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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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93.川トカゲと友情の剣(1)

「このへんにいそうだな」


僕が指を差したのはドナ森にさしかかったあたりのドナ川のほとりだった。川の向こう岸の先に行くと、『赤い約束』のパーティメンバーでゴブリン討伐をした水車小屋の近くの森の入り口があるけれど、今日はエルと薪拾いしたドナ川沿いを歩いていた。


空飛ぶモモンガ……じゃなかった、モンガも見かけた。あれで鳥だなんてね。まだいくらも経っていないのに、ひどく懐かしい。初めて見たのは異世界転生直後で、何もかも珍しかった頃だ。


今もたいていの動物や植物は、見慣れないものばかりで、珍しいけれど、真っ赤な口の魔物のリスを見ても驚かなくなっているから、だいぶ異世界にも慣れてきてるってことみたいだ。


「どうしてわかるんだ?」


「だってトカゲだろう? 水草が生い茂ってるような、こういう場所が好みなんじゃないか? ただの勘だけど。」


二人して荷物を草の上に置いて、腕まくりすると、川岸の辺りの草をどかしながら川トカゲを探した。マルグリットのレザーブーツは、かなりのハイカットで、「長靴」って言った方が早いくらいのブーツだから、多少ぬかるみにはまっても大丈夫だろうけれど、僕のは藁で編んだみたいな靴だから防水性はないので、もう靴の中はグズグズ。でも楽しさの方が勝ってるからほとんど気にならない。


いやあ、こういうところには小動物がいっぱいだ。元の世界でもほとんど図鑑でしか見たことがないから、異世界に似た生き物がいても、あれに似てるって感想が言えないのがしゃくだけど、バッタやコオロギみたいな昆虫はもの凄い数がいて、かき分けるたびに大量に跳び跳ねてくる。


水際にはカエルもいたし、サンショウウオみたいなのもいたけれど、マルグリットは平気でカエルの足を持ってつまみ上げて「テムリオ、これはなんて言う小動物だ。」と聞いてくる。僕が気持ち悪くて手が出せないのを、からかっているみたいだった。でも名前が全く言えない。知らないんだからしかたがない。


水の中にオタマジャクシがいたので、「こいつが大きくなると、さっき足を持ってぶら下げてたヤツになるんだ。」と教えたら、「名前も知らないのに、なんでそんなことを知ってるんだ」と、いちいち返事に困るような質問をしてくる。好奇心旺盛なマルグリットにはタジタジだ。


水中を覗いてみたら、流れが緩やかな岸辺の付近にはミズスマシのようなのが水の中を気持ちよさそうにくるくる回っていた。メダカやハヤもいて、少し大きな魚はフナそっくりだ。水面にはアメンボがスイスイと泳いでいる。


どこかで見たような光景だなって思っていたら、田舎のおじいちゃんの家で、おじいちゃんが「上の川」と呼んでいた農業用の用水路べりの光景とそっくりなのを思い出した。


「あっ、カワニナだ。」


懐かしさのあまり、ついみかけた貝の名前を言ったけれど、異世界の名前と違っていたら困るな。でも貴族の令嬢として育ったマルグリットは、こういう場所に来たのは生まれて初めてだったらしく、僕が名前を言っても全く疑問を持たずに、「巻き貝だね」と、ひとつつまみ上げて、しげしげと眺めていた。


「カワニナの幼虫は蛍の餌なんだよ。蛍ってのはね、川べりの空を飛ぶ昆虫で、夜になるとお尻が点滅して、それが夜空一杯に星をちりばめたみたいに飛んで、とても幻想的なんだよ。」


「城門が閉まってるのに、なんでテムリオが夜のドナ川に飛んでる蛍を見たことがあるんだ?」


あっ、そうだった外門は夜になると閉じられるから、子供が夜のドナ川の事なんて知ってるわけないよね。


「い、いや、そういう話を旅の行商人から聞いたってだけだよ。図鑑で蛍の餌がカワニナだって聞いてたから、ここにカワニナがいれば、夜ここに来れば蛍が一杯飛んでるんじゃないかなって思って。」


「そうだな。私もその蛍という昆虫を見てみたいな。いつかふたりきりの夜のドナ川に連れてきてくれ。」


ロマチックな言い方だけど、マルグリット、僕は恋人じゃないからね。そういうお願いは将来彼氏ができたら言うもんだよ。


無視して川トカゲ探しに集中していたら、後ろからマルグリットが、「よし、いつか連れてきてやる。くらいの事が言える甲斐性がないと、彼女ができないぞテムリオ」という、ため息交じりの声が聞こえてきた。「大きなお世話だよ」と振り向かずに返事した。


