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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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107.蒼龍と誘導者(6)

先に行ったみんなは多分武器以外は何も持っていかなかった気がするけど、僕はウエストバッグに、本当に最小限だけれど、包帯などを持って出ている。


ブレスレットの効果は続いているので、焦ることはないと自分に言い聞かせてはいても、不安な気持ちは拭えない。みんな無事でいるだろうか。


あの誇り高いメンバーが、僕に救出要請をしたんだ。よほどのことでもない限り、絶対にそんなことはしない事を僕が一番よく知っている。つまり僕の持っているブレスレットの力に頼る以外、万策尽きた状態になっているという事だ。


万一の場合の話としてアゼリアに伝えておいて良かった。蒼龍の近くに行くことはとても怖いけれど、いまはそのことは考えないことにしてる。考えただけで足がすくんで前に進めなくなるからね。


実は、情けないことだけど、本音を言うと、サリが僕についてきてくれたことは、思わず涙が出てまうほど嬉しかった。サリが僕にぴょんと飛びついてくれたときは、その安堵感で本当に少しだけ涙が出てしまったほどだ。


思い出してみたらダンジョンにいたときも、肝心な場面ではサリはこうやって僕にずっとくっついていてくれた。もしかしたら僕とサリの二人で、やっと一人前の行動ができるのかもしれない。料理を作る腕以外は、どうしようもない子なのにね。


できるだけ藪漕ぎ状態にならないよう気をつけながら、獣道沿いに森の奥に進んだ。藪漕ぎになると、あの幻想的な白い小さな玉が上下に揺れている雑草が、実は結構トゲトゲなので、ひどい擦り傷だらけになることをマダムの家の中庭で仕事をしたときに経験してる。


それだけはどうしても避けたい。小さなすり傷でも、たくさんできると、治療する人がいないいまの状態では致命的な傷になりかねないからね。


今回はエルヴィローネのバフがかかっていないから、サリはかなり重いけれど、意外とこの重さが安心感を強くしてくれていて、少しも嫌じゃない。ときどきずり落ちそうになるのを、よいしょと持ち上げなおしながら森を進んだ。


途中で何度も森の動物に出合って、そのたびにいちいち「おわっ」「うえっ」と声をだして飛び上がってしまうのは、しょうがないよ。だって動いていたら確実に飛びかかってきて、ひと噛みされただけでおしまいになりそうな大きな捕食動物がたくさんいるんだもの。


もっとも、足元にいたウサギみたいな魔物にも飛び跳ねて驚いたことは内緒だけどね。これって覚えてるよ。エルの友達のルシアが日曜学校で頭にかぶっていた帽子そっくりだ。耳が動くふわふわの白い帽子をかぶってたけど、あれってこの生き物だったんだ。頭に乗せてみたら、なぜかスポッと頭に被さって、なかなか気持ちがいい。もしかしたら頭を守るのにいいかもしれないので、このままかぶっていこう。


何時間も景色の変わらない、しかも音のしない森の中を進んでいるうちに、だいぶ緊張感が取れてきたようだ。空を見上げると高い木々の間から火炎魔法の残像がよくみえているので、道に迷う心配は無い。


やがて少しだけ森の木々が生えていない開けたところに出た。やっと一息つけると喜んで一歩足を踏み入れた途端、ズブズブと足が沈んできて慌てた。広い草原と勘違いしたけど、全体が沼だった。


水生植物に覆われていたので勘違いしたのだ。あわてたので少しだけサリを抱えたまま転んでしまい、たぶん見えないけれどサリの背中は水苔かなにかで、ひどく汚れてしまったかも知れない。あとで大目玉をくらうことが確定だ。ブレスレットを戻す前に水で洗い流してごまかしておこう。


目印の火炎の残像は沼の向こう側だったので、少し遠回りして沼を迂回して目的地に向かって歩いた。今では残像だけでなく、すぐ近くに蒼龍が口から吐いた火炎魔法の黒い煙もよく見える。本当に遭遇して戦っていたんだ。


現地が近づく従って、ふたたび緊張感が高まってきた。


たぶん僕にできることは、クラン員をひとりひとり担いで村に戻ることだよね。最低でも七往復することになる。半日かかる距離だから、ひとり運ぶだけで一日かがりだ。夜は寝なきゃならないから、何事もなかったとしても一週間はかかる計算か……。


