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再び始まったアツレンでの暮らし

メリークリスマス!皆様が素敵なクリスマスを過ごせますように☆

アツレンの街の寒さは、カルロの温かさに慣れた身にとっては身を切るように冷たく厳しいものに感じられた。もともとマヒロは太平洋側に位置する暖かめな場所に生まれ育っていたので寒さには弱い。ただ、環境的に自分は「暖かい場所」で過ごさせてもらっているのだ、という気持ちはあった。だからアーセルやハルタカにいつも感謝をしている。


アツレンの屋敷ではできる限り使用人の仕事を手伝っている。特に炊事や洗濯を手伝うことが多かった。この世界ではマヒロがよくわからない部分だったからである。

洗濯は、様々な力を込めてある「用石」がはめ込まれた便利な機工品もあるので、その扱いに慣れてしまえばそこまで大変ではなかった。何よりも大変だったのが料理だ。

まず材料がわからない。材料の持つ性質も味もわからないので、味を決めることができない。アツレンに滞在している間はいつも料理人のカッケンの指示を仰いで、メモを取りながらいろいろな料理のレシピや食材の特徴などを覚えようとしていた。

その甲斐あってようやく最近、ごく簡単な料理であれば何品か作ることができるようになった。恐る恐る食卓に出してみると、ルウェンは「まずくはないです!」アーセルは「美味しい」と言って食べてくれた。


ティルンは食べてもくれなかった。

アツレンに来てからマヒロなりに何度か歩み寄ろうと、色々話しかけたり誘ったりするのだが未だかつて一度たりともティルンが答えてくれたことはない。ティルンは絶対にマヒロと口をきかない、と固く決めているようだった。

困り果ててルウェンにも相談してみたのだが、ルウェンも「‥まあそうですねえ、ティルン様の性分もありますし、無理に近しくなろうと思わなくていいですよ」と言ってあまり協力してくれない。

ジャックにその悩みを零したところ、あからさまに顔を顰めてこう言われた。

「自分を嫌っているヒトと無理に近づこうとしなくていいんじゃないですか?誰も得しませんし。むしろ何でそういうヒトと交流を持ちたいんですか?相手も嫌そうなんですよね?」


そう言われると、確かに少しでも仲良くなりたい、というのは自己満足なのかもしれない、と思えてくる。だが、ティルンはアーセルと話す以外に何もしようとはしていなかった。街に出かけることも何もしていないので、退屈なのでは、と思ったのだが余計なお世話だったのかもしれない。

この世界は見た目的には中世のようだが、様々な力や機工品、異生物の素材などのお陰で所々近未来的なところもあり、こちらに来てから結構な時間が経っているマヒロだがまだまだ慣れない部分が多い。いわゆる常識と呼ばれる部分もそうだ。

よかれと思って行動していることが、こちらでは非常識に当たることもあるのかもしれない。そう思ってようやく、マヒロはティルンに何か働きかけることをやめた。


アツレンに戻ってからは、アーセルは鑑定人を引き連れほとんどの日数を異生物の退治に費やしている。基本的に発生の報告があるまでは屋敷内や騎士団本部で鍛錬をし、発生の知らせが入ればその現場に急行するという毎日だ。

マヒロは危ないということで異生物の発生現場には行くことはないが、鍛錬は時々目にすることがある。

どの騎士と戦っても、アーセルは頭一つ抜きんでていて、そう言った武芸に全く心得のないマヒロの目から見てもアーセルが優れているのがよくわかった。これだけ優秀で力もあるのに、何やらという悪い領主の方が強いだなんて信じられないほどだ。

ちなみにアーセルの鍛錬を見ている時は、もれなくティルンも近くにいた。ティルンはアーセルがいるところには必ず姿を現すのだ。しかしその目はアーセルだけを見ていて、たまにマヒロと目がかち合うことがあってもすぐに顔を反らして無視をする。最初は色々と気を揉んでいたマヒロだったが今はもうあまり気にしないことにしていた、


あっという間に一か月が過ぎた。そしてハルタカがアツレンの屋敷にやってきた。

久しぶりに会うハルタカに、マヒロはかなり緊張していた。この一か月はあまりアーセルとも話をしていない。そしてハルタカともあまり話をしていなかった。

この状態でハルタカに会った時、自分がどんな反応をするのか自分でも予想がつかなかった。

アツレンの屋敷には、カルロの領主邸ほどの広い庭はないので、ハルタカは街はずれでテンセイを降り徒歩でやってくる。マヒロは屋敷の入り口でやってくるハルタカを待つことにした。

冷たい空気が足先や指の先を凍えさせる。足踏みしたり手をすり合わせたりしながらマヒロは待っていた。

外で待つ必要はなかったのだが、中で待っているのは落ち着かなかった。今日はアーセルもルウェンも異生物退治に行っていていない。ティルンはそんなときは自室に閉じこもって出てこないので、今日は顔を見ていなかった。


遠くに、体格のいいヒトの姿がおぼろげに見える。

ハルタカだ。

マヒロはそう思って思いきり手を振った。するとその人影は一度立ち止まり、その後ものすごい速度でこちらに駆け寄ってきた。あっという間にハルタカが目の前に現れた。

「うわあ!は、はや!ハルタカ足速いね!」

「マヒロ!」

ハルタカはすぐにマヒロを抱きしめようとしたが、その手を止めゆっくりとマヒロの手を取った。冷たくなったマヒロの指先を、ハルタカの大きな手がくるみ込んだ。

暖かい。

「マヒロ、こんな寒いところで待たずともよかったのに。‥すっかり冷えてしまっている」

「うん、なんか、落ち着かなくて」

マヒロはそう言ってハルタカの顔を見上げた。

心配そうな、それでいて嬉しさがにじみ出ている美しい金色の瞳がマヒロの目に飛び込んでくる。

ああ。ハルタカだ。


最初は傲慢で高飛車だったくせに、すぐに優しくなって好きだと言ってくれて。

マヒロが怖がったら、それを察してくれて、マヒロの一方的な言い草にも怒らないでくれて。

今もマヒロに会えて嬉しいという気持ちを、その目に表してくれて心配もしてくれている。

ハルタカだ。

なぜだか涙がこみあげてきて、慌ててぎゅっとハルタカに抱きついた。

ハルタカは一瞬身体を震わせ驚いた様子だったが、マヒロが離れないのを見てとるとゆっくりとその背に腕を回して自分の身体の中に包み込んだ。

「マヒロ、どうした?‥何かあったか?」

ハルタカは優しくマヒロを抱きしめながら尋ねてきた。マヒロはできるだけハルタカにバレないように、ずっと洟をすすりあげた。

「んん、ハルタカに会えて、嬉しいだけ」

「‥‥マヒロ、そんな嬉しいことを言ってくれるのか」

ハルタカは少しだけ腕に力を込めた。マヒロはハルタカの上衣に絶対涙と‥鼻水ついちゃったな、と思いながら小さくしゃくりあげた。

「‥うん、やっぱりハルタカと会うと、嬉しい」

「‥ありがとうマヒロ。寒いから中に入ろう」

ハルタカはそう言ってマヒロを屋敷内に入るよう促して歩き出した。



お読みいただきありがとうございます。

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