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やってきた龍人

そんなつもりはなかったんですが、壮大な痴話喧嘩を書いてるだけみたいな気になってきました‥。

王都カルロのフェンドラ領主邸についた翌日、バルハとアンリンがマヒロを訪ねてきてくれた。機工車内で言っていたヨーリキの具現化やその他の使い方について教えてほしければ、ということで仕事でカルロを離れる前に寄ってくれたのだ。

バルハに教わって頑張ってみたが、マヒロのヨーリキは具現化には至らなかった。だが、バルハによればマヒロのヨーリキはかなり解析の方に特化しているということだった。

「色々な素材に触れて、その素材の特徴を頭の中に置いておけばふとした時に素材の組み合わせが浮かんだりするものなんだ。だから、素材屋や道具屋などに行っていろいろな道具や素材にたくさん触れておくといい。すると役に立つときが来る」

「そうなんだ‥」

確かにマヒロはこの世界のものについてはあまり詳しくない。時間がある時を見て、そう言ったところに連れて行ってもらえないか後で訊いてみようと考えた。

わざわざ時間を取ってくれたお礼に、マヒロはレースで編んだコースターくらいの大きさの飾りを二人に贈った。

「あまり持ってきてなくて、これくらいしかないんだけど‥胸元に縫い付けたり何かの袋に縫い付けたりして使ってください」

これにはアンリンが喜んだ。もらったレース飾りをバルハの身体の色々なところにあててみて目を細めている。

「これは嬉しい、ありがとうマヒロ様。バルハはとても美しいのにこう言った美しいものをあまり身につけない。バルハ、おれのためにぜひどこか身につけてみせてくれ」

あどけない美少女風のアンリンが大柄なバルハの頭を撫でてそう言うと、バルハは顔を真っ赤にしてうつむき照れていた。

「おれにはそういうの似合わねえからな‥」

「何を言うバルハ、バルハは美しい、おれの自慢の伴侶だ」

アンリンは少し背伸びをしてバルハの頬に口づけた。バルハは真っ赤になったままレース飾りを受け取っていた。

二人が仲睦まじく帰っていくのを見送りながら、恋人同士がお互いに想い合っていさえすれば似合う似合わないとか釣り合う釣り合わないとかは些細な問題なのだな、とマヒロは感じた。

そう思えるくらい、アンリンとバルハの二人は伴侶としてお互いを想い合いいたわり合っていた。


自分も、ハルタカが来たら臆することなく自分の気持ちをちゃんと伝えよう。あんな美しいヒトの隣で自分が不似合いだ、と思う卑屈な心は捨てよう。

ハルタカが変わらず自分を想ってくれているなら、それはハルタカに対しても失礼になってしまう。

マヒロは心が晴れたような気がして、アンリンとバルハに感謝した。


フェンドラに着いてからルウェンやアーセルは色々と忙しそうにしていたが、マヒロは特に何をしろとも指示はされなかった。

だがくれぐれも領主邸からは出ないようにと固く禁じられていたので、街の中に行くことは叶わなかった。

マヒロをさらおうと計画したとおぼしきニュエレンのダンゾも今カルロにいるらしく、本来であれば予定されるはずだった国王との謁見もパーティー当日まで延期されていた。


マヒロの誘拐が不首尾に終わったことは無論ダンゾの耳にも入っているだろうし、ジータを生きたまま捕らえていることも知っているだろう。それに対してどういった動きをしてくるか掴みかねるので、とりあえずはマヒロを領主邸から出さないことに決めたのだった。

その代わりかねてより領主邸に出入りしている商人に限り、品物を持ってマヒロに面会をすることが許されたので、マヒロは色々な商品や素材を見せてもらって好奇心をいたく刺激されていた。

自分の世界では見たこともない鉱石や金属、また布や細工物、機工品などありとあらゆるものを見せてもらえ、しかも商人の解説付きだったので日々楽しくそれらに触れて過ごした。

そうしているうちに瞬く間にパーティー前日となった。その日の朝、空から大きな音が響き領主邸の人々は驚いて空を見上げた。


テンセイに乗ったハルタカがゆっくりと領主邸の庭に降りてきたのだ。テンセイは大きな羽をゆったりと羽ばたかせ、優雅に着地した。

マヒロはそれをじっと見つめていた。

ハルタカがテンセイからひらりと飛び降りる。美しく長い銀の髪、輝く金の瞳。少し愁いを帯びた秀麗な顔立ち。濃い緑色の上着に真っ白なマントをつけ黒いスラックスを穿いている。足元は黒い短めのブーツだった。

(なんか、王子様みたい、って前にも思ったっけ)

久しぶりに見るハルタカの美しさに、マヒロはぼんやりと見とれていた。

ハルタカは荷物を降ろしてから視線を集まった人々に向け、その中にマヒロを認めた。ぱちっと目が合った。

ハルタカは一瞬、苦しそうな顔をして唇を噛んだ。そしてゆっくりとマヒロに向かって歩いてきた。

マヒロは思わずぎゅっと両手を握りしめた。‥なんでだろう、緊張する。

ハルタカは、少し手を伸ばせば触れられる、というところまで来て立ち止まった。その微妙な距離に、マヒロはハルタカの顔を見上げた。

ハルタカは何も言わず、金の瞳でマヒロを見つめている。

マヒロは居心地の悪さを感じてふっと目線を避けた。と、ハルタカがくっと息を呑んだ気配がした。

「‥‥マヒロ」

ようやく名を呼ばれて、マヒロは恐る恐るハルタカに視線を戻した。ハルタカの表情は何とも言えないもので、感情が読めない。

「ハルタカ、あの」

「すまなかった、マヒロ」

ハルタカは頭を下げた。

周りに集まっていたフェンドラ領主邸の人々はぎょっとした。龍人(タツト)が頭を下げるところなど見たことも聞いた事もなかったからだ。家令が慌てて集まっていた人々に解散を言い渡し邸内に戻るように促した。

あっという間に、広い庭にはマヒロとハルタカ、そして羽を搔いているテンセイだけになった。

「ハルタカ、そんな、私こそ」

「マヒロを不安にさせてすまない」

ハルタカが何かの感情を抑えているような、苦しげな表情をしている。マヒロはハルタカが一人でこの何日かの間苦しんでいたのだろうということに気づいた。

自分は周りにたくさんヒトがいて色々と気がまぎれることもあったが、ハルタカはあの高山の家で一人、ずっと自分だけと向き合っていたのだ。

マヒロはそう考えるとたまらなくなり、少し離れたところに立ち止まっているハルタカに飛びついた。ハルタカは驚いた顔をしたが、飛びついてきたマヒロの背中にそっと手を回した。

マヒロはハルタカの上着を握りしめ、こみ上げる涙をこらえながら言った。

「ごめん、ハルタカ、私一方的だった。‥一方的に酷いこと言った。‥怖かったのも本当だけど、言葉が足りなかったの。ごめん」

ハルタカはくしゃっと顔を歪ませた。今にも泣きそうな顔ではあったが涙は見せなかった。マヒロの背中に回した腕にゆっくりと力を込めて抱きしめる。

「‥マヒロ、私はまだ龍人(タツト)としても未熟だ。きっと‥これからもマヒロを不安にさせることがあると思う。だが、その時は遠慮せずに私に言ってほしい。私はマヒロの話を受け入れる。マヒロと離れたくはない」

「ハルタカ‥ありがと」

大きなハルタカの胸の中で、マヒロはぐずぐずと子どものように泣いた。


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