激怒
流血表現があります。
(なんで?何でルウェンが私の部屋‥じゃないのか、ここ)
ぐらぐらする頭でそう考える。
ルウェンの顔は赤く染まっていて目は虚ろだ。マヒロを見ているようで見ていない、そんな感じである。しかし、マヒロを抱きしめる腕は緩まない。
「ル、ウェ、離し‥」
マヒロもどんどん頭が働かなくなり、口が回らなくなってきた。
「好き、だ、愛してる‥」
ルウェンから紡がれる言葉。さすがにぎょっとして一瞬頭が冷えた。
「え?!」
だが次の瞬間にルウェンの唇からこぼれ出たのは。
「アー、セル‥」
(‥え?)
ルウェンは、苦しそうに切なそうにそう言いながらマヒロを抱きしめ、顔をすり寄せてくる。その力は強く、とてもではないが振り払えそうにない。
「アーセル‥俺は、ずっと、傍にいるから‥」
ルウェンはそう言ってマヒロの衣服に手をかけた。
「やだっ!!」
一瞬、身体が固まったが、すぐにふらつく腕を何とか突っ張ってルウェンを制した。だがルウェンはそんなマヒロの抵抗などものともせず、ぐっと上衣に手をかけすぐにそれを取り払ってしまった。
(や、やだ、なんで?私、アーセルじゃない、ルウェン!)
涙がこぼれる。だが抵抗したくても身体に力が入らない。
次の瞬間、マヒロの視界がゆらりと揺れた。
そして目の前に現れたのは。
「‥ハルタカ‥?」
マヒロの目の前には、美しい顔で笑っているハルタカがいた。
その時。
ド オ オ オ ン !
と轟音が辺りを薙ぎ払い、夜空が明るく光って真っ白になった。そして屋敷は大きな振動に襲われた。建物ごと、地面ごとぐらぐらと大きく揺れ、食器や家具が次々に倒れ、騒然となる。
中庭にいた人々、広間にいた人々は驚愕して辺りを見回すが、何が起こったのかさっぱりわからない。
アーセルはすぐに周りにいた騎士たちに全員の安否確認をするように命じ、自分は音が落ちたと思われる方向を目指した。屋敷内は色々なものが散乱して酷い有様だ。使用人たちにも一度外に出るよう声をかけながら損壊の激しい方を目指して走った。
目指すべき場所が、すぐにわかった。ビリビリと辺りを雷撃が囲んでいる。ここはルウェンの部屋だった場所ではないだろうか。そこかしこに光る稲光に遮られ、全く近寄れない。
辺りを見回しながら何とか少しその隙間を縫って発生源に近づいてみる。
そこの部分の屋根がすっかり消し飛ばされ、夜空が見えてしまっている。
そこに浮かんでいる影があった。
きらめく銀髪を揺らめかせ、憤怒の光で目をぎらつかせている美丈夫。
龍人ハルタカが、腕に何かを抱えて空高く浮かんでいた。
「ハルタカ様!」
アーセルは大きな声を出して呼びかけた。側にいるだけでビリビリとしたタツリキの波動を感じて立っているのも辛い。今まで触れたこともないような龍人の威圧の波動だ。しかもこれは、相当に怒り狂ったもののように感じられる。
「う‥がぁ‥‥」
低く掠れた呻き声がする。はっとそちらを見やれば、ルウェンが倒れていた。肩に巻いていた包帯が真っ赤に染まっている。相当な出血をしているようだ。
「ルウェン!」
名を呼んでもルウェンは動かない。「う、う、」と呻くだけで精一杯のようである。友のその姿を見て、アーセルは頭にかぁっと血が上るのがわかった。
「ハルタカ様!これはどういうことですか⁉なぜこのような狼藉を!」
「狼藉‥‥?」
ぐん!とアーセルの身体が床に叩きつけられた。何もされていない。なのに龍人の威圧の波動だけで地に転がされたのだ。
起き上がろうとしても床に押しつけられたまま、動くこともできない。
「狼藉を働いたのはお前らヒトだろう‥!!」
ガシャアアン!
大きな雷撃がアーセルとルウェンの間に落ちてきた。地面を伝ってビリビリと痺れるような刺激が身体を襲う。アーセルは息が詰まって身体を痙攣させた。
苦しい息の下から何とか頭を持ち上げ、ハルタカの方を見上げる。ハルタカが腕に抱いているのは‥赤い髪。マヒロだ。
「よくも‥よくもマヒロにパルーリアなど飲ませたな‥!絶対に許さぬ!」
ハルタカの後ろで長い銀髪がゆらりと広がった。右手に大事そうに抱えこまれたマヒロは気を失っているのか、ぴくりとも動かない。
そしてハルタカの左手がゆっくりと動き、ある一点を指さした。
「殺してやる」
指を差された先にいたのは。
顔半分を血だらけにしてがたがたと震えているティルンだった。
アーセルは初めてティルンに気がついた。呻きながら転がっているルウェンよりももう少し離れたところにティルンはいた。
美しい顔の左半分は血だらけで、潰されたのか怪我をしているのかこちらからはわからない。壁に寄りかかって何とか座っているようだが、左半身も赤く染まっていてどうやら大怪我をしているように見えた。
右半分の顔は恐怖に彩られ、がたがたと震えながらハルタカを見つめている。右足を無様にもがかせて何とか後ずさろうとしているようだが、そもそも自分が壁を背にしているから動けない、ということにも気づいていないようだ。
ティルンの足元には血だまりができていて、なぜティルンがまだ意識があるのかが不思議なほどだった。
アーセルは、ハルタカの威圧の波動を何とか自分のレイリキで中和し、身体の半分を起こしてもう一度声を絞り出した。
「ハルタカ、様!‥何が、あったのですか?」
ぎろり、と怖ろしい顔でハルタカはアーセルを睨みつけた。一言一言を叩きつけるように言葉を投げてくる。
「そこの者が。マヒロに、パルーリアを飲ませ、同じく、パルーリアを飲ませた、そこの騎士の部屋に、閉じ込めたのだ」
なかなか仕事モードに切り替わりません。てきぱき仕事をこなしている方を尊敬します‥。
よかったら評価などよろしくお願いします!




