表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには  作者: 命知叶


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/120

怒りの行動

今回も流血表現があります。

今日はルウェンが率いる特務隊が戻ってきてそのまま宴会になるのだ、とマヒロは嬉しそうに話していた。攫われていた工房の人質が無事だったことを何より喜んでいた。


嬉しそうにその事について話すマヒロの言葉を聞きながら、ハルタカはやはりマヒロはヒトの間で暮らす方が幸せなのかもしれない、と思い至って胸が苦しくなった。

「ハルタカは宴会来れない?」

「‥来てほしいのか?」

マヒロの言葉に、苦しかった気持ちがするすると溶けていくのを感じた。ああ、やはり、簡単に手放すことはできないかもしれない。

「うん‥もしあんまり忙しくないなら。最近、会ってなかったし‥」

今、カルカロア王国がある大陸から少し離れたところにいたハルタカだったが、マヒロのその寂しそうな言葉を聞いて、無理をしてでもマヒロに会おう、と思った。

「宴会に間に合うかはわからんが、ここでの用を済ませ次第すぐにテンセイで向かう」

ハルタカの返事を聞いて、マヒロは嬉しそうに言った。

「ありがとう!美味しいもの取っておくね!あ、でも、無理はしないでね」

マヒロの気遣いが嬉しくて、ハルタカは微笑みながら返事をした。


決壊を起こしそうだった大きな河川を見て回り、甚大な被害になりそうなところだけ少し修復の手を加える。全てをやってしまうと次に同じような災害が起こった時にヒトの手で対処ができなくなってしまうから、やりすぎないようにしなければならず、その加減はなかなか難しい。

神経を使って地形を整え、テンセイを駆ってカルカロア王国を目指した。アツレンはカルカロア王国があるサッカン大陸の中でも随分と北に位置している。少しずつ暗くなってきた空の中を、テンセイを励ましながら飛んでいた。


その時、ハルタカの胸を、ぞわりと恐ろしいほどの強い不快感が襲った。


これは、ハルタカの髪の腕輪を通して伝わってくる、マヒロの鼓動。マヒロが、何かで身体を害されている。何か毒物を身体に入れられ、そのせいでマヒロの身体が不調を訴えている。

マヒロの不調は、ハルタカの身体と同調してどんどん悪化していくことをハルタカに伝えてきた。

そして脳裏にマヒロの声が響いた気がした。


‥ハルタカ‥?


ハルタカは、テンセイの背から無意識にマヒロのもとへ転移した。



転移した部屋は薄暗かったが、目の前の長椅子に人が倒れているのが見えた。よく見ればそれは、ルウェンに組み敷かれている(ように見える)マヒロの姿だった。

マヒロは目元を赤らめてぼうっとルウェンを見つめている。マヒロの上半身は薄い下着だけになっていて、細く白い肩や胸のふくらみがはっきりとわかる格好になっていた。


ハルタカは一瞬、状況が理解できずその光景を見て身体が固まった。

だが次の瞬間、血が沸騰するかと思った。


マヒロが「ハルタカ‥」と言いながら、ルウェンの胸に身体を預けたのだ。ルウェンも優しくその身体を抱きしめた。


ハルタカはすぐさまルウェンからマヒロを奪い返し、ルウェンの身体を思いきり蹴り飛ばした。ゴキ、という鈍い音がしたが構っていられない。

マヒロはぼうっとハルタカを見あげた。顔が全体的に赤らんでいて目元が特に赤い。

「‥あれえ‥?こっちも、ハルタカだあ‥」

気の抜けたその声に、はっとしてマヒロに深く口づけた。


タツリキを流しながら毒物を解析し、解毒していく。この毒物は。


「パルーリア‥!」


使用回数が重なれば廃人になることもあるという恐ろしい性交強制幻覚剤。しかも強い媚薬まで付されている。

マヒロの舌に何度も自分の舌を絡めてタツリキを流し、必死に解毒した。何とか全て解毒できたが、そのために体力をごっそり奪われたマヒロは意識を失ってしまった。

赤みがひき、むしろ少し青白くなったマヒロの額に優しく口づける。


ぎゅっとマヒロの身体を抱きしめながら、ハルタカの心の中に恐ろしい怒りが燃え上がった。

誰がこんな目に遭わせたのだ。この屋敷は安全ではなかったのか。

研ぎ澄まされた意識をルウェンに向ければ、ルウェンも浮かされたように「アーセル‥」と呟いてぼうっとしている。こいつも同じ毒を飲まされたのか。


ハルタカは全身の力を込めてタツリキを屋敷内に展開した。同じ毒の匂いがするのはどこだ。そして誰だ。


犯人はすぐにわかった。あまり遠くない場所でこちらをうかがうように佇む、同じ毒の匂いの濃い人物がいるのがわかったのだ。

ハルタカは全てのタツリキを集めてその人物を捕まえるとぐん!と自分のいる方へ引っ張った。その人物はバリン!と大きな音を立ててドアをぶち破りハルタカの前に引き出された。


