カルカロア王城
カルカロア王城は、見た目にはまるで石のブロックを積み上げたような武骨な王城だった。マヒロの感覚としては(‥白いレゴだけで組んだお城みたい‥)というものだった。
全体に姿はずんぐりとしており、四方に角柱型の尖塔が立ち並んでいる。城の本体には大きな角柱型の建物が建っており、それに細かい角柱が付随しているような建築物だった。いわゆる西洋風の城ではなく、マヒロは言葉もなく王城を見上げるしかなかった。
だが中に入れば洗練された調度品と間取りで来るものを感嘆させる。そういう王城だった。壁には外とは違って柔らかなオレンジ色の壁石が全体に使われており、ポイントポイントでまた違った色の壁石が飾られている。あちこちに手の込んだタペストリーや重厚な絵画が飾られ、エセドラには白く美しい彫像が何体も置かれていた。
また要所要所には美しい花々が活けられており、華やかさを演出している。
その中に集う人々もそれぞれに美しく装っており、城内はとても明るく華々しかった。
そこにアーセル、ルウェン、そして龍人であるハルタカが入っていくと一気に人目を引いた。横にちょこっとくっついている自分がかなり恥ずかしい。
何しろハルタカが人目を引く。美しく長い銀色の髪は他にその色を持つものがいないせいで酷く目立つし、何しろハルタカは190cm近くある偉丈夫だ。ハルタカの周りだけ空気感が違うことを今さらながらにマヒロは認識した。
また、アーセルもハルタカとはタイプが違うが美しいヒトであり、横にいるルウェンとの対比でまた目立っていた。
マヒロはすすすとできるだけ三人の陰になるようにしてこそこそと進んで行こうとした。ところがぐいっとハルタカに腰を引かれる。
「マヒロ、どうした。私のパートナーはお前だろう?しっかり隣にいろ」
無茶言うなよ国宝級のイケメンよお‥
卑屈にはなるまいと決めたマヒロではあったが、このような衆人環視の中ではその決意がぽろぽろと崩れ去るのを感じている。
無理、無理だって‥やっぱり私みたいな一般庶民に王城のパーティーは無理だったんだって‥
たくさんの着飾った人々、美しくも荘厳な雰囲気の王城内に呑まれて、マヒロはややうつむき気味に歩いて行った。
だが、あまり声をかけられることもなくまもなく開会武闘が始まった。広い広い大広間の一角で行われるそれを、参加者が大声をあげて応援しながら見ている。その様子は日本で行われるスポーツ大会のようで、マヒロは何となくほっとしていた。
フェンドラからはかなり大柄の十八歳と、マヒロくらいに身長の十四歳が出場しており、何と十四歳の子どもの方が決勝にまで勝ち残った。素手で行われる武闘なので、マヒロの目には総合格闘技のように見えた。フェンドラの十四歳は、途轍もなく身が軽く動きが素早い。そのうえ繰り出される突きや蹴りは重いようで、受けた相手がぐらりと身体を何度もよろめかせていた。
結局この十四歳が優勝して、ルウェンがかなり興奮して喜んでいた。決勝で負けた相手もこの十四歳を称えていた。
その後国王による開会宣言が行われた。
「この催しをもって、『国王選抜』が実施されることを宣言する!」
そう力強く宣言した国王は、マヒロの目には50代ほどに見えた。あの年齢ならまだ引退しなくてもよさそうだが、この世界のヒトの年齢はわからない。
その後はざわざわとした雰囲気になり、大広間の各所に設けられている食べ物がある場所にヒトが集まっていった。食事内容はよくわからないものも多かったが、一度行ったことのある高級ホテルのビュッフェにも負けないような色とりどりの美しい料理が所狭しと並んでいた。
広間に中にはところどころに机と椅子が配置されている。立って食べているものもいれば座ってゆっくりと食事を楽しんでいるものもいた。
