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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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96.貸車屋

翌朝、貴族令嬢のドレッシーな服装に着替えたマルグリットが、優雅に朝の食事を終えて迎えの馬車に乗って図書館に出勤していった。


あれで図書館に着くまでに馬車の中で司書補の制服に着替えるんだから、貴族って大変だね。ここから制服で行けばいいのにって、ちらっと思ったけれど、なんとなくそれは口に出しちゃいけないことのような気がして飲み込んだ。


自分のお屋敷からなら制服で出かけるのが当然なんだろうけれど、よその家にいるときは、それなりの服装でいなければいけないってしつけられてるんだろうね。あの愛想の悪いメイドだって、そうやって厳しくメイド教育をされて来たから、何も疑問を感じないで、毎回たくさんの着替えを持ってきて、お母さんに預けているんだと思う。


当然顔して渡していたから、たぶんあの人にとってお母さんは格下のメイド扱いなんだろう。マルグリットの世話をしているときのお母さんは、結構生き生きしてるから、お母さんもまんざらではないみたい。


貴族の令嬢の服装なんて、まったくわからない僕でさえ、ドレスの着替えがビシッと決まっているって見えるのは、たぶんお母さんがそういうのに手慣れているからだ。


さて、僕も平日の一日を遊んじゃったから、今日は冒険者ギルドの依頼の仕事をしよう。もしかしたらマダムからの依頼が来てるかもしれないから、マダムから借りた貴重な本を丁寧に経木で包装してから麻紐で十字に結び、ウエストバックに入れた。


お母さんのお弁当から汁物がこぼれたりしたら大変なので、今日のお弁当には、そういうものは入れないで欲しいと注文しちゃったけれど、毎日お弁当を作ってくれるお母さんへの感謝が足りない言葉だったかもと反省した。


元の世界じゃ仕事場が家から遠かったので、就職と同時にアパート暮らしをはじめたから、働いたお金を家に入れるなんてことはしてこなかったけれど、今みたいに家から通うなら食費とか光熱費とか、自分の分くらいは家に入れた方がいいんだろうか。


まあそんなことが考えられるようになったのも、ほんの少しだけど収入を得られるようになったから。でもまだまだ、家に入れるほど余裕はないので、そういう話をするのは、もう少し待っててもらおう。


いろんな事を考えながら、ようやく冒険者ギルドに到着した。


早速Gランクの掲示板をみたけど、マダムからの依頼は来ていないようだった。指名依頼は掲示板に掲示されないって聞いてたから、あとで確認に行こう。


依頼を眺めていたら、少し気になった依頼を見つけた。

「急募貸車回収の手伝い」

日付をみたら今日の午前中とある。


貸車って何だろう。そのまま読むとレンタカーだよね。それの回収が必要になってるって、いったいどういう状況なんだろう。借りた人が返さないから、怖いお兄さんと一緒に取り返しに行く依頼とか?


いやいや、そんな危ない依頼がGランクの依頼になるはずないから、乗り捨てタイプのレンタカーを元の営業所に戻す作業の手伝いとかいうのかな。そもそも貸車がどういうのかわからない。馬車だったら、僕には到底むりだ。


とりあえず、どういうものなのか、気になるから聞くだけでも聞いてみよう。そのうえで僕に受けられそうな依頼なら、ちょっと変わってて面白そうだから受けてみよう。


依頼書を外すといつもの受付に向かった。

今日はカウンター席に誰もいなかったから、「おお、これで堂々と呼び出しリンちゃんのボタンを押せる!」と、喜んで呼び出しリンちゃんの頭の出っ張りを一回だけ押してみた。


りーん、と相変わらず口でしゃべってるだけの呼び出しリンちゃんの呼び鈴が鳴ると、奥からおっとりと、口の悪い方の受付が出てきた。


「おお、テムリオか。すっかり有名になったな。俺まで名前を覚えちまったぞ。いまに、ここの天井の絵にテムリオも描かれるようになるのか。」


受付が天井を指差すので、見上げてみたら、いつもと変わらない魔物と戦う女騎士の絵がそこにあった。


「これってもしかしてアゼリア?」


「おおそうだ。昔大活躍したとき、その当時のギルド長が感激のあまり絵にして残そうなんて言いだして天井画にしたってわけだ。似てないけどな。アゼリアって、こんな筋肉女じゃないって思うだろテムリオも。」


