57.ブレスレットの謎(2)
「それじゃ風水機工連合の建物でこれを回したら、音が聞こえなくなったのは、そのあいだみんなが止まっていて声が出ていなかったから?」
そう自分で言いながら、そうね、時間が停止していたのなら、そうなるよね確かにと思っていた。
「そういうことになるわね。でもね、もう一度言うけど、多分時間が止まっていたというのは違うと思うわよ。私のテムリオちゃん。」
アゼリアは、特別なことでもなさそうに、軽く言ってる。アゼリアの今の悩み事は、次の『芋あんまんじゅう』は、僕の口に放り込むか、自分で食べるか、どっちにしようか、みたいな顔だ。『芋あんまんじゅう』をナイフで切ることに集中してる。
「みんなもあるでしょ。敵の攻撃を躱すことに集中している瞬間、まるで攻撃が止まって見えるってこと。それって、みんなの能力が高いからであって、実際に敵の攻撃が遅くなったわけじゃないでしょ。」
すると、みんなが、「ああ、なるほど」などと、合点したみたいに頷いてる。そうなの? みんなそんなに凄い人達なの?
あっ、でも僕も気づいてしまった。元の世界でも、とっても人気のあった野球選手に、どうしてそんなにホームランがたくさん打てるのかって聞いたら、ボールが止まって見えるからって返事したって有名な話があった。あれがそうなのかな。
止まってるボールに、バットをコツンと当てるだけなら、そりゃあホームランなんて、いくらでも打てちゃうよねって、妙に感心した覚えがある。
「でも俺には、みんなみたいなすごい能力はないし……」
「それをそのアームレットが補っているんだと思うわよ。何か私のテムリオちゃんの能力を活性化させるようなパワーが瞬間的に出てるんじゃない?」
「でも、元々の能力がテムリオに無けりゃ、補いようがないけどな。」
「いや、だからアゼリアが『威圧』が尋常じゃないって言ってたろ。」
みんながワイワイ言いだして、誰がしゃべってるのかわからなくなってきた。名前もよく覚えていないから、なおさらわからない。
「ああ、そういえば中央市場でイグナスが灼炎をぶっぱなそうとしてアゼリアに怒られてたとき、その先にテムリオがいたって話だったな。だったらイグナス命拾いしたんじゃないか。アゼリアの言ってることが本当なら、テムリオに灼炎が当たっていたりしたら、反撃されて今頃どうなっていたかわからんぞ。」
外套を羽織ってる……えーと、誰だっけ、その人に笑いながら言われてイグナスは渋い顔をした。
「アゼリア、もうどれだけ俺のことを盛って皆さんに話してるの。この際ちゃんと話しておきますけど、俺はレベル1でGランクという超初心者の冒険者でギルドカードだって白色カードですよ。」
「そんなもん、珍しいからって見せびらかされてもな。確かに誰も持ってないレアカードだから自慢したくもなるんだろうけど。」
渋い顔のイグナスが、ますます渋い顔でつぶやいた。えっと、もしかして白色ギルドカードの意味を知らないってことじゃないですよね……。
「それでだ。エルヴィローネちゃんや。私のお願い事覚えてるよな。」
強引に話題を変えてきたアゼリアがなぜかニッと笑ってエルヴィローネに話しかけた。
「なんじゃったかなあ……。」
明らかにとぼけているエルヴィローネ。
「私のテムリオちゃんのフル鑑定してくれない?」
「えー、いやじゃわ、自分で見りゃええが。テムリオぐれぇ、あんたなら見られるじゃろ。」
「いいや、きっと見られないから頼んでるんだ。私の予想では、お前さんでも見られない。」
目の前にいるアゼリアとエルヴィローネが言い争いを始めた。
「いくらアゼリアが、テムリオには勝てんて思うたとしてもな、それはもう、テムリオのかわいらしさにノックアウトされとるだけじゃが。まあ、こんな愛らしい顔の男、そこらにはおらんってのは認めるけどな。でも、本気で力で勝てんわけじゃなかろう?」
うーん、見事に当たっていると僕も思うけど、何だろうこのもやもや感。そうだよ、僕も自分の顔を鏡でみたときは、ひっくり返るほど驚いたけど、『愛らしい顔の男』って言われて、否定できないからだ。完璧なナルシストに変身しちゃったからね、あの瞬間。
「いや、たぶん本気で勝てない。だから領都では一番の鑑定能力を持つエルヴィローネにフル鑑定してもらいたんだ。」
「でも、それはアームレットの力って事じゃないの?」
