2.さあ異世界転生です!(2)
教訓めいた童話って、どうしても好きになれない。
アリとキリギリスの話って、断然キリギリスがいいって子供心に思ったのは私だけ?
一生働き続けたおかげて長生きできましたってアリより、短い一生を楽しく過ごしたキリギリスの生き方に憧れた。
「コホン。ええと、それではまず異世界についてのご説明ですが………」
僕の無知さ加減に心が折れかかったみたいな神様っぽい老人……じゃなかったセシルフォリアさんは、それでも何とか持ちこたえて、いちど咳払いしてから話を続けた。
セシルフォリアさんの頭の上に光る三角形が現れて、くるくる回り始めた。なんだろ。なにもない少し灰色がかった空間に、その光だけが不思議な光を放って輝いている。
「異世界とは、あなた様の世界とは常識も宇宙も異なる、まったく別の神が作った世界で、神の個性が色濃く表れます。」
うーん、わかったような、まったくわからないような。たぶん全然わからない。
不思議な三角形に見とれてた。
「どの異世界が良いかという選択はできませんが、ご希望いただければ転生者として異世界に生まれ変わることができます。」
しかしねぇ……セシルフォリアさんは選択肢があるかのように言っているけれど……。
「それで、異世界転生というのを選ばなかった場合、他にはどんな生き方があるの?」
「はい、転生しないという選択肢があるだけです。つまりあなた様は神定寿命ではなくご自身で選択した任意寿命が適用され、ここで人生は終了します。
今回は複数の神が、あれは気の毒という発言をしたので、異世界転生という選択肢をご用意した次第です。」
ああ、「神定寿命」ってそういう意味ね。「法定相続」みたいな?
いや「法定相続」だって、おじいちゃんが亡くなったときに親が何度も使っていたので覚えたけど意味はわからない。
「じゃあ、異世界転生ってことで………。」
あ、三角形が消えた。
あまり考えなしにあっさり言ったせいか、セシルフォリアさんは、そこで固まった。
しばらくそのままにらめっこが続いたあとで、セシルフォリアさんは、
「で?」
とひとこと言った。
うう、これは、あれだ。あの新人研修の時にいた、底意地の悪いOJT担当の言葉と全く一緒じゃないか。
「この会社でお前は何をやりたい」
「会社の発展のために尽くしたいです!」
「…………で?」
もうあのときは、会社に辞表をたたきつけて帰ろうと、本気で思ったけど、ギリギリのところで留まったっけ。基本が小心者だからできるはずがない。
「で? と聞かれても困ります。どんな答えを期待しているのか具体的に言ってください。」
すると、セシルフォリアさんは驚いたような顔で、慌てて言い直してきた。
「えっと、異世界転生といったらチートスキルでしょう。今時ラノベでもベタすぎて、話が出た途端に読者様には『はいはい、またその展開ね………異常な力で異世界を救うとかでしょ』と飽きられて終わるくらいにベタですよ。
異世界で生きていくのに必要な、特殊スキルを付与されるのは常識ですので、お考えがまとまるまでお待ちしていました。そろそろ決まりましたかという意味で確認したのですが。 」
うー、説明されればされるほどわからなくなるって、これセシルフォリアさんの特技なの?
でも単に僕が希望を言うのを待っていただけか。あのパワハラOJT担当みたいに、こっちを試したあげくに、まともに答えられなかったら新人全員の前で揶揄していじめるなんてことじゃなかったのね。
いやOJC担当にそういうことをされたわけじゃなくて、実際には気持ち悪く褒めちぎられたんだけどね。結局の所、イジメは受けた側がどう受け止めるかの問題だから。
「チート? スキル? 意味がわからない……。あ、いや説明は飛ばしていいです。どうせ聞いてもわからない。『付与』ってことは、その異世界転生とやらに必要と思うものを言えばプレゼントしてくれるって意味なんでしょう?」
どんなものが『チートスキル』なのか例を挙げてほしいと頼んだら、セシルフォリアさんは、少しだけ首をかしげてあごひげをなでるという「考える」仕草をしてから、おもむろに答えてきた。
「そうですねぇ。例えば本来はひとり1属性なのに、水や火などの全属性を備えた究極の魔法スキルを持つとか、ひとりじゃ絶対に倒すのは無理って決まっているはずの魔王を一撃で退治できるほどの異常なパワーを備えた勇者スキルとか……。そういうのがチートスキルですかね。」
ええ、なんか凄そうだけれど、現実味のない話だな。そもそも魔法とか魔王とか非科学的すぎない?あ、だから異世界なのか。だとしてもピンとこない。
「スキルとは自分の体に備わった能力のことなのかな。それの一般的じゃないのがチートスキルってこと?」
「それはユニークスキルと呼ばれています。チートスキルは秩序に反するスキルみたいな意味ですね。
砂漠の真ん中にいきなり可憐な花を咲かせるかわいい系魔法も、砂漠には花は咲きませんからチートスキルです。」
いや砂漠の真ん中でも可憐な花を咲かせるサボテンは普通にあるから。
「じゃあ、たとえば能力付与ってことじゃなくて、便利道具の付与というのではだめなの?」
「チートアイテムですね。それでも構いませんよ。たとえば異空間にいくらでも物を収納できるアイテムボックスとか、魔王退治の聖剣とか盾とか。」
やけに魔王退治にこだわるな。
「わかりました。あるったけのチートアイテム入りのチートアイテムボックスをください。」
「ああ、全能の神ですからそれは可能なのですが、残念ながら、付与されるのはレベル1でGランクのままレベルアップもランクアップもしないというものひとつだけです。」
要するに、それはかなり渋めな「実用性のないものに限定して、形だけ付与したことにしよう」みたいなものかな?
だったら、あの、もの凄そうな例を何で紹介したのか意味不明だ。
童話で「どんな願い事でもひとつだけかなえてやろう」というのがあって、幼い頃の僕は、「だったら、『どんな願い事もいくらでも叶う能力が欲しい』という願いをひとつだけでいいからかなえて」って言ったらどうなるんだろうなんて、童話の矛盾点にすぐに気づいたけれど、それは無理って事か。
「ではそのチートアイテムとやらで欲しいものがひとつだけあるのですが。」




