97.集団転移なんてチートは絶対にいらない(1/5)
貸車屋の依頼は一日がかりの依頼のはずだったので報酬は結構良かった。それに緊急依頼分も上乗せされていた。冒険者ギルドに報告に戻ったら、あまりの早さに驚かれてしまったけれど、完了書類に店のオヤジさんの署名があるので依頼完了は認めてもらえ、約束の報酬は全額もらうことができた。
中央市場に行ってお弁当でも食べようかなと思ったけれど、そうだ『蒼の誓』クランのアジトの中に僕専用の部屋が出来たんだから、あそこで食べればいいんだと思い直して、アジトの方に向かった。
アジトに到着したら、なぜか『赤い約束』パーティリーダーのライクが門のところで守衛をやっている。
「どうしたのライク。今日は門番?」
「ああ、タダでパーティのアジトを貸してもらってるので、少しくらいはお手伝いしようと思ってな。アレックさんが門番やってたのは、あれは趣味だから気にするなって、ラギさんが言ってたけど、そんなはずないからな。きっと親切心で言ってくれただけだと思って、勝手にやらせてもらってる。」
えっとラギって誰のことだっけ。
ちょっとよくわからなくなってしまったので、例のカンニングペーパーを取り出したら、『蒼の誓』メンバーの中でも、中核メンバーではない一般メンバーのひとりだって書いてあった。ああそうだ、まえにアゼリアに「あんこ玉」を渡したときに、これは僕の餌だって耳打ちしてた失敬な男だ。癪だったのでメモにも書き込んであった。
ええと中核メンバー以外は、カイルとラギが一般メンバーで、アレックと僕が見習いで、サリが専属メイド。中核メンバーはダンジョンに一緒に行ったおかげで全部頭に入ったし、アレックとサリはよく知ってるけど、カイルとラギはダンジョン討伐でも留守番組だったので、かなり影が薄いよね。
「いや、ラギの言ってることは本当らしいぞ。俺も最初は冗談かと思ってたけど、アレックから直接、趣味でやってるって聞いたから本当みたいだ。『蒼の誓』のアジトだって知ってて盗人に入る命知らずは領都にはいないから、本当は必要ないらしい。」
そうなのかと驚きながらも納得顔になったライクを促して、一緒に僕の個室兼『赤い約束』パーティアジトの部屋に向かった。
部屋には同じ『赤い約束』パーティメンバーのエノとベラスとドナルド二世がいて、早めのお昼を食べていた。みんなで話し合って、交代で門番するつもりで、早めのお昼を食べていたらしい。
皆が食べている市場のお弁当も美味しそうだけど、僕のお母さん特製弁当は、もっと旨い。いつも期待を裏切らないおいしさだ。
今日のお弁当は、手のひらに収まる大きさの丸いパンを半分に切って、その間に、牛の挽肉をパン粉を使わないで平らにして焼いた、パティと呼ばれるものが挟んである。
それを経木で丁寧に包み紐でしっかりと縛ってあった。
ちなみにパン粉をつなぎにして焼いたものが、ハンバーグだ。
野菜は汁が出るということで、挟んであるのはパティだけで、肉汁も出ないように、よく焼かれていたから、すこしパサパサ感があるけれど、柔らかくて美味しい。
「上手そうだな。見かけない形のサンドイッチだが、なんていう名前だ?」
ちょっと栄養が足りていないように見えるひょろっとした弓のベラスが聞いてきた。もっとも弓職は力任せに戦うわけじゃないから、ひょろっとしていて身長があるほうが向いているのかな。
「ハンバーガーだ。もっともそんな呼び名はないから、俺が勝手に名前をつけた。」
「テムリオの家のパン屋で売ってるのか?」
「日持ちしないから売ってないけど、お弁当屋なら売れるかもな。」
ドナルド二世という名前から、ハンバーガーを売ってる店の名前を連想してしまい、思わず首を振ってしまった。ありえない、ありえない……。
僕が思わずドナルド二世の顔を見たので、「なんだ?」と不思議そうに問いかけてきた。
「いや、ドナルド二世がこのパンを売ってるところを想像したので……。」
「なんで俺なんだ? まあいいけど、食べ終わったら応接室にいったほうがいいぞ。何か大事な話があるらしくて、イグナス兄貴に伝言を頼まれた。」
