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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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15.冒険者ギルドに行こう(5)

ノックは3回が正しいビジネスマナーって、日本だけのガラパゴスマナーらしいですよ。

昔のアメリカの大ヒット曲に「ノックは3回」って曲があった。

会ってくれるなら3回、だめなら2回合図してって歌詞。

あれで3回が欧米のマナー、2回はNGって勘違いされたのかも。


「ただいま、お父さんお母さん、いま帰りました。」


僕が『属性なし』なのに冒険者ギルドに入りたいとゴネてたのなら、きっとお父さんもお母さんも、『仕事はなかなかみつからないのでは』と心を痛めていたろうな。


暗い顔で待たれると、どう反応したらいいかわからなくなってしまうので、できるだけ明るい声を出しながら、何事もなかったかのように玄関から家の中に入っていった。


「あら、お帰りテムリオ。もうすぐ夕食だから、手と足を洗っていらっしゃい。そのあとで二階からエルシェを呼んで来てね。食事のとき、お父さんからお話があるそうよ。」


お母さんは、たぶん意識して「冒険者ギルドはどうだった?」とは聞いてこない。本当は真っ先に聞きたいのを我慢しているんだろう。


「はあい!」


元気に返事して、手と足を洗ってから二階に上がり、トントンとドアをノックした。しばらくすると、そっとドアが開いて、とびっきりの笑顔のエルが、「えへへ」と言いながら、部屋の中に手招きしてくれた。


ベッドの上で「キュイ、キュイ」とごま粒目のリュミちゃんが二匹、鳴いている。

リュミちゃんと遊んでたんだね。

えっ? リュミちゃん、増えた?


「えっと、どっちがリュミちゃんなの?」

「どっちもリュミちゃんだよ。裏に行けばリュミちゃんはいっぱいいるよ。」


エルがペットに名前を付けたのかと思ったけど、この動物?植物?の元々の呼び名だったんだね。


「ところで、お兄ちゃん、なんでドアを叩いたりしたの?」


あ、そういう習慣はこの異世界にはないってことなのかな。


「だって女の子がひとりでいる部屋を、いきなり開けるなんてできないだろ?」


「うわっ、すごいねお兄ちゃん。だからエルシェが開けるまで、ドアの外で待ってたの? お兄ちゃん、それって『紳士』って言うんだよ。司書のお姉さんがずっと前に教えてくれた。」


やっぱり貴族の所作なんか教えてくれたのは、『司書のお姉さん』なんだね。


「お兄ちゃんはどんどん素敵になっていくね。でもエルシェはまだ子供なんだから、勝手に開けてもいいんだよ。エルシェは絶対に怒らないからね。」


そう言うと、いつものとびっきりの笑顔を見せてくれた。


「あっ!」


その笑顔で思い出した。アゼリアに最初から親近感があったのは、目と髪の色が、エルそっくりだったからだ!


笑顔のエルをそのまま大人にした姿を想像してみたら、アゼリアになった!


しかも、今日は僕の目と髪の色も、同じ色だったことがわかった。僕の場合は色が反対だけどね。


まるでアゼリアとエルと僕で、3人兄弟姉妹みたい。アゼリアは自称恋人だけど。

なんか、ちょっと嬉しい。青と緑の組み合わせって好きだよ。


「どうしたの? お兄ちゃん」


「ううん、なんでもない。お母さんが夕飯だから来なさいだって。一緒に行こうか。」


手を差し出して握ろうとしたら、「きゃー、やめてぇ」と情けなさそうな悲鳴を上げてエルは手を後ろに隠した。


ふたりで一階のダイニング部屋に下りていくと、お父さんがいつものような笑顔じゃなくて、なにか難しそうな顔をしている。


「お父さん、体調悪いの? 横になった方がいいよ。エルシェがあとで消化にいい物を作って持っていってあげる。」

すると、あっと小さな声を出したお父さんは、すぐにいつものような優しい笑顔に戻った。


「夕飯を食べながらでもいいんじゃない?」

お母さんが何やらお父さんに目配せした。

「そ、そうだな。じゃあ夕飯を食べながらでもゆっくり話すとしようか。」

お父さんは、お母さんの圧にはかなわないらしい。


「実はテムリオが帰る少し前に、ナントカクランという所の冒険者が来て、『責任持ってお預かりしますので、テムリオ君のクラン加入をお許しいただけないでしょうか』と丁寧に頼まれてね。」


食事をしながらお父さんが話を始めた。


「えっクランからの勧誘!?」


びっくりした。白色は使えないって聞いてきたばかりなのに、わざわざ家に来て親を説得してまで勧誘するクランなんてあり得ないよ。


「そうなんだよ。急だったので、どう答えていいかわからなかったから、本人に聞いておきますとだけ答えておいたけど、テムリオが頼んだのか?」


「うん、ありがとうお父さん。俺は知らない。でも俺はクランに加入する気は全くないから断っていいよ。」『どうせ入っても役立たずだから』という言葉を飲み込んだ。


僕が転生してくる前のテムリオが、クランに入りたいと大騒ぎしていたので、どこかのクランが入会を認めたって事かな。エルなら事情を知っていそうだな。


エルは僕とお父さんの会話なんて、全く興味が無さそうにして食べてるけど、絶対に全神経を使って聞き耳立ててるよね。


「そ、そうか。わかったよ。テムリオの気持ちが最優先だからな。今度来たらきっぱりと断っておくよ。」


「その尋ねてきたって人は、女の人じゃなかったよね。」


あの親切すぎるアゼリアなら、やりかねないなと思って、さりげなく聞いてみた。


「いや? トラヴィスって男の人だったよ。ほら桶屋の長男と同じ名前だよ。

女の冒険者に知り合いでもいるのかい?」


お父さんの最後の言葉に、もの凄い勢いで反応したお母さんとエルが、全く同じ動作で僕の方を凝視してきた。さすが母と娘、何だか怖い。


「うん、今日冒険者ギルドいって、窓口が分からなくてウロウロしていたら、親切に案内してくれた女の人がいてね。その人がクランリーダーを務めている冒険者だって自己紹介してたから。」


「あ、その人はクランリーダーしてるのね。なら年配の女の人ね。」


クランリーダーって普通は年配のおじさんかおばさんがやるものだったのか。お母さんとエルが同時に全く同じリアクションで、ほっとした顔をしたのは、なぜだろう。


「そ、そうだね。あまりよく顔を見なかったけど、お母さんより年上に見えた。…かな?」


嘘です。でもお母さんも、何歳か知らないけれど、すごく若く見えるから、露骨な嘘じゃないよ。勘の悪い男なら、本当にそう見えるかもしれない。…かな?

どうして疑問形なのというつっこみは無かった。良かった。


そういえば、アゼリアのクラン名、なんだったっけ。


話題がそちらに流れて、冒険者ギルドに行った事は話題にならずに、めまぐるしかった一日が終わった。


今日はいろんな事があって疲れたよ。

エルが隣じゃまた寝不足になるかなって思ってたけど、ベッドに入ったら一瞬で眠ってしまった。

10歳の体ってそんなもん…。


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