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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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62.初めてのパーティ(4)

回したからって、何にも変わらないんだけどね。僕だけが現実逃避できる『のんびり過ごせる』ブレスレットという、超自己中なチートアイテムだから。


頑張ってる皆には申し訳ないけれど、ひとりだけ、のんびりさせてもらってから、今の状況をどうしようか、ゆっくり考えさせてもらうよ。


そっと目を開けてみて、びっくり。この光景はたぶん何度見ても、そのたびに驚いてしまうと思う。


目の前には勢いをつけるためにジャンプしたゴブリンが棍棒を思いっきり振り下ろして、今にも僕の頭に当たる寸前で空中で固まっていた。


ブレスレットを回すタイミングがギリギリセーフだったみたい。あとは、そっとこの場を抜け出して、木の陰にでも隠れてしまえばいいだけだよね。そうすれば『蒼の誓』クランのアジトで起きたように、僕が何処に移動したのかはゴブリンにはわからなくなって、振り下ろした棍棒は空振りになる。


そのまま、ゆっくり横にずれて、ゴブリンの棍棒の外側まで移動したら、やっとホッとした。ゴブリンは、そこにはもう僕はいないのに、相変わらず同じ場所で棍棒を振り下ろしたままの格好でいる。ちょっと間抜けっぽく見えて、緊急事態なのに少しだけ笑える。


でも、嫌なことに気づいてしまった。僕が移動すると、僕の後ろから、僕を助けようと走ってきたライクが、棍棒を振り下ろすゴブリンの下に飛び込んでしまい、あの棍棒がライクの頭の上に振り下ろされちゃうんじゃないの?


うーん、困ったな、どうしよう。


よく見ると、最初は人間の子供だと思ったゴブリンの顔は、結構年長者の顔に見える。背が低いから子供に見えただけみたいだ。眉間にしわを寄せて、口からは牙が出ている。髪の毛も瞳も黒で、これはむしろ元の世界の人間に近いけど、似てるところはそれだけだ。


「ちょっと君、少し乱暴だよ。」


そうつぶやいて、冒険者ギルドから借りてきた木刀のような棍棒で、ゴブリンの頭をコツンと叩いた。


「あっ、まずい」


ちょっと叩いたつもりだったけれど緊張していたのか、思いっきり頭に当たってしまい、大きな鈍い音がした。


すると目の前のゴブリンが、一瞬だけ砂で作った彫刻みたいに固まり、そのまま崩れ落ちて姿を消した。魔物は死体が残らず消えると聞いてはいたけれど、目の前で目撃するとやっぱり衝撃が凄い。


「えっ、ご、ごめんって、いまさら謝ったって遅いよね。どうしよう、可哀想なことしちゃったよ。」


慌てて謝っても遅い。ゴブリンは消えちゃった。どうしよう。討伐相手とはいえ、動けない相手を卑怯な方法で倒すって、すごく悪いことをしてしまったみたいで、後ろめたい気分になった。


中学校の理科室のガラスに小石をぶつけて小さな穴を開けてしまったとき、そっとフラスコで隠してしまった、あの後ろめたい記憶が突然脳裏に浮かんで、心臓がバクバクしてきた。根が小心者なのに、ああいう悪いことして隠してしまうと、何年経ってもフラッシュバックして後ろめたさが消えない。


とにかくブレスレットを元に戻して、何事も無かったふりをしてしまおうという、あの頃と全く変わらない発想になってる自分がいた。


回したままになっていたブレスレットを、元の位置に戻したら、静かだと思っていた森の中が、こんなに動物たちの鳴き声などであふれかえっていたのか、と驚くほどいろんな音が耳に飛び込んできた。


