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マジェスティア・アエラ ~希望したチートアイテムはレベル1から上がらない異世界でのんびり過ごせるブレスレットひとつだけ~  作者: 園之野希乃路


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106.蒼龍と誘導者(5)

爽やかな朝だ。交代で見張るわけだったのに、誰も僕を起こさなかった。もしかして、起こしたのに起きなかったという場合もあるので、一階に下りていって、皆に挨拶しながら聞いてみたら、僕とサリと子供達は全員ぐっすり寝ていて、特に僕は泥のように寝返りすら打たずに寝ていたそうだ。


当然のように僕は交代要員からは最初から外れていて、起こそうなんて誰も考えていなかったみたい。


アゼリアは僕の寝顔が見たいと騒いでいたようで、「一応女なんだから男の部屋には入るな」とヴァルッカに注意され、逆にヴァルッカがアゼリアにボコボコにされたみたいで、ヴァルッカの顔がボコボコさんの顔になっていた。「一応」がまずかったみたい。


それでアゼリアは交代を呼びに来たと理由をつけて、僕の寝顔を覗きに男の部屋に入ろうとするのが目に見えていたから、アゼリアとエルヴィローネとサリと誘拐されていた中にいた女の子の四人を宿の二部屋に分けて寝かせて、女性陣は交代要員から外し、男達だけで夜中の見張りをしていたそうだ。


みんなアゼリアには苦労しているんだね。


弓をちらつかせながら、アルフェリードが山賊をまとめて面倒をみたり、誘導者は抵抗できないよう、ひとりひとり麻縄で縛りなおしてはトイレや食事の世話をやいていた。


ダンジョンでトイレを作った時みたいに、牢屋は作れないのかとイグナスに聞いてみたけれど、そこまで大がかりな魔法は使えないと言われた。それに魔法で作った物は魔法で壊せるので、囚人の中に魔法が使えるのがいたら役に立たないのだそうで、魔法って便利そうで使えない。


食事の内容にはかなりの差をつけていたものの、サリは持ってきた保存食を使って山賊や誘導者の食事も淡々と作っている。結構忙しいはずなのに、誰かに手伝って欲しいなんて愚痴は一切言わない。プロのプライドなんだろうね。


でも家族全員でキッチンに行く我が家なら皿洗いを手伝うのは当然の感覚になっていたので、洗い物は僕が受け持って、サリには料理に集中してもらった。


最初から三週間分くらいの食材は持ってきていたようで、食べる人がこんなにも増えたのに全く動じてなかった。こういうときのサリは本当に尊敬してしまう。僕にしがみついてちびってるときのサリとは別人のようだ。


「ちびったとかマジないし~」


つぶやきが聞こえてしまったようだ。心の声が口から漏れることで、僕は何度か失敗してる。一番大きい失敗は、死んじゃったことだ……。でも、ちびったと言われながらも褒められているわけで、サリも内心嬉しそう。


今日はエルヴィローネとセルディオのふたりだけのパーティで、前線に状況確認に出かけていった。魔法の能力に長けたエルヴィローネと槍の名手のセルディオのコンビは、人間の敵を相手にするとき、最強なんだとか。


戦闘についての知識が全くない僕には、どういう点が優れているのかはよくわからないけれど、普通にいいコンビに見える。いつも紳士のセルディオと、後衛をしっかりと守れるエルヴィローネの静かなコンビって、なかなかいい感じだ。


ふたりが戻ってきたときには夕方近くなっていた。


「おうご苦労だったな。怪我はしなかったか?」


豪放なトラヴィスだったけれど、付き合うにつれて、仲間を心配する神経の細やかなところがあることに気づいていた。今回も前線の様子なんかより、二人が怪我などしていないかのほうがよっぽど気になっていたようだ。


