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力素欠乏

力素はあらゆる力の源になる(架空の)物質です。

雄々しい(?)エレネの一喝で、体格のいい騎士・退異師達は素早く列を作りマヒロの前に並んだ。マヒロは(あれ?何でこんなことになってるんだ?)と内心首をかしげながらも、嬉しそうに武器を差し出してくる人々に応対し、それぞれの回路を見せてもらった。


回路も武器も、それを作り上げたヒト、書き込んだヒトの特徴があって一つ一つ違っている。だがやはりどれを見ても個性的な美しさがあり、マヒロは夢中になってそれらを解析し、見つめ続けた。

列がもう終わる、という頃になってアーセルが近くに寄ってきた。アーセルは先ほどまで退異師のリーダーと何か話し合いをしていたらしく、マヒロからは見えないところにいたのだ。アーセルの顔が見えて手を振ろうと腕を持ち上げた時、ぐらり、と身体がかしいだ。

(え、あれ?)

と不思議に思っているうちにふっと意識の糸が切れた。



「ばっっっかじゃないの⁉何してんの?頭沸いてんのか?」

少し遠いところで誰かが怒鳴っている声がする。

(‥ジャック?)

「‥‥いや、あの、ジャック悪かった、俺の配慮が足り」

「わかってんの!あんたの配慮が足りなかったことは!あんたってそういうところあるから!僕が言ってんのは騎士も退異師もぞろぞろ打ち揃っててなんで誰一人気づかないのってこと!‥、マヒロ様マヒロ様って、マヒロのこと好きな割に理解が足りないんだよどいつもこいつも!揃いも揃って馬鹿しかいないんじゃないのっっ⁉」

「うっ‥」

「‥面目ない‥」

「悪かった、ジャック、許し」

「いーーや許さない、とりあえず今日と明日いっぱいまで口きかないし一緒に寝ない!鍛錬場で野宿しろ!」

「‥‥‥ジャック‥」

「可愛い顔したって駄目!」


頭の中がまだ何かにかき混ぜられているように気持ちが悪いし、身体もずっしりと重い。自分に何が起きたのか、よくわからなかったが、おそらく具合が悪くなって倒れたのだろう、と思った。

目を開けるのさえ億劫で周りを見渡せないが、身体に触る感触から寝台に寝かされているのだろう、ということはわかった。

喉が渇いて貼りつきそうだ。重い瞼を懸命にこじ開ける。騎士団内の医療施設だろうか。飾り気のない、簡素だが清潔な白い壁の部屋だった。枕もとの台に水差しがのっている。それに手を伸ばしたいが、身体が鉛のように重くてうまく動かせない。

身体にかけられている布団は決して重いものではない筈なのに、それをよけるのさえできない。

「‥う、」

喉や唇がひりつくように乾いていてうまく言葉も発せられない。身動きが取れないまま、どうすればいいかと唾を飲み込んでいたら扉が開いた。

「マヒロ様!やっぱりお目覚めでしたか?お加減は?」

矢継ぎ早に尋ねてくるジャックに、何とか身ぶり手ぶりで水が飲みたいことを伝える。するとそれを察したジャックがすぐさま水を飲ませてくれた。

寝台の頭の方にたくさん積み上げられたクッションに寄りかからせられ、ジャックがコップをもって介助してくれる。

ごくごくと一気に水を飲み干して、ようやく人心地がついた。ふう、と息を吐いたマヒロを、またジャックが寝台の布団の中に入るよう促してくる。素直に従って寝台に横たわった。

まだまだ身体は重いし、頭の中もぐわんぐわんと鳴っているようで気持ち悪さがある。重い瞼を開けていられなくて目をつぶった。

そのマヒロの顔を見て、ジャックは寝台の傍に跪いて囁いた。

「マヒロ様、目をつぶったままで大丈夫ですから聞いてくださいね。

マヒロ様は、いっぺんにヨーリキを使いすぎて力素欠乏に陥ったんです。‥今まであまり一度にヨーリキをお使いになったことがないでしょう?武器の異生物回路を見るっていうのは、普通の解析よりもずっと力を使うんです。‥うちの伴侶が馬鹿過ぎて、マヒロ様に対するそういった配慮が欠如してまして本当に申し訳ありません」

そう言って申し訳なさそうにしているのが、目をつぶっていてもわかった。調子に乗って差し出されるものすべてにヨーリキを通していたのは自分なので、周りのせいにばかりされると少々いたたまれない。

「‥わ、たし、が、やった、だけで、エレ、ネは、悪く、ない、よ」

何とかカスカスながらも声を出せたので一生懸命自分自身の落ち度であることを伝える。

すると、ジャックがはっとしたのが空気感でわかった。

「‥‥マヒロ様~お優しすぎる‥。いいんです、配慮が足りなかったのは事実なんですから!マヒロ様はまだ休息が必要ですから、もうお話にならなくても大丈夫です。ゆっくりお休みください。‥枕元に小さなベルを置いておきます。何かありましたら鳴らしてくださいね。マリキが込められているのでよく響きますから」

ジャックに優しくそう言われ、額を撫でられた。

それを合図にしたかのように、またマヒロは深い眠りに落ちていった。



マヒロが眠る部屋から出てきたジャックを、アーセルやエレネたちが取り囲む。

「どうだ?目覚められたか?」

「具合いは‥?辛そうだったか?」

口々に聞いてくる人々を片手で制し、唇に人差し指を当てて下がるように指示する。医務室から少し距離を取ったところでようやく立ち止まり、ジャックは話し始めた。

「一度はお目覚めになりましたが、まだ強く疲労が残っているように見受けられます。覚醒したあとまたすぐに眠りにつかれましたから‥ですがお水はたくさん飲まれましたから一安心です。もう少し待ってまだお目覚めでないようなら、小型機工車に乗せて屋敷まで移動してもよいかと思います。今すぐにここに医師に来てもらうのは難しそうでしたから」


ジャックの説明を聞いて、ようやく一同は身体の力を抜いた。力素欠乏は目覚めが遅ければ遅いほど重症化してくる。マヒロは一度とはいえ比較的早い時間で目覚めたらしいので、とりあえず一安心といえるだろう。

「アーセル様、すみませんでした。僕の馬鹿な伴侶が何も考えずに行動したせいで」

アーセルはようやく顔色を取り戻し、鷹揚に言った。

「いや、マヒロがほとんどヨーリキを使ったことがないということをもっと周知しておくべきだった。私のせいでもある。ジャック、エレネ、あまり気にするな。‥後で屋敷の方に医師に来てもらい念のために診てもらう」

「ありがとうございます。僕、小型機工車の手配をしてきます」

ジャックはそう言って通信機工のある部屋の方に去っていった。エレネは深く頭を下げ、そこにいた人々も同じように頭を下げた。

「マヒロ様をこんな目に遭わせてしまって面目ない」

「マヒロ様が嬉しそうにして下すって、調子に乗りました」

「いつも優しく色々とお声をかけてくださるんで‥」

「二度とこのようなことがないように留意します!」

いかつい面々の神妙な様子に、アーセルはつい先ほどまでの血の気が引くような恐怖も忘れて思わずふっと破願してしまった。

「‥私のせいでもある。だが、まあ今後は気をつけてやってくれ」

いかつい面々は、素直にハイ!といい返事をした。


お読みいただきありがとうございます。

年末ですね‥全く掃除をしていません。このまま年を越す予感しかない‥

出来るだけ更新は続けるつもりではあります。


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