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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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115.世界樹の妖精(5)

近所の奥さん達がたくさん集まって、ドレス姿の令嬢の姿をため息交じりで眺めるのは、いつもの光景になっているので、馬車が来ただけで、みんな集まってくる。特に今日のマルグリットのドレス姿は、誰の目にも華やかに映ったらしく、表に姿を見せた途端、どよめきが起きた。


以前ならそんな近所の目を不愉快そうにかわしながら馬車に乗るマルグリットが最近では、皆の方をチラッと見て、わずかに微笑むようになった。もっとも僕だから微笑んでいるってわかるけれど、知らない人は、睨まれたとしか感じない程度の微笑みだ。


ダイニングに戻ると、眠そうに目をこすりながらエルが階段を下りてきた。頭の上に兎の帽子を乗せて、きゅんとするほど可愛い。長い耳が少しだけ揺れていて、なおさら可愛い。


僕が起きているのを確認すると、満面の笑みで僕に飛びつこうと両手を広げて階段をぴょんぴょん弾むように降りてきた。僕も笑顔で両手を広げて「エルー」と言ったら、キャーっと体をよじりながら横に逃げられた。うーん、これって、どう理解したらいいんだろう。


エルが僕に抱きつくのはいいけれど、僕が抱きつくのは絶対に駄目って意味なのかな。


「マルグリットだって、さっきハグしてくれたのに」と言ったら、「まさか」と一蹴されてしまった。本当なんだってば。


オルゾスープはとっても美味しかった。なんとなく懐かしいイタリアンな味がしたんだけれど、何が使われているんだろう。二日間何も食べていなかったから、たいていの物は美味しいだろうけれど、あれは特別美味しかった。またいつか作ってもらおう。


身支度を調えると、まだ休んでいたらと心配するお母さんとエルのふたりに、大丈夫だからと笑顔をみせて家を出た。本当のことを言うと、まだちょっとだけ足元がふらつくんだけどね。動き出せば元に戻るんじゃないかな。


お母さんは口じゃ反対していたのに、ちゃんとお昼のお弁当をウエストバッグに入れておいてくれた。本当にこれ以上お母さんを心配させないように気をつけなくっちゃ。


真っ先に向かったのは診療所だった。


診療所の前の道にはリアカーと大八車が連結されたまま置きっぱなしになっていた。でも代車はなくなっていたからマーガレットがお店に運んで物置部屋に戻してくれたんだろう。


荷物はきれいに無くなってるから診療所の中に入れてくれたのかもしれない。蒼龍の魔石も乗せたままだったから、あれを見れば、蒼龍がどうなったのかは説明不要だろう。


大八車は借り物だから、今日返しに行こう。リアカーのほうはエルフィン村にお金を置いてきたから、買ったってことでいいよね。使い道がないから今はただの邪魔物だけど。


そんなことを考えながら診療所のドアを開けようとしたら、内鍵がかかっているようで開かなかった。ドアには「本日休診」という札が掛けられている。でもずっと休診だったのだろうから、近くの人が間違ってやってくることはないと思うけど。


えっと、これはどうしたらいいだろう。寝てる場合もあるから、ドアをトントンするのもやめておいた方がいいよね。孤児院の入り口のほうに回って、そっちから中に入ろう。よく手入れされた貴族の館の庭みたいな所を通って孤児院側の入り口から中に入った。


「ごめんください」


小声で呼びかけながらドアを開けたら、子供達と絵本を読んでいたらしいマーガレットが、椅子に座ったまま人差し指を口に当てて、小声で話しかけてくれた。


「今、患者は全員寝てるところだから静かにね、テムリオ坊や。先生からは、感染症が心配だから、私と先生と患者の家族以外は中に入れないようにって言われてるの。宰相様からは、家族にも秘密って釘を刺されたから、今入れるのは私と先生だけ。ごめんなさいね。」


僕でさえ入れないのか……。少なからずショックを受けたけれど、感染症を防止するというマダムの処置はきっと正しい。素直に従うことにした。容体を聞いたら、全員かなりの重症だけれど、命の危険はないそうなので安心した。


「テムリオ坊やが、なにか医学的な処置をしたみたいって先生が言ってたわ。どんな処置をしたのかはわからないけれど、残った魔力を一気に全解放したエルヴィローネが、なんで生きているのか理解できないそうよ。それに重症なのに全員顔に全く傷がないのも不思議がってたわ。坊やは何でもできるのね。」


いやいや、僕は医学の知識なんて、限りなくゼロですけど。ここまで連れては来たけれど、止血方法すら知らなかったし。


「もしかしたらエルフィン村にあった大樹のおかげかな。あの下にいると、何だか癒やされていくみたいで、とても気持ちが良かったんだ。あそこに皆ずっと寝かせておいたからね。それに信じてもらえないかもしれないけれど、(こずえ)の間から妖精が出てきてね……」


