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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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86.帰還してお城に行こう(3)

午後の優しい日差しが石畳に反射し、中央通りは白く輝いていた。


城壁の外に溢れていた群衆の間を馬車はことさらゆっくりと南外門に近づいていった。

外門の衛兵たちは最敬礼の姿勢で道の脇に立って、通り過ぎる馬車を見送っている。

その前を、先導する数騎の騎馬隊が一定の間隔で進んでいく。


南外門をくぐり、二頭立ての白馬に引かれた大型馬車はゆっくりと中央通りを進んでいった。後ろからは長旅をともにした荷馬車が続き、いずれにも騎士団に所属する御者が、凛とした姿で手綱を握っていた。


馬の蹄が舗道を踏みしめるたび、乾いた音が街に響く。

先頭の御者の横には、『蒼洞のアゼリア』の名にふさわしい『蒼の誓』クランのリーダーアゼリアが立って悠然と前方を見ている。


長く艶やかな髪は、僕が贈ったラベンダー色のシュシュで高く束ねられ、揺れるポニーテールが陽光にきらめいている。


その肩に乗ったサリは、アゼリアの鎧にしがみつくようにしながらも、観衆の方を向き、無邪気な笑顔を浮かべて両手を振ると、そのたびに、沿道から「かわいいっ!」という黄色い歓声があがった。


アゼリアはキリッとした表情を崩さず、時折、剣の柄に手を添えると、毅然とした所作で手を振り返している。誇り高い騎士としての風格と、どこか舞台に立つ役者のような風情を(まと)っていた。


大型馬車の窓からは、『蒼の誓』クランのパーティメンバーの面々が顔を覗かせて、静かに手を振っていた。勇者パーティの誇りと気恥ずかしさの入り混じった返礼のように見える。


僕はというと、少し肩をすぼめながら、遠慮がちに手を挙げるだけだった。皆から、沿道の賞賛にこたえなければ失礼だよと説得されたから仕方なしにこうしているけれど、「おまえは違うだろう」という声が聞こえてきそうな気がして、ずっとビクビクしていた。


馬車の両脇には、さらに騎馬の騎士たちが縦一列に並び、まるで白い盾のように整然と歩いていく。彼らのそろった銀の甲冑は、陽光の中で眩しく光っていた。


通り沿いの建物の二階からは、色とりどりの紙吹雪が窓から舞い落ち、馬車の周りを賑やかに彩っている。沿道を埋め尽くした領民たちも、バスケットを抱え、それぞれ紙吹雪を空に放っては「おかえり!」「ありがとう!」と叫びながら、熱気に満ちた祝福を送ってくれていた。


やがて馬車はパン工房『エル』のお店の前に差しかかった。


恥ずかしさで、いたたまれない気持ちになりながら覗くと、店の前には、お父さんとお母さんが並んで立って、何か叫びながら満面の笑みで手を振っている。


その隣にはエルと、エルの友達、そしてお店のお手伝いにきてくれているエルの友達のお母さんが、ひときわ大きく手を振りながら「ほらほら!テムリオお兄ちゃんだよ!」とエル達に指差して教えていた。


その横で落ち着いた雰囲気で微笑みながら手を振っていたのは、図書館の司書ソレイヌさんと、隣に立つマルグリットだった。マルグリットは、どこか気恥ずかしそうに目を細めて僕に微笑んでいた。とっても貴重な光景だ。あのマルグリットが、きちんと笑顔を見せてくれている。


たぶんエルが僕の親友だと教えてくれたティオとバルとラシュの三人もあのあたりで手を振ってくれてるんだろうな。ティオもラシュも、もう顔を忘れたし、バルなんて、転生者の僕になってから会ったことすらない。一度ちゃんと会ってみたいな。