「うん、途中で敵に出会うよぉなことものうて、無事じゃったんよ。」


エルヴィローネは、ここまで走り通してきたようで、足のふくらはぎをもみほぐしながら答えた。


「西方騎士団はなぁ、まだときどきおるデュランディエ公領の兵士にゃ手こずっとったみたいやけど、蒼龍の見張りは落ち着いとるみたいやった。

後ろに蒼洞のアゼリアがおるって聞いただけで、騎士団の士気はだいぶ上がっとるんじゃあ言うとったわ。」


「セルディオ、おまえ足が長いんだから、少しはエルヴィローネをかばって走ったらどうだ。かなり足に来てるみたいじゃねえか。」


イグナスに言われてセルディオは「面目ない」と謝罪していたけれど、エルヴィローネが衝撃的なことを言い出した。


「いやぁ、帰りは途中から背負うてもろうて帰ったんよ。えれぇ見さられんかったけぇ、村の手前で下ろしてもろうたんじゃけど。」


「おお、それはでかしたセルディオ。それでこそ蒼の誓クラン一の色男だ」


ヴァルッカに冷やかされてセルディオは、頭を掻きながら苦笑いした。ほんと、今日一番の英雄だよね。


「よし、それなら我々は騎士団からの要請が来るまでは、引き続きこの場所で待機しよう。」


というトラヴィスの判断で、明日もまたこの村で待機ということになった。


何の動きもないままに、翌朝を迎えた。


朝早く、寝ぼけ顔で一階に下りていったら、少しだけ皆が騒がしかった。どうしたんだろう。


「どうしたの?」


心配そうにアルフェリードの話を腕を組みながら聞いていたアゼリアに声を掛けてみた。


「あら、おはよう、私のテムリオちゃん。目が覚めたのね。アゼリア寂しかったわ。」


これこれ、アルフェリードが真剣な話をしているのに、そこで女の子になっちゃだめだよアゼリア。


「ううん、蒼龍の吐く火炎の煙が、突然北の方角向かいはじめたってお話よ。あっちの方角にアルフェリードの田舎の村があるの。」


ええっ、それは大変じゃない。アルフェリードが真剣に話すはずだよ。


「……俺は村の皆を説得に行こうと思っているが、たぶん難しいと思う。どんなときでも森から出ることはないのがエルフィン村の村人だ。アゼリア、村に行く許可が欲しい。」


どんなときでも自分勝手な行動は許されていないからリーダーのアゼリアの許可は絶対に必要みたいだ。


蒼龍からは、ここもエルフィン村も距離的には同じくらいだから蒼龍が村に到着するとしたら午後の早い時間くらい。


それに対して、ここからエルフィン村までの距離は、人間が急いで行けば、それと同じくらいで行けるほど近いのだそうだ。


「わかった。それなら全員でエルフィン村に向かうぞ。蒼龍とどちらが早いか競争になるが、村の手前でなんとしても阻止する。到着次第に蒼龍討伐態勢だ。一人でも遅れれば態勢が取れない。絶対に欠けるなよ。」


「アゼリア、俺の封印解除して。今は緊急事態だ。」


こっそり耳打ちしたけれど、アゼリアには首を横に振られた。


「大丈夫よ、私のテムリオちゃん。私を信じてね。」


そういわれて、信じないわけにはいかない。仕方なくうなずいた。たぶん僕はサリとここで留守番だ。


「じゃあ、村のことは俺とサリに任せて、頑張ってきてね。どうしてもというときは、イグナスかエルヴィローネに空に向かって火炎魔法を打つように言って。そうしたら何としても助けに行くから。」


戦いに参加はできないけれど、助けに行くことならできる。ダンジョンで実践済みだ。アゼリアは僕に満面の笑みをみせると、久しぶりにぎゅっとハグしてくれた。痛い痛い。固い鎧の胸の谷間に挟まって「ギブギブ」と叫んでしまった。ふう、今日は息ができない時間がこれまでで一番長かったよ。


全員が武器だけを持った身軽な格好で森の中に突入していった。ここら辺の森の中はアルフェリードにとっては自分の家の庭のような場所だ。全員がアルフェリードに続いて一直線にならんで森の奥に消えた。


料理中だったサリが、右手にオタマを握ったまま、森の奥の方を見つめて、左手で僕の手を握ってきた。僕も無意識に握り返していた。


「坊や達、仲がいいのはわかったから、おじさんの紐をほどいてくれないか。これだけたくさんいれば、みんなを助けて一緒に戦ってやれるよ。」


後ろで誘導者のリーダーが気持ち悪い猫なで声で、話しかけてきた。子供ならごまかせると思ったらしい。


思わずオタマを振り上げそうになったサリの手を押さえて、目で「だめだよ」と合図した。オタマが汚れるよ。サリの神聖な仕事道具を、そんなことで汚しちゃダメだよ。


それよりも、僕らはイグナスかエルヴィローネの合図を絶対に見逃しちゃいけない。魔法だから打っても一瞬だろうから、見逃したら大変だ。瞬きすらするのが怖い。


しばらく手をつないだまま森の方を見ていたけれど、その仲のいい格好に最初に我に返ったのはサリの方で、「なに手をつないじゃてんの!」と怒られてしまった。確かサリの方から手をつないできたよね。