大広間は端がよくわからないほどに広かった。これは同行の三人と離れたら確実に迷子になる、と思ってマヒロはぐっとハルタカの上着の裾を握った。そんなマヒロの様子を見てハルタカは優しく笑い、そっとその頭を撫でた。
さすがにこの段階に来るとアーセルとルウェンは色々なヒトに話しかけられていて忙しそうだった。意外にハルタカに話しかけてくるヒトは少なかった。ハルタカはマヒロを連れて食事が並んでいるところに連れて行き、説明をしながら取り分けてくれた。食事はどれもとても美味しくて、マヒロは思わず(お持ち帰りしたい‥)と思ったほどだった。
そうやって一時間ほど過ぎた頃だろうか。離れたところで歓談していたはずのアーセルが近くに寄ってきた。そしてマヒロとハルタカの二人に向かって低い声で囁いた。
「‥謁見に向かいます。ゆっくりついてきてください」
そう言うと、ゆったりとヒトをかき分けながら少しずつ移動し始めた。時折話しかけてくるものにはルウェンがにこにこと対応する。じりじりと動いてようやく大きなカーテンが張られたとこまでやってきた。辺りを慎重に見まわしながら、アーセルは二人の身体をその中に滑り込ませた。
薄暗い明かりの中に、先ほど開会宣言をしたヒトの姿が浮かび上がる。
「マヒロ殿。わざわざここまでご足労いただき痛み入る。私がカルカロア四十三代国王、ジャイルだ」
ジャイルは座っていた大きな椅子から少し身体をあげて会釈をした。マヒロは近くで見るジャイルの何とも言えぬ雰囲気にのまれ声が出なかった。
隣でハルタカが代わりのように応えた。
「ハルタカだ。マヒロを見つけて保護をした。おそらく今後、マヒロを番いとすることになるので含みおいてもらいたい」
ジャイルはゆっくりと目を見開き、アーセルを見た。アーセルは何も言わず、ただ跪いているだけだ。
「‥左様でございますか‥何ゆえ、龍人様がこちらにお見えかと思っておりましたが‥まだ公にはせぬほうがよろしいのですな」
「頼む」
ジャイルはゆっくりとマヒロの方に身体を向けた。一つ一つの動きがとても緩慢だ。顔はそこまで老けていないのに、とても年老いているかのような動きだった。
「マヒロ殿‥『カベワタリ』殿。ベールを取っていただけるか」
マヒロはそっとレースの目隠しを取り去った。そこに輝く黒い瞳を見て、ジャイルは一瞬大きく息を吸った。
そして深く息を吐いた。
「‥マヒロ殿。私はできればこのアーセルに次代を任せたい。‥‥それが叶わぬなら、ダンゾとダーマスに譲位することだけは避けたい。御身大切にしてかの二名に囚われることのなきよう、お願い申し上げる」
「‥はい、えと、気をつけます‥」
「陛下、私を始めフェンドラ総出でお守り致す所存です」
「私もいる。マヒロをこれ以上危険な目には遭わせぬ」
アーセルとハルタカが力強く答えた。それを聞いて少し身体の力を抜いたかのように見えた国王ジャイルは、椅子に深くもたれかかり目を瞑った。
「‥すまぬ、少し休む‥。後は頼んだ」
「は」
そしてまた三人はするりとカーテンをくぐった。外にはルウェンが張り付いて辺りに注意を払っていた。
マヒロはあっという間に終わった謁見に気が抜けていた。ほとんど自分は話さなかったが、これでよかったのだろうか。
「アーセル、もういいの‥?」
「アーセルは少し厳しい顔つきで佇んでいたが、マヒロに声をかけられてはっとした様子だった。
「はい、‥あまり陛下のご容体がよくなかったようですから‥とりあえずお会いした、という実績ができましたから大丈夫です」
ルウェンがアーセルを急かした。
「そろそろ宣誓式だ。中心円に向かうぞ」
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