まだ短い間だけど、僕にも大切な人がたくさんできてたと、実感しないではいられなかった。


街の声と紙吹雪と、騎馬の足音と祝福の拍手。それらすべてがひとつになって、凱旋のパレードは、ゆっくりと内門の南城門へと向かっていった。


覗いてみたら、南城門は全開だった。トラヴィスの話では、あの門はよほど身分の高い賓客が乗った馬車か領主の乗った馬車でもないかぎり開かないということのようだ。


ひときわ高いファンファーレが鳴り響いて馬車は領主のお城の正面に到着した。両側には騎士団と思われる人達が整然と並んでいて、正面玄関の辺りにはたくさんの貴族と思われる着飾った一団が、僕達を出迎えるように立っていた。


「領主は、待ちきれずに外まで出てきちまったか。貴族達は、さぞ困ったろうな。」


エルヴィローネが面白そうに笑いながら言ったので、どうしてと聞いてみたら、「いくら凱旋したからって、クラン員のほとんどは平民なんだから、出迎えるってのは普通ありえない。謁見の間で貴族等と一緒に踏ん反りかえって待つものだ」と、さらに笑いながら教えてくれた。


そうだよね。身分差は厳格なはずだもの。それなのに領主自らひょこひょこ出て行っちゃ、他の貴族も一緒について行かなきゃならなくなる。


皆がぞろぞろと馬車から降り始めたので、僕も一番後ろから下りた。できるだけ後ろの方に隠れていよう。でも「平民の子供が間違って城の中に入ってきた」なんて勘違いされてバッサリなんてのは嫌だから、僕の目の前にいる背丈だけは同じくらいのヴァルッカにピッタリくっついて歩いた。


先頭のアゼリアと、その横を一歩後ろから歩くトラヴィスとエルヴィローネの三人が、ひとめで領主とわかる清楚に着飾った人の前で、うやうやしく騎士の挨拶をしていた。僕達は少し離れた所に立ち止まって頭を下げたので、声はよく聞こえなかった。


そうだった。あの三人が、元々このクランを立ち上げた創立メンバーだ。三人が代表として帰還報告するんだね。


それにしても、こんな場所でもサリは物怖じしないね。エルヴィローネの後ろから顔を覗かせて、何やら話しながら領主に「よっ」という感じで手を上げてる。可哀想だから切り捨てないでね。でも領主も何やら楽しそうにサリに話しかけていた。


やがて貴族達から大きな拍手が沸いて、再びファンファーレが鳴り響き、騎士団を除いた全員がお城の中に入っていった。もちろん僕も一番後ろから、こわごわとついていった。


ポーター用の大きなザックを背負ってるから、中を検査するって言われるかもって思ってたけれど、全く何のお咎めなしで入れてもらえた。


しかし、なにこのお城のエントランス、天井まで金ぴかだよ。

悪趣味って感じたのは貧乏人のやっかみなんだろうか。


「間抜けヅラで口開けてんじゃねぇ」


ヴァルッカに怒られて初めて自分が間抜け顔で天井を見つめていたのに気がついた。


エントランスどころじゃなく、謁見の間のほうは、壁まで金ぴかだった。よく見ると壁には、まるで鶴みたいな鳥のレリーフがいくつも彫られていて、そこの所だけが真っ白だった。


大きな白と黒の大理石みたいな正方形の石が斜めにはめ込まれている床は、周りの金ぴかのせいで、色がよくわからないけれど、よく見れば混じりけのない真っ白と真っ黒のようだ。


こういうのを見ると、ついクセでけんけんぱがしたくなるけど、ぐっと我慢しよう。そのかわりに、白いところだけ踏んで歩いて、黒いところを踏んだら負けね、などと心の中でゲームを始めていた。何に負けるのかわからないけど、堅いことはなしにして欲しい。だってこの静けさは緊張感をどんどん高めていって、足の出し方まで間違えそうなんだもの。


謁見の間にも両脇に甲冑の騎士が等間隔に整列していた。


やがてビロードの豪華な赤い布地がはられている黄金色の椅子がふたつ並んだ壇上に登った領主がこちらを向いた。


すると階下に三人と、おまけのサリが、深く跪いて、アゼリアがうやうやしく挨拶を始めた。


「はじまりの王の恩寵によりてカリオネルの地を統べたもう、最も高貴にして寛大なる我が領主に、忠実なるしもべより謹んでご挨拶申し上げ、その御意と導きにすべてをお任せいたします。

