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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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60.初めてのパーティ(2)

イグナスは、さも楽しそうに、みんなを引き連れて『魔道学院』に行こうとしているので、慌てて止めて聞いた。


「あの、イグナスその前に教えてほしいんだけど、俺は見習いでここに入ったので、見習いがやらなきゃならない仕事があると思うんだけど、アジトの掃除とかは、俺の仕事じゃないの? もしやるべき仕事があるなら、俺はアジトに残って仕事していようと思うんだけど。」


「仕事? そんな物無いぞ。ここでは仕事なんてものは何もない。誰かが『いくぞ』と声を掛けたら、行きたいヤツが『おー』と言って、ついていくだけだ」


ああ、確かにアレックも好きで門番やってるって言ってたっけ。


「じゃあ、アジトの掃除は誰がやってるの?」


「よくわからんが、清掃ギルドから、いつもきっちりした格好の人達が定期的に掃除に来てるな。城内には領都営繕司というところがあるから、あそこから依頼されてきてるんじゃないかな。ここもお城の出先機関になってるみたいだから。だからテムリオが清掃ギルドの仕事を取ったら、また『風水機工連合』みたいにクレームが来るぞ」


イグナスは笑って言ってるけど、僕には笑い話じゃないからね。危ない危ない、また勝手に掃除したら「無免許で掃除した」なんて言われかねない。


そういうわけで、僕も三人と一緒に、イグナスに連れられて『魔道学院』に行くことになった。


『魔道学院』はわりと近くて、周囲には職人街のような建物が並んでいた。

まあ、確かに看板には『魔道学院』って書いてあるけどね……。


中に入ったら、どう見てもゴミの山としか見えないものが山積みされていて、据えた臭いもするし、空気もどこか薄汚れてほこりっぽい感じがする。ああこれって何かの廃棄物処理場だ。


「おーい、オヤジいるか?」


イグナスが大きな声でゴミの山に向かって叫んだ。


「えっ、もしかしてここはイグナスの実家?」


「馬鹿言うな。いくら貧しい家の出だからって、本物のゴミの山が俺の実家なわけがないだろ。」


イグナスに怒られた。ごめんなさい。


「おうイグナスか。今日は何の用だ。マナポーションなら、このあいだ渡してからは、あまり溜まってないぞ。」


うん? マナポーションって、何だろ?


「あのう、ここではマナポーションを作ってるんですか?」


僕が聞くより先にライクが聞いた。


「ああ、この山は全部廃棄魔道具だからな。解体すると、使い残しのマナが結構残ってるんだ。それを回収して、マナポーションをここで働いてる魔道士が作ってるんだ。『魔道学院』の授業の一環ということにして、ここだけ例外的に許可されてる。」


ああ、だから『魔道学院』なんだね。

でもマナポーションって、ライクも知ってるみたいだけど、それって「そんなの誰でも知ってる常識」レベルのものなのかな。またここで、「教えて」って言ったら、仰天されるのだろうか。


「でも、廃棄魔道具からマナを回収して、マナポーション作ってるって話だけどさ……」


ライクはその話に食いついたみたいで、作業台に並べてある瓶を指でつつきながらさらに聞いてきた。もしかして、これがマナポーションってやつなのかな。


「それって結局、自分の魔力使ってるんじゃないの? だったら最初から自分の魔力でポーション作った方が早くない?」


「おお、坊主よく気がついたな。実はそれが違うんだ。」


オヤジはひと息つくと、仕事中だったらしく手に持っていた大きなスポイトみたいな道具を作業台に置くと、それを指差しながら説明し始めた。


「これは廃棄魔道具からマナを回収するときに使う道具だが、これを使わずに、自分の持ってる魔力から直接ポーションを作ろうとすると、魔力を溶かした液が薄すぎて使いものにならないんだ。」


そして今度は、別の場所にある、ガス釜みたいな装置を指差した。


「だから、あそこにある『マナ精製機』にいっぱい作って入れてから、時間を掛けて煮込んで精製するっていう面倒な手順がいる。しかもそれでできあがるマナポーションは、一回でこの瓶1本程度だ。」


それは効率悪いね。元の世界の海水から塩を作る工程みたい。あれも結構大変そうだった。


オヤジは、そしてまた大きなスポイトみたいな道具を指差した。


「でも廃棄魔道具の中に残ってるマナは、そのままこの瓶に入れても問題ないくらいの精製済みマナだ。ひとつの廃棄魔道具から取れるマナの量は少なくても、こっちのほうが断然効率がいい。」


そういうと、大きなスポイトみたいな道具の中には、廃棄魔道具から取り出したマナが入っていたらしく、それを空いた瓶に注ぎ入れると、陶器でできているはずの瓶が一瞬青白く光った。


「なるほどな……。金鉱石から金を取り出すより、金メッキされた廃棄物から金を剥がす方がよっぽどたくさん取れるって事と一緒か。」


「おお、坊主、結構頭がいいな。その通りだ。こっちなら廃棄魔道具から吸い取りゃいいだけだからな。まあそれには、そこそこの魔力がいるが、ここにいる連中には朝飯前だ。」


ライクの話を、優しい目をして聞いていたイグナスが、話は一段落したと判断したのか、ここに来た用件を話し始めた。


「オヤジ、今日は頼みがあってきたんだが、ここの魔道士で冒険者ギルドのランクがEランク位なのがいたら貸してくれないか。」


「貸すも何も、イグナスがみんな連れてきた奴らだろう。お前の頼みなら、誰でも喜んで手を貸すと思うぞ。そうだな、ドナルド二世なら、確かFランクだったと思うが、Fランクじゃダメか?」


