49.蒼の誓(4)
そのあと、勝手に盛り上がってる家族にすっかり溶け込んだアゼリアは、とても楽しそうに雑談していた。
ついでにお母さんが、夕食はまだだったらしいアゼリアとボコボコさんに、残り物でよければといいながら、言葉とは裏腹の山盛りの夕飯を出していた。
アゼリアは、まるで実家に帰ってきたかのようにくつろいだ様子で、食事を堪能しながら楽しそうに話を続け、「じゃあテムリオちゃん、あとでクランに顔を出してね」と、まるで僕のことはついでみたいに添えてから帰っていった。
「アゼリアさんって、どんな強面のお嬢さんかと思ったら、とっても楽しい方ね。」
お母さんはすっかりアゼリアが気に入ってしまったようだ。
こうやって、いつもの静かなパン工房の朝に始まった我が家の一日は、慌ただしい夕げで幕を閉じた。
翌朝、アゼリアの『蒼の誓』クランにまっすぐ行くのは、少しだけ癪に障るような気持ちなので、朝食を済ませて、お弁当を持つと、冒険者ギルドのほうに向かった。
実はとても魅力的な依頼を見つけていたから、それを受けてみたかったんだ。
その依頼は「風車の修理。修理内容:羽根台のくさび交換。」とあり、領都の近くの村って書いてあるから、オダルティ村みたいに往復何日もかかる秘境なんてことじゃなさそう。
「風車の実物を見てみたい」というのがこの依頼に魅力を感じた理由だ。外国の絵はがきや、パソコンの壁紙でしかみたことのない風車には惹かれるものがある。
まだ依頼書はあるかな……、冒険者ギルドに到着したら、まっすぐに掲示板の方に向かった。
「おいお前、俺たちはEランク冒険者のパーティだが、これから魔グモ退治に行くんだが、一緒に行かないか。」
少しだけ僕より年上に見える男の子に声をかけられた。
みると三人パーティみたいで、声を掛けた男の子は、剣を持って鎧も身につけてる幼いながらも剣士の格好が似合ってる子だった。もう一人は、ちょっと体格に合わなそうな大きい盾とハンマーを持ったやはり同じくらいの歳に見える男の子で、もう一人は弓矢を持った、ちょっと栄養が足りないかなといった感じの長身の男の子だ。
「どうして俺に声を掛けたんだ? 丸腰なのはみればわかるだろう?」
「だってお前、攻撃術士だろう? それもスタッフなしで戦えるなら、そこそこの使い手だと思って声を掛けたんだが。見ての通り俺たちのパーティーは、ヒーラーが抜けたあと、魔術が使えるのがいなくて困ってたんだ。参加してくれないか?」
ああ、勘違いか。
「申し訳ないけど、俺は魔法は使えない。Gランクだから武器はいらないんだ。」
「えっ、そうなのか。それは悪かったな。Fランクになったら、俺たちのパーティに入ればすぐにEランクになれるから、あらためて仲間になってくれよ。俺はライク、こいつはエノで、こっちはベラスだ。」
僕がGランクとわかっても、馬鹿にするような様子もなく、人なつこそうに自分たちを紹介した。僕は「テムリオだ、そのときはよろしく頼むよ」と握手をした。
そうか、丸腰でギルドの中をウロウロしてると、そういう勘違いもされるのか。まるで自信満々だから武器を持っていない、みたいな雰囲気が出ちゃっていたのかな。
何だか依頼を受ける前に気勢をそがれたみたいな気分になって、冒険者ギルドの建物の中にいるのが急に恥ずかしく感じてしまった。
こういうときにアゼリアなら、ちゃんと相談に乗ってくれるのだろうか。わざわざ僕の家まで来てくれたのに、クランを避けるのって違うかもしれないな……。
などと、どんどん暗い方向に考えが行ってしまい、気がついたら冒険者ギルドを出て、アゼリアの『蒼の誓』クランの建物の方に向かって歩いていた。
『蒼の誓』クランの建物は、冒険者ギルドからは結構近い。
門番のボコボコさんことアレックは、すっかり顔が元通りになったようで、前回と違ってニコニコ顔で僕を屋敷の中に案内してくれた。今日僕が来ることは伝えてあったから、来たら中に案内するよういわれていたんだろうな。
あれ?でも門の警護はいいの?と思ったけれど、アレックは気にする様子もなく屋敷の中に入っていくと、ちょっと待っててといって2階の階段を登っていった。
しばらくすると、ドドドと階段を転げ落ちる大きな音とともにアゼリアさんを先頭にクランメンバーが下りてきた。転げ落ちてきたと感じたのは勘違いだったみたいで、完全装備の衣装が大きな音を立てていただけみたいだった。