このたび、御領の西境にて民を苦しめておりました黒猿の魔物を、『蒼の誓』のクラン員八名ならびに他一名を加えた総勢九名にて討ち果たし、ここにご報告申し上げるべく、まかり越しました。」


うわっ、すごい、あれが領主への口上なんだ。僕にはとても覚えられないよ。


「大義であった。では黒猿の魔物を討ち果たした証しをこれに持て。」


あ、僕の背中のザックに入ってる魔石の事だ。どうすればいいんだろう。ザック背負ったまま領主の前に行くのは失礼だよね。やっぱりここでザックを下ろして、中の魔石だけ抱えてアゼリアの所に持っていけばいいのかな。


とりあえずその場にザックを下ろして、中から魔石を取り出そうとしたら、隣にいたヴァルッカが小声で「そのまま抱えて、アゼリアのところで取り出せ」と指図してくれた。


そうだよね。落としても割れないけど、落としたらみっともないからね。

おおきなザックを抱えてアゼリアのところまで行った。


本当は中身の半分くらいは、皆の着替えた服だから、絶対にぶちまけたりしないように気をつけて魔石を出さないと。


慎重に取り出すと、アゼリアに渡した。アゼリアはそれをたいした物でもなさそうに片手でひょいと持ち上げると、領主の目の前に持ってこられた大きなエッグカップみたいな容器の中にストンと下ろした。黒くて大きな宝石のような魔石は金ぴかの謁見の間の中で異彩を放っている。


とりあえずポーターとしての最後の仕事が終わったとほっとして、先ほどの場所に下がろうとしたら、エルヴィローネが黙って僕の方に手を伸ばしてきた。


ああ、あれか。


ザックの中から、他の荷物と間違えないよう慎重に、ボス部屋でエルヴィローネ達が拾い集めていたぼろきれや朽ちかけた剣の柄を手渡すと、これで本当に終わったので、静かに元の場所に戻った。


「なるほど、すごい魔石だな。蒼龍の魔石に近いくらいの大きさがある。こんなのが領都に現れたら大惨事になるところだった。よくぞ仕留めてくれたアゼリアよ。」


アゼリアは、「はっ!」という元気な返事をしていた。


「それで黒猿の魔物をけしかけた犯人の証拠は見つかったか。」


その領主の言葉に反応したのはエルヴィローネだった。僕が渡したぼろきれなどを両手で下げるかのように差しだした。


「ここにございます」


エルヴィローネがそう告げると、すぐさま横に並んだ騎士の中から誰かがエルヴィローネの所に行くと、そのぼろきれや剣の柄などを確認した。


「これらは、みなデュランディエ公領の騎士団の物に間違いございません。我が領に逃げてきた脱走兵も同じ物を身につけておりました。なにより剣の柄には騎士団の紋が入っており動かぬ証拠となります。」


居並ぶ貴族や騎士の中からどよめきが起きた。


「やっとこれで、あの執政官を討伐する大義名分が手に入った。」


「長かったな。領主様もよくここまでご辛抱くださった。ここからは我々が立ち上がって積年の恨みを晴らす番です。」


貴族達がてんでに口を開いて収拾がつかなくなってきた頃に、領主の隣にいた文官と思われる人が「静かに。御前である。」ときつい調子で一喝したら、ようやく騒ぎは収まった。


