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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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25.神殿と日曜学校と図書館と(1)

パルテノン神殿って本当は極彩色の神殿だったのだそうですよ。

ギリシャ建築は白という誤解が広がって、中には美観上の理由でわざわざ白ペンキで覆ったりコーティングされた例もあったそうです。

異世界に転生してから五日目の朝を迎えた。

今日は日曜日で、家族と一緒に神殿と日曜学校と図書館に行く約束をしている。

日曜学校も図書館も、神殿の敷地内ということで、実際には同じ場所らしいけど。


エルはよほど楽しみにしていたようで、僕が目を覚ます前には身支度を整えて一階に下りていた。


僕も支度しながら、ブレスレットを腕に付けようと思ったけれど、付け方がわからない。

「巻き付け!」

といってみたけど、音声認識機能は働かなかった。


そういえば神の国のセシルフォリアさんが、名前を付けて呼べば巻き付くって言ってたことを思い出した。


そうか、名前を付けよう。


「うーん、じゃ『ぼんで』とか『いか』なんてどうだろう。」


名前の由来は……聞かないでほしい。どうせこの手のネーミングセンスは最低です、僕は。


元の世界のブラック企業でも、前の日から百個も考えて提出した僕のアイデアは全ボツになって、同期の、手をもみながら話す癖のあった男が、その場でひらめいたとして出した名前が採用された。


まあブラック企業だからね。そんなことは日常のことだった。


すると、ブレスレットの上に、あの神の国で見た光る三角形の小さい版みたいなのが現れてクルクル回り始めた。


ええと、決定しろという意味なのかな。

「じゃあ決定。君の名前はこれからは『ぼんで』だよ。」

そう言った途端に三角形が消えた。


試しに「ぼんで、巻き付け!」と言ってみたら、するすると僕の腕に巻き付いてきて、ピッタリとくっついた。


ふう、ブレスレットを腕に付けるだけでも一仕事。普通にバックルとかクラスプで止めるほうが簡単で良かったよ。ちなみにエルのブレスレットは、ゴムかバネでも入っているのか、引っ張ると伸びて簡単に手にはめられる。


日曜学校には、前の僕は、滅多なことでは行かなかったみたいだけれど、お母さんに怒られた日だけはおとなしく後をトコトコとついて行ったらしい。


今日は、珍しく家族全員で神殿にお祈りに行って、ついでにお父さん以外の三人で日曜学校と図書館に行く予定。僕が怪我から無事回復したのと、冒険者ギルドの初依頼を完了したことを家族で報告して感謝しようということになったのだ。


お父さんは神殿のあとでパン協会に顔を出してくると言っていた。


パン協会は零細企業向けに少額融資をしている地元の信用金庫みたいな役割ももっているらしく、お父さんは小型の焼釜を購入する資金の融資相談に行くそうだ。


元の世界の金融機関が頭にあった僕は、「融資相談窓口は日曜日でもやってるの?」と聞いてみたら、むしろ毎週日曜日に休む、うちのパン工房のほうが珍しいみたいな話をしていた。


新しい焼釜では、引き延ばした丸いパンの上に、肉や野菜をちりばめた上にチーズを乗せて焼くらしい。今の釜でも焼けないことはないそうだけど、とても薄く焼くので、大きい釜では火加減が難しいのだそうだ。


試作品だといって、お父さんが朝食の時に食べさせてくれた。確かに少し焦げすぎてる印象があったけれど、すごく美味しい。トマトはないのと聞いたら、「トマトって何?」とお母さんに逆質問をされて焦った。


市場でトマトによく似たものを見かけたんだよね。似ていたというよりトマトそのものだった気がする。この世界では呼び方が違うのかもしれないから、この次に行ったときに確認してみよう。


名前はどうしようということになったので、

「特に意味はないんだけど『ピザ』ってどうかな。」

と提案してみた。


『ピザ』はかっこいい呼び名だ、センスがいいと家族全員に受けが良かった。でも、別に僕が考えたわけじゃないので僕自身は微妙だった。


神殿は、まるでギリシャのパルテノン神殿かローマの神殿のような作りになっていて、荘厳な気持ちにさせられたけれど、神殿の最奥に行ったら、なぜか賽銭箱があって、思わずコケそうになった。


1Gコインを家族それぞれが賽銭箱に投げ入れてから手を胸に当てて、家族の無事などをそれぞれに感謝した。


「おや君はあのときの………えーと」


神官と思われる人が、僕に近寄ってきた。


たぶん成人の儀式でお世話になった神官なのだろう。忘れるよね。今年成人になった子なんていっぱいいるだろうし。


僕は少しだけ頭を下げて自己紹介した。家族の挨拶を見ていたら、神官の前でも軽く頭を下げる程度の挨拶でいいみたいだったので真似た。


「そうそうテムリオさんでしたね。昨日の早い時間に、アゼリアさんのところの冒険者が神殿を訪ねてきましてね。いろいろとあなたのことを聞いていかれましたよ。

あそこのクランに入るんですってね。神の教義とは異なる基準でメンバーを集めている変わったクランですから、『属性なし』のテムリオさんに興味を持たれたのでしょうね。大変でしょうけれど頑張ってください。」


