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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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39.農薬を売る男と、愛の魔法(11)

ホルンにはF管と呼ばれる管があります。口径はおよそ12mm前後。

このF管という呼び方は水道管でも使われていて13mm管のことをいいます。

それでふたつのF管には何の関係も無いというのが定説。ホントかな。


「結局引き留めることになってしまって悪かったな」


笑いながら謝っているサーシンに、明日になれば荷馬車で送ってやれると言われたので、そういう予定にしてもらって、宿屋にあと一泊の予約に行った。


「お昼は渡した弁当を食べるのかい? せっかく宿のうまいお昼ご飯があるんだから、それはやめて、宿のお昼ご飯を食べなよ。」


そう言われたけれど、お弁当も結構美味しそうだったので、これでいいですと伝えた。それに僕には、お弁当をさらに美味しく食べる秘策がある。


食堂のテーブルに弁当を広げると、野菜の漬物が添えられていたので、そこにサーシンから譲ってもらった唐辛子の粉、つまり一味唐辛子を振りかけた。


「うーん、これはうまい。懐かしいな、キムチモドキの完成だ。」


ひとりではしゃぎながら食べていたら、宿の女将さんが前掛けで手を拭きながら僕のそばに来て、不思議そうに一味唐辛子をのぞき込んだ。


「ああ、おばさん、これね。もうじきサーシンが売り出すと思うから、この食堂でも使うといいよ。名前は『唐辛子』だ。かなり辛い香辛料だけど、一度味わうと、やめられなくなる辛さだよ。」


お昼ご飯を食べ終えて、のんびりしていたら、サーシンがやってきて、村長が広場で大事な話があるので来てほしいそうだと言われた。


「もう依頼は終わっているから、追加料金が必要になるぞ。」


と軽口を叩いたら、「当然そのつもりだ」と本気にされてしまった。まあくれる物なら貰うけどね。


広場に到着すると、まだお祭りの熱狂は冷めていない様子で、朝にはなかった屋台もいくつか出て、子供達が走り回り、楽しそうにしていた。


壇上では、村長や長老達が和やかに酒を酌み交わしていて、僕のことを手招きしている。横の席にはヘルドと、「手を離してくれないの」と困った顔で苦笑いするリゼッタが誇らしげにブレスレットを腕にはめて並び、なぜか洗濯ばばあのグラサもいた。


「グラサから聞きました。転生者テムリオ様。転生者様とは知らず、失礼の限り、お許しください。あらためて自己紹介いたします、このオダルティ村の村長をしておりますヘルデンと申します。」


すると長老達も次々と立ち上がって自己紹介を始めた。


「丁寧なご挨拶ありがとうございます。でも転生者というのはグラサの誤解です。俺は領都にあるパン屋のせがれで平民です。」


「ほら、言ったろう。本当に転生者様だとしても、身分を隠すのには訳があるんだから、おやじもちゃんと平民のテムリオとして扱うのが礼儀だぞ。……丸腰だけどな。」


ヘルドは子供にするような口調で村長に説教をした。丸腰は余計だけど。


「お、おうそうだな」


息子の説教にタジタジの村長は、蚊が鳴くような小声で返事をした。


「そこでだ、今回の緑虫……じゃなかった、なんて言ったか?」


「アブラムシです。」

僕がヘルドの代わりに答えた。


「そう、それ、そのアブラムシ。それの退治方法を伝授してくださったテムリオ……さんには名誉村民の称号をお贈りし、また『農薬』を完成させて村を守った、ヘルドと、サーシンと、グラサと、それにサーシンのところで手伝った下働き4人には、長老会議満場一致でオダルティ村民栄誉勲章を授与することになった。」


「丸腰はともかく、そういう勲章なんてのはアブラムシが完全に駆除されてからだ。まだ農薬は全然足りてないんだからな。村のみんなが協力してくれなければ到底作れない。」


ヘルドが、すっかり問題が解決したと思い込んでいる様子の村長や長老達に釘を刺した。


「ああわかってる。そこでだ、村のみんなの協力を仰ぐにも、今のヘルドじゃ厳しいだろうから、この際、ふたりの結婚を機に村長の役職をヘルドに譲ることにした。病虫害問題を解決に導いた功績は大きい。これも長老会議満場一致の決定だ。」


「なにっ! それはいくら何でも早計だろう。おやじの歳なら、これからだ。」


「そうですよヘルデンおじさま。ヘルドには、まだまだ早すぎます。」

「なっ……」

そっちか、という顔でヘルドはリゼッタの顔を見た。


ヘルドの未来は、リゼッタの尻に敷かれるということで確定したようだ。


そうだ、ここに来たついでだと思って、背中のザックから、きのう書きとめておいた農薬の作り方と、石鹸の話、噴霧器の話、木酢液の話が書かれたメモを取り出してサーシンに渡した。