絶望的なほど長い期間だけれど、ここまでくるのだって半月かかったんだから、それに比べればわずかな期間だ。


でもサリでさえこんなに重いのに、あの図体の大きいトラヴィスや、アルフェリードを背負って森の外まで連れて行くなんて、僕にできるのだろうか。精神年齢は高くても、体は10歳の子供なんだからね。


しかも、次の瞬間、もっと大きな問題があることに気づいて、一瞬立ちすくんでしまった。目的地は火炎の残像を目指せばいいからわりと簡単だけど、振り返っても、どっちの方角に村があるのか全くわからない。


これじゃ帰り道に迷って森をさまようことになるのは確実だ。元の世界でやってた軽登山では、ルートを示す赤いテープが要所に貼ってあって、地図やコンパスを持たない「なんちゃって登山家」でもルートを間違えることはなかった。


どうしてあのときの発想が森に入る前になかったんだろう。目印になりそうな物を木の枝にぶら下げながら来れば良かったんだよ。いまさら気づいても手遅れ。大失態だ。


何も考えずに森に入ってきてしまった自分が情けなくて、ため息をついた。森で迷子になったとき、食料も水もなかったら、確実に遭難だ。


サリだけ抱えて森に入ったけれど、片道で半日かかるんだ。目的地についたら夕食にして、一度寝ないといけない。そういう準備がまったくしてないよ。


目的地が近づいた緊張感とは別に、計画性のない自分に呆れて絶望的になっている自分がいた。


やがて、焦げた臭いがしてくるようになって、嗅覚でも目的地のすぐ近くだとわかるようになってきた。


獣道沿いに火炎の残像の方角に向かって歩いていたら、突然森が途切れて人工的な広い道路に出た。その先には巨大な川トカゲが大きく口を受けて、何かを威嚇しているところで止まっていた。


「あれが蒼龍か、巨大だな……。」


魔物のボスの大きさは黒猿でしか知らなかったけれど、この蒼龍はそれよりはるかに大きい。足がすくんで前に進めない自分が情けなかったけれど、これ以上近づくのはとても無理だ。アゼリア達のことは胸がえぐられるような気持ちだけれど、確認に行くことすらできそうになかった。


ここまで来た疲労も手伝って、道路脇の草むらに、情けなく腰を下ろすと、そのまま横になって休んだ。


「うわっ、ご、ごめん」


横になったら僕に巻き付いたサリも当然一緒に横になるわけで、変な格好のまま、添い寝状態になってしまった。


しかもサリの片足は僕の腰の下敷きになっている。これはどかしてあげないと。

僕の腰の後ろでクロスになっているサリの足を丁寧にほどいて腰から外し、真っ直ぐに伸ばしてあげた。首に巻き付いた両腕の方は大丈夫そうなので、ちょっと顔が近いけれど、このままにしておこう。


そうこうしているうちに、睡魔が襲ってきて、その場で眠ってしまった。たぶん時間的にはもう寝る時間なんだと思う。夕飯はないけど、それより眠気の方が強かった。


どのくらい寝ていたのかわからないけれど、目が覚めたら疲れが取れてさっぱりしていた。途端にトイレに行きたくなったけれど、大きい方もしたいから、首に巻き付いてるサリの両腕も外して、とりあえずここに置いていこう。


それよりもお尻を拭くものがないな。見回すと大きい葉っぱをつけた木があったので、それをダガーでカットして、これをトイレットペーパー代わりにした。


お腹が空いて喉も渇いてる。皆の様子を確認したあとで、いちどアルフェリードの故郷だというエルフィン村に行ってこよう。たぶんこの広い街道の先にあるはずだ。帰りの道もわかるに違いない。


目が覚めて頭がはっきりしたら、いろいろと考えられるようになってきた。

サリなしでひとりで蒼龍に近づいていかなければならないのは想定外で、かなり不安があったけれど、それでもアゼリア達が気になるので、恐る恐る蒼龍のほうに近づいていった。


木の枝を踏んだだけでも蒼龍に気がつかれて、こっちに襲ってきそうな恐ろしさを感じ、自然と抜き足差し足になっていた。頭じゃそんなことしなくても大丈夫とわかっているんだけれどね。