うん、確かにね。でもさっそうとしていていいね。


「俺の指名依頼は来てない? ……ないならいいや。この依頼って、どういう依頼なのか詳しく教えてくれないか?」


「なんだ、あんな活躍した後だから、Gランククエストなんか馬鹿らしくて、引き受けてくれないんじゃないかって話してたが、今までみたいにやってくれるのか?」


もちろんだよ。僕は討伐なんてもう二度といかないよ。


受付の話によると、本当にレンタカー屋からの依頼だったらしくて、領都の外で緊急の土木工事があって、手持ちの大八車をお城の役人が全部借り上げてくれたのはいいけれど、終わったから取りに来いと、現場に放り出されてしまったのだとか。今日中に取りにくるようにという強いお達しなので人足を集める暇が無いから冒険者ギルドにも依頼しに来たということらしい。


仕事の内容は、特に興味は引かなかったけれど、大八車の貸し出しをやってるお店があるというのはちょっと面白いので、どういうお店なのか覗いてみたい。仕事をする理由なんて、それで充分だよね。


受付から場所を聞いたけれど、この受付ってどうやら方向音痴らしくて、どうも要領が悪い。今日は道具のいらない仕事だったけれど、貸出窓口の人の方が親切に教えてくれるから、そちらの窓口のほうへ行って場所を聞いた。


貸車屋は東外門のすぐ近くにあるみたいだったので、冒険者ギルドからも比較的近かった。


確かにお店の脇には大きな車庫がある。今はその車庫ががらんとしていて、奥の方にくたびれたような大八車が二台置いてあるだけだった。


「ごめんください、冒険者ギルドから来た冒険者です。」


今は腰に実用型のダガーを下げてるから、「冒険者」と名乗っても違和感がないはず。


「おお、来てくれたか。助かるよ。だいたい必要人数がそろったから、今からすぐ行くけれど、大丈夫か?」


人の良さそうな鼻の下にヒゲの付いた中年のオヤジさんが店の中から出てきて、自己紹介もなしにいきなり出かける話を始めた。相当急いでるみたいだ。


店の中から、僕くらいの子供が五人ほど出てきて、これが今日のメンバーらしかった。もう少しお店の様子を見てみたかったけれど、急いでるんじゃしようがない。帰ってきてからゆっくり見学させてもらおう。


オヤジさんを先頭に、ぞろぞろと東外門から出ると、西外門のようにすぐにドナ側に架かる大橋があって、その橋を渡って、よく整備された広い通りを歩いて行った。みんなはこの道のことを往還と呼んでいた。


僕くらいの子供がオヤジさんのあとをぞろぞろついていく様子を、元の世界の感覚でみてしまって、「これって引率の先生に連れられて近くに遠足に来た小学生だよ。」とつい口元が緩んだ。


僕の独り言が聞こえたらしく、「なんだ生姜なんか食ってこないぞ俺は。」と、隣をあるいていた少年が、むすっとした顔で僕を睨んできた。


「いや、ショウガ・クセーじゃなくて……」

説明が面倒なので、そのさきはやめてしまった。


「みんな普段は何の仕事をしてるの? 俺は冒険者ギルドから来たんだけど。」


「ああ、俺達は搬送ギルドから強制されてきた。やってらんないよこんな仕事。店主もいれて七人じゃ、大八車をひとり十台も運ぶことになるんだぜ。」


ええっ、運ぶ大八車は七十台もあるってこと?

現場が近ければいいけど、遠かったら十往復もしたら暗くなるよ。

とんでもない依頼を受けてしまったかもしれない。


一時間くらい歩いて、ようやく土木工事がつい昨日まで行われていた現場に到着した。

ドナ川から農地に水を引いている灌漑用水路の護岸が壊れたらしく、水害の危険があるから突貫工事で修理したらしい。いまは現場には人足がいなくて、大量の大八車が無造作に放り投げられていた。


現場で指揮を執っているお城の役人がこぼしている話を聞いてみたら、人足が雇われてるのは昨日までて、後片付けまでは請け負っていないと、仕事が終わると同時に帰ってしまったのだとか。


明日はお城の偉い人が完成見分にくるので、目障りな大八車は何としても今日中に撤去して欲しいと切実に訴えていた。


でもこんな大量の大八車を、この人数で今日中に片付けるのはムリなんじゃない?