そこまで話すと、マーガレットが自分でシーッをやっておきながら、驚いたように少しだけ大きい声で、話をかぶせてきた。


「まあ、そうなの? それって先生が子供の頃に読んでくれた絵本に出てくる『世界樹』ね、きっとそうよ。世界樹には妖精が住んでいて、病気や怪我で苦しんでいる人を、木陰で癒やしてくれるそうよ。」


「へえ、世界樹って名前だったんだあの樹は。妖精はずっと俺と一緒に旅してきてね、最後はマダム……伯爵婦人の屋敷まで案内してくれたんだ。俺は伯爵婦人のことが全く頭に浮かばなかったから、本当に良かったと思ってる。皆が助かったとしたら、世界樹と妖精のおかげだよ。」


そんな謙遜しなさんなとマーガレットは言う。

でも、これは誰が何と言おうと世界樹の妖精のおかげだ。マダムのところに案内してアゼリアを助けてくれたことは、いくら感謝してもしきれない。


「それに蒼龍だって、アゼリア達が失敗した後で、テムリオ坊やがひとりで倒したんでしょう? アゼリアも最初からテムリオ坊やにすがっていれば怪我しないで済んだのに、困った子ね。」


魔石は領主がお城に持ち帰ったそうだ。アゼリア達が失敗したあとで、それを救出しながら僕が一人で倒したと、見ていたように言い当てたのは宰相だそうだ。


アゼリアの剣に血を塗って偽装していたけれど、アゼリアの体には自分の血以外の血は一滴もかかっていないことをマダムが鑑定魔法で見抜いたので、間違いないと言われてしまった。しかもアゼリアのブーツの裏には油がべっとりついていて、敵に謀られたのかも知れないとまで言ったそうだ。伊達に宰相をやってるわけじゃないってことだね。


でも偽装したんじゃなくて、本当にアゼリアの剣が必要だったんだけどね。そこだけは宰相にもわからなかったみたい。


「連れてきた三人の子供はどうなった?」


「あの子達なら、奥で遊んでるわよ。領主がいたから、ちょうどいいと思って、身元保証人欄にサインさせて正式に孤児院で預かることになったわ。孤児院始まって以来の、領主が身元保証人の子供よ。」


それは良かった。領主が身元保証人というのは、たぶんずっと先まで有効だろうから、大きくなったときに就職にもいい影響があるよね。


面会できないのに、ここにいても仕方がないので、時々様子を見に来ると伝えて、通りに駐めてあったリアカーと大八車の連結を引いて、貸車屋に向かった。


今までは時間短縮でブレスレットを使ったけれど、普通に引いていった方が断然楽だ。だって歩いて行く先にいる人は、全員が勝手に左右によけてくれるんだよ。僕は何も考えずに真っ直ぐ引いていけばいい。これは本当に楽だ。


あっという間に貸車屋に到着した。僕にはブレスレットを使うより、こっちの方が一瞬の出来事に感じる。


「オヤジさんいる? テムリオだけど。大八車を返却に来たよ。」


たぶん奥の方で作業していると思うので、大きな声で呼んでみたら、真っ黒になった手を、さらに黒い手ぬぐいで拭き取りながら、奥からオヤジさんが出てきた。


「おお、坊やか。何日も借りるようなことを言ってたけど、もう用は済んだのか?」


いや一ヶ月以上借りてたけどね。これで数日分のレンタル料で済むんじゃ、かなり後ろめたいな。


「うん、もう大丈夫。精算してくれるかな。それとこのリアカーだけど、買い取るとか出来る?」


大八車の様子を確認したオヤジさんが、険しい顔になった。


「坊や、どんなことをすればたった四日でこんなに車輪がボロボロになるんだ? 気の毒だけれど、これは保証金で買い取りになるな。子供を騙したなんて言われたくねえから、クランリーダーに立ち会ってもらえねえか。ちゃんと説明すっからよ。」


「いや、確かに少し乱暴に扱ってしまった自覚はあるから、俺も納得してるので買い取りで大丈夫だ。それにリーダーは少し遠いところに行っていて当分帰ってこられないんだ。それで保証金で買い取りはいいけど、買い取っても置く場所もないし、このまま引き取ってもらえると助かるんだけど。」


