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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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41.魔鳴猫と、少女と、お母さんのお菓子(2)

今回は少女のお話です。


長かった依頼が完了した直後なので、今日は冒険者ギルドはお休みして、家のお手伝いでもしながら、のんびりしていようかなと思ったのに……。


店先の掃除がおわったら、あとはお母さんに「今日は家のお手伝いもやらなくていいから、のんびりしていなさい」と言われて、いきなり何もすることがなくなってしまった。


エルは朝早く図書館に行ってしまったので、こういうときの僕は、普通何をしていたのか聞くこともできない。


しょうがないから、家の周辺でも少し歩いてみようかな。

ここに住んでるのに、近所について全く知らないって、かなり不自然だからね。


でも近所の人は、たぶん全員が僕のことを知っているのに、僕はほぼ全員を知らないから、道で誰かに行き会ったとき、どう反応すればいいのか全くわからない。


まあでも、そこは前の世界でも近所のおじさんおばさんによくやってたけど、下を向いて顔を合わせないようにして、気がつかない振りして黙ってすれ違うってのでもいいかな。基本小心者なので。


そんなろくでもない対処法が通じるはずもなく、通りに出て、近所のおばさん連中がたむろしているそばを、そーっと通り過ぎようとしたら、襟首をつかまれて、強引に井戸端会議の中に放り込まれてしまった。


「テムリオ、エルから聞いたよ。一人でオダルティ村まで行って仕事をしてきたそうじゃないか。」

「それも一週間以上も行ってたって聞いたよ。」

「話しておくれよ。オダルティ村って、どんな村だい。」

「やっぱり神殿でいってるように異教徒の村だったかい?」

「筋肉もりもりの、若い働き者の男は、いっぱいいたかい?」


うわっ、おばさんは、ひとりでも強敵なのに、5人もいるよ。

それに異教徒の村って何。そんな話はどこからも聞いたことないけど。


確かに村に神殿はなかったけど、村人は信仰心が高くて、何かにつけて隣のアルケジ村の神殿まで出かけているって聞いたから、それは誤解だよ。


まあそんなことはこの際どうでもいいけど、確かに10歳の僕の歳なら、みんなおばさんだけど、元の世界で23歳まで経験してる僕としては、一番若いおばさんなんか、ほとんど同級生と言えるくらいに若く見えるからね。


そんな、おばさんだけど、女子って言いたくなるくらい若々しい人たち、いわゆる「おばさん女子」に、まるで抱きかかえられるほど大接近されたら、免疫の無い僕は口から泡吹いて倒れそうだよ。


「……あはは、ごめんなさい。今日のところはお話相手は勘弁してね。でも確かにオダルティ村の男の人は、俺くらいの子供まで筋肉だらけで、すごく力強かったよ。農業やってるからね。そういう話でよければ、こんどちゃんとお話しするよ。」


そう言って、目を輝かせている「おばさん女子」から、何とか解放してもらった。


石畳の中央通りからは所々さほど広くない未舗装の横道がいくつもあったので、適当にそのなかのひとつの横道に入ってみた。ちょっとした冒険気分。でもすぐに裏通りに出たので、一分もかからずに僕の冒険の旅は終わってしまった。


ああこの裏通りが、家の裏木戸の外側にあった道だね。それなら、家とは反対の方向に少し歩いてみたいから、南の方に向かってみよう。


しばらく行くと、どこかの家の裏庭の縁台で、小さな二人の女の子が、何やら深刻そうに下を向いて小さな声で話をしている光景が目に入った。


「ほら、もう泣かないでルシア。サラまで泣きたくなっちゃうよ。」


サラって、今朝お店に来たサラなのかな。そういえば膝の上に魔鳴猫が乗ってるから、たぶんそうなんだろうな。8歳の子たちにしては少しシリアスな話をしているみたいだから、そっと通り過ぎようっと……。


「あっ、テムリオお兄ちゃん」


見つかってしまった。


「おや、サラとルシア、こんなところで何のお話をしてたの?」


声を掛けられて、初めて気がついたような顔をしてみた。ルシアという子も、エルと一緒に薪拾いに行った子だよね。きのうエルの話の中に何度も出てきていたから、すっかり名前を覚えちゃったけれど、ルシアはいったいどうしたんだろう、せっかく可愛い顔してるのに、泣き顔じゃ台無しだよ。


