11.冒険者ギルドに行こう(1)
子供の頃は、なんとなく異世界っぽい物があふれていたような気がします。
「うどんげの華」とか「けさらんぱさらん」とか。
さて、異世界ド定番の冒険者ギルド登場です。
家でお昼ご飯を食べた後、朝のテンションのやり直しをした。
『よし今度こそ冒険者ギルドに行こう!』
でも、いくらおませなエルでも、8歳の説明じゃ、やっぱり道順がよくわからない。
それでも、街の中でうろうろして、道行く人に聞きながら行くよりは、何倍もいいので大助かりだ。
初めて大都会に出てきた田舎のお上りさんみたいに、情けなくキョロキョロしながら歩いていたら突然声を掛けられた。
「おい、テムリオじゃないか。この時間に珍しいな。頭の怪我は大丈夫か?」
僕と同じくらいの年格好の男だ。誰だろう。
とても親しそうに声を掛けてきたから、たぶん友達だろう。
助け船のエル船長はここにはいないから、ここは質問返しで流そう。
「ああ大丈夫だ、たいしたことなかった。そっちこそ、今日はどうした?」
「うん、午後は帰れって見習いは全部帰された。なにかお城で事件でも起きたんじゃないかな。親父も、城門の警備にかり出されたって言ってたし、東外門の警備隊もピリピリしてて、どうしたんですかなんてとても聞けない雰囲気だった。」
おっ警備隊か。覚えがある。早速ポケットから紙切れを出して確認した。
「なんだその紙は。」
不審そうにのぞき込む視線を遮るように紙をすぐに折りたたんで隠した。
だってカンニングペーパーだなんて言えないし。
多分親友3人組の一人のティオだろう。
「親友ティオ:警備隊見習い。父親は警備兵。」と書いてあった。
「いや、なんでもない…。そうか、親父さんも大変だな。何かあったら命がけでお城を守らなきゃならない。でも領都のために命を賭けてるんだから尊敬するよ。お前も早く正規の警備隊員になれたらいいな。」
安全のために名前で呼ぶのはやめておこう。
でも、ちょっと上から目線だったか?
こういうときは親を褒めてりゃなんとかなるだろう。
「なっ、なんだよ急に大人言葉を使いやがって。なんか変わったぞ、テムリオ。でも、そうだな、俺も親父のように尊敬される警備隊員になるよ。それはそうと、これからどこに行くんだ?」
うん、うまくごまかせたと思ったら質問返しに、さらなる質問返しというブーメランが帰ってきてしまった。
「これから冒険者ギルドに行こうと思ってね。」
すると明らかにティオの顔が曇ってきた。えっ、どうして? ティオが気まずくなるようなことを言ったのか?
「あ、そ、そうか。……いや、お前も大変だろうけど、頑張れよ。少なくとも俺たちはお前の味方だからな。」
うーん、なんだろう、変な励ましかたをしてる。
まあせっかく励ましてくれてるんだから無難なお礼でも言っておくか。
「ありがとう。そう言ってもらえると頑張れるよ。じゃあ行くから。」
「おじゃましまーす……」
看板に『冒険者ギルド』と書いてある大きな建物を、やっとの思いで見つけたので、観音開きのスイングドアをそっと開け、恐る恐る小声でつぶやくように挨拶しながら中に入っていった。
中は思いのほか広いエントランスで、吹き抜けの天井が高い。奥にはドアがいっぱい並んでて、端には二階に続く階段があった。
窓も照明もないのになぜか外より明るい。エルに子供部屋の灯りの話をしたら、「魔灯だよ」と軽く言われて壁のスイッチを教えてもらったけれど、これもやっぱり『魔灯』なんだろうな。
たくさんの人が結構大きな声で思い思いの話をしている。少し汗臭い。午前の仕事を終えた冒険者でも混じってるんだろう。
圧倒的に屈強な男ばかりだけど、寒くもないのに、清楚なローブ姿の、ほっそり系の人も数人見かける。筋肉女子や、なぜか三角帽子の女子も少しだけ混じってる。
ほとんどの人が、武器を身につけているか、変わった衣装のどちらかで、普通の格好で、しかも武器を持っていないのは、たぶん僕だけ。
眺めてるだけでも飽きないけど、見物に来たわけじゃないので、総合受付みたいな場所を探してキョロキョロするが、見当たらない。
みな入ってきた僕のことなど気に留める様子もなく、せわしなく動き回って大声で隣の人と夢中で話している。まるで街の雑踏の中にいるようだ。
「邪魔だ!」
ぼーっと立っていたら、いらついていそうな男に、横から怒鳴られてしまった。
頭にはバッファローの角みたいな飾りのある鉄兜をかぶっていて、腰に太い剣を下げ盾を持っているという、テレビ映画でみたバイキングみたいなスタイルだ。
「あ、ごめんなさい。ごめんなさい。」
あわてて後ずさりしかかって、『あっ、後ろに階段』と一瞬頭をよぎり途中でやめたら、バイキングさんの盾に少しだけぶつかってしまい、睨みつけられた。
階段はもちろん無かったけどね。
すると今度は反対側から、背中に長い槍を担いだ、長身で鋭い顔つきの男が、僕をぐいっと押し分けてきた。すれ違いできないほど混んでるわけじゃないのに、どうしても真っ直ぐ行きたいんだろうか。
ノッポさんも、バイキングさんのように、横目で眉間にしわを寄せ、珍しい生き物でも見るように、僕のことを上から下まで舐めるように見ながら、無言で横切っていった。
ひぇー、怖いんですけど。今日は一旦帰って出直してもいいかな。というか、こんな怖そうな場所、もう来ないかも……。
「坊や?」
ふいに女性の声で後ろから声を掛けられ、「ひっ」とちょっとだけ飛び上がってしまった。
これはあれだ、街中で迷子を発見したときの、本当は怖い人なのに、不意に声を掛けて泣かれないよう気を遣って、ことさら優しい声で話しかける巡邏の婦警さんの声だ。
おそるおそる振り返ってみたら、予想に反して、鼻筋の通った、結構美人……いや、超絶美人のとんでもなく優しげな笑顔が、僕の視線の高さまで腰を折って、かなり近い位置にあった。
瞳には深みのあるブルーのカラコンを入れていて、髪の毛は涼しげな緑がかった青色。まるで海から出てきたばかりの人魚の濡れた髪のよう。それに、何と言ってもふくよかな胸は、あのお母さんのを優に超える。
元の世界の23歳の僕なら年格好がちょうど合いそうな歳に見える。
元の世界でこんな美女に声を掛けられた経験なんて皆無だけどね。
婦警さんにすら声を掛けられたことがないくらい、元の世界では女性に縁がなかった。
こんな美女と、一度くらいはお付き合いしてみたかったな。
返事も忘れて、うっとり見つめてしまった。
すると超絶美人さんは笑顔のまま、ぐっと顔を近づけてきた。
『お付き合いしてください』と、思わず口から出てしまいそうになるほど胸が高鳴ってきた。
というか…相変わらず間抜けだ。異世界転生のきっかけになったミスを、また繰り返してしまっている。思わず口から出てしまいそう、じゃなく、実際に口から出てしまっていたのだ。
「俺とお付き合いしてください!」
「あら!!」