「あの人は偉い人?」


ヴァルッカに聞いてみたら「宰相だ」と教えてくれた。うーん、その説明じゃわからないよ。たぶん貴族を一喝できるんだから、結構な立場の人なんだろうね。


「あす御前で軍議を開く。各騎士団から二名出席するように。『蒼の誓』からも二名。」


宰相が手際よく指図して、『蒼の誓』の謁見は終わった。


「みんな先に帰っててね。私は、テムリオちゃんとサリを連れて、ちょっと領主のところへ行ってくる。」


行ってくるって、そんな気楽に会いに行けるんだ。


「まあ、サリじゃない。あなた、また何かやらかしたの?」


廊下ですれ違った年配のメイドがサリに声を掛けてきた。

サリは嬉しそうに「おひさ~」と返事して手を振っている。


「知り合い?」


聞いてみたら「うん、知ってる人~」って軽く流された。

事務官の案内で領主の執務室に通された三人がソファーに座って待っていると、せわしなさそうに領主が入ってきた。なんとなく謁見の間の威厳は感じられない。


「おー、アゼリア。良く皆無事に帰ってきてくれた。心配で眠れなかったぞ。」

「よく言うよ。だったら騎士団の二個中隊くらい付けたらどうだ。」

「あんな奴らいくら付けたってアゼリアひとり分の仕事もできんだろう。」


なんなんだ、このラフな会話。


「それで、この少年が例の少年か?」

「ああ、今回連れて行って正解だった。」

「そうか少年。大義であった。これからもよろしく頼むぞ。」


えっと、この差し出された手は握手って意味だよね。恐る恐る手を出して「テムリオと申します」と小声で言ってみたら、がしっと手を掴まれて、ぶんぶん上下に振り回された。


「それで? なんでここにサリがいるんだ?」


えっ、なんで領主はサリを知ってるの?


「えへへ~、なんかね~、いつものあれ、またやっちゃって~、紹介してもらったとこ、いられなくなっちゃったのよね~」


「全くしょうがないなサリは。お城の副料理長にもなったってのに、自分からぶち壊して逃げていくんだからな。戻ってこい。お前のこと悪く言うヤツは、もうお城には一人もいないぞ。最近料理の味が落ちて、料理長までサリに戻ってくるよう説得してくれなんて、音を上げてたぞ。」


「てへ?」


また「てへ」でごまかしてるよ。そうなんだね。たった12歳でお城の副料理長って、相当な腕なんじゃないか。あんな食材なのに宮廷料理に変身させられるはずだよ。


「それで相談なんだが、サリを正式に『蒼の誓』の専属メイドにしたいんだが、どうだ。それなら必要なときはいつでもお城の厨房に呼び出せるから料理長も大喜びすると思うんだが。」


「こんな面倒なのを預かるなんて、物好きだな。」


「いや、実はサリの料理には持続性のバフ効果があるってエルヴィローネが言うんだ。魔力じゃないが、計算尽くされた栄養配分ができているんじゃないかって話だ。確かに今回はかなり体力が違っていた。これも『威圧』の力かもしれん。」


まあいいだろう、ということになって、早速アゼリアが持ってきていた書類に蝋を垂らして蝋封印をべちょっと押したら、『蒼の誓』クラン専属メイドのサリが完成した。この承認手続き、簡単すぎる。僕もこうやって軽く承認されたんだ。


「『蒼の誓』のメンバーならカードを持っていた方がいいな。だが冒険者ギルドや、家政ギルドは、また問題を起こしそうだから、おい、無所属カードにサリを登録して渡してあげなさい。」


無所属カード?

そんな「なんでもあり」みたいなカードがあるんだ。『蒼の誓』メンバーだって表示させるだけなら、いっそ『蒼の誓』クランカードを発行したら? ってあとで提案してみようかな。


サリは火属性らしく、事務官が真っ赤なカードを持ってきてサリに渡していた。火魔法が使えるなら、イグナスやエルヴィローネをこき使わなくたって良かったんじゃない?


溜まった皆の分の洗濯物を、アジトで洗濯もやると張り切ってるサリに渡して、暗くならないうちに家に帰ることにした。一気に有名人になったかと思ったけど、通りをとぼとぼ歩く僕を、さっきまで凱旋パレードの馬車の中にいた僕と同じ人間だって気づく人はひとりもいなかった。


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