「きっ、消えた!!」


すぐ近くにいたベラスが、悲鳴に近い甲高い声で叫んだ。

僕を助けようと飛び込んできたライクは、勢い余って地面に落ちた。

エノとドナルド二世は、何も言えずにぼう然と立ちすくんでいる。


すぐに立ち上がったライクは、泥だらけになりながら、消えたゴブリンを探すようにキョロキョロと激しく周囲を見回している。


「テムリオ、いま何をやったの? 早すぎて何も見えなかったんだけど。」


エノがハンマーを振り回すように僕の方に向けて聞いてきた。あぶないよエノ。


「えーっと、何もしていないよ。ゴブリンが急に逃げちゃったみたいだ……ね。」


ちょっと苦しい説明かな。


「いや、テムリオがゴブリン倒したんだよね。ほら。」


転んだところの足下からライクが魔石を拾って皆に見えるようにつまんで見せた。


「すごいよテムリオ。イグナス兄貴が言ってた通りだ。飛びかかってきたゴブリンを一瞬で倒すなんて。確かに、この中で一番強いのはテムリオだ。」


「いや、ほんとに誤解だよそれ。俺は何にもしていない。ゴブリンが勝手に足を滑らせたかなんかで、打ち所が悪くて死んじゃったんだと思うよ。」


僕は真剣勝負してる皆を放っておいて、現実逃避のチートアイテムを使ったあげく、強くもないのに間違ってゴブリンを強く叩いてしまい消滅させてしまった後ろめたさが重なって、身の置き所がない心境でいた。


勝手に僕のことを最強冒険者なんて信じ込んでしまった皆の誤解を解く方法が思い浮かばないまま討伐は再開された。誤解されたままで、変な期待をされては困るので、それまで以上にベラスの後ろに隠れてついて行った。


でもそれから一時間ほどはゴブリンの姿は全く見当たらなかった。


「元々ゴブリンは臆病な魔物で、城壁近くまで出てくるのは珍しかったんだがな。こんな近くに現れる方が異常なんだから、見つからない方が普通かもしれない。」


ドナルド二世は少し残念そうに言った。


「肉食の魔物だから、確かに人間は食料に見えるので、さっきみたいに近くにいれば襲ってくるけれど、本当は人間を怖がってるから、遠くで声が聞こえたときは逃げるんだそうだ。だから俺たちの声が聞こえて逃げ出したのかもな。」


ライクって、結構物知りなんだね。冒険慣れしていて知識が豊富なのかな。


「焦ってもしかたがないから、交代で見張りしながらお昼を食べよう。」


ライクの提案でお昼ご飯にした。

僕のお昼ご飯は、お母さん特製の薄切りハムとチーズのサンドだ。ハムは薄切りにして何層も重ねてあり、その上下にチーズがたっぷり塗ってあってホットドッグのようなパンに挟んである。お母さんはこれのことを『パニーノ』って呼んでいた。なんとなく地中海風サンドイッチって感じがして見た目も素敵だ。


皆が買ってきたお弁当を見ると、栄養重視みたいに肉の塊がドンと入って、ゆでたジャガイモが添えられているワイルド弁当だった。


「テムリオのパンはうまそうだな。」


ドナルド二世が僕のお弁当をのぞき込んで言った。


「俺の家はパン屋だからな。中央通りの南外門の近くにあるから、買いに来てよ。」


「そうなのか。じゃあ今度行ってみるか。どんなパンがお薦めだ?」


「俺は堅焼きパンが一番かな。うちの夕食には必ず出てくる。いくら食べても飽きないパンだよ。」


本当はフランスパンって言いたいけど、当然異世界にフランスなんてないから、それじゃ通じないので、堅焼きパンって呼んでいる。お父さんの焼く堅焼きパンは、とにかく絶品だ。


お昼ご飯の後、ふたたび討伐を再開したけれど、やはりゴブリンの姿はなく、一度だけ魔狼じゃない普通の狼に出会って、これはベラスが一矢で倒した。ベラスって、かなり正確に矢を打てるみたいで、ゴブリンのときも一矢で倒したけれど、普通は腕の立つ弓使いでも三本くらいは命中させないと倒せないのだそうだ。


三人の狩りのスタイルは、ベラスが先頭を倒して、その後ろから来るのを他の二人が倒すという方法をいつも使っているそうで、ベラスが外すと二人が危険なので、必ず一矢で倒すように訓練しているのだそうだ。


普通の狼は皮を剥いで、食べられる部分の肉を取って、僕が運ぶ事になった。これだけでも結構重くなる。


「前方に三頭! ゴブリンだ。こっちにはまだ気づいていない。」


最初の時もそうだったけど、ドナルド二世は遠くにいるゴブリンを気配か何かでわかるんだね。ヒーラーとしても頼りになるけど、こういう能力もありがたいよね。


でもなんで「三頭」って言うんだろう。馬じゃないんだから「三匹」のほうがいいと思うんだけど。


そうだよ。最初の時もドナルド二世は「ゴブリンが二頭」って言ったもんだから、僕は馬みたいなのが出てくるって想像して、二足歩行のゴブリンに慌ててしまったんだ。


ドナルド二世の報告に、ベラスは近くの木に、ひょいと登って弓の準備をはじめた。ライクとエノのふたりは、少し離れた草むらに身を潜めた。僕はどうしたらいいかわからずに、とりあえず近くの太い木の後ろに隠れた。


