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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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38.農薬を売る男と、愛の魔法(10)

アブラムシが死んだのを目撃した村人達は興奮状態になり、ほんの少し前までのリゼッタの悲しいお話なんて、全部流されてしまっている。


すると、ここまで改心したかのように殊勝に語っていたヴァリオが、ここぞまさに詐欺師の本領発揮とばかりに、いい加減なことを言いだした。


「おお、村の皆様。私の農薬魔法の偽りの力は、リゼッタの愛の力の前にあえなく敗れ去りましたが、その愛の力が再び魔力となって農薬の魔力を復活させたのです。まさにこれは奇跡です。これからは、この農薬の名前は『愛の魔法』と名付けましょう。」


すると、くるりとリゼッタの方を振り向いて、あの鳥肌ものの愛の言葉を再びふりかけ始めた。


「おお、リゼッタ。私の愛の真心が、これであなたにもわかっていただけたでしょうか。どうか私の愛を受け取って、私とともに歩んでください。」


リゼッタに手を差し伸べるヴァリオ。


「一緒に村を出たいとは言ったけれど、愛を受け入れるというのは……」という困惑した顔のリゼッタの後ろには、焦点の合わない目でうなだれているヘルドの姿があった。


ああ、面倒だな。本当はこういうことには、絶対に関わりたくないんだよね……。全く僕は、なんでいつもこういうときに貧乏くじを引かなきゃならないんだろう……。


僕は、愚痴をたらたらと垂らしながら、両足を広げて、両手を腰に当てると、壇上にいるヘルドによく聞こえるように広場の真ん中から声を張り上げた。


「ヘルド! 気持ちは、言葉に出して伝えなきゃ、伝わらないんだよ!」


ソラマメ畑で騒いでいた村人達も、その声に思わず僕と壇上のヘルドを見比べた。


そして僕が、握った拳をぐいっとヘルドのほうに突き出すと、ブレスレットが日の光を受けてキラリと光った。


その声に、うつろな目をしていたヘルドが、はっとした顔になって目の輝きを取り戻したかのように見えた。


……本当のところを言うと、あのブラック企業の上司に、いつも言われてたセリフだけどね。あの熱血上司は、そう言いながら、両足を踏ん張って拳を前に出して、「ガンバレ!」って、うざかった。あまりにも毎日言われてたから、朝の点呼みたいに頭に入っちゃってたんだよ。


すると、僕のほうを見て、こっくり頷いたヘルドは、力強く立ち上がって「リゼッタ!」と大きな声でリゼッタを呼んだ。


「はい」


困惑顔だったリゼッタが、その声に思わず返事をした。


「リゼッタ。お前の成人の儀式の時のお祝いの席で、お袋が『今度はヘルドの嫁取りだね。次期村長にふさわしい、領都のいいところのお嬢さんを探してやるからね』と言ったら、リゼッタは急に寂しい顔をしたろう。


俺はあのとき、『俺の嫁はもう決まってる。リゼッタ以外にいない』って叫びたかったんだ。だけどリゼッタの気持ちを確かめもせず叫んでいいなんて、とても思えなくて口に出せなかった。


俺はあのときのことが、今でもずっと心に引っかかっていたんだ。あのとき俺は何も言わずに逃げてしまって卑怯だったんじゃないかって。


そのあとリゼッタは都会に行くのがずっと夢だったと言い始めたので、俺の恋は、あのとき言葉にできなかったことで終わったんだとあきらめた。そして、せめてリゼッタの夢を応援しようと心に決めて今日まできた。」


「おう、前置きが長いぞ!」

どこからか野次が飛んだが、「うるさいね」とすぐに女将さん達に怒鳴られて、そいつはあわてて口を押さえていた。


「でも思いは口に出して伝えなければ伝わらないって、丸腰の勇者の友が今教えてくれた。その通りだと思った。だから、大分遅れてしまったけど、今言わせてくれ。


リゼッタ、俺は、ずっと、ずっと昔からお前のことが好きだった。もし俺でいいなら、そして、この村でいいなら、ずっと俺のそばにいてくれ。村から出て行かないでくれ。俺と結婚してくれリゼッタ。」


そう言って、リゼッタの前に跪き、ポケットの中から、黒光りする木の手作りのブレスレットを取り出して、そっと差しだした。

それは、長いこと出しそびれていたせいか、すっかり年季が入っていた。


リゼッタは、ヘルドが振り絞って愛の告白をしている最中、ずっとヘルドの瞳を見つめていた。結婚してくれとヘルドが叫んだとき、ついにリゼッタの両頬を熱いものが流れた。


「はい……どこにも行きません。あなたのそばにいさせてください。」


リゼッタは、その手の中のブレスレットを、そっと受け取った。


うぉーー!


それまで固唾を飲んで二人の様子を見守っていた村人が、一斉に大歓声をあげた。


お祭りの太鼓や笛やホルンを鳴らす者。歌う者。踊る者。紙吹雪を飛ばす者。小さな子供達は飛び跳ねて二人の周りをぐるぐる回り、大人達は祝杯だと、酒屋からワイン樽を持ち出して開け、思い思いの容器を持ってきて乾杯した。


不器用な二人が、だいぶ遠回りしたようだな……。


すると、お祭り騒ぎのどさくさに紛れて、そっと村を抜け出そうとしていたヴァリオが、何か思い出したように、あわてて戻ってきて、村長に向かって叫んだ。


「このヴァリオ=フェルンベルグが、全身全霊を傾けて、恋する二人のために、『愛の魔法』をかけ直したのですよ。愛の力は農薬をも超える偉大な力があります。二人を結ばせただけでなく、緑虫も一瞬にして駆逐しました。さあ、ちゃんと約束は守ったのですから、私のお金は返してくださいませんか。」


ヴァリオ、その言い訳は苦しすぎるぞ。僕は思わず笑ってしまった。


するとそれに釣られて村人達もみんな腹を抱えてゲラゲラと笑い出し、「村長、くれてやれ!」とはやし立てると、全員が「くれてやれ!」「くれてやれ!」の大合唱になった。


笑顔でぎこちなく抱き合うヘルドとリゼッタも、その合唱の輪の中にいた。


ひとときの後、オダルティ村と書かれた大きな木の看板の下で、僕は馬にまたがったヴァリオをひとり静かに見送っていた。


「少年。このお金は君の物だから返しますよ。君なんでしょう、あの農薬を作ったのは。ありがとう、君のおかげで私は真人間になれそうです。」


「お人好しな村人だよね。詐欺師にわざわざ騙されてやるんだからさ。でもこのお金は、たぶん、ヴァリオが真人間になるための餞別として村人がよこしたんだと思うぞ。ありがたく受け取って、これを元手に、今度こそ本気で真人間になってみたらどうだ?」


するとヴァリオは、それには答えずに、

「いらないのでしたら、ありがたくいただいていきます。」

とニヒルな笑みを浮かべて、金の入った袋を鞄に放り込むと、馬の腹に軽く脚を当て、背中で僕に手を振りながら去って行った。


……そりゃ、夕日に向かっていくガンマンみたいで、かっこいいのはかっこいいんだけどね。いっても詐欺師だからね。それにまだ午前中だし。


あっ、そうだ、まだ午前中だよ。アルケジ村まで乗せてってもらえば良かった。馬なら今からでも夕方までには着いたのに。カムバック、ヴァリオ。


※本作はフィクションです。

登場する農薬の製法・使用法は物語上の演出であり、現実での再現・利用を意図したものではありません。


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