うっ、なにか凄い不快な言い方をしてる。


「神官様。あそこのクランからのお誘いは、きちんとお断りしました。」


お母さんも不快に感じたのか、きっぱりと答えた。本当はきちんと断ったわけじゃないけど、このくらい強く言ったほうがいいと思ったようだ。


領都で一番有名な『蒼の誓』クランに、今年成人の儀式を終えたばかりの冒険者が加入したなんて噂は、放っておくと領都中に広まっちゃいそうだからね。


「おや、そうでしたか。それはそれは……」


神官は、取り繕うようにつぶやきながらその場を立ち去った。


「お父さん、お仕事が終わったら、図書館前の広場に来てね。」

エルが明るい声でお父さんに手を振った。


日曜学校は神殿に併設されていて、すぐ横の建物だった。大学の講義室の小さい版みたいな感じの部屋で、中央に向かって半円を描いて机と椅子がそろえてあった。


神殿は領都内にいくつかあって、もっぱら貴族が通う中央神殿以外は、みな同じ大きさの神殿になっており、ここの「南神殿」は領都内のいちばん南にあるのだそうだ。


日曜学校に来るのは、南外門に近いあたりに住んでいる、どちらかというと領都内では、いちばん貧しい平民の家の子供達で、お母さんのように子供に付き合って親が来ることもよくあるみたい。


「エル、おはよう。今日はお兄ちゃんと、お母さんも一緒なのね。」


エルの友達のような、同じくらいの年格好の女の子が絵本のような物を胸に抱えて、おっとりした口調で話すと、エルのところにトコトコ近寄ってきた。


頭にかぶっているのは、ふわふわと白く輝く帽子。あれっと思って目を凝らすと、両脇から垂れ下がった、まるで子犬のように愛らしい耳が、声が聞こえる方に小さく動いている。あの帽子って、もしかして生きてる?


とても仲の良い友達のようで、エルは両手を広げてハグしていた。すると近くにいた数人の女の子も、すぐにエルのところに小走りで近づいてきて、あっという間に話の輪ができた。


お母さんも、その子達のお母さん達と話が始まって、僕だけポツンと残された。見回してみたけれど、僕と話が合いそうな男の子はいない。僕の半分くらいの歳と思われる男の子はちらほらいたけど、みんなつまらなそうにして、座っているだけだった。当然成人の儀式を終えたほどの男の子は見かけないから、結構僕は浮いて見える。


エルから聞いた話では、日曜学校といっても、神の教義について神官が講義するのが中心らしい。


そのほかに、文字や算術、領土の歴史、地理や魔法といったものが学べるらしい。

ただし、日曜学校に来るのは子供達なので、魔法の実践教育なんてのはないみたいだ。


騒がしい教室内で待っていると、先ほどの不快な神官とは別の神官が入ってきて、授業が始まった。まずは神に祈りを捧げるところから始まったので、他の人の真似をして祈っている振りをしておいた。


次に神の教えについて、しばらく大きな本を広げて講義していたけれど、僕も含めた子供達が大あくびをはじめたころになって、領土の歴史や国土の歴史の話になった。真面目にずっと神官のほうを向いて背筋を伸ばして話を聞いているエルって優秀な子なんだね。


ほとんど神話みたいな歴史話だな、と思って適当に聞き流していたら、いきなり「転生者」という言葉が神官の口から出てきたので、ぎくりとして、思わず椅子から落ちそうになった。


完全に眠気が覚めた。


大きな音をたててしまって、他の子供達に睨まれたけど、ほら、おかげでみんなも目が覚めたよね? ……一応、心の中で言い訳しておいた。


「……こうして、魔物によって荒れ果てたこの大地に、『転生者』と名乗る神の使いが、天より降臨されたのです。


その御姿は、まるで荒野で行き倒れた旅人のようだったと伝えられていますが、民の苦しみを知るために、みずから荒野で修行されていたのだとも伝えられています。


やがて『転生者』は、大いなる神の術をもって魔物をダンジョンへと封じ込め、残る魔物も、人里を遠く離れた奥深い山や谷へと追いやった結果、荒れ果てた土地は肥沃な大地へと姿を変えたのです。


こうして、すべての地を平らげた『転生者』は、降臨の地であるこのカリオネル領の旧都オダルティ村にて、国の始まりの王となられました。


それから長い歳月を経て、今年は紀元453年になります。

神殿はこの『転生者』の偉業を末永く後世に伝えるために建てられた神聖なる場所です。」


なんと、初代の国王は、僕と同じ『転生者』だったのか!


その『転生者』も、ここカリオネル領のすぐ近くに転生してきたんだね。神様が転生場所に選ぶ場所は、昔も今もあまり変わっていないってことなのかな。


でも、きっと行き倒れた旅人の体の中に転生してきたんだろう。それに比べたら僕の転生先は恵まれていた。


前の『転生者』は、偉大な力を持って国土を肥沃にして王様にまでなったものすごい人だけど、今回の『転生者』は、『のんびり過ごす』ことを第一の目標にした現実逃避の転生者。同じ立ち位置で比べるのは、とてもじゃないけど恥ずかしい……。


すると唐突に男の子の声がした。

「おしっこ」

せっかく妄想の世界に入り込んでいたのに、邪魔しないでね。


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