やがて見上げるほど巨大な蒼龍の下に到着した。みんなは何処と見回してみたら、いた。

たぶん全員が道路脇の森の中に身を潜めている。一時しのぎすぎないことは、その状況を見れば一目でわかるけれど、全く隠れたことにはなっていない。蒼龍の目は、そんなメンバーが隠れている場所をじっと見ている状態で止まっていたからだ。次の瞬間、みんなは蒼龍に襲われる運命に見える。


皆の状態を見たら、全員がそれなりに大きな怪我をしている。ちょっと状況を口にするのがためらうほどの状態なので、頭の中で実況するのはやめておこう。たぶん蒼龍の前足や尻尾で跳ね飛ばされた直後なんだと思う。全員がここに集まるだけでも大変だったに違いない。


エルヴィローネが、怪我をしているアゼリアを自分の膝の上に抱えたままで、右手を高く上げて火炎魔法を飛ばしていた。イグナスからの合図だとばかり思っていたけれど、エルヴィローネもこんなに凄い火炎魔法が使えたんだね。


いや、ダンジョンでイグナスが火炎魔法使っていたけれど、あれとは明らかに違う全身全霊を込めた魔法の放ち方だ。もしかしたらこれがダンジョン内では使うなと注意を受けていた灼炎魔法なのかもしれない。


目に一杯涙を溜めながら、歯を食いしばって全力で灼炎魔法を打っている様子を見れば、絶望的な状態で、万策尽きて僕に救助を求める決断をしたエルヴィローネの無念さが伝わってくる。


たぶん最後に残った魔力の全てを灼炎魔法で使い果たしたに違いない。魔力に余裕があるなら、みんなにヒールを掛け続けていたと思う。こんな大けがになるのをエルヴィローネが指をくわえてなにもしないでいるはずがないもの。


アゼリアは生きているんだろうか。怪我の状態がひどいのが一目でわかるけれど、体は大丈夫そうに見える。でも気を失っているみたいだ。


ブレスレットを戻して、今すぐにでもアゼリアに声を掛けたいけれど、怪我の状態が悪くなるだけなので、ぐっと我慢した。


これから、どうすればいいんだ。冷静に考えろ。僕の対応次第で、このメンバーは全員助からない。全ては僕次第なんだから、落ち着け。


自分に言い聞かせ深呼吸をすると、まずは周囲を注意深く観察することにした。

たぶんこの周囲に誘導者の仲間が隠れてるよね。それらを何とかするのも僕の仕事だろう。時間はたっぷりあるんだから、手順を考えよう。


そうだ、自分が倒れたら全てが終わってしまうんだから、最初は自分の心配だ。

とりあえず状況はわかったから、まずはエルフィン村に行って水を飲もう。


食べ物とか、他に何か役に立つものがあったら売ってもらおう。幸いウエストポーチの中には小銭がたくさん入っているからたぶんお金の問題は無いと思う。


あとでアルフェリードにお願いして、一緒に謝って訳を話せば、きっと許してくれるに違いない。


そうと決まったら立ち上がって、街道を蒼龍が行こうとしていた方向に向かって歩き出した。途中の草むらにはサリを寝かせたままだったので、ひとりじゃ不安だから村に一緒に行って欲しいと思って僕の首にサリの腕を巻き付けてみた。でも一度外すと、それは容易じゃないことがわかって断念。


トボトボと一時間くらいひとりで歩いていったけれど、ひとりが想像以上に不安になることに今更ながら気がついた。サリの存在って思ってた以上に重要だったんだ。


やがて森の中に隠れるように開けた村に到着した。周囲が森に囲まれていてアルフェリードの話とも一致しているから、ここがエルフィン村に間違いないだろう。


想像していた以上に開けた村で、ここまで来るのに通ってきた賑やかな駅のある村より、さらに賑やかな村に見える。


早速村の真ん中にある共同水場と思われる場所にあった井戸から、つるべで水を汲むと、ガブガブ飲み始めた。喉が乾いていたので、水が旨く感じたけれど、森で浄化された水だから実際に旨いんだろう。


水を飲んで落ち着いたところで、村の中を歩いて回った。蒼龍がすぐ近くまできているというのに、まるで緊張感のない村では、たくさんの人が通りを歩き、子供達が遊んでいたり、先ほどの水場ではたくさんの女性達が笑い合って何事か話している最中だった。


村人は村から決して出ないとアルフェリードが言っていたけれど、それは、蒼龍には決して村は襲われないから、村にいれば安全という確信を持っている、という意味でもあるんだろう。その自信はどこからくるのだろう。僕には到底理解できない。


