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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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90.治療院の孤児(4)

「ああ、そうか、わかったよ。もしかして『威圧』のことをアゼリアに教えたのは伯爵婦人なんじゃないの? 伯爵婦人は患者の容体を鑑定すると『威圧』も数値化してみえるって言ってたから。」


「そうよ。私が、成人の儀式に行ったとき、神殿で鑑定してもらったら、魔力が上がりにくい体質だから強い冒険者にはなれないって言われてね、それで絶望していたら、魔力なんてたいした力じゃないから、『威圧』の力を磨きなさいって、始まりの王の書物を貸してくださったの。」


そうか。やっぱりアゼリアの『威圧』の力は、魔物を倒すために学んだ『知識』のことだったんだ。


マルグリット、僕の顔に大接近しながら必死に考えたマルグリットの予想は正しかったみたいだよ。明日日曜日だから図書館に行って教えてあげなきゃ。


「その本は今俺の家にあるよ。俺も『威圧』って何のことだかわからないって言ったら、これを読めばわかるって貸してくれたんだ。次の依頼があったら返しに行こうと思ってた。すごくためになる本だね、あれは。」


「そうなのね。私のテムリオちゃんもあれを読んだのね。始まりの王が書いた本は読めない文字ばかりだったけど、同じ転生者のアルケジ宰相が書いた『威圧』に関係するお話はこの国の言葉で書かれていたからとても参考になったわ。蒼龍を倒せたのは、あれのおかげよ。」


うん、知ってる。僕とマルグリットがふたりで出した結論もそうだったから。僕達も真似てみようと考えて鎧トカゲを捕まえに行こうという話のところで止まっているけれど。


「鎧トカゲってどこに住んでるの? 俺も捕まえに行こうかって考えたけれど、そもそもどこにいるのかがわからなくて。」


するとアゼリアが満面の笑顔で「まあっ」と叫んだ。


「考えることが私と一緒。心が通じ合ってるって、こういうことをいうのね……」


たぶん違うと思う。


「最初は私もわからなかったのよ。でも図書館に何度も通って調べたら、今は『川トカゲ』って名前で呼ばれていることがわかって、ドナ川のほとりに行ったら、いくらでも捕まえられたわ。」


そこから先の話はエグいので、「子供の前でそういう話はやめなさい」とマーガレットからレッドカードが出されて終わってしまった。


「そのとき一緒に手伝ってくれたトラヴィスとエルヴィローネの二人と一緒に立ち上げたのが『赤の誓』というパーティよ。いつかきっと領都一のクランを作って、『赤の誓』をクラン名にするっていいながらね。大げさってみんなから笑われたけどね。」


「じゃ、その『赤の誓』の赤って……」

「そうよ川トカゲを刺して……あっ、いたぁい!」

ついにマーガレットのげんこつがふたつ飛んできて、僕まで巻きこまれた。


「それで今回は黒猿の弱点が首の頸動脈だってことをも同じように調べたんだね。」


「ええそう。森に住む魔小猿で調べたわ。でも転生者アルケジ宰相の本には『土魔法を使う』としか書かれていなかったので、まさか投石魔法と泥魔法の二段攻撃してくるなんて思わなくて失敗したけど。」


魔小猿って名前の魔物を捕まえて調べたのか。たぶん猿の形の小さい魔物だよね。僕とマルグリットじゃ絶対に無理そう。たぶんあんな気が強そうなマルグリットでも、魔小猿にうるうるした目でみつめられたら、弱点を調べるなんて絶対にできない。


「あら、アゼリア、黒猿討伐は失敗したの? 凱旋パレードなんかやっちゃったくせに。」


「うん、失敗した。たぶん私のテムリオちゃんが『威圧』の力で守ってくれなかったら全滅だった。嫌な予感がしてたからテムリオちゃんに無理を言ってダンジョンについてきてもらって本当に良かった。だから本当は御者の横に立つべきだったのは、私のテムリオちゃんだ。」


そんな、たいそうなことはしていないよアゼリア。僕はただ怖くて逃げたい一心でブレスレットを使っただけだからね。


「そのテムリオ坊やの腕にあるアームレットの事ね。私の鑑定じゃ『威圧』の力だとはわからなかったけど、何か強い力を感じてたわ。私のお店の前で横に飛んだときも、それを使ったんでしょう? でもどうして内緒にしているの?」


「私のテムリオちゃんの力は、たぶん王にもなれるほどの力だと思う。それを知られたら国中からテムリオちゃんを手に入れようとする連中の手が伸びてくる。いまの私じゃ残念ながらテムリオちゃんを守りきれない。だから今はクランの仲間だけの内緒ごとにしている。」


そこのところだけが、いつもアゼリアの目は曇ってるよね。僕のことがペットとして大好きなあまり妄想状態になっているんだと思うから、これからも放っておくけどね。勘違いだろうと何だろうと、アゼリアに好かれているのは、すなおに嬉しいもの。


「そうなのね。こんな小さな坊やだけど、アゼリアにも、ついに守りたい大切な人ができたって事ね。大事になさいアゼリア。しかも今回はその守りたい人に守られたなんて嬉しいでしょう? そのシュシュ似合ってるわよ。私もお揃いだけど。」


そういうとマーガレットは自分のシュシュをぽんぽんとして見せびらかした。女の子達が、一斉に不満の声を出したけれどマーガレットは「ふん」と鼻で笑ってから衝撃的なことを言い出した。


「あなたたちはまだ早い。好きな男ができたら結婚前提でプレゼントしてもらいなさい、アゼリアみたいに。」


えーっ、僕のプレゼントって、あれは結婚前提のプレゼントだったの?

それに、自分用に自分で作っちゃったマーガレットがそれを言う?