普段からこんな重装備をしているのだろうか。手に武器を持っている人もいるし、アゼリアも腰に下げた剣が揺れている。部屋の中でもくつろいでいないみたいだ。
「私のテムリオちゃあああん。やっときてくれたのね!」
両手を広げて突進してきたのを、さっと横によけて躱した。
もちろん『蒼洞のアゼリア』が、その程度で僕を逃すはずもなく、気がついたらアゼリアの固い鎧の胸の谷間の中にいた。苦しいギブ、ギブ。
大好きなペットを捕まえたアゼリアと、珍獣をみつけたメンバーの、それぞれのキラキラの目の歓迎を受けて、一騒ぎしてから、少し豪華な作りの応接室の椅子に座って、どことなく気品のあるメンバーの一人が入れてくれた、ミルク入りの甘くない紅茶をすすった。
嬉しそうなアゼリアは僕の隣にぴったりくっついて離れない。
「はい、芋ようかん」
などといって、確かに、見るからに浅草の老舗のお店で売ってるのにそっくりな芋ようかんを一口サイズにカットして僕の口元まで持ってきた。
「へ、あの自分で食べるので」
といっても許してくれない。仕方なしにあーんして食べさせてもらった。
「お口に入れたままで、ミルクティーを含んでみて。ものすごく美味しいから。」
アゼリアの勧めるままにミルクの入った紅茶を口に含んで、口の中で芋ようかんを溶かしてみたら、確かに絶品の味になった。全く甘くないと感じていた紅茶が芋ようかんとミルクが溶け合った口の中で、超絶甘い飲み物に大変身している。和と洋が合体して、とんでもない美味しい飲み物になったようだ。
でも元の世界の知り合いに、この組み合わせが絶品だなんて言っても誰も信用しないだろうな。勧めても絶対に自分では試してみようなんて思わないだろう。僕だって無理矢理アゼリアに口の中に放り込まれなければ絶対に試そうなんて思わない。
「この紅茶のミルクは濃い方ですね。どのくらい入っているのですか?」
さきほど紅茶を入れてきてくれたどことなく気品のあるメンバーの人に聞いてみた。
「ああ、これは牛乳を温めてそこに紅茶を入れたものだから全部牛乳だ。冒険者は体力を使うからこれがいいんだ。」
なるほど、牛乳を飲む際に、紅茶で味付けをして飲みやすくしたという感覚なのか。
「紅茶なんて洒落たものを出してくるのはセルディオしかいない。貴族崩れの冒険者だ。」
僕の家に来たことのあるトラヴィスが、セルディオを紹介してくれた。
「トラヴィス、貴族崩れはないだろ。これでもれっきとした男爵家の現役貴族だぞ。」
「そのお貴族様が、なんで騎士をやめて冒険者になんかなるかな。」
トラヴィスは、相変わらずセルディオに悪態をついている。とても新鮮な光景だ。エルから聞かされていたけれど、平民が貴族の不評を買うとその場でバッサリされても、理屈抜きで平民が悪いということになるそうだから、貴族をからかうなんてとんでもない事だ。
まあエルの話も子供が貴族の前で無礼を働かないよう誇張してお父さんやお母さんが話したんだろうけどね。
「そうだな。私のテムリオちゃんには、メンバーを紹介してなかったな。自己紹介でもするか?」
「ええや、そねんことしても、いっぺんには覚えれんじゃろ? 毎日クランに来とりゃあ、自然と覚えるけぇな。」
この人はエルヴィローネ。名前はしっかり覚えてた。アゼリアの次に名前を覚えた人だからね。
エルヴィローネは、素敵な薄紫のローブを身にまとっていて防具はつけていない。ちなみにローブという呼び方は今知った。話題が途切れたときに天気の話をするのと同じ感覚で、「エルヴィローネさん素敵なドレスですね」と言ったら「ドレスじゃのうて、ローブ。」と訂正されたから。
冒険者だから、おしゃれ好きな、ドレス姿の守られる側の女性の目でみられるのがいやなのかも。それにしては耳には大きめなキラキラ光るピアスをしていたり、飾り気のない「ただの美女」のアゼリアに比べると結構おしゃれだけど。
他にもう一人防具をつけていない男性がいて、寒くもないのに足首くらいまであるような長い外套を羽織っていて、嫌でも目立っていた。この外套も別の呼び方があるんだろうな。
すぐにこのクランの雰囲気はわかった。みんな家族のように仲が良くて、信頼し合ってる。僕は『蒼の誓』クランのみんなが、いっぺんに好きになったようだ。
とても貴重な反応をいただいてます。
すなおに嬉しいものですね。
こんなに励みになるものだとは知りませんでした。
皆様ありがとうございのす。