「とにかく、一日かかってもいいから全部片づけないと。」


オヤジさんは、一度だけ大きくため息をつくと、僕達にも指示を出して、自分も大八車を引き始めた。


「オヤジさん、そんなやり方じゃ間に合わないよ」


黙っていようかと思ったけれど、自分がきつくなるだけなので、やっぱり口を出すことにした。


「なんだ冒険者。なにかほかに運ぶ方法があるのか。」


「うん。荷物を載せていない大八車なんて軽いんだから、後ろに全部連結して一気に運んじゃえばいいんだよ。一回で全部済むと思うよ。」


「面白いことを言うな。だがそんなに上手くいくかな。試しにやってみるか?」


オヤジさんは、僕のアイデアを馬鹿にすることもなく、ものは試しと役人から麻縄を借りてきて、大八車の取っ手の所と後ろの部分を連結して縛りだした。


「ああ曲がり角もあるから右と左に曲がった方がいいので、縛る場所は真ん中付近の一ヶ所だけにして、縄がずれないようにしっかり固定しよう。」


元の世界の貨車の連結部分を想像しながら、前の荷馬車と後の荷馬車を上手に連結した。


こうやって十台ずつ連結してみたら、傑作な貨車ができあがった。


試しによいしょと引いてみたら、さすがに荷物がない貨車でも重い。重いのは道が悪いからだけどね。それでも主要街道だからよく整備されているので、動かせないわけじゃない。気合いを入れて引いてみたら、なんとか動きだした。


動き出してみれば、そんなに大変じゃなく引っ張れる。振り返ってみると、皆それなりに何とか引っ張れそうだ。


「オヤジさん、疲れるかもしれないから休みながらでいい? それでも十回往復するより断然早いよ。」


オヤジさんは、「ああそうだな、ゆっくりでいいから頑張ってくれ」と、言ってくれた。


真っ直ぐな場所を引いてるときは良かったけれど、曲がりくねった場所ではやっぱり苦戦した。皆で一人一人の大八車を曲がり道に沿ってガードしながら、ようやくみんな曲がり終えた。


「面白いなこれは。最初から二連大八車とか三連大八車とか作って貸し出せば、客が増えるかもしれないな。」


オヤジさんは、楽しそうに独り言を言ってたけれど、三十分もしたらみんな息が上がってしまって、しばらく休憩になった。


「貸車って、普段はどうやって貸しているの?」


やっぱり元の世界のレンタカーの貸し出しみたいな会員制でもあるんだろうか。


「最初は保証金を預かる。新車を借りたい場合は大八車一台が買えるくらいの保証金が必要だが、普通のならそれほど高くはない。それで戻ってきたときに貸していた日数に応じて精算して、保証金の残金を返すってやりかただ。」


へえ、意外としっかりしたシステムなんだね。


「壊したら修理代を払うんだろ。保証金で足りなかったら追加で請求するんだろうけど、それじゃ逃げられたら被害が大きくない?」


「大八車が壊れた時のための損害保険があって、借りる人は全員に入ってもらう事になってる。保険に入ったからと言っても、修理代が免れるわけじゃなくて、壊した客は分割で保険ギルドに返済していくんだが。」


へぇ、何だか近代的なシステムがあるんだね。この領都って、下水道や上水道が整備されていたりして、かなり近代化が進んでいるように感じてたけど、そういう所も発達してるんだね。


あまり休みすぎると力が出なくなると言われて、短い休憩の後に、ふたたび、ムカデの行列みたいな大八車の連結は動き出した。


動き出す最初のところだけが重いので、僕は自分が引いている大八車はそのままにして、他の人達が動き出すまで、一緒に手伝ってあげた。ちょっとだけブレスレットの青いラインを回して、ゆっくりと引いたのは内緒だ。


皆動き出したところで、最後尾になってしまったけれど、僕もブレスレットの力を借りて連結大八車を引き始めた。


「うわー、なんだあれ、おもしれー」


東外門まで到着して領都の中に入ったら、珍しい大八車の連結に、近所の子供達が飛び出してきて、見世物を見るように通りの左右から眺めだした。そのうち大人も混じってきて、何だか凱旋パレードのときみたいな事になってきてしまった。


うん、確かにこれは端から見たら面白いかもね。


ようやく貸車屋の店先までたどり着いたら、オヤジさんに手を握って感謝された。


「まさかこんなに簡単に一回で片付くとは思わなかった。お前のおかげだ、名前を聞かせてもらえるか?」


「テムリオだ。冒険者ギルドじゃ、いつもこういう仕事を引き受けてるから、また何かあったら使って欲しい。」


そう言うと、貸車屋を後にした。


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