「この通りの物ができれば、最終的には魔法が全くいらない農薬が作れると思うぞ。」


サーシンは喜んでくれたが、自分には無理だと言って、その場でヘルドにそれを渡した。


「ここまで書いてもらったら、冒険者ギルドの依頼料だけで済ませるわけにはいかないな。これはこの先もずっとこの村に恩恵を与え続けるものだぞ、おやじ。」


「そうだな、何事も遠慮されるテムリオさんには、これから毎年、村の農産物をお届けするというのではどうだ?」


それがいい、それがいいと、勝手に決まったみたい。僕の意見は全く聞かなかった。


「ああ、これはみんな『威圧』ですね、転生者テムリオ様。」

僕が渡したメモを、食い入るように見つめていたグラサが、満足そうな笑顔で僕に話しかけてきた。


「その『威圧』って、何のことなの? 俺は知らないのでグラサ教えて。」


すると、事もなげにグラサは一言で答えた。


「それは魔法を使わないで奇跡を起こす力のことです。」


何でも、始まりの王が起こした奇跡の数々は、いずれも魔法を全く使わずに、『威圧』の力だけで起こした奇跡なのだそうだ。


もしかしたら転生者オダルティも、僕と同じく魔力ゼロだったのかも。


その力は、未だにオダルティ村に残っていて、それ故に魔草は村には全く生えてこないのだという。


ああ、道理で、あの白い小さな玉が上下に揺れてる雑草を、ここでは見かけないわけだ。転生者オダルティが、何百年も効果が続くなんて、とんでもない除草剤でも撒いたのかな。


「おい丸腰、この石鹸と噴霧器は、俺が、必ず作ってみせるぞ。」

ヘルドは結構嬉しそうだ。研究熱心な彼ならきっと作れるだろう。


さ、仕事だ。


僕は、ザックの中から、サーシンにサインをもらったばかりの完了報告書を取り出して、備考欄に一泊増えて追加料金がかかる事を認める内容と、預かり金をその分多めに預けることをサーシンに書いてもらって、最後にサインを入れてもらった。


サーシンは、唐辛子畑のアブラムシは、みんな退治したので、明日は遅効性農薬を畑全体に撒くと嬉しそうに話していた。


今日はやることは何もないので、広場のお祭りを堪能して、夕方には盆踊りみたいなのにも付き合って、楽しい一日を過ごした。


昼間は楽しそうな楽器の演奏が鳴り響いていたのに、そろそろお祭りも終わりの時間になったら、妙にもの悲しい、ゆっくりとしたホルンの調べが広場に響いていた。


次の日の朝は、本当に気の休まる朝だった。二階の窓から見る景色もこれが最後。落ち着いて眺めると、こんなに綺麗に輝いている村だったんだね。家の屋根瓦が素焼きの色をしていて、まるで地中海の家並みのよう。どの家のバルコニーにも可憐な花がたくさん咲いていた。


リゼッタ、大都会より、この村の方が何倍も素敵だよ。


ゆっくり起き出して朝ご飯を食べ、昨日と同じようにお弁当を作ってもらい、一泊分の宿賃を精算して、村長の用意してくれた荷馬車に乗せてもらって、駅馬車のあるアルケジ村まで送ってもらった。


アルケジ村でも一泊して、翌朝、領都行きの駅馬車に乗り、一日がかりで領都に着いた。


こうしてみると、やっぱりオダルティ村は秘境だったなと、変な感想を口にして、まずは冒険者ギルドに依頼完了の報告に行った。


「おや、テムリオさん、依頼完了ご苦労様でした。今依頼料と精算金の計算をして参りますので少々おまちください。」


そう言うと、丁寧な言葉遣いの方の担当者が、裏の方に入っていこうとして、思い出したように戻ってきた。


「それと、ひとつギルドから謝罪しなければならないのですが、テムリオさんの受けた今回の依頼は、指名依頼でしたのに、オダルティ村の虫の害による農産物被害を『農薬』を使って解決させると書かれた依頼書を、別の担当者が気づかずに掲示板に掲示してしまいました。気づいたときには依頼書は何物かに持ち去られた後でした。」


ああなるほど、あいつが『農薬』という言葉を知っていたのは、そういう事だったのか。


「そのことなら大丈夫です。持ち去った人に心当たりがありますが、何の問題もありません。」


冒険者ギルドを出た僕は、家に向かって真っ直ぐ歩いて行った。

家に近づくと、お店の中から僕に気づいたエルが、勢いよく飛び出して、

「おーにーいーちゃーーん!」

と突進してきた。


がっしり受け止めて、背中をぽんぽんした。


― 映画『The Rainmaker』に敬意を込めて ―


『農薬を売る男と、愛の魔法』の章は、今回が最終回です。


嘘と本音、ほんの少しの奇跡──


古い映画には、そんな雰囲気のストレートな物語が多くて、私はとても好きです。

その空気感が伝わるように、“ド真ん中直球”で描いてみました。

最後まで読んでくれて、本当にありがとう!


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