65.初めてのパーティ(7)
翌朝、少し早めに家を出た僕は、待ち合わせの西外門のところで、皆を待っていた。
何の役にも立たなくても、せめて遅刻なんかして、皆の足を引っ張るようなことだけはやらないようにしないとね。
約束の九時前だったけれど、ライク、エノ、ベラスの三人は連れだって現れた。家が近い幼なじみなんだろうね。すごく仲が良さそうにしてる。
大人になっても親しく付き合っているような、そういう友人がいなかった僕はちょっとうらやましい。エルによれば、今の僕にも三人の親友がいるって事だったけれど、バルなんか、まだ会ったことすらないよ。メモを見なければ名前すら浮かんでこない。
念のためにいつも持ち歩いているメモ帳を開いてみたら、エルから聞いた僕の親友の名前は、ティオとバルとラシュってあった。そうそう、そんな名前だったね。街の中で行き会っても全くわからないで通り過ぎるけどね。顔を知らないんだからしかたがない。
三人と挨拶していたら、遠くからドナルド二世の明るい声が響いてきた。
「おう、悪い悪い、遅刻したか?」
「いや衛兵に時間を聞いたら、まだ九時よりだいぶ前だった。こういうとき、みんなは時間をどうやって調べてるの?」
「そんな正確に時間を調べるヤツなんていないぞテムリオ。大体九時頃だろうってことでいいんだ。家の中には魔時計があるだろうけど、外に出たら各城門の所にしか時計はないから、正確にしようったって無理だ。」
家の壁に時計が掛かってたけど、あれって魔時計だったの?
叩くと時報を叫ぶとか、あるのかな……。
「そういえば、おとといの狼の毛皮だけど、洗って塩をすり込んでおかないと腐るってお母さんが言って処理してくれたから、家に置いてきた。もしまた狼を狩ったらすぐに処理できるよう家から塩を持ってきたよ。」
そう言ったら、皆がすまないなと口々に言った。実は狼の毛皮は取ったことがあったけれど、水魔法が使える者がすぐに処理していたのを全員がすっかり忘れていたのだそうだ。
でも水魔法が使えるドナルド二世でも狼一匹まるごと洗浄は魔力の消費が激しいので、もし討伐したとしても毛皮を剥ぐのはやめようということになった。
「今日も、この間と同じ戦法でいいか。特にテムリオには負担になると思うから、無理なら言ってくれ。」
ライクにそう言われたけれど、期待している四人に、やめたいと言えるほどの勇気は僕にはないので、黙って頷くだけにした。
そうだ、ブレスレットを、こういう風に使ってもいいのか、神の国の案内人のセシルフォリアさんに聞いておきたいと思ってたんだ。
昨日の夜ベッドの中で、転生する直前に、セシルフォリアさんが言ってた言葉を思い出したんだ。
「疑問点はアームレットを反対方向に回すと、カチッと音がする場所がありますので、待っていてくだされば私と話せるようになります。」
うん、絶対に言ってた。その後、めまぐるしい展開で、しかもしばらくはブレスレットが行方不明だったので、すっかり忘れてた。
どうやって話ができるのかわからないけれど、電話みたいな機能があるってことなんだろう。独り言みたいになったら恥ずかしいので、皆からわざと少しだけ遅れて歩いてから、ブレスレットの青いラインをいつもとは反対側に回してみた。
これ以上は回らないと思っていたけれど、少し力を入れて回してみたらスイッチが入ったようなカチッという音がして、少しだけ反対側に回った。
電話のような呼び出し音も聞こえないまま、しばらくは何の変化もなかった。音がしないだけで、呼び出してるんだよね……。
しばらくそのまま何も起こらなかったけれど、森に入る直前あたりでいきなり目の前が真っ白になった。
「おまたせしました。いかがいたしましたか?」
目が慣れてきたら、少し灰色がかった空間に神の国の案内人のセシルフォリアさんが立っていた。何もない空間だと思ったら、少し離れた所に、真っ白い花が咲いている白い植物が、また増えている。
話ができるようになるってことだったので、地上と天国で通話ができるのかと思ったら、ここに飛ばされてくるのね。
「ええと、お久しぶりです。実はこのブレスレットですけど……」
「アームレットのことですね。どういたしましたか?」
相変わらず『アームレット』なんだね。
「これって、『のんびり過ごせる』能力が付与されたチートアイテムってお話でしたけど、これを回すと『のんびり』になるのは周りだけで、僕はその間セカセカと働き回ってしまうんですが、そういう使い方って問題ないんでしょうか。」
セシルフォリアさんは、言ってる意味がよくわからないという顔をしたけれど、少し考えてから返事をした。
「付与したチートアイテムは、あなたさまのものなのですから、どんな使い方をするかは、あなた様の自由ですよ。でも『のんびり過ごせるアームレット』のはずですけれど、どうしてセカセカと働いてしまうのですか? ちょっと理解できないのですが。まあ、想定外の使い方をされるのを眺めるのも、異世界を作った神には楽しみのひとつですから、喜ぶことはあっても、怒ったりはしないと思いますよ。たぶん。」
その『たぶん』を付けるのは心臓に良くないからやめて。
用件はそれだけなんだけれど、そうだ、ここに来たついでだから聞いておこう。
「その真っ白い花が咲いている白い植物って何ですか?セシルフォリアさんって植物を育てるのが趣味とか?」
「ああこれですね。これは、あなた様の元の世界からもらってきたもので、薔薇とかいう植物ですよ。」
えっ、これが薔薇?