ティルンが、引っ張られて壁やドアにぶつかりあちこち怪我をして、血を流した状態でハルタカの前に引き出された。

怒りのタツリキの波動で燃え上がっているようなハルタカの姿を見て、痛みに呻いていたティルンは「ひっ」と短い悲鳴をあげた。

その顔を見て、ハルタカはこの人物が自分の欲望のためにしたことをすべて理解した。



そして、怒りのままにハルタカのタツリキは屋敷を破壊したのだ。




ティルンを睨みつけ今にも殺しそうな勢いのハルタカに、必死になってアーセルは叫んだ。

「お待ち、ください!ハルタカ様、ティルン様は‥まだ子どもです!もう、怪我をしています、どうかご寛恕ください!」


「許さぬ。もし、私が‥もし私が腕輪をマヒロに送っていなかったら‥もし私が間に合っていなかったら‥マヒロは‥」

ハルタカは震える声でそう言うとティルンを指さし、その指をさっと左に払った。指の動きに従ってティルンの身体は左へ吹っ飛び、崩れた壁に激突してぐじゃりと肉の潰れる音がした。

絶望的な声でアーセルは叫んだ。

「ティルン様!」


もはやティルンはピクリとも動かない。新しくその身体からじわじわと血が流れているのがアーセルのいるところからも見えた。‥もう、息絶えてしまったのか?

だがハルタカは容赦なかった。もう一度ティルンの方へ指を向けて動かそうとした。


その時、また夜空が真っ白に光った。



アーセルはあまりの眩しさに目を開けていられない。光はなかなか収まらず、随分と長い時間光っていたようだった。

ようやく光が収まったのを感じて、アーセルは目を開けた。



もう一人。

銀髪の人物が空に浮かんでいた。


龍人(タツト)が、もう一人‥?」


一度に二人の龍人(タツト)が現れるなど、聞いた事がない。何が起きているのかわからず、呆気にとられて新しく現れた龍人(タツト)を見つめた。


新しく現れた龍人(タツト)は、ハルタカに比べるとほっそりとした体格で、見た目には二十歳前後に見える。波打つ銀髪は無造作に後ろに下ろされ、膝裏まで届きそうに長かった。アーセルのところからは顔立ちはわからないが、龍人(タツト)のことだからきっと美しいのだろう。


よくよく見てみると、新しく現れた龍人(タツト)はハルタカに向けて腕を伸ばしていた。ハルタカはマヒロを抱きしめたまま固まっている。

新しい龍人(タツト)が、ハルタカを止めたのだろうか。


判断がつきかねて空を見上げていると、新しい龍人(タツト)とハルタカがゆっくりと下に降りてきた。龍人(タツト)はティルンの方を見て

「ああ、これはよくないな」

と言って今度はティルンの方に腕を伸ばした。ぼんやりとした青白い光がティルンを包む。ティルンの身体の下の血が広がるのをやめた。

「まあ、これで死にはしないだろう」

龍人(タツト)はそう言って今度はゆっくりとアーセルの方にやってきた。


「お前は何者だい?」

平坦な、感情の一切感じられないような声だった。ぞくりとしながらアーセルは答えた。

「‥フェンドラ領主、アーセルと申します。当屋敷の持ち主です」

「ふむ。龍人(タツト)ハルタカが屋敷を壊してしまって申し訳なかったね。後で私の及ぶ限り修復しよう」

「あの、あなた様は‥?」

アーセルが尋ねると、龍人(タツト)はアーセルの方に顔を向けた。少し子どもっぽさの残る顔立ちではあるが、まるで作られた像のように美しかった。


「私はソウガイ。龍人(タツト)の中で一番長く時を経たもの」


読んでくださってありがとうございます。

よかったら評価やブックマークなどしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