窟に進ませてくれないと言う噂が・・・強引に行こうとすると返り討ちに合うそうです。」
物騒な話だ。俺なんかまだFランクだし。
けど、行ってみないと分からないし行くだけ行ってみるか。
「どうしても行ってみたいから地図をくれないかな?」
ミラファは心配そうにしていたが、地図をくれた。
「戻ったら必ず顔を出して下さいね!必ずですよ!」
俺はミラファと約束して次に武器屋へと向かう事にした。
武器屋の店主は相変わらず鋭い目つきで睨みつける。
「またお前さんか!今度は何の用だ!」
キツイ言い方だな。けど悪い人では無い事は分かっている。
「今度、東の洞窟に行くのだが何か言い装備は無いかな?」
そう言うと、目の色が変わった。
「お前さん!あそこに行くのか?だったら頼みがある!」
頼み?何だろう?大変じゃ無ければ良いが。
「頼みって何だ?」
そう聞くと飛びついて来た。
「あの洞窟でしか取れない鉱石があるのだがもう何年も行く奴が居なくて困ってたんだ」
なるほど、危険な所ってミラファが言っていたもんな。
「それで、どんな鉱石をが必要なんだ?」
目の色を輝かせて、説明してくれた。
「『マテライト鉱石』と言ってそれで作った物に魔力を注ぐと色が変わる不思議な鉱石なんだ!」
そんな鉱石があるのか。まぁついでだしな。
「その鉱石の特徴とかわかるか?」
事細かく、特徴を聞き出来る限り見つけると約束した。
「お前さんにこれをやる!」
フード付きの黒いマントのような服をくれた。
「これは何だ?」
そう聞くと、説明してくれた。
「これは『漆黒の羽織』と言って、耐火性に優れている。また自身のスキルと連動してくれる優れ物よ!」
良い装備が手に入ったな。後は食料と回復薬だな。保存食の材料と今晩の食材を買って家に帰るとしよう。
家に帰り、早速ポーション作りに取り掛かった。
「これだけあれば大丈夫かな。」
しっかり準備をして、明日は洞窟で探検だ。体を休めて明日に備えよう。
翌朝、顔を洗い旅の支度をして東の森へと向かった。
森の入り口には霧が掛かっていて、薄暗く不気味な雰囲気だった。
周辺の雰囲気も何と言えない不気味さを感じた。
魔物との戦いは極力避けたいからスキルの『アサシン』を発動して気配を消した。
辺りには大型の魔物がウロウロしていて、強そうだ。
気配を消しながら森を進む。ミラファからもらった地図を見て先に進んでいくと洞窟の入り口が見えて来た。洞窟に入ろうと近づくと女の子が現れた。いきなり攻撃を仕掛けてきた。
『アサシン』を発動しているのにこちらを認識している。話に聞くとおり厄介な相手だ。
「いきなり何をする!」
俺は話しかけて、何とか戦闘を避けようとした。
「・・・・」
こちらの問いかけに答えない様子だった。仕方が無い、戦うしかなさそうだ。
女の子は真っ向から殴りかかってくる。攻撃を防ぎこちらも応戦した。
しかし攻撃が当たらない。結構素早い動きでこちらの攻撃を避けていく。一方的に打撃を受けてしまった。一旦、距離を取り体制を立て直す。しかし、休む間を与えない勢いで攻撃を繰り出して来た。
俺は水魔法で地面へと魔法を撃った。水飛沫が上がり視界を塞いで、その隙に『バブルスピア』を放った。女の子に直撃してかなりダメージを与えたが、まだ立ち上がって来る。
相手は『フレイムボム』と言う火炎魔法を使い攻撃してきたが火と水ではこちらに分がある。
火炎魔法を避けて『バブルスピア』で応戦し『アサシン』スキルで女の子の背後を取った。
『バブルトルネード』を至近距離から喰らわせ吹き飛んだ。女の子は倒れ込んで気絶している。
「この隙に洞窟に入ろう。」
洞窟に入り、探索を続けた。洞窟の中は赤く、いかにも炎の様な洞窟だ。
先に進み少し開けた所に出てきた。そこには魔物が群れていた。
俺は『鑑定』を使い魔物を特定した。『ファイヤーウルフ』と言う魔物らしい。
名前からして水魔法に弱いはず!しかし、俺の魔力は3回が限界みたいだが、疲れた感じはしない。
試しに打ってみるとするか。俺はファイヤーウルフの群れに『バブルトルネード』を放った。
立て続けに『バブルスピア』で串刺しにし全滅させた。
4回魔法を打てたが、疲労感は無かった。まだ使えそうだ。
「レベルが上がりました。『水属性魔法』のレベルが上がりました。」
魔法レベルが上がったみたいだな。確認しておこう。
「ステータス、オープン」
レベルが3〜4になり魔法レベルが2に上がっている。魔力量は減っていない。なぜだ?