「いやいや、花が白いのはわかるけれど、葉っぱもトゲのある枝も全部白い薔薇はないから。」
「そうなんですよね。とても鮮やかな色が素敵だったので持ってきたのですが、ここに持ってくると、みんな白になってしまうのですよ。なぜだかわかりますか?」
全能の神様に質問されたって答えられるわけないでしょ!
「いやいや、神様にわからないことが僕にわかるはずない。」
「そうですよね。使い道は決まってますので、白いままでも何も困らないのですけれどね……。」
何か使い道があって育ててるのね。まあ頑張って。
「わかりました。ブレスレットは僕の好きに使っていいってわかっただけで満足しましたので、元の場所に戻してもらえますか。ところで、これからも何かあったら、今みたいにしてここに来てもいいってことですか?」
「最初にお話ししましたように、それはアームレットの使い方で疑問があったときの初心者問い合わせ用なので、他の目的では使えません。もし他の目的で使おうとしたら困ったことになる場合もありますから注意してください。」
神様が言う困ったことって、かなり恐ろしいことだよね。もちろん、どれほど困ったことになるのか知りたいからってわざと違う使い方をしてみようなんて考えないよ。
「ではまた疑問がございましたら同じようにアームレットの青いラインを反対に回してください。それではごきげんよう。」
真っ白い世界が、いきなり緑に変わって目の前が森になっていた。さっきと同じ場所だった。神の国に行っている間って、地上の時間は止まっているのね。
この間のような使い方をしても神様に怒られるようなことは『たぶん』ないことがわかったので、今日は安心してゴブリンと鬼ごっこできそうだ。
森に入ってすぐに、少しだけ広場っぽい場所に到着した。たぶんあのときと同じ場所だと思う。
「じゃあ早速ゴブリンを誘ってくるね。実はあっちの方角にゴブリンの集団の気配を感じてるんだ。今日は俺もヒーラーの仕事が少なそうだから、氷魔法で戦ってもいいかな。魔力が心配だったからヒーラーに専念しようと思ってたけど、これでも水属性の氷魔法レベル31だからね。」
「すごいね。レベル31か。」
「ああ、そうだ、ライクは魔法レベルはどうなんだ?」
「俺は火属性だけどファイアー攻撃のレベルは3なので全然使い物にならない。剣を振る方が性に合ってるから魔法はいらないけどな。」
ひとしきり、ふたりの意味のわからない会話を聞いたあとで、ドナルド二世が藪の中に入っていったので、僕も背中のザックを下ろして準備に取りかかった。
すぐにピューッというドナルド二世の口笛が聞こえてきて、しばらくすると、大量のゴブリンを引き連れて藪の中からドナルド二世が飛び出してきた。
多すぎるよ……。
何匹いるのかちょっと数え切れないけれど、とにかく僕はこの間と同じ要領でドナルド二世からゴブリンの目をそらすために、ブレスレットの青いラインを軽く回してから、「おーいこっちだ」と両手を振ってドナルド二世の走って行く方角とは違う方角にゆっくり下がっていった。
半分くらいのゴブリンは、ターゲットを僕の方に変えたけれど、残りはまだドナルド二世のほうに向かって行ってる。こんなに多いと難しいな。ブレスレットの青いラインを、もう少しだけ回して、急いでドナルド二世とゴブリンの真ん中くらいに移動した。
「近いよ、かなり怖い」
先頭のゴブリンが棍棒を振り下ろせば、僕の頭をかすめそうなほど近い。
それでも無事にドナルド二世から全部のゴブリンのターゲットを剥がして、少しずつゴブリンとの距離を広げながら、ドナルド二世とは違う方向に逃げていった。
壮観ってくらいに僕の後ろには大量のゴブリンがついてくる。先頭のゴブリンが早すぎて、最後尾のゴブリンが周回遅れになったら困るので、ゴブリン集団が縦長にならないようジグザグに走った。
やがて弓矢のベラスの弓が、最後尾のゴブリンに命中しはじめた。連携がとてもいいらしく、ベラスが次の弓を準備する間に、ライクとエノが、交互に横から飛び出して、一匹ずつゴブリンを狩っていく。
今日はそれに加えて、ドナルド二世がベラスとタイミングを合わせて先のとがった氷の矢を飛ばして、ベラスが倒したゴブリンのすぐ隣のゴブリンを倒した。それも同時に何個も飛ばすから、ベラスみたいに命中率は高くないけれど、どれかは当たるので、結果的に確実に倒せている。
大量にいたゴブリンは、いつの間にか五匹程度になった。残りは剣を振るうライクと、ハンマーで叩くエノの二人に任せて、誤射で二人に傷つけないように、弓のベラスと、氷魔法のドナルド二世の二人は攻撃を止めた。
さすがに大量のゴブリン狩りとなると、弓は矢が減るし、氷魔法は魔力の残量が心配になってくるみたいで、残りは直接攻撃の二人に任せるしかないみたい。
僕も今日はお母さんのダガーがあるから、戦おうと思えばできないことはないけれど、やっぱり怖さと、生き物の命を奪うという不快感が先に出てしまい、今はできそうにないから、今日も鬼ごっこで勘弁してもらおう。それでも次々と倒されていくゴブリンを見るのさえ、ちょっと気持ちが悪くなってくる。
最後の一匹をエノが豪快に叩くと、ゴブリンは全滅した。僕達は落ちた魔石を拾い集めながら、狩りを振り返っていろいろな話をした。皆はかなり楽しそうに会話が弾んでいるけれど、僕はなんだかその話の輪には入っていけない気持ちになっていた。