そうなんだね。みんな応接室のほうにいるのかな。今日はウエストバックに水が入っていなかったので、奥の方に置いてあった桶の蓋を開けて水をいっぱい飲んでから、胸をトントンさせて、応接室の方に向かった。
「あら、私のテムリオちゃん、早くこっちにいらっしゃいな。」
アゼリアの隣の席は、なぜかいつも空いている。みんな定位置なんてなくいつもバラバラに座っているのに、なんでアゼリアの隣だけは空けてあるんだろう。
椅子に座ると、なぜか皆の前には大きな麻袋が置かれている。
「これは今回の領主からの報酬よ。うちのクランはいつも均等割りってきめてあるから同額が入ってるわ。はい私のテムリオちゃんの分。」
そういうとアゼリアは自分の前にあった三つの袋のひとつを僕の目の前にドンと置いた。その音からも、僕が想像もつかないほどの報酬が入っていることが容易に想像できる。でも僕はただのポーターだからね。いくらなんでも命がけで戦った他のメンバーと一緒というのは気が引ける……。
と考えて、ひとこと言おうかと思ったら、アゼリアが話を続けた。
「それでサリは討伐中は正式なクラン員じゃなかったけど、パーティメンバーだったことは確かなので、皆の報酬と同額を領主が自腹でよこしたわ。だからサリも皆と同額よ、はい。」
「やだ~、マジうれしいんだけど~。てかさ、専属メイドとしてダンジョンまでついてってあげたんだから当然しょ~。でもぉ、領主、めっちゃ太っ腹じゃん。」
先にサリが大喜びしてるのに、僕が遠慮しますなんて言いにくくなってしまった。
「本当にいいの? 荷物担いで逃げ回っていただけなのに……。」
「ああ、ずっとサリを抱っこして守ってたんだから、当然もらう資格はあるな。」
ダンジョンでは、ずっと隣にいたヴァルッカが、さも面白そうに言った。
『赤い約束』パーティでも働きとは関係なしに均等ってルールだったけど、こういうトップを行くクランのやりかたって、末端までいい影響を与えているみたいな気がする。
いろいろと入り用だったので、貰える物はありがたくもらう事にした。ところでこんな大金をみんなはどこに保管するんだろう。
聞いてみたら、王立の銀行が領都にはあるらしい。でも領地の外に行くときは現金の持ち運びは物騒なので銀行の手形を利用するけれど、普段はあまり利用されていないらしく、たいていの家には自分の魔力以外では開かない魔金庫が設置されていて、そこにしまっておくみたいだ。僕みたいに魔力ゼロはどうすればいいんだろう。
麻袋はウエストバックには入らない大きさなので、今日は抱えて帰ろう。
そんなお金の話をしているところに玄関のほうから大きな声が聞こえてきた。
ドナルド二世に案内されてきたのは、第一騎士団の騎士団長と、西方騎士団と呼ばれている西の領界の守備隊の隊員だった。
「アゼリア、困ったことが出来たので協力して欲しい。領主の了解は取ってある。領主からの正式依頼だ。」
焦っているらしい騎士団長に比べて、アゼリアは何事もないといった、にこやかな笑顔で悠然と椅子に座り、お茶をすすりながらその話を聞いている。
騎士団長が、早口で一気に状況を話したところによると、ここ数日デュランディエ公領側から大量の農民が難民として入り込んできて扱いに困っていたところだったのだそうだ。
どうやらデュランディエ公領にあるダンジョンからボス級の魔物が現れてデュランディエ公領の村々を襲い、次々と家を失った農民が越境してきていたらしい。
他領のことなので、難民達の世話をする程度で、特になにも対策はしていなかったらしいのだけれど、とうとうその農民達の後をついて魔物が領界に近づいて来てしまったというのだ。
「このものはその知らせを持って早馬で二日かかって領都まで来たというのだが、魔物が領界を超えるのは時間の問題。もうそろそろ一番近い村に届く頃ではないかという話だ。」
「それで、その魔物は、私たちが知ってる魔物なのか?」
アゼリアは、まるで他人事の話を聞くかのように、のんびりした口調で聞くと、僕に「はい」と芋ようかんを手渡してきた。困っている騎士団長の前で、僕の口に放り込んで遊ぶのはちょっと気がとがめたのかもしれない。