「あっトカゲ!」


マルグリットが急に大声を上げたら、森に潜んでいた鳥が一斉に羽ばたいて飛び立ったのでびっくりした。

マルグリットがかき分けた草のあいだを覗いてみたら、ほんとうだ、亀の甲羅みたいな固い鎧を身につけたトカゲがいる。


「これだね。間違いないよ。すごいねマルグリット、とうとう見つけたね。」


「褒めてないで、早く捕まえろ。レディにやらせるんじゃない!」


そういう時だけレディになるんだ。


仕方なしに持ってきた麻紐を編んだミトンみたいな手袋をつけると、おとなしくしている川トカゲの背中の辺りに手を伸ばして捕まえた。意外と簡単に捕まえられる。


はやく持ってきた麻袋の中に入れよう。


「いやまてテムリオ。袋に入れる前にいちどダガーで頭を叩いてみろ。」


「やだよ、可哀想だよ。なんか愛嬌のある憎めない顔してるもの、こいつ。どうしてもというならマルグリットがサーベルで叩きなよ。」


「うわっ、こっちに向けるな。……サーベルじゃテムリオと一緒に切ってしまいそうだ。剣はそんなに上手じゃないからな。だからテムリオがやれ。」


えーっ、毎日剣の修行は怠ったことがないようなこと、お父さんに自慢していなかったっけ? こういうときだけ剣が下手になるのやめてよ。


しぶしぶダガーを取り出したら、マルグリットの指図通りに頭を叩いてみた。カンカンという金属音がして、こんなのがダガーで切れるはずは絶対ないことが音だけでわかる。


すると突然首を僕の方に向けた川トカゲが、ボンという音を出して僕に向かって口から火を放った。


「あちっ! なにこいつ。こんな小さいなりして、口から火を噴いたよ。」


マッチをすったくらいの、小さな炎だったので、ちょっと顔が熱かった程度で、やけどをするほどじゃなかったけれど、生意気に火を噴くなんて。


全く怖くは無かったけれど、口から火を噴くトカゲなんて生まれて初めてだったので、大道芸人が口から火を吐くのを見て驚いた子供くらいには驚いた。


「やっぱりな。蒼龍の仲間だったら、こんなに小さくたってきっと火炎魔法を使うと思ったんだ。このまま袋に入れたら袋が燃えるところだったな。」


確かに。よく気がついたねマルグリット。貴重な麻袋を燃やしたりしたら、お母さん、がっかりしちゃうよ。


そのあと、いくら叩いても二度と火炎魔法は使ってこなかったので、あれで魔力を使い果たして、しばらくは魔法を使えなくなったようだ。


他に川トカゲは見つからなかったので、今日はこれで帰ろうということになった。このあと、川トカゲの急所探しを家に戻ってからじっくり時間をかけてやることになってる。


でもせっかくお弁当を持ってきてることだし、ピクニック気分で仲良くお弁当を食べようとマルグリットを誘ったら「仲良くは余計だ」と怒られたけれど、まんざらでもないようで、気持ちの悪い小動物がたくさんいる川べりをさけて、二人が座るのにちょうどいい、少し平らで大きな石に持ってきたシートを敷いてお弁当を食べることにした。


お母さん特製のハムエッグを二人分持ってきたけれど、マルグリットもメイドから渡された、肉や野菜を炒めた物がパイに包まれたケバブみたいなのを取り出して、少し豪華なピクニックになった。


竹筒によく似た水筒とコップがふたつ入ってたので、ちょっとミントのような香りのする水をふたりで飲みながら、結構楽しいお昼になった。肉の欠片をためしに川トカゲにやってみたら、気に入ったらしく夢中で食べていた。


「マルグリットは、どういうきっかけでソレイヌさんの護衛になったの?」


「ああ、子供の頃のソレイヌお嬢様を守るのに、屈強な男がそばにいたんじゃ、友達が怖がって寄ってこないってことで、ソレイヌお嬢様のお母様から騎士爵の私の母のところに、幼い頃から剣の修行をしていた私を、護衛をかねて遊び相手として屋敷によこすようにと言ってきたんだ。」


何歳くらいから護衛になったのか聞いたら、なんと五歳からだという。五歳じゃ自分が守られる一方の歳だよね。本当に護衛ってことだったのかな。そういう名目でって意味だったんじゃないか。マルグリットが、それを真に受けてしまったような気がする。


「それで今年の成人の儀式が過ぎたら正式な護衛騎士として雇ってもらえることになっていたんだが、神殿の神官から騎士のスキルはないっていわれて……」


なにか言葉が詰まったようになってる。嫌なことを思い出させちゃったのかな。


「それなのにソレイヌお嬢様は、私の護衛はマルグリット以外にはいりませんと、護衛の任務を解いたお嬢様のお母さまに、泣いて訴えてくださったんだ。それで私はいまでもソレイヌお嬢様の護衛をしていられている。できることなら生涯ソレイヌお嬢様の護衛騎士でいたいから、何としても『威圧』の力を得て、護衛騎士にふさわしい実力を身につけたいんだ。」