「Fランクでも大丈夫か?」


イグナスが三人に尋ねると、自分たちの前後のランクならバランスが取れて嬉しいとライクが言ったので、紹介するのはドナルド二世ということになった。


「ドナルド二世だ。この四人のパーティに入って冒険者ギルドの依頼をこなしてくればいいんだな、イグナス兄貴。」


三人だけどね。


ドナルド二世は、いままで廃棄魔道具のゴミの中で仕事をしていたらしく、全身真っ黒に汚れていたけれど、よく見ると、しなやかな指をしていて、やっぱりイグナスみたいな魔道士の感じがよく出てる。


「よし、決まりだ。じゃあ、今からすぐに四人で冒険者ギルドに行って、パーティ名で依頼を受けてこい。ドナルド二世はギルドカードもってるか?」


「ああ、持ってる。昔冒険者やってたときのクセで、いまでも肌身離さず持ってるよ。」


すると、困惑したような顔でライクが聞いてきた。


「俺たちのこと何も聞かないで、そんなに簡単に決めていいのか?」


「ああ、大丈夫だ。俺はイグナス兄貴を信用してるから、そのイグナス兄貴が連れてきた相手なら、何も聞かなくても信用できる。それに、イグナス兄貴から何かを頼まれるのって、すごく名誉なことだ。ここにいる誰もが俺のことを羨ましがるというのに、俺が嫌がるはずがないだろう。」


当然という顔でドナルド二世は胸を張って答えた。


「ドナルド二世よ、イグナスを失望させないよう頑張って来いよ。どんなに長期になっても、出張扱いだから、その連中が満足するまで、ずっと手伝ってこい。休んでいる間もここの基本給は毎月ちゃんと支払われるし、冒険者パーティの分け前もあるはずだから、食いっぱぐれることはないから安心しろ。」


イグナスからオヤジと呼ばれた男が、ドナルド二世の尻を叩いて言った。オヤジは浅黒い顔で、髪の毛も元は桃色のようだけれど黒く汚れてよくわからない。


ようやくヒーラーが決まって嬉しそうな三人と一緒に外で待っていたら、簡単な身支度をして、三人と同じようなポーチを肩から下げたドナルド二世が、『魔道学院』から出てきた。ちなみに僕はお母さんが用意してくれたウエストバッグを使ってるけれど、軽量でとても気に入ってる。


こうして、結局「マナポーションって何?」って聞く勇気が出ないまま、イグナスと別れて、みんなで冒険者ギルドに向かった。僕もGランクの依頼を受けるつもりでいたので一緒だ。


「テムリオって、どいつだ。」


冒険者ギルドに向かって四人で歩いていたら、ドナルド二世が急に僕の名前を呼んだ。


「俺だが、なんだ?」


「イグナス兄貴に、テムリオもパーティに入るよう説得しろと言われた。一緒にパーティを組もうぜ。」


「いや、防具も武器もない丸腰だから俺には何もできないし、そもそもおまえらが受けようとしている依頼は討伐系だろう。俺にはそういうのは無理だ。」


するとドナルド二世は、何事もなさそうにあっさりと否定した。


「いや、ポーターならできるんじゃないか? あくまでも荷物を持ったり、収穫物を集めたりするのが仕事だから、戦うわけじゃないので防具も武器もいらない。むしろ重い荷物を持つのに、そんなものは邪魔だ。それでもパーティメンバーは平等だから分け前も平等。ギルドに届け出る貢献度も平等だ。ほかの三人も、文句はないだろう?」


「ああ、もちろんだ。俺たちのパーティはずっとそうしてきた。」


ライクもエノもベラスも、激しく頷いてる。でも僕は……。


「よかった。イグナス兄貴が連れてきたメンバーなら、絶対に納得すると思ったよ。俺がいたころは、ヒーラーはいつも格下扱いだった。ポーターなんかもっとひどくて、貢献度ゼロ扱いだから分け前は一切なくて、まるで雇われ人夫みたいに、わずかな日当をもらえるだけだった。俺が冒険者パーティに嫌気が差してやめた理由だ。」


水を差すようで申し訳ないけど……。


「でも、やっぱり俺にはパーティ参加は無理だ。今日も一人でGランクの依頼を受けるつもりで来てるし。」


「そう必ず言うから、そのときは、テムリオが参加しないなら俺も帰ると言って脅せとイグナス兄貴に言われてる。」


おいおい、イグナスの言葉をそのまま伝えちゃだめだろう。


他の三人の懇願するような目を見て、優柔不断な僕が、これ以上断れるはずがない。イグナスって、僕の弱点を見抜いてるよね。鑑定魔法を使ったのだろうか。


「わかったよ。じゃあポーターとして、みんなよりずっと後ろを付いていくってのでいい?」


「いいけど後ろからの敵はどうするんだ? もっともイグナス兄貴は、この中で一番強いのはテムリオだから、全く心配するなって言ってたけど。」


「俺は討伐系が怖くて誘いから逃げ回ってるGランク冒険者だよ。一番強いなんてイグナスの冗談を真に受けないでよ。」


イグナスのジョークが理解できないドナルド二世と一緒に出掛けるのって、かなり危険なんじゃない?


そんな話をしながら、冒険者ギルドに到着すると、楽しそうなみんなの後ろを付いてEランクの依頼掲示板のところに向かった。


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