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パーティーについて

日本でいう、正式なパーティーって結婚披露宴しか思いつきませんでした‥。

少し落ち着いたころに、移動して荷物を持ったハルタカを客室に案内した。龍人(タツト)がわざわざやってくるということで、領主邸の者たちは張り切って客室の準備をしたのだった。アツレンの街では何度か降りていくこともあるので、住民は多少龍人(タツト)にも慣れているが、王都カルロの街中にハルタカが降りたことはなかった。だから領主邸の者たちはすっかり興奮してしまっていたのだ。

すっかり整えられた客室の様子を見せながら、マヒロはそういう話をした。

「私が仲良くなったメイドのジャックなんてもうずっとにこにこしてて、ハルタカに会えるのを楽しみにしてたんだよ。龍人(タツト)って本当に尊敬されてるんだね」

「まあ、珍しいということはあるのだろうな。我らは数は多いわけではないし。‥マヒロは、どうだったのだ?」

じっとマヒロを見つめながらそう問いかけてくるハルタカに、ん?とマヒロは身体を向けた。

「マヒロは‥会いたかったか?」

真っ直ぐ、そうきらめく瞳で見つめられながらそう言われ、マヒロは顔がかーっと赤くなるのを感じた。何という直球!

「う、うん、勿論だよ。‥怒ってるかなって、ちょっと緊張したけど‥」

「マヒロに怒ったりすることはない。‥‥もう一度、抱きしめてもいいか?」

「‥うん」

ハルタカはゆっくりと近づいてきて、そうっと腕をマヒロの身体にまわした。身長差が30cm近くあるから立ったまま抱きしめられるとマヒロの上半身はすっぽりハルタカの胸辺りに埋まってしまう。

さっき庭で会った時も、今も、ハルタカはことさらゆっくりとマヒロに触れてくれる。これまでは自分の感情のままにぎゅうぎゅうにマヒロを抱きしめていたのに、今はマヒロを思いやるようにゆっくりと動いてくれているのがわかった。

それが嬉しかった。

ちょっと一方的にキレちゃったけど‥やっぱり思ったことは伝えた方がいいんだな。まあ、伝え方は今後の課題にするとして、だな。

マヒロはそう思いながら、分厚いハルタカの身体にしがみついていた。すると少し腕の力を抜いてマヒロの身体を離し、顔を覗き込んできた。

「口づけてもいいか?」

「え⁉‥あ、うん‥」


待ってこれってこの先ずっといちいち聞かれるの?それはマジ勘弁してほしい‥

などと考えていると、顎をとられハルタカの端正な顔が近づいてくる。

うわ、またもや暴力的美貌!

そっと唇が触れ‥そして離れた。

ハルタカはそっとそのままマヒロの身体を離す。そして荷物を探った。その中から出てきたのは、あのアツレンで買った美しいドレスだった。

「これを明日着てみせてくれ。見たくて持ってきた」

そう言ってマヒロに渡す。美しい薄桃色のドレスが何だか懐かしかった。

「わざわざありがとう。‥うん、明日着させてもらうね」

アーセルたちが用意してくれたドレスもあったが、こちらを着たい、と思った。

「‥楽しみだ」

ハルタカがようやく柔らかい笑顔を見せた。

その顔を見て、マヒロもようやく心から笑えた。


その後、アーセルたちと合流して食事をすることになった。アーセルはいつもと変わらずあまり感情を示さない顔をしていたが、ルウェンはあからさまに嫌そうな顔をしていた。

龍人(タツト)様本当にいらしたんですねえ‥。そんなにしょっちゅうヒトの世に足を踏み入れて大丈夫なんですかあ?」

嫌味たらたらに文句を言うルウェンに対し、ハルタカは素知らぬ顔で応える。

「お前に心配してもらうことではない」

「は~そうですかあ。まあ、あまりマヒロ様にも関わらないでくださいね、今はフェンドラの預かりになっているんですから」

「明日のパーティーとやらにともに行くだけだ。マヒロの護衛がいることはお前たちにとってもありがたいことではないのか?」

そう言ってお茶を飲みながらハルタカがちらりと横目でルウェンを見据えた。確かに明日はニュエレンのダンゾをはじめとした国王候補の領主たちが勢ぞろいする。その中にマヒロを連れて行かねばならぬのは、ハルタカの指摘した通りかなり神経を使う事ではあった。

だがこの龍人(タツト)の態度がやはりルウェンは気に入らない。ふん、と視線をそらして強い酒を一気に呷る。

マヒロはまた空気が悪くなったのを感じて、ドキドキしながら雑談を振った。

「あー、あのー、私ちゃんとしたパーティーとかって初めてなんだよね!どんな感じなのかなあ?えっと、あ!ひょっとしてダンスとか踊る!?」

喋りながらそう言えばパーティーと言えばシンデレラとかがやってたあのダンスとやらをやらねばならないのではないか、と気づいて冷や汗が出る。アーセルが怪訝そうな顔をしてマヒロを見た。

「踊る?なぜ祭りでもないのにパーティーで踊るんですか?」

そのアーセルの言いぶりを聞いて、とりあえずダンスをさせられる可能性はなさそうだと、マヒロはほっと胸をなでおろした。

「いや、元のところでそういうパーティーがあったから‥こちらではパーティーって何をするの?」

ふむ、とアーセルが少し考えてから説明を始めてくれた。

「他の国ではどうか知りませんが‥カルカロアの正式なパーティーでは始めに開会武闘があります。選ばれた若者(ワクシャ)が素手で戦うんです。武闘披露が終わったら開会宣言があり、国王の短い話の後、食事と歓談になります。この時間が一番長い。最後に国王と、選ばれたヒトの歌が披露されて締めくくりとなります」

武闘‥?パーティーの始まり武闘なの‥?

マヒロはあまりに違うパーティーの進行に驚いた。聞いておいてよかった。いきなり格闘技大会が始まったら驚くところだった。

「その武闘にアーセルたちは出ないの?」

ルウェンが面倒くさそうにぶらぶらと手を振って答える。

「そういうのは子どもが披露するんですよ。二十歳までの、各地で選ばれた子どもですね。フェンドラからも二人参加します。素手ですから剣術試合とはまた違った趣がありますね」

「それって、競技場とかでやるの?」

「いえ、王城の大広間に臨時の闘技場が作られます。一試合につき二分しかない短いものですから」

「そうか‥」

ルウェンがにやっと笑ってマヒロの方に顔を向けた。

「アーセルは十四歳の時、そこで総勝ちしたんですよ。フェンドラが勝ったのは久しぶりで、あの時は胸がスカッとしたなあ」

マヒロは思わずふふっと笑った。やはり地元びいきというのはどの世界にも共通であるものらしい。


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