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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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53.風車の修理(4)

次の日もいつものように冒険者ギルドに行くことにした。

最近、すっかり定時に家を出るサラリーマンをやってる。


エルは家の手伝いを熱心にやるようになったのか、あまり僕のことを引き留めなくなった。少し寂しいけど、毎朝エルに引き留められて、気持ちがぐらついてしまうよりはいいかな。


冒険者ギルドの朝は活気づいている。最初の日のように、どうしていいかわからずエントランスの真ん中で棒立ちしている訳じゃないから、忙しく動き回る冒険者達にぶつかるようなことはなくなったけれど、まだ10歳の体は混雑の中では目に付きにくいから、急いでいる冒険者が、おっとっと、などといいながら僕をよけていくので、迷惑にならないよう、急いで依頼掲示板の方に移動した。


Gランクの依頼掲示板のところに行って、今日の依頼をどれにするか眺めた。他のランクほどじゃないけれど、Gランクでもそこそこ選べるくらいの依頼は来ている。


「失せ物探しか。自分の物でさえエルに管理してもらわないとわからなくなるくらいだから、絶対に無理だな。」


「行方不明の飼い魔鳴猫探しか。なんか昨日の猫着地を思い出して、いやだな。」


「ナトウの収穫の手伝いか。ナトウって何だろう。まさかネバネバ系の腐った臭いのする野菜ってことはないよね。でも面白そうだからやってみようかな。想像通りの物だったら、家に帰ったらしっかり洗わないと絶対にエルに近寄るなって怒られるよね。それはちょっと寂しいけど。」


依頼書ごとに、そんなことをぶつぶつつぶやきながら考えて掲示板の前にいたら、いつもの案内が珍しくエントランスに出てきて僕に近づくと声を掛けてきた。


「テムリオちょっといいかな。」

そういうとエントランスにあるテーブル席に呼んだ。


「昨日の風車修理だけど『風水機工連合』からクレームがきててな。あの村の風車守から、もしかしたら無免許の冒険者が修理したかもしれないから調べてくれと昨日のうちに連絡が来て、調べてみたらテムリオの名前が『風水機工連合』の登録名簿に登録されていないってわかって、無免許で仕事をしたのではないかってクレームなんだ。」


おっと、さっそく危惧したとおりの事になった。


「はあ、俺は全く知らなかったけど、風車修理は免許証が必要だったの?」


「そうだ。冒険者ギルド案件を受ける冒険者でも『風水機工連合』の免許証を持っていないと依頼は受けられない。今回はそのことに誰も気づかずにうっかり免許所持者に限るという条件を併記するのを忘れて掲示板に掲示してしまったようだ。」


そして結構吞気なことを受付は言いだした。


「あのとき、おれもちょっと変だとは思ったんだがな。だが条件は書かれていなかったので、受付としては問題ないんだろうってことで受理したんだ。上層部で話し合った結果、テムリオには全く落ち度はないという判断で、本当にテムリオには申し訳ないことをしたと謝罪することになった。だが問題は『風水機工連合』のほうには、それで通る話ではないって事で頭を抱えていたんだ。」


なんとなく、嫌な予感が当たる方向に話が進んでいるみたいな気がする。


「それで俺に『風水機工連合』に行って申し開きをしてくるようにって話?」


「おお、わかってもらうと話が早い。『風水機工連合』の場所はわかるか? そうか、わからないか。ならあっちで地図を書いてもらって、さっそく行ってきてもらってもいいか?」


確認しただけで、まだ行くとは言ってないんだけど。


なんだか、もの凄く嬉しそうに、「さっさと行って来い」という態度むき出しに貸出窓口の担当のところに地図を書いてもらうために連れて行かれた。


あれよあれよという間に『風水機工連合』に行くことは決定事項になってしまったけれど、いつもの小心者の僕は、「そんなの冒険者ギルドのミスなのに、俺が行って解決できる話じゃないよ」という正論を主張する勇気もなく、とぼとぼと冒険者ギルドの建物を出た。