「それはね。アーシャの魔法だからだよ!アキラと一緒の時はアーシャが魔法を使ってるんだよ。」
そうだったのか。一緒にレベルが上がる感じなのだな、きっと。
魔石を拾い、ファイヤーウルフが囲んでいた所に行ってみると鉱石が落ちていた。
『鑑定』したら、頼まれていた『マテライト鉱石』だった。これで約束は守れたな。
少し休んでから先を目指すとしよう。
準備を整えて、しっかりと休息した。
「さてと、そろそろ行くか!」
通路を進み、目新しい鉱石を採取して魔物を倒してドンドン先に進んだ。
溶岩が流れる広いエリアに到着した。
そこはいかにも『ボス部屋』の様な感じだった。
溶岩の滝が流れていて、行手を阻むように足場がいくつか浮かんでいる。
ひとまず下に降りてみよう。足場の一つに到着して辺りを確認しながら前に進んだ。
中腹まで進んだ所で溶岩の中からゴーレムらしき魔物が現れた。『鑑定』を使い魔物を特定した。
『フレイムゴーレム』だった。
フレイムゴーレムは溶岩の中から岩を岩石を掴むと、こちらに投げつけて来た。
『バブルトルネード』で防いだが次々に投げつけて来る。
これでは捌ききれない。溶岩の中にいるゴーレムの動きを止めるため、もう一度『バブルトルネード』を溶岩に向けて放った。
ゴーレムの周りが冷やされて固まり、動けなくなった。しかし、溶岩の岩でゴーレムもやり返してくる。
一人で戦うよりも手数で押すしかない!アーシャを解放し、ラムも参戦する。俺は3回しか魔法を使えないから、ゴーレムの注意をひき、その隙にアーシャに応戦してもらう。
この作戦が効いているみたいだが最後の一押しが欲しい状況だ。
俺はラムに『念話』で伝えた。
「ラム、俺がお前に水魔法を与える!その水を攻撃の形にしてゴーレムのコアを狙ってくれ!」
ラムは理解して指示に従った。
「分かったよ〜」
アーシャが『バブルランス』で範囲攻撃し、俺がゴーレムの注意を集める。
さらに『バブルトルネード』でゴーレムに攻撃を与え、ゴーレムの体制が崩れた。
俺はラム目掛けて水魔法を放ちラムが吸収する。
水魔法の形を変えてる間にアーシャはさらに『バブルトルネード』を追撃する。後一息だ!
「こんなのできたよ〜」
ラムは水魔法の形を変えてゴーレムのコアに勢いよく放った。
「アクアジェット〜」
ゴーレムのコアに命中し崩れ落ちた。光を放ち消えて行くゴーレムから宝箱と魔石が現れた。
「レベルが上がりました。『水属性魔法』のレベルが上がりました。」
かなり手強い相手だったな。
「さて、宝箱を開けてみるとするか。」
フレイムゴーレムから出て来た宝箱を開けると、魔道書が出て来た。
目的も果たせたし、洞窟を出る事にした。そういえば、気絶した女の子は一体なんだったんだ?
考えながら出口へ向かった。すると、右腕の文字が光り始めた。
アーシャの文字とは違う箇所だった。
洞窟の出口を抜け、外に出ると女の子が意識を取り戻していた。
「気が付いたみたいだな。大丈夫か?」
話しかけたが、やはり無言だ。アーシャの時みたいに『念話』なら伝わるかな?