まだ朝ご飯を食べていないのに気がついてサリに聞いてみたら、みんな朝早くに食べ終わっていたらしい。食べていないのは僕と誘拐された子供達と囚人達だけだったみたいなので、サリにお願いして朝ご飯を食べることにした。何をするにしても食べておかないと体力が持たないからね。


僕達だけではどうすることもできないので、囚人達の面倒は今日はみないことにした。一日くらい縛られていても、臭くなる程度で問題ないだろう。


まだ寝ていた子供達も起こして、皆で朝ご飯を食べた。いつの間にかサリはお母さんのハムカツサンドが作れるようになっていた。薄く何層にも切ったお肉は柔らかくて、とても美味しかった。子供達も気に入った様子で、夢中で食べている。絶品のスープも健在だ。おしゃれにクルトンまで飾ってあった。


食事が終わったら、今日は大人がいないから万一のことを考えて、子供達には二階で過ごして下には降りてこないように伝えた。そうしておいて、食事の後片付けをサリと二人で終えると、椅子を外に持ち出し、囚人達が見えない場所に移動して座り、ふたりで森の観察をすることにした。


「お昼ご飯の時間までは戦いは始まらないので、合図がくることはないと思うけれど、念のためにここにいる。サリは無理しなくてもいいぞ。」


「じゃあ、抱っこ」

「それじゃ森の方が見えないぞ。」

「じゃあ、おんぶ」


こうして、サリは椅子から立ち上がると、僕の背中と、椅子の背もたれの間に入り込み、腕を首に回して足を胴体に絡めるといういつもの格好になった。


「子守歌でも歌ってあげようか……」


と冗談を言っても返事がない。しばらくすると、スースーという寝息が聞こえてきた。メイドとして張り切って誰よりも早く起きたんだろうから、可哀想なので寝かせておいてあげよう。


この格好のまま、ずっと椅子に座っていた。途中で起きたサリが、ふいっと黙って建物の中に入って行ったのは、たぶんトイレだろう。戻ってくるとふたたび僕の背中でスースーとすぐに寝息になった。


「お昼ご飯どうする?」


寝ぼけ声でサリが聞いてきたから、ここで食べられるようにパンに野菜やお肉をはさんで持ってきてと頼んでおいた。ついでに宿の柱に架かっていた時計を見に行ってきてもらうよう頼んだ。もうお昼ご飯の時間はとっくに過ぎて、結構な時間が経っているはずだ。


しばらくして、ハンバーガーそっくりの丸いパンを自分の分とふたつ持ってきてくれた。

時間を聞いたら、もう午後二時を過ぎていたようだ。


飲み物もふたつ持ってきてくれたので、食べたけど、なぜかサリは僕の背中で食べている。食べにくくないかと聞いたけれど「べつに」と素っ気ない返事が来た。


「あっ、あれ!」


サリが僕の耳元で大きな声を出した。そんな耳元で怒鳴らないで、聞こえてるから。

僕も確認済みだ。蒼龍の黒い煙と違って、真っ直ぐに光の柱のような火炎魔法が空に向かって昇っていった。


よしっ、合図だ。あれは僕に助けを求めている合図。

サリを背中に乗せたまま立ち上がると、

「じゃあちょっと行ってくるね。子供達をよろしくね」

と言ってサリに背中から降りるよう促した。


「イヤ、イヤ、無理、無理!」


サリが慌ててる。囚人達といっしょに残される恐怖を感じたみたいだ。


一人は絶対に無理だから一緒に連れて行けと怒鳴ってる。

とにかく時間がもったいないので、すぐに宿の中に入ってから、だれも周りにいないことを確認すると、ブレスレットの青いラインを回そうとした。


その途端、背中から降りたサリが、前に回って、ぴょんと飛びついてきた。

うーん、一秒でも惜しいからこのままでいいか。どうせ救助している間はずっと時間は停止状態になるのでサリは何もわからないままだ。


ブレスレットを回そうとサリの後ろに手をやったら、「うふっ」と今日はくすぐったそうに一回声を出しただけで、例の面倒なことは言いださなかった。


外に出て、皆が向かった森の方をみたら、空に向かって発射された火炎魔法の残像はまだ消えていなかったようで、そのままの形で時間停止状態になっていた。これは好都合だ。あそこに向かっていけばいいので、ゴール地点が事前にわかっているというのは心強い。


念のために宿の奥の方を調べてみたらタオル地に近い布きれがあったので、これをサリに巻いて、万一の事故防止の緩衝材代わりにした。


さていよいよ森に行こう。サリのおまけつきという変な格好で森の中に入って行った。


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