きっとアルフェリードは、その理由を知っているから、自分には説得できないと感じていたんだろう。


そういう特殊な村から、あえて出て領都に住んだアルフェリードのような人は、めずらしいのかもしれない。


まず必要なのは僕のご飯だ。僕にとってはもう一日すぎていて、まだ朝ご飯も食べていない。これじゃ力が出ないから何か食べよう。それとアゼリア達の所で必要になる物資の調達をしてから戻ろう。


お弁当屋さんのようなお店があったので、一食分もらって、お店の人が使っているメモに「5Gのお弁当と1Gのスプーンをもらいました。」と書いて、その上にお金を置いた。


近くの木陰のベンチに座って大きな葉に包まれたお弁当を開いて食べ始めた。本当はお店の人の了解なしにこういうことをしてはいけないんだけどね。でも食べなきゃどうしても力が出ない。だからここはどうか勘弁してもらいたい。


何かの芋が主食みたいでそれに素材の味を大切にしているらしい薄味の野菜が添えられていて、包んだ葉と一緒に蒸し焼きにされていたらしいお弁当だった。


なんて上品で美味しいんだろう。


この芋はキャッサバとかプランテインとか、そういった類いの主食用の芋なんだろうね。プランテインは芋じゃないけれど、独特の食感はそれに近い。


食べ終わると現金なもので途端に元気が出てきた。後ろ向きだった気持ちさえ前に向いて、あの最悪な状況でも何とかなるんじゃないかなって気がしてきた。食べ物が持っている力って本当に凄い。


そうだ、スライムの皮を売っているお店はないだろうか。この先トイレットペーパーに悩まされる気がして何とか見つけたい。村の中にはお店が並んだ商店街のような一角があったので歩いてみたら、雑貨屋さんらしきお店を発見した。


お店の中を歩いてみたら、「ちり紙」と書かれた、本物の「紙」でできたトイレットペーパーがあった。えっ、ちり紙があるの?


紙は黒に近い色をしていて、とてもメモ用紙には使えない紙質だったけれど、僕が知ってる「ちり紙」より柔らかくてしわしわになっていて、A5サイズくらいの大きさだ。これが一束ずつ紙紐で束ねられていた。値段もお母さんから聞いていたスライムの皮の値段より断然安い。


ここは森林に囲まれた村だから、材料はふんだんにあるので、いくらでも「ちり紙」が作れるんだ。これは大発見。もし領都で仕入れられるほど生産できるのなら、ぜひ仕入れたい。何よりも僕が使いたい。


この村には、今回の騒動が解決したら是非ゆっくりと遊びに来よう。雑貨屋さんのお店のメモにも「ちり紙」を買うことを書いて腰にぶら下げる袋と一緒に、お金を払った。


おっと、あれはリアカーじゃない?

農機具屋さんがあったので覗いてみたら、田舎のおじいちゃんの家にあったリアカーそっくりな物が置いてあった。タイヤはゴムじゃなさそうだったけれど、木製の車輪がついてる。


これは使えそうだ。ひとりひとり抱えながら救出するんじゃ村まで連れて行くのだって一週間かかる計算だったけれど、これでかなり短縮できる。なにより僕が楽なのがいい。


貸してもらえるのかな。いや貸車屋じゃないから売り物だよね。いくらだろう。よく見たら正札がついていた。1200Gか。悪くない値段だ。

お店の奥の机の上にあったメモに、「リアカーをいただきます」と書いて金貨一枚と銀貨二枚を置いた。異世界に来て最大の買い物かもしれない。金貨は貸車屋の保証金として払ったけれど、買い物で払うのは初めてだ。


村の様子を一回りしてみたら、蒼龍が向かってきていた領界に向かう道の他に三本ほど別の場所に向かう道があった。この道がどこまで伸びているのかはわからないけれど、僕が来た方向に延びている道をたどれば、いつかはあの山賊達が縛られている村に到着するよね。あそこに一度皆を連れて行きたいけれど、リアカーで行くには獣道は通れないので、この道を利用することにしよう。


村の一番奥には大きく枝を広げた大木が一本あった。背は高くなかったけれど、とにかく枝が広い。たくさんの人が木陰で休んでいた。まるで森の妖精みたいな人達だ。


さてと、一回りして村の観察が終わったところで、それじゃアゼリアのところに戻ろうか。何としても救出しなきゃね。


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