僕も率直に聞いてみた。自分にそんな力があるなんて、全く信じていないからね。エルヴィローネの鑑定結果に「なーんだ」って空気が一気に流れ込むことは目に見えてる。
「さあ。でも初めて私のテムリオちゃんの目をみたとき、もの凄い威圧を感じたのよ。あのとき、確かアームレットしていなかったわよね。つけてれば真っ先に気づいたもの。あの時の威圧には一瞬ひるんでね、そして、気がついたらテムリオちゃんの恋人になってたの。」
アゼリアの話は、真剣な話とジョークの境目がわからない。
「じゃけんど、それじゃあ変じゃが。テムリオはスキルもアイテムも、どっちも持っとらん思うとるゆう話じゃろ? 鑑定しても、なんも出らんゆうことにならんかえ?」
「いいやきっとある。テムリオちゃん自身も気づいていないだけだ。しかし私の魔法スキルじゃ、あの威圧のあるテムリオちゃんのアイテムを操る能力は、どうせ見られないはずだ。鑑定スキルがレベル100超えのお前に見られるかどうかが重要だ。お前に見えなかったらこの領都でテムリオちゃんを超える一体型アイテム使いはいないことが確定する。」
えっと、そもそもフル鑑定の意味もわからないけれど、どうやら話の流れで判断すると『全個人情報開示』って意味なのかな。
「あのう、よくわかんないけど、俺のポンコツレベル1なんて、どこが見たいのか知らないけど、いくら鑑定してもいいよ。笑われるのは正直きついけど。それで誤解が解けるなら、協力する。」
確かにチートアイテムは持ってる。でもそれは変な風に能力を発揮しているけど、本当は神の国のセシルフォリアさんに、レベル1以上はダメって言われて、時計のバンドを持って行きたい物欲で、いいかげんに頼んだ『のんびり過ごせる』チートアイテムだ。
何の役にも立たない僕専用の現実逃避用アイテムなので、こんなの操るのに、能力もなにもいらないと思う。
エルヴィローネに見られなかったら僕が領都一の一体型アイテム使いと確定するってところが、イマイチよくわからないけど、それより重要な事がある。
「でもフル鑑定ってどういうことをするのかだけは事前に教えて。俺まだ10歳なので内容によってはトラウマになるかもしれないから。」
「うっ……テムリオ、おまえ、なんかよからんこと考えとるじゃろ。フル鑑定ゆうても、ただ杖あてて魔力でステータスなんぞを覗くだけじゃけん。」
「なんだそれだけか。」
「それだけってなあテムリオ、このエルヴィローネが持っている、『相手のステータスを覗く、生物鑑定系の鑑定魔法スキル』は、領土中探しても他に持ってるヤツは誰もいないって超レアスキルだぞ。」
横からイグナスが口を挟んできた。
「俺も魔道士の端くれだから、鑑定用じゃない魔法スキルでも、若干の鑑定くらいはできるけど、普段は鉱物など命のないものしか鑑定していない。生物鑑定はすごく魔力を使うし、そもそも難しいんだ。」
少し興奮気味に、つばを飛ばして話し出した。ちょっと汚いから、少しだけ離れた。
「それでも相手が自分よりレベルの低い魔物ならわりと簡単だけど、人のステータスともなると、せいぜい見られてレベル10まで。それも相手が鑑定を受け入れているか、油断しているときじゃないと無理だ。それをエルヴィローネはどんな相手のステータスでも強引に覗けるんだぞ。」
ああそうなんだね。イグナスは火魔法が自由に使える最高クラスの魔法戦闘士っていってたから鑑定もできるのか。そのイグナスが絶賛しているんだから、よっぽど強力な鑑定魔法が使えるんだろう。
もっともエルヴィローネは独身女性だから、『強引に覗く女』なんて冠名がつくのは絶対に嫌だろうけど。案の定、イグナスが持ち上げれば持ち上げるほどエルヴィローネのテンションがどんどん下がっていく。
「イグナス、ちぃと黙っとき。……そういうことじゃけぇな、テムリオ。正直、気は進まんのんじゃけどアゼリアの頼みじゃけぇ、やっちゃろうか思うとるんよ。フル鑑定、今からしてもええ?」
「はい、エルヴィローネさんに覗かれるなら、むしろ嬉しいくらいです。」
「ア、アホ! 誤解されるような言い方せんのん!」
こうして、ちょっと時間がかかったけれど、無事にエルヴィローネによる僕のフル鑑定が決定した。
ただし「威圧」は概念なので鑑定できず、アゼリアにも「感じることができる」という程度の特殊スキルみたいだ。といっても、本当言って、なんのことやらさっぱりわからないんだけどね。




