あまい
ジャンルをファンタジーから恋愛に変えました‥ここまで恋愛よりになるとは思ってなかったです‥。
「‥できればこの世界での暮らしっていうのも体験してみたいって思ってたし‥あの、アーセルさんの傍から絶対離れちゃいけない訳じゃないんですよね?ある程度、あの、自由ってある‥?」
「勿論です!マヒロ様の意思を尊重致しますので!ご不自由のないように手配させていただきます!ありがとうございます!」
ルウェンはもう拝まんばかりの勢いで、ハルタカからマヒロの手をひったくり握りぶんぶんと上下に振った。マヒロは苦笑しながらされるがままになっている。アーセルはそれを見ながら、胸の中に希望の光が灯るのを感じた。
一方、ハルタカは顔を蒼白にしたまま固まっていた。
いつの間にか、マヒロが自分から離れることが決まってしまっている。
その衝撃で、どう振る舞えばいいのかわからなかった。
マヒロはようやくルウェンから手をもぎ取って、ハルタカの顔を見てまた驚いた。あまりにも顔色が悪かったからだ。こんな酷い顔のハルタカを見たことがなかった。
自分の提案は、ひょっとしたらとてもハルタカを傷つけてしまったのかも知れない。そう思ってマヒロは慌てた。
本来ハルタカへの返事も二人でするべきだったのだろう。そこまで考えて、マヒロはルウェンとアーセルの方を向いた。
「あの、すみません、ちょっと図々しいかもなんですけど‥しばらく私とハルタカと二人にしてもらえますか?」
マヒロの申し出に、ルウェンは眉を寄せて難しい顔になり、アーセルはハッとした顔になった。二人のその様子を見て、だめかな‥と縮こまっていると、アーセルが黙って立ち上がった。そしてルウェンの腕を引き立ち上がらせる。
「わかりました。お話が終わりましたらお呼びください。‥行くぞ」
アーセルは不満たらたらな様子のルウェンをぐいぐいと引っ張って部屋の外に出てくれた。
マヒロはハルタカに向き直った。
「ハルタカ」
ハルタカはマヒロの前に跪いて、少し顔を俯けたままだ。仕方なくマヒロはハルタカの顔に両手を添えてそっと自分の方を向かせてみた。
「ハルタカ」
ハルタカの目には絶望の色が濃かった。美しい金色の目は昏い色をたたえマヒロをじっと見つめている。
マヒロは自分の言動でこのヒトをこんなにも傷つけてしまったのだと実感し、いたたまれない気持ちになった。両手を添えた顔をそっと抱きしめる。ハルタカはされるがままになっていた。
「‥ごめんね、勝手に決めて」
「‥‥マヒロは、私と、ともにいなくても‥平気なのか‥?」
「‥多分、平気じゃない。すごく、寂しいと思う」
ハルタカは腕をマヒロの背中に回してぎゅっと抱きしめた。膝立ちになったハルタカの胸の中にマヒロの顔が埋まる形になる。
「では‥なぜ‥?マヒロは私の番いで間違いない。番えばきっと龍鱗は出る。こんなに私が愛おしいと思っているのだから」
「うん‥ありがとう」
「‥‥それでも、ここで暮らすのか?七か月も‥?」
ハルタカの声が震えた。マヒロはハルタカの上着を握った手にぎゅっと力を込めた。
「‥‥ごめんね。ハルタカが好きだよ。愛してる、って言ってもいいと思う。でも、やっぱりもう少し時間が欲しい。それに、アーセルさんたちの話を聞いたら無視できない。ナシュみたいな子たちがみんな笑って勉強できる国の方がいいもん」
ハルタカは腕の力を抜いてマヒロの顔をじっと見つめた。マヒロはニコッと笑った。
「せっかくこの世界に来ちゃったんだしさ、何か私が役に立つことがあるならやりたいよ。‥そして、ちゃんとハルタカに、番いにしてって言う。言えるくらいに、なるから」
そこまで言って、マヒロはやろうかどうしようか随分と迷ったが‥思い切ってえい、とばかりにハルタカの上着を引っ張って自分から口づけた。
はっとハルタカが驚いたのがわかったが、その次の瞬間ハルタカは腕にぎゅっと力を込めてマヒロを抱きしめ、口づけを深くした。柔らかく、厚いハルタカの舌がマヒロの咥内を優しくたどる。くらくらとする熱と甘さに酔いそうだった。
「‥甘い。マヒロ、私のことを本当に好いてくれているのだな‥」
「ええ⁉何、なんでそんなことわかるの?!」
ぎょっとしてマヒロが思わずハルタカの胸をぐいと押して遠ざけた。だがハルタカは腕にぐっと力を込めてまたマヒロを胸の中に囲い込んだ。そして嬉しそうに言った。
「好き合っているものには、相手の体液は甘く感じられるものなんだ。マヒロの唾液は甘露のように甘い」
かーっと顔に熱がこもるのを感じる。おいおい異世界!どういうエロ仕様なんだよ!た、体液が甘いって‥はず!恥ずかしすぎる!
‥‥気持ちが離れたらキスでもバレるってことか‥。
そんなことをつらつら考えていると、またハルタカが顎に手を添えてマヒロの顔を上に向けさせ、口づけてきた。思わず身体が強ばるが、ハルタカは優しく唇をつつくような口づけをした。その優しさにふっと身体の力が抜ける。
と、そこにするりと舌が挿し込まれ、じゅっと舌を吸われる。身体を甘い熱が走り、力が抜けていく。
ぐい、とハルタカの胸を押して唇をもぎ離した。
「は、ハルタカさんちょっとそういうキス‥口づけはちょっとダメ!色々ダメ!」
真っ赤になってそう言い募るマヒロを見て、ようやくハルタカは少し笑った。
マヒロもそのハルタカの顔を見て安心し、微笑んだ。そして言った。
「‥ごめんね、勝手なわがまま言って‥でも、よかったら、時々会いに来てくれる‥?」
「無論だ。絶対に来る。‥本当は私もここに滞在したいくらいだが‥それはやはり許されないのでな」
「うん、ごめんね‥」
ハルタカはマヒロをそっと離して横に座った。腰から繊細な造りのナイフを取り出す。そして自分の髪を括っていた紐を外し、髪を一房切り取った。
「え、もったいない!綺麗な髪なのに‥」
「見ていてくれ」
切り取られた美しい銀髪をハルタカの手が握る。手の周りの空気がゆらっと揺らめいたかと思うと、銀髪はシュルシュルと形を変えていき細い腕輪のような形になった。それをマヒロの腕に嵌める。そしてもう一度、ハルタカが何か力を込めた感じがした。細い銀の腕輪はぴったりとマヒロの腕に嵌まった。
「すご‥」
「ピアスだけだと割れない時があるのがわかった。この腕輪には私の力がたっぷり込められている。マヒロがどこにいるかすぐにわかる。いつでもマヒロのところに来れるように嵌めていてほしい。‥いいか?」
マヒロはそっと腕輪を撫でた。つるりとした細い腕輪は違和感なく腕におさまっている。
「ありがと、嬉しい」
二人はまたお互いを抱きしめあった。
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