「それが、難民達に聞いても名前は知らないと言っているそうなのだが、話を聞く限り蒼龍の特徴に一致しているということだ。蒼龍なら、この領内で倒せるのはアゼリアしかいない。急ぎ二個師団を送る準備はしているが、できたらアゼリアも一緒に向かってもらえないだろうか。」
お茶を優雅に飲むアゼリアは何も返事をしなかった。
もちろん、全てをアゼリアに任せている他のメンバーが口を挟むことはなく、静かにアゼリアの次の一言を待っている。
僕はこういうきな臭い話は好きじゃないので、そっと逃げ出したかったけれど、アゼリアが「はい」と、時々芋ようかんをよこすので、帰るきっかけがつかめない。
しばらく沈黙が続いたけれど、しびれを切らした騎士団長が少し強い口調で沈黙を破った。
「無理ならそう言ってくれ。本来は騎士団の仕事なのに、恥を忍んで頭を下げているんだ。無理といわれたほうがむしろ覚悟ができる。」
するとアゼリアはその言葉を遮るかのように手を上げてから、ゆっくり話し出した。
「いや、いま計算をしていたんだ。二日で近くの村に到達するということは、今頃ひとつめの村が襲われている頃か。その近くには村がいくつある。」
すると西方騎士団の守備隊員が緊張した様子でそれに答えた。
「すぐ近くに三つの村があるが、農民達や難民達は安全な場所まで避難済だ。たぶん今日中にその三つの村が破壊される可能性がある。翌日はその先の駅のある村に迫る可能性がある。そちらは村民の数が多くて避難が遅れているのを確認してからここに来た。」
結構切実だね。アゼリアだって、今日明日のことをどうするなんて出来ないんだから、話をされたって困るよ。
「わかった。依頼は引き受けるが、我々は独自の方法で現場に向かうので騎士団と行動はともにしない。それでいいか。」
「ああ、それでいい。本当に感謝する。必要な物資があったら言ってくれれば我々が持っていく。移動に馬車が必要だろうから用意しておく。」
「いや、物資も馬車もいらん。我々は別の方法で現地まで移動する。まあ食料くらいは持って出てくれ。現地調達は厳しいだろうからな。それで詳しい場所が知りたいから正確な場所を地図に記してくれ。」
そう言って、領土の地図をトラヴィスに持ってこさせた。
僕が図書館でみた領土地図とそっくりだ。
その地図の西の外れあたりに守備隊員がバツ印を記入すると、「じゃあお互いに出発準備があるだろうから帰ってくれ」と言って、ふたりを半ば追い返すように帰した。
「大分南寄りやけど、ほんまに早馬で二日で来たんかね。あの守備隊員、飲まず食わずで飛ばしてきたんやろうな。人間はええとしても、馬が持たんやろ。」
エルヴィローネが地図を見ながらため息をつくようにつぶやいた。
「確かにな。往還から離れてるから、途中に駅もあまりなさそうだな。」
セルディオが、同じようにため息交じりにつぶやいた。
「エルフィン村の近くだから、俺なら大体の地形がわかる。」
「エルフィン村って?」
アルフェリードの言葉に、ちょっと首をかしげて聞いてみた。
「俺の田舎の村だ。家族や親戚がいるから、少し心配だな。」
そうなんだ、セルディオはエルフィン村出身なんだね。
「確かエルフィン村は森の奥だったな。そっちに行かれたら厄介だな。広い場所で戦わないと我々の作戦がうまくいかない可能性がある。」
セルディオは、相変わらず紳士的な仕草でアゼリアにお茶を入れながら話した。
「よし、そうと決まったら急ごう。あとは私のテムリオちゃん次第ね。」
アゼリアが僕にウィンクした。いやいや、ウインクされたって騙されないよ。僕をまた連れて行こうとしてるでしょう。
「そうだな、テムリオの威圧の力、全開といこう! 集団転移の威圧の力を存分に発揮してくれテムリオ。いままでみんなで必死に隠してきたテムリオの威圧の力だけど、ここでようやく封印解除だ!」
えっえっ、ヴァルッカ。なにその『集団転移』って、集団検診みたいなのは。
みんなうんうん頷いてる。サリが頷いてるのは、多分雰囲気だろうけれど。
意味を知らないのは僕だけ?