「それは構わないけど、買い取り査定は出ないぞ」と言いながら、今度はリアカーの方に行って、一目見るなりこっちも「あー、こっちも無理だな」と言い出した。


ええっ、いくら半月使ったといっても、もともと新品だったんだよ。素人の僕が見ても、状態はかなりいいと思うんだけど。


「リアカーは領都では登録制だ。登録のないリアカーを買い取るのは犯罪だから、俺の所じゃ買い取れねえな。ほら、ここんところに付いてるはずの登録証がねぇだろう。これは、あまり言いたくねぇが、売り物のリアカーを盗んできたって意味になる。後ろめたい物じゃないのなら、買ったところで正規の登録をしてもらえ。」


えーっ、そういうことになるのか。高い物だからね。登録制にしないと、確かに盗まれたら大被害になるから仕方がないのか。


リアカーは、宰相にでも頼んで何とかしてもらおう。リアカーがどうして必要だったかは、たぶん事情を理解していそうだから何とかしてくれるんじゃないかな。仕方なくリアカーだけは連結を外してアジトに持っていくことにした。


事後の始末っていうのも結構大変なんだね。「魔物を倒した! 全部解決した! ハッピーエンド!」みたいな映画のようなことにはならないって事だよ。下手すりゃ僕はただの火事場泥棒として牢屋行きだもの。これは現実なんだからね。


そういえばリアカーに乗せてた布団一式とか、けが人を収容したカプセルとかはどうなったんだろう。診療所の中にまだあるよね多分。あれももしかしたら、僕が後始末しなければならないんだろうか。


自分でさえ棺桶なんて呼びたくないから勝手にカプセルなんて呼んでたくらいだもの、処分はできないって言われそうな予感がするよ。少なくとも木工ギルドに持っていったら、「そんな縁起でもない物が引き取れるか」と怒鳴られて追い返されることは目に見えてるし、正規ルートじゃない闇ルートの棺桶なんて葬儀屋さんでも絶対に引き取り拒否するよね。


何だか頭が痛い……。いや、実際に頭痛がしてるんだけど。風邪引いたのかな。


ぼやきながら、ようやくアジトに到着した。とりあえずリアカーは庭の隅に置いて、「ただいま」といいながらアジトの建物の中に入っていった。


「ああ、テムリオも留守番だったのか。この間みたいに一緒に行ったのかと思った。やっぱり見習いじゃ、そう毎回は連れてってもらえないよなぁ。」


『赤い約束』パーティリーダーのライクが、僕の部屋兼パーティアジトから出てきて、気の毒そうに僕を慰めた。


「ああそうだな。」


心ここにあらずと言った感じの生返事をしてしまった。

部屋の奥にある自分専用の椅子にドカッと座ったら、僕の様子がおかしいと感じたのか、いつも物静かな『赤い約束』の弓担当ベラスが近寄ってきた。


「話したくないなら何も言わなくてもいいけど、悩みがあるなら遠慮なくいえよ。仲間なんだからな。」


「ありがとう。……それ、矢を作ってたの?」


「うん、武器屋の矢は高くて買えないからな。ヤジリと矢羽根を買ってきて、こうやって竹に縛って自作するんだ。」


器用にくるくると糸を巻いて矢を作っては容器に刺していた。


「話したいけど、クランのことは秘密になってるから話せないんだ。ごめんよ。それより今日の夕方、俺のおごりで、また居酒屋に行って焼き肉パーティやらないか? 飲めない同士で。あの頃よりは少しだけ懐具合も良くなったから、気にしないでいくらでも飲んで食べられるよ。ドナルド二世はワインを好きなだけ飲んでも大丈夫。」


おおっと、皆のテンションが一気に上がった。こういうときは、みんな忘れて馬鹿騒ぎした方がいい。ドナルド二世以外は未成年だから飲めないけど、雰囲気だけでも酔える。


「今日は俺以外のクランメンバーは、誰か来てる?」


聞いてみたら、サリを見かけたけれど、すぐにどこかに行ってしまったそうだ。

あとはカイルとラギのふたりが、裏庭で剣の練習をしているはずとの事だった。

ふたりは留守番だったから、今、診療所に皆がいることは知らないのかもしれないな。サリかアレックから事情を聞かされていないんだろうか。声を掛けられたとき、何処まで話していいかわからないから、今は会わないでおこう。


あのあと、どういう話になったのか知ってるのはサリだけか……。相談するにはちょっと頼りないけど、教えてもらわないと、次どうしていいかもわからない。


わからない事だらけで、つい現実逃避してしまいたくなり、思わずブレスレットの青いラインを回してしまった。


もともとこういうときにこそ使う「のんびり過ごすことができる」チートアイテムなんだから、こっちが本来の使い方だと思う。止まった世界の中から妖精達が現れて、すごく癒やされる気分になり、楽ちんなイスで、いつの間にか寝てしまった。いくら明るくても、どこでも寝られる体になってしまったみたい。


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