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1.さあ異世界転生です!(1)

心があまりざわつかない、安心して読んで頂けるお話です。

後半に行くに従って徐々にスピードアップしていきます。

後半からは少しだけざわつくような展開になるかもしれませんが、不快感にはならないと思います。


まずはマニュアル車のように、ローギアからお楽しみください。


「それで『異世界』って何ですか」

「えっ、そこから?!」


明らかに困惑した顔の、神様っぽい老人が素っ頓狂な声を出した。


ええ、ええ、確かに僕は現代の若者とはだいぶ意識がずれていますよ。そこは多少ですが自覚はありました。だからといって、そこまで驚かれなくてもねぇ。


何しろ同僚達が会社の宴会で、何やら聞いたことのないネットゲームのワードで盛り上がっていても全く理解できないから、「なあなあ、そうだよな」とこっちに振られても、微妙な笑顔で「う、うん、そうだね」と、空虚な相づちを打つしかできなかった。


ネットゲームの話が当然通じる前提で盛り上がる職場。『ネトゲ』って言われても、それが略語だと知ったのだって、だいぶ後になってからだ。


幼かった頃から、家には普通にパソコンがあったけれど、親の仕事の道具としてしか認識していなかった。だから、あれでゲームができると友達から聞かされても全く興味がわかなかった。忌避感があったので、学校の授業で触ることはあっても趣味で触りたいなんてこれっぽっちも思ったことはない。


スマホも持ったのは、大学に入ってからバイトのシフトの連絡用に必要になって仕方なく持ったけど、趣味で利用しようなんて発想もなかった。


そんな平々凡々な、なんの変哲もない生活をしていた入社一年も経っていないサラリーマンの僕が、突然、たぶん死んだ。

たぶん、というのは、死にそうとか、確実に死んだといった自覚がないからだ。


ある日の仕事帰りの駅で乗り換えのために混雑している連絡通路を急いで歩いていたら、叫んでいる中年男性がいた。


「やだな、この時間から酔っているのかな。」


近くを通らなければ乗り換えホームに行けないので、できるだけかかわらないように壁側に近いあたりを歩いて、視線があわないように気をつけていたのに、大声に釣られて見てしまった。


視線の先にはリクルートスタイルの気弱そうな女性が絡まれていて、偶然にも視線が合ってしまった。


たぶんストレス発散にろくでもないような言いがかりをつけられているのだろう。気の毒だけれど非力な自分に助けられるとは到底思えない。


「むりむり……」


思わず頭の中で想像で首を左右に振って叫んだら、なぜか声に出てしまった。それも結構大きい声で。


「ああっん?俺の言ってることが無理だと?」


中年男性の絡んでいたターゲットが、一瞬にしてこっちに変わってしまった。

これ幸いと思ったのか、絡まれていた女性は全力で反対方向に逃げていく。

ターゲットを変えた中年男性の視界にはもう入っていないらしく、その目は僕にしっかりとロックオンされている。


気配を察知してか僕の周囲にいた同じく関わりたくないオーラをいっぱい出していた通行人達は、さっと左右からいなくなって、僕と中年男性の一騎打ちみたいになってしまった。まわりの人達の顔には、全員「お気の毒様」と書いてある。


相手の中年男性は手を出したわけじゃないんだよね。そう、全く何もしなかった。間抜けなのは僕だ。気迫に押されて思わず一歩後ずさりしたら、そこに足場が無かった。壁際ぎりぎりを歩いていたので、ホームに下りる階段の端を歩いていたのをすっかり忘れていたんだ。


「おわっ」


これが現世で僕が発した最後の言葉だった。間抜けだね。断末魔でもなければ、白鳥は死ぬ間際に美しい声で鳴くといわれている白鳥の歌でもない、人生の最後の言葉が「おわっ」だよ。


階段を頭から落ちたのに、いつになっても地面に着かないまま、気がついたらここにいる。


それで今、気がつくと、目の前にいるのは、この「神様っぽい老人」。


でも神様と呼ぶには威厳は感じられないし、どちらかというと、ちょっと間抜け感すら漂わせている。それでいて、格好だけは白い装束に頭に白い何かをのっけて、ついでに白いひげまでたっぷりと蓄えているので、見た目は神様っぽい。


「えっと……」


「はい、私は神の国の案内人セシルフォリアです。あなた様は駅で女性の危機を救い、たった一騎で果敢に暴漢と戦いましたが、卑怯にも暴漢は正々堂々と戦おうとせず、あなた様を階段下に突き落としました。


そこであなた様は不幸にも首の骨を折って亡くなられて今ここにいます。でもあなた様のおかげて女性は無事です。勇敢な青年の名誉の死と神の国ではみなが賞賛しておりますよ。良いことをしましたね。」


なんか話を盛ってない?

こっちは、ただ、巻き込まれて自分から落ちて死んだってだけだよね。


「まだ神定寿命が残っている勇者のあなた様ですが、間違って死亡してしまいました。あんなに簡単に死亡されるとは思っていなかったので…」


なんか馬鹿にされてるっぽく感じるのは気のせい?


「…神の国ではちょっとした騒ぎになりましてね。当直の神が手抜きをしたのではないかとか。」


「えっ?当直って何?」


そこ突っ込むところじゃないのかもしれないけれど、すごく気になる。


「神定寿命を全うするための体が壊れてしまったので、あなた様は元の世界に戻ることができません。異世界に転生することならできますが、いかがいたしましょうか。」


あ、こっちの話は聞いてないのね……。


「いかがいたしましょうかって、そもそも何の話をしているのか全く理解できないのですが。まあ僕は死んで、魂だけここにいるんだろうなってくらいは、なんとなく理解できますが。」


「その通りです。ですから、本来なら生きていられたはずの長さの人生分、異世界で暮らすことができますけれど、いかがいたしましょうかということですけれど。」


あ、今度は聞いてたっぽい。


物静かに、でもどこか「こんなことも理解できないのか」とイラッとしている感じが漂っているような声で再度確認してきた。こういう反応にどうしてもビクッとなってしまい、おもわず小心者はいつもの口癖で「すいません」と謝ってしまいそうになる。


でもわからないものはわからないから聞いてみよう。


「それで『異世界』って何ですか」

ここでようやく最初の場面に戻る。


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