切実なんだね。ちょっとした謎解き気分で川トカゲを捕まえに来た僕とは覚悟が違う。尊敬するよマルグリット。


「テムリオ。良かったら剣の相手をしてくれないか。」


お昼ご飯を食べ終わったらマルグリットが突然恐ろしいことを言いだした。


「無理無理、俺はダガーを持ってはいるけれど、台所で包丁代わりに使える程度だよ。マルグリットみたいな本物の剣士の練習相手なんて絶対に務まらないよ。」


「いや、ダガーを構えて防御していてくれるだけでいい。木を相手に練習するより、人を相手に練習した方が、断然腕が上がるんだ。お願いだよテムリオ。」


マルグリットって、意外と調子いいよね。僕がこうすれば絶対に断れないってポイントをちゃんとつかんでる。そういううるうるした目でお願いされて、突き放せるほどの度胸が僕にない事を見抜いているんだ。


しょうがないなといいながら、もうすっかりその気になってサーベルを抜いて構えているマルグリットに、僕もダガーを抜いて構えた。まあ構えるだけなんだけどね。藁人形のように立っていれば、マルグリットが勝手にダガーに剣を当てながら素振りするだけみたいだ。


それっぽく両手でダガーを握って顔の前で構えていたら、もの凄い勢いでマルグリットが剣めがけて突っ込んできた。


「わわっ、あぶないよマルグリット。顔のすぐそばまで切っ先が届いてたよ、今の。」

「ああ、大丈夫だ。寸止めはできる。あまり失敗したことはない。」

「あまりって何、あまりって……」


あまりの怖さに、仕方なくブレスレットの青いラインを少しだけ回した。本当は真剣なマルグリットに、こういう「のんびり過ごせる」なんて、ふざけたチートアイテムを使うのは許されないことだと思うけど、いまは怖すぎるので勘弁してもらおう。


案の定次の一撃は、寸前にダガーでかわさなければ顔面直撃になっていた。だって切っ先は絶対に僕の顔の場所より後ろまで行ってたよ。


いまはマルグリットの動きがとても遅く感じるから、いくら突っ込んできても、次々とダガーで避け続けられる。マルグリットの剣はまだ安定していないらしく、こうやってゆっくり飛びかかってくる剣を見るとよくわかるけれど、右に左にぶれまくっている。僕は右にぶれたときは右に、左にぶれたときは左に、ダガーでその剣を軽くよけ続けた。


気がついたら、寸止めのはずのマルグリットが、本気で僕に斬りかかってきていた。あぶないよマルグリット、もっとブレスレットの青いラインを深く回さないと、僕のダガーの動きになぜか追いついてきてる。


僕は剣の修行なんてしたことなかったので、自分が軽いフットワークで動き回るってやり方がわからない。その場から一歩も動かずに、右左とマルグリットの剣をはねのけていた。


気がついたら、あれほど軽快にステップを踏んでいたマルグリットが、足を引きずるような動きに変わってきている。ゆっくりしているからよくわからないけれど、息も上がってきてるみたいだ。


かなりバランスも崩れてきていて、今なんか左に大きくそれた剣先に、自分がついて行けないみたいに左に体を傾けているから、右側……というかマルグリットから見たら左側の首筋が開いて丸見えになってる。


もし相手がここに剣をあてたら、簡単に切られちゃうんじゃない。


と心の中でいいながら、マルグリットの剣先を思い切り左にはたいて、その空いている首のところにダガーを持っていって、ピタッとそこで動きを止めてみた。


マルグリットが、恐怖の顔で止まってる僕のダガーの横で動きを止めた。ああ、やっとやめてくれた。僕はマルグリットの首からダガーを戻すと、ブレスレットの青い線を元の位置に戻した。


途端にマルグリットはヘナヘナとその場に崩れ落ちて、嗚咽し始めた。


「ごめんマルグリット、怖かったよね。あんなことして本当にごめんね。」


しばらく泣いていたマルグリットが、ようやく落ち着いて話ができるようになったらしく、小さい声で話し始めた。


「本当は、『蒼洞のアゼリア』さんのクランに入ったテムリオが、うらやましくて、妬んでいたんだ。あんな弱そうな子供が、なんで領都一のクランに入れたんだって。だからさっきは、私の剣でたたきのめしてやろうって本気で思ってしまった。ごめんねテムリオ。なんでテムリオがアゼリアさんのところのクラン員になれたのか、よくわかったよ。私なんて全く相手にもならないほど強かったんだ……。」


違うんだよ、マルグリット。本当に謝らなけりゃいけないのは僕だよ。真剣に練習しているマルグリットに、怖さのあまり卑怯な手を使ったのは僕だ……

ああ、そう言って正直に打ち明けて謝りたいよ。


「ごめんね。でもこれからも友達でいてくれるよね。俺のこと嫌いにならないでよ。今の俺には、本当に心を許せる友達はマルグリットしかいないんだ。」


そういうが精一杯だった。


「ありがとうテムリオ。私もずっとテムリオの親友でいたい。」


僕の手に自分の手を重ねるマルグリットの瞳には、また涙が浮かんでいた。

切ない気持ちのふたりと一匹は、帰り支度をすると南外門に向かって歩いて行った。


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