いやこれは、ひとりで勝手な行動をしちゃまずいな。まずアゼリアに迷惑がかかる。僕が領主直轄の『蒼の誓』クランに加入することになったら、このことが絶対に問題になるよね。それと免許証を持って仕事をしているお父さんにも間違いなく迷惑がかかる。


どうしようか……。


いや、不安だけど、やっぱり、ちゃんと『風水機工連合』に行って、正直に全部話した上で、しっかりと謝罪して、お父さんに迷惑がかからないよう全力で言い訳しなきゃ。昔から僕の得意技は「言い訳」だった……。


でもアゼリアには『風水機工連合』に行く前に、きちんと話しておいて、きちんと問題が解決するまで正式にクランに入るのは待っていてもらおう。


まずは先に『蒼の誓』クランのアジトのほうに行くことにした。


相変わらず門の所には、アレックが直立不動で立っていたけれど、僕に気づくと満面の笑みで一緒に建物の中に入っていって二階にアゼリアを呼びに行った。


今日は鎧姿じゃないくつろいだスタイルのアゼリアが、やっぱり突進してきて、あっという間に胸の谷間の中に捕まってしまった。鎧を着けていなくてもやっぱり苦しい。


「早かったのね、私のテムリオちゃん。嬉しいわ、アゼリアに早く会いたかった?」


アゼリアのその美貌で言われると、かなり恥ずかしい。


「アゼリア、俺のクラン入りだけど、ちょっと問題ができたので、しばらく保留にしてくれないかな。一度は加入するって言っちゃったから、いまさら取り消したいとは言いにくいので、保留でいいんだけど。」


「問題ってなあに? 私のテムリオちゃん。まずは『芋きん』食べてね。」


アゼリアは全くぶれることなく、ずっと「私の」をつけてるね。それときのうの『芋ようかん』に続いて今日は『芋きん』って、アゼリアは芋が好きなの?……いや、そういう話じゃない。


僕はきのうギルドの依頼で風車の修理をしたことと、もしそのことで『風水機工連合』から横やりが来て僕が捕まるようなことがあったらアゼリアに迷惑がかかる話をかいつまんで話した。


「そういうわけなので、『蒼の誓』クランに入るって話は、迷惑掛けたくないから、この件が落ち着くまで、待っていてもらえないかなと思って、先に相談に来たんだ。」


本音を言うなら、『蒼の誓』クランなんて、僕にはかなり場違いなクランに入るのをやめるのに、ちょうどいい口実ができたかな、くらいの気持ちもあるけど。


「そうなの? そんなこと何の問題も無いわよ。」


アゼリアは、楽しそうに『芋きん』をナイフでカットすると、フォークに刺して僕の口に放り込みながら、何でもなさそうに言った。


「やっぱり、あれ問題だったのか。まあ昨日もアゼリアが言ったけど、大丈夫だと思うぞ。」


横から、きのうのあまり役に立たなそうな短剣を腰に下げて、僕が風車修理に行く話をしたら、少しだけ心配顔をした男の人が、今は吞気そうに自分も『芋きん』を食べながら言った。あの心配顔は、風車修理は難しいという心配じゃなくて、僕が無免許で風車修理に行くことを心配していたんだね。


「ええと……」


「俺はイグナスだ。よろしくな。攻撃型の火魔法担当の魔道士だ。といっても、いつも後衛にいるけどな。だからこの程度の短剣で充分だ。」


なるほど、それであんな小さな短剣なのか。


「イグナス、ありがとう。昨日から心配してくれてたのに気づかなくてごめん。」


見回すと、僕が来たことで応接室に集まってきたクランの仲間全員が、そんなこと全然気にも留めていなそうな顔で、「俺にもやらせろ」などと、アゼリアのフォークを取りあげようとして怒られていた。緊張感全くなさそう。ひとりだけとんでもないトラブルに巻き込まれたみたいで緊張していたのが馬鹿らしく思えてきた。