皆の準備が整ったのを見計らって、ドナルド二世がピィーっと口笛を吹いたら、確かに前方からゴブリンが三匹、全速力でドナルド二世に向かって走ってきた。


ライクとエノは、通り過ぎた先頭の一匹に構わず、後ろの二匹に向かった。横から不意に出てきたライクとエノに、反撃体制がとれないうちに二匹は倒されたが、ドナルド二世に向かっていた一匹が、突然反転してライクとエノの方に向かって行った。そのため進行方向に向かって射たベラスの矢は、反転したゴブリンと、ドナルド二世の中間付近に空しく落ちた。


ハンマーのエノと棍棒のゴブリンが、激しいたたき合いになって絡み合ってるため、ライクは剣を振り下ろせずにいる。そのうち、剣を鞘に収めると、ゴブリンの後ろに回って、素手でゴブリンを羽交い締めにした。そこにエノのハンマーが急所に当たったみたいで、ようやく戦いは終わった。


ドナルド二世がすばやく二人のところに走って行くと、怪我をしているらしい二人にヒールをかけ始めた。初めてみるヒールは、『魔道学院』で見たマナポーションの容器みたいに青白く光って二人を包んでいる。


「えっ、こんなに早く治癒できるのか。ドナルド二世のヒールはとんでもなく凄いな。どこが傷口だったのか、自分で見てもわからないぞ。」


「いや、本当は戦ってる最中でもヒールをかけられるんだが、勘が戻っていないとゴブリンにヒールしてしまうかもしれなかったので、終わるまで待ってたんだ。傷口を洗わずにヒールをかけると、化膿することがあるから、水魔法で洗浄しながらヒールしたんで時間がかかった。」


「すごいな、そんなこともできるのか。Bランクって言われても納得するな。今日はテムリオといい、ドナルド二世といい、凄い物を見せてもらった。」


いや僕のは凄くないよ。勘違いだったってことにして、お願いだから。


緊張してトイレに行きたくなったので、近くの草むらで用を足していたら、なんとゴブリンの集団と目が合ってしまった。うわ、五匹もいるよ、どうしたらいいの。あわてて用足しを中止して、一目散に逃げ出したら、五匹全部が僕を追いかけてきた。


またブレスレットに頼るのは癪だけど、他にいい方法が思い浮かばないので、さっきみたいに皆に誤解されないよう今度はブレスレットを少しだけ回すことにした。


すると明らかにゴブリンが僕を追いかける足が遅くなった。これなら僕の足でも何とか逃げられる。僕なりに全力で逃げて、全力で追いかけてくるゴブリンと、ちょうど釣り合いが取れる程度にブレスレットを調整して、ゴブリンと鬼ごっこを始めた。


これなら誤解されないよね。僕は逃げてるだけだし。それにゴブリンに対しても卑怯じゃない……と思う。たぶん。


僕とゴブリンの鬼ごっこに気がついた他のメンバーは、驚いた顔をしながらも、ベラスに指示を出して僕を追いかけているゴブリンを一匹ずつ矢で仕留めていった。どうやらゴブリンのターゲットが僕から他のメンバーに移らないよう慎重に最後尾のゴブリンから順に倒しているようだ。


それなら僕も協力しなくちゃね。ゴブリンが、もう少し頑張れば僕に追いつくと勘違いするよう、わざと足を遅くしてゴブリンに近づいたり、ブレスレットを微調整してもう少しのところで突き放したりしながら、鬼ごっこを楽しんだ。


そうやって一匹ずつ倒していって、最後の一匹になったところで、他の二人がゴブリンの後ろに回って剣とハンマーで倒し、鬼ごっこは終わった。


「テムリオ、結構足が速いんだね。強化魔法を掛けて走ってるみたいだったけど、魔法は使えないんだよね。そんなに走ったら疲れるだろう。荷物なんて下ろせば良かったのに。」


ライクに言われて、はじめて僕は荷物を背負いながら走っていたことに気がついて、一気に疲れが押し寄せた。へなへなとその場に座り込んでしまったけれど、ゴブリンに追いかけられていたのに全然怖くなかったのを思い出して、ヘラヘラと変な笑い顔になった。


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