でも8歳の女の子達に声を掛けても大丈夫なのかな。どうしても元の世界の23歳の自分がここにいるようで、かなり後ろめたい。


「テムリオお兄ちゃん、ここに来てルシアのお話を聞いてあげて」


サラ、そうは言うけど、サラからみたら、23歳は絶対に声かけちゃいけないオッサンだからね。そう簡単に……


「うん、わかった、そっちに行くね」


いや簡単だった。自分が10歳で、二人と充分仲良しできる歳だったことをうっかり忘れるところだった。


「それでルシアは、何がそんなに悲しいんだ?」


ルシアのすぐ隣に座って聞いてみたら、なぜかモジモジしながら、サラのほうに体を寄せて僕を避けるようにしている。ああごめん、近すぎるよね。


気持ちルシアからよけるようにずれると、ようやく姿勢を戻したルシアが、ぽつんぽつんと話をしてくれた。


ルシアの声って、小鳥の鳴き声みたいに高い声をしている。なんとなく透き通って心地いい声だ。隣のサラが、乾物屋のおばさんみたいに、ちょっと濁りのある声だから余計そう感じるのかな。


ああ、乾物屋のおばさんって元の世界で駅前にあった乾物屋の事だよ。自家製の美味しい漬物をたくさん売ってる店なので、よく仕事の帰りに寄って漬物を買ったけど、そのときのおばさんは、かなり威勢のいいおばさんで、「いらっしゃい、いらっしゃい」と低い濁った声で店先でいつも呼び込みしてた。


サラの声に濁りがあっても、いやな声じゃないよ。それもまたとても可愛らしい。ドラムの底にスナッピーというのがあって、わざわざ雑音を出すことで心地いい響きを出しているけれど、あれと同じような心地よさのある声だ。三味線にも「さわり」というのがあるけれど、あれと一緒。


ルシアのお話は、たぶん8歳の子にとっては、とても深刻な悩み事なんだと思う。僕も軽く聞き流さないよう、真剣に聞いてあげた。


話によると、昨日エルとサラとルシアの三人が薪拾いに行ったのは、元々はルシアが行こう誘ったのがきっかけだったのだそうだ。


ルシアの家は型紙屋さんなのだそうで、お父さんは腕の良い型紙職人で、仕事は家でやっているのだそうだけど、最近伏せり気味で、仕事もはかどっていなくて、お父さんもお母さんも少し神経質に、小さな言い争いをすることが増えているんだって。


つい最近も、燃し木が少なくなったから、燃し木屋さんから買おうという話になって、今は現金をあまり使いたくないから少し我慢しようとお母さんが言ったら、仕事ができないことで皮肉を言ってるってお父さんがすねて、それでまた家の中が暗くなったという話だ。


なんとか、お父さんとお母さんに前みたいな元気な笑顔に戻ってほしくて、ルシアがいろいろ考えた結果、薪を拾ってきておうちの手伝いをしようと思いついたのだそうだ。


薪拾いなんて初めてのことだったので、いつも行って慣れているエルと、仲のいいサラの二人を誘って行ったみたい。


心配したお母さんからは、何度も何度も「早めに帰ってくるんだよ」と念を押されたけれど、頑張って背負子(しょいこ)に拾った薪を縛り付けたら、重くてなかなか足が進まず、「わたしの倍もあるから、こんなのは無理だよ、半分捨てなよ。」というエルの注意も聞かずに、必死に頑張って、ようやく南外門が閉まるぎりぎりの時間にたどり着いたそうだ。


エルと僕の二人で薪拾いに行ったときエルが背負っていた薪の量を思い出したら、その倍の量なんて、たぶん僕にだって無理って気がした。


こんなに持って帰れば、いっぱいお父さんとお母さんに褒めてもらえるから、そうすればきっとみんなで笑顔になれるって想像したら、重いのも全く気にならなかったそうだ。


「ただいま! お母さん見て! こんなに薪を拾ってきたよ!」と歌うように元気に家の中に入ったら、お母さんは全然笑顔じゃなかった。


「いま何時だと思ってるの、この子は。くれぐれも早く帰っておいでって、お母さんは何度も言ったろう。聞いてなかったのかい。全く親の言うことも聞けないなんて、悪い子だよ!」


