13.冒険者ギルドに行こう(3)
フリージアの花が枯れたら種は球根の養分をみんな吸ってしまいますので取り除きます。肥料と水をあげて、葉が枯れてきたら、水やりをやめて一ヶ月くらいで掘り起こして来年まで保管します。
鏡に映った自分に、ひとりで言葉も無く勝手に驚いていると、しばらくして受付が戻ってきた。
手にはギルドカードと一緒に、30cmくらいのカラフルな組紐があった。
「確認が取れたぞ。テムリオは南域にある『パン工房エル』のヒューゴとベルタの長男ということで合ってるか?」
その声で現実に引き戻された。おお、そういえばお父さんとお母さんの名前を聞くのを忘れてたよ。とりあえず知ってるふりしないと。
「はい、間違いありません。」
と当然顔で頷いた。
「では、この資料にあるテムリオ本人と確認できたので続ける。」
あぶなーーーー。『本人確認のため両親の名前を言え』なんて質問だったら完全アウトだったよ。自分の生年月日を聞かれてもアウトだ。危機管理が全然なってない。
この受付は、本人確認が甘々で本当に良かった。ヒューゴとベルタ、覚えておかないと。でもお父さんお母さんの、どっちがヒューゴで、どっちがベルタかわからないけどね。
「テムリオは成人の儀式の直後に冒険者登録してるな。適当なパーティが見つからなかったので、とりあえず単独冒険者として登録されたとある。」
「パーティ加入は必須なの?」
「それはない。単独で討伐にいくのは効率が悪いというだけだ。今は人手不足だから、普通は引っ張りだこになるけど、テムリオは白色だからな。
問い合わせたパーティは全て断ってきた。冒険者ギルドとは別の独立組織だが、念のために『蒼の誓』という冒険者のクランにも問い合わせたが断られたとある。」
「なっ、『蒼の誓』がこんな可愛いテムリオちゃんを断っただと!! 許せん。誰だそこのリーダーは…」
アゼリアが焦ったような顔で大声を出したので思わず顔を覗いたら、本気で怒っているようでビクッとしてしまった。
「なんでもアゼリアという人のようだ。」
……なんか、受付とアゼリアのふたりで漫才やってるよね。
白色ギルドカードって、親切なアゼリアでさえ断るほどの扱いづらい色なんだね。
でも今のアゼリアは、知っていてここまで案内してくれてて、そのまま一緒に話を聞いてくれている。
「ええと、それで白色ギルドカードって、何が問題なんでしょうか? 最下位のギルドカードらしいことは感じましたけど。
僕が白色ギルドカードになった理由も知りたいし、お金を積むとか、努力して働くとか、冒険者ギルドに貢献するとか、上の色に変えてもらう方法も知りたいです。」
「あら、私のテムリオちゃん。うちのクランは白色でも何の問題もないわよ。」
目を細めたアゼリアがすぐに反応してくれたけれど、受付は、そんなアゼリアを無視して話し始めた。
「じゃあ説明するが、そもそもギルドカードの色は、『属性』を表すもので、ギルド内の上下を表す物ではない。」
へ? いきなりの勘違いか…。
話によると、『属性』は成人の儀式のときに神殿で調べ、ギルドに行って登録すると属性色のギルドカードが発行されるってことらしい。
「『属性』といっても、個々の魔法属性の話じゃない。成人の儀で神殿に認定される、本人の素質みたいなものだ。」
その『魔法属性』も、まったく意味がわからないのに、違うと言われても…。
「おおよそ想像はついたと思うが、たぶん千人にひとりくらいの割合で、『属性なし』が現れる。俺も本物の『属性なし』を見たのは初めてだ。属性が無いので白色のギルドカードになる。」
本物の『属性なし』って…。
それに『千人にひとり』じゃ超レアな当たりガチャみたいな気もする。ガチャなんてやったことないけど。
「『属性なし』でもギルド登録はできるが、冒険者ギルドではGランク以上の仕事は難しいだろうな。」
はあ、やっぱりそうなんだ。僕は『属性なし』ってことで、仕事をしたくても、そもそも冒険者ギルドに仕事は無いんだ。そうなれば、ティオのあの微妙な反応もわかる。
「テムリオ。ここまでの説明はわかったかな?」
おっと、さっきからテーブルの脇にある、半円形のちっちゃな物体の目が、受付の話に合わせて僕の方をギロッと睨んでくるのが面白くて、思わず凝視していたよ。
アゼリアがそれに気づいて、愉快そうに教えてくれた。
「呼び出しのリンちゃんよ。こうするの。」
といって頭の出っ張ったところを叩いたら、「りーん」と、口を開けてソプラノで叫んだ。
女の子だったのか。
話が全然頭に入ってこなくてポカンとしている『説明しても無駄な子』に見えてしまったかもしれない。
「はい、よく理解しました。詳しい説明ありがとうございます。
白色ギルドカードなのに、親切に声を掛け続けてくれているアゼリアさ…アゼリアに、あらためて惚れ直しました。」
きっと名を冠しているくらいだから、内外に広く知られた凄腕の冒険者なんだろう。そんなひとが、こんなにも非力な僕のために一所懸命になってくれている。
少しジョークでも言って空気を変えようと思ったら、アゼリアがマジで赤くなった。
「でも俺じゃ冒険者ギルドの仕事はできそうにないみたいですね。」
「ええっ!?、恋人を捨ててよそに行くなんて冷たい男じゃないわよね、私のテムリオちゃん。私の所に来てくれなきゃ、こっちから押しかけ女房になるわよ。」
まだやってるよアゼリア。
でもこのジョークは軽妙で心地いいなあ。僕を傷つけまいと明るく話してくれている。
「不思議なんですが、さっき、アゼリアのクランは『冒険者ギルドとは別の独立組織』って言ってましたけれど、冒険者ギルドに登録してる俺でもクランに入れるんですか?」
「関係ないわよ。うちのクラン員は、みいんなギルド登録してるし。私もよ。」
といって、どこからか真っ赤なギルドカードを出してひらひら見せてくれた。
うーん、どうもさっきから話に出てくるギルドやパーティやクランの違いが、ほとんど理解できない。まあ、理解できないときは、僕の得意技の『先送り』なんだけどね。
「ごめんアゼリア。なら俺は男だから、アゼリアを守ってやれるほど強くなってから、胸を張ってクランに入れてほしいってお願いに行くよ。」
ジョークとはいえ、言っているそばからむなしさがこみ上げてくる。どんなに努力したって白色を変えることはできないって、いま言われたばかりだ。
「いやん、私のテムリオちゃん素敵。キュンときちゃったわ。もう、今から神殿行って結婚しましょ?」
アゼリアは、なぜか、ますます顔を赤らめてる。
でも10歳だからね僕は。ちらっと鏡の方を見た。
…結婚式は神殿でやるんだ………じゃなくって、えっと。