「ほんならテムリオ、ちゃっちゃと『風水機工連合』なんか片付けてきんちゃい。」


エルヴィローネが、事もなげに僕の尻を叩いたので、勇気を出して『風水機工連合』に行ってこようと立ち上がった。


「今日は一日中アジトにいるから、暇だったら帰りにも寄ってね。」


アゼリアが明るく陽気に僕を送り出してくれた。


『風水機工連合』は冒険者ギルドや『蒼の誓』クランのアジトからは、思った以上に離れた、中央通りの反対の西側のほうにあって、到着まで1時間以上歩くことになった。家からも大分離れているから、早めに用件を済ませないと帰りが遅くなりそうだ。


また例によって、僕の性格が災いして、はじめての場所は入りにくい。なかなか勇気が出ないまま、建物の前の通りを行ったり来たりしていたら、とうとう守衛に声を掛けられた。入り口に誰もいなかった冒険者ギルドと違って、ここには屈強な用心棒のような格好をした守衛が立っていた。


「連合の建物の前をさっきからうろうろして怪しいやつだ。何も用がないならさっさと消えろ。それとも捕まえて衛兵に突き出してやろうか?あん?」


かなり横柄な守衛だ。公道をいくら行ったり来たりしても自由だろう。何の罪で捕まえようってんだ!とは小心者の僕は言えなかった。


あわてて、すいませんと頭を下げると、その場を離れてうっかり帰ろうとして、用事があってきたことを思い出した。


「あのう『風水機工連合』からの呼び出しで来た者なのですが。」


「それを早く言え。中に入ると受付があるから、そこで用件を言えば担当につないでくれる。」


客かもしれないのに、横柄な口調のままだ。こんなのを守衛にしていて大丈夫なんだろうか。あとで一言文句を言ってやろう。……なんて、呼びつけられて謝罪にきたのに言えないけどね。


「ええと冒険者ギルドから来たテムリオと申します。風車修理の件で来ました。」


窓口でそう伝えると、まあまあ愛想の良い女性の受付が、しばらくお待ちをと言って奥の方に入って行ったら、入れ替わりに、苦虫を潰したような顔をした神経質そうな男が出てきて、「そっちの101番の商談室へ行って!」と顎で差した。


おお、結構怒っていそうだな。まあ最初が肝心ということで、怒った顔をして、僕を萎縮させようって作戦かな。こういう観察ができるってことは僕は自分でも思っている以上に冷静かも。


本当は冷静というより、頭がパニックを通り越して、現実逃避モードに近づいているだけなんだけどね。


ああそうだ、こういうときに『のんびり過ごせる』チートアイテムのブレスレットを使ってみたらどうなるだろう。もしかしたら強制的に現実逃避モードになれるんじゃない?


そうだ、さっそく試してみよう。実際にどういうことになるのかは、くわしく説明されていないから知らないけれど、いままでも何の効果もなかったから、ここでも何もおこらない予感しかしないけどね。


腕のブレスレットを眺めながら、現実逃避の妄想をはじめた。


101番の商談室に入ると、あまり質が良いとは思えないテーブルが真ん中にあって、向こう側とこちらか側に、こちらも堅そうな安物の椅子が二脚ずつ置いてある。

上等な来客用じゃなくて、一般の商談用の部屋なんだろうな。


こういうときの座る場所は、僕は客として来たわけじゃなくて謝罪に来たので、下座のドア付近の椅子に座るべきだろうな。異世界でも上座下座ってあるんだろうか。


椅子に座ると、早速僕は腕のブレスレットの中央の青いラインを手前側にゆっくり回してみた。ちょっとドキドキする。いったいこれから何が起きるんだろう。


緊張感をブレスレットに向けることで、どんどん現実逃避していった。


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