「俺の名はアキラ。とりあえずこれを飲んでくれ。」
そう言って『ハイポーション』を与えた。女の子の傷はすっかり回復し元に戻った。
「君の名前はなんて言うんだ?なぜ一人なんだ?」
何を聞いても答えてくれない。するとアーシャが姿を現した。
「私、アーシャって言うの、アキラが助けてくれて一緒にいるんだ!お姉ちゃんは何て名前なの?」
俺には分からない言葉で女の子に話している。
「私はフィレンだ。ずっと、ここにいて洞窟を守っていた。
けど、ゴーレムも倒されてしまいここにいる意味がなくなってしまった。」
アーシャが俺に伝えてくれた。少し考えてアーシャにこう伝えくれと頼んだ。
「フィレン、俺たちと一緒に来ないか?」
俺の言う通りにアーシャが伝える。フィレンは今まで一人で寂しかったのか、涙を浮かべながら強がった。
「良いだろう!お前たちと一緒に行ってやろう!」
「アーシャ?何だって?」
アーシャに聞くと、もう良いでしょ?って感じで拗ねていた。
「もう、『念話』で話せるんだから二人で話してよね。」
そうなのか?それじゃあ、さっきまでの全部無視されていたのか・・・気を取り直し話しかけた。
「フィレン!よろしくな。」
手を差し出し、フィレンも手を取った。右手の文字とフィレンが光り始めた。
「スキル『火龍の加護』を入手しました。スキル、『火炎魔法』を入手しました。」
「火龍の加護?フィレンは龍だったのか!」
火炎魔法も使える様になって、フィレンも仲間に加わり無事依頼も達成した事だしそろそろ、街へ帰るとするか。
森を抜けて、街へと到着した俺たちはミラファと約束していたので、冒険者ギルドへ立ち寄った。
「アキラさん!ご無事だったのですね!」
ミラファが慌てて、駆け寄ってきた。
「洞窟での事を報告するからギルドマスターにも聞いて貰いたい。」
ミラファはすぐに話をしに行き、俺たちを呼んだ。2階に上がりマスターの部屋に入って報告をした。
謎の女の子の正体と洞窟にはフレイムゴーレムがいた事。宝箱の中の魔導書が入っていた事。
「魔導書の存在はお城の魔導士グリモアさんから聞いたので、グリモアさんに見てもらおうと思う。」
数々の報告を受け、アルマは俺にこう言った。
「お前には驚かされてばかりだ!もはやFランクではあり得ない事ばかりだな。
俺の権限でCランクに昇格だ。」
俺はどちらでも良いのだが、ここは言う通りにしておくのが無難だな。
受付に戻り、Cランクのギルド証を貰い魔石の買取をお願いした。かなりの金貨が手に入った。
武器屋の店主の所にも行かないとな。約束の魔石を渡しに行かなくては。
「こんにちは。」
店主がこちらに気付いた。
「おお!戻ったか!で、どうだった?」
鉱石を見せて、店主に渡した。
「よくやってくれた。礼を言うぞ。」
とても嬉しそうだった。俺は他にも鉱石を拾って来ことを伝えた。
「何!早く見せてくれ!」
目を輝かせて、飛びついてきた。
「珍しい鉱石がいっぱいだ!よし、全部買わせてくれ!」
俺には必要ないし、必要になったらまた行けば良い。店主は袋いっぱいの金貨を渡して来た。
「それじゃ、また。」
まだ、俺には行かないといけない所がある。グリモアの所だ。
魔導書を見てもらわないと俺にはさっぱり分からない。お城に向かい、グリモアの部屋を訪ねた。
「どうぞ!入ってくれ。」
ドアを開け部屋に入って早速話をした。
「フレイムゴーレムを倒したら、宝箱が出てきて、その中にこの魔導書が入っていた。」
実物を見て、グリモアは息を飲んだ。
「この魔導書はわしの知る限りでは一番古い魔導書だ。時間を掛けて調べる必要がある。
すまないが、コレを預かっても良いか?」
こちらも、俺には必要ないかもだしグリモアに託す事にした。
これでようやく家に帰れる。早く帰って、ゆっくりしよう。