と、とても怖い顔で叱られたんだって。


何も言えなくなって、薪を納屋に片付けたら、部屋に帰って、ずっと泣き続けていたそうだ。そうしたら、「ごはんが冷めるから、早く二階から下りてきて食べなさい!」と、また叱られて、顔をぐちゃぐちゃにしながら、今度はお父さんとお母さんの二人からお説教を聞かされながら夕飯を食べて、そのまま何も言わずに部屋に帰って、ずっと泣きながら寝たんだって。


そして今朝も、あまりご飯は食べたくないと言ったら、また叱られて、少しだけ口を付けてから、しくしく泣きながらサラの家にきて、今その話をしてたところみたい。


「私ね、駄目な子なんだよ。おうちのためには何の役にも立たない子なんだ。お父さんとお母さんに叱られてもあたりまえなんだよ。


六歳の時は、お父さんもお母さんもね、『こんな小さいのに、おうちのお手伝いができて、いい子だね』って毎日褒めてくれていたんだよ。だからとても幸せだった。もっといっぱいお手伝いしようって張り切ってた。


でも七歳になったら、何処の家でも七歳の子が家のお手伝いするのは当たり前だから、お父さんもお母さんも全然褒めてくれなくなった。それでも褒めてほしくて頑張ったんだよ。ルシアにできるお手伝いは何でもやった。でもやっぱりどんなに頑張っても、お父さんもお母さんも六歳の頃みたいに褒めてはくれなかった。


それで八歳になったら、『八歳なのに、こんなこともできないの』ってよく言われるようになった。ルシアも、一杯頑張ったんだよ。でもやっぱり『できない子』になっていった。ルシアは、家のお手伝いもできない駄目な子になっちゃったの。」


ルシアは、自分を責めるように、盛んに自分の事を『できない子』『駄目な子』『役に立たない子』と繰り返していた。


「だからもう頑張っても仕方ないから、頑張るのはやめようって思う。」


ああ、これじゃサラもお手上げになるはずだよ。この際、テムリオお兄ちゃんでもいいから助けてって顔してたもの。


よし、じゃあオダルティ村では、見事に恋のキューピットになった、このテムリオ様が、洗濯ばばあの言葉によれば『威圧』の力で、今度はルシアのために頑張るか……。


大丈夫だよ、ルシアのために、ルシアのお父さんとお母さんに説教に行く! なんてことはしないからね。小心者の僕にそんな恐ろしいことができるわけない。ここはルシア説得の一択だよ。


「ルシア。ルシアはいま心がちょっと傷ついてるんだよ。わかるかい?」


ルシアはサラが渡してくれた花の模様の入ったハンカチで涙を拭きながら、こっくりと頷いた。


「もし手に傷ができて血が出たとき、ルシアはどうする?」


「ヨモギを揉みつぶして、傷にあてて血を止める」


なにそれ! そんな不衛生なことしちゃだめだよ!

予想外の返事だったので、一呼吸入れさせてもらおう。


「……そうだね。血を止めようと思うよね。傷口を叩いて、もっと血を出そうなんて絶対に考えないよね。」


うっ、とその光景を想像したらしいサラが、眉間にしわを寄せてうなった。


「それと一緒なんだよルシア。いまは心に傷ができたんだから、その傷を広げるような事を考えちゃだめなんだよ。大人達が、いくらルシアのことを『できない子』『駄目な子』『役に立たない子』って言ったとしても、ルシアだけは自分の事を信じてあげなきゃ。」


ルシアは小さく頷いてる。


「ルシアの親友のサラやエルがルシアを慰めるみたいに、ルシアも自分のことを一杯なぐさめてあげて、ヨモギみたいに心の傷にそっと塗って傷をふさいであげようよ。」


ルシアは、静かに、うんうんと頷いた。


自己否定感って、わかるな。僕も多分この頃の歳は、こんなだったよ。思春期直前には、誰でもそうなる時期があるんだ。そういうときは、自分だけは自分の味方でいる。それが一番の解決方法なんだよ。そうやって乗り越えると、そこにはもっと大きい思春期って壁が待っているんだけどね。まだルシアはそれに気づいていない。


そんなことを考えていたせいか、ふと、まだ子供のはずのルシアにほんのわずかな成長の気配を感じてしまい、ハッとしてあわてて視線をそらした。


その瞬間、めざとく気づいたサラに、ゴミを見るような目で睨まれた。どこかでこんな目で睨まれたことがあったような……。


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