それと、ほらそこで真っ赤な顔して乙女みたいにうつむくんじゃないよ、アゼリア。


楽しかった治療院での賑やかな夕餉(ゆうげ)の一時が過ぎて、僕とアゼリアとサリの三人は治療院を後にした。サリと一緒に寝ると大騒ぎして泣いてた子がいたけれど、あのあとマーガレットはちゃんと寝かしつけることができただろうか。


僕は、アゼリアとサリの二人と別れて家に向かった。


別れ際にサリが、「テムリオ(にい)、まったねぇ~」と言って投げキッスをしてくれたけど、アゼリアが「あっ、だめ」といってその投げキッスを手でつかんでパクッと食べる仕草をした。


「え~、アゼリア(ねえ)が、サリのファーストキスを食ったあ~」


と大騒ぎしながら二人はアジトに帰って行った。


今日、話を聞いて初めて知ったけど、アゼリアって、アジトの二階で暮らしているらしい。サリがその部屋に居着いたのでアゼリアは困って、個室を用意するからそっちに行けと言ったけれど、「やだ、ひとりはこあ~い」と聞き分けがないのだそうだ。


「ただいま」


井戸端で手と足を洗ってからダイニングに入ると、皆がテーブル席でくつろいでいるところだった。


「あらテムリオ遅かったわね。夕飯まだでしょう? あら、それどうしたの?」


「それ」って何のことだろう。お母さんの視線を追ったら、腰のダガーを見てる。


「ああ、これね。領主の謁見の時はこういう武器を下げていなきゃ駄目だって言われて、市場のマーガレットから買ったんだよ。マーガレットのところでアクセサリーを作ってる鍛冶師は、むかし武器職人だったんだって。お母さんのダガーに比べたら、ただの包丁だけどね。」


そう簡単に説明しておいて、今日は軍議があってお城にまた行ったけれど、お昼はお母さんのお弁当を使用人の控え室で食べたらサリに半分食べられた話や、領都治療院の奥にあった孤児院で夕食をごちそうになってきたことなどを話した。


軍議でプレゼン失敗した話はかなり恥ずかしいので、お弁当の話にすり替えてしまった。


「でも少しだけ何かできる?

子供達や女性達の食事だったので、正直言って物足りない感じだった。」


「お兄ちゃん、太るよ。ブクブクさんになったら、エルシェは抱っこさせてあげないからね。」


「エル、気をつけるから脅さないでよ。でもいままでも抱っこさせてくれたことなんてあったっけ?」


そういってエルを抱っこする仕草をしたら、真顔で怒られた。


お母さんは、じゃあ軽い物ねといいながら、香ばしいチーズの香りのする食べ物をお皿に載せてきてくれた。


「えっ、これって『ピザ』だよね、お父さん!」


「ああ、そうだぞ。テムリオが名前をつけてくれた『ピザ』だ。

特注していた小型焼釜が三日前に納品されてな、鋳物でできてるから取り付けた次の日には使えるようになったので、二日前から試し焼きをして、今日、ようやく形になってきたばかりだ。」


「うわ、すごく美味しそう。形が悪い試作品でもいいから、昨日も食べたかったよ。でもこれって焼き加減がちょうどいいね、お父さん。」


八分の一カットのピザが二枚お皿に載っていて、縁の方は少しだけ盛り上がって固く焼けてるけれど、内側はしっとりしている。チーズにいろんな野菜や僕のリクエストで燻製肉のスライスを乗せて焼いたものだ。どこから見ても、あの懐かしいピザそのものだった。


三人とも僕の反応を真剣な表情で待っていた。


美味しいよ。食レポは下手だから、なんて表現したらいいか全くわからないけれど、とにかく美味しい。


「本当に美味しいよお父さんこれ。うちの看板商品になる事間違い無しだよ。ハーブが少しだけちりばめられてるのもアクセントになってるね。」


バジルみたいな香りがするけれど、異世界の名前を知らないからハーブとだけ言ってみた。


二切れのピザは、あっという間に僕の胃袋の中に収まった。

お父さんが言うには、もう少し調整してからお店には出すのだそうで、それまでは試食代わりに毎日食卓に並ぶって聞いて、飛び上がって喜んだ。


「お父さん焼釜はどこにあるの?」


興奮が収まらないままに聞いた。


「厨房のオーブンの横だよ。煙突を取り付けられる場所はあそこしかないからな。パンを焼くオーブンの隣じゃ熱いけどしかたがない。」


「そうなんだ。寝る前にちょっと見ていこうかな。」


「おう、焼いてるところもあとでみせてやるぞ。」


お父さんは自慢げだ。わかる気がする。僕だってお父さんを自慢したいよ。だって異世界で『ピザ』を発明した人だよ。将来国中に『ピザ』が広まったら、お父さんの名前は歴史に残るよ。


エルと並んでキッチンの食器を洗った後、お父さんとお母さんが明日の仕込みをしている厨房を少しだけ覗いてみた。


鋳物でできた重量感のあるピザ専用の焼釜が、大きなレンガ造りのオーブンの横に並べられていて、今は薪に火がついていないけれど、いかにもプロの職人が使いそうな黒光りをしていた。いつかきっと使わせてもらおう。


僕が元の世界でよくデリバリーで取り寄せていたような「マルゲリータ」とか「トマト・ガーリック」とか「ベーコン・マッシュルーム」とか「ポロゼーネ」とか、唐辛子があるから「ピリ辛ペーニョ」なんて、いろいろトッピングして作ってみたい……。


と、そこまで想像して、この異世界にはトマトがないことを思い出して愕然としてしまった。ほとんど元の世界と同じ食材があるのに、なんで一番肝心なトマトがないの!


さてと、そういうことで妄想時間は終わりにして、ひどかったプレゼンでぐったりしているから、今